テストレポート
新型PS4「CUH-1200」分解レポート。軽量化と省電力化を実現した背景には,筐体と基板のシンプル化があった
新モデルでは,従来のPS4と比べ,本体重量,そして消費電力が下がったという大きな違いがあるのだが,実際のところ,これらの違いは何によってもたらされているのだろうか。
「ジェットブラック」(製品型番:CUH-1200B01)と「グレイシャーホワイト」(製品型番:CUH-1200B02)の2色が用意され,前者には「PlayStation Camera」同梱版(製品型番:CUH-1200A01)も存在することから,計3モデル展開となる新型PS4。4Gamerは今回,そのなかから,PlayStation Cameraが付属しないジェットブラックモデルを独自に入手したので,今回は,本機の分解レポートをお届けしてみたい。
※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
重量と消費電力が下がり,外観もさりげなく変更になった新型PS4
CUH-1200の分解に先立って,PS4のこれまでを簡単に振り返っておこう。
PS4は欧米市場で2013年11月,日本市場では2014年2月に発売となった。このとき登場した最初期モデルがCUH-1000Aシリーズである。4Gamerでは,米国で発売になったCUH-1000Aを分解し,内部構造や構成をレポート済みだ。
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続く2014年10月には,CUH-1000Aシリーズで採用されたジェットブラックモデルのほか,白いグレイシャーホワイトの筐体を採用したモデルも追加されたマイナーチェンジモデルが,CUH-1100Aシリーズが登場した。
CUH-1000AとCUH-1100Aの両シリーズは,製品型番こそ異なるものの,スペックは共通だった。もしかするとCUH-1100Aシリーズで内部構造などが少し最適化されたという可能性はあるが,残念ながらCUH-1100Aシリーズの分解は行っていないので,この点はなんとも言えない。
冒頭でも簡単に触れたが,CUH-1200シリーズにおける重要なポイントは,公称本体重量がCUH-1000A&1100Aシリーズの約2.8kgから約2.5kgへ,公称消費電力がCUH-1000A&1100Aシリーズの250Wから230Wへと,順に300g,20Wの低減を果たしていることだ。それ以外のスペックは共通ながら,消費電力と重量が変わっている以上,内部的に何らかの手が入っていることは間違いない。なら分解し,内部を確認してみようというのが,本稿のテーマである。
見た目のアクセントがなくなった点の評価は好み別れると思うが,実用面からいえば,ピアノブラックのパネルはあまり良いものではなかった。埃(ほこり)や指紋が目立ちやすく,かつ傷も付きやすかったので,個人的には,HDDベイカバーはCUH-1200のほうが好ましい。
本体背面側のインタフェース部は,仕様こそ変わっていないものの,並びは従来モデルで背面向かって左側から光角形サウンド出力,
HDDベイカバーを取り外すと,2.5インチHDD互換のドライブトレイにアクセスできるというのはこれまでどおり。ただ,CUH-1000Aではドライブトレイの周囲が金属パネルで覆われていたのに対し,CUH-1200ではドライブベイの奥側にプラスチック製パネルが用意されていた。これが何なのかは後述する。
ちなみに,4Gamerで入手した個体には,HGST製で2.5インチ7mm厚,容量500GBのHDD「Travelstar Z5K500」(製品型番:HTS5450A7E680)が取り付けられていた。HDDはロットによって変わっている可能性もあるので,すべてのCUH-1200でこのHDDが採用されているかどうかは分からない。
ここまでをまとめると,外観はそれほどでもないものの,ハードウェア仕様は確実に変わっている印象である。とくにインパクトがあったのは,300gもの軽量化を果たしたところで,手に持ったときは「ひょっとして従来より小さくなった?」と錯覚したほど,体感レベルでの重量感は軽くなっている。
CUH-1000Aと比べてシンプルになったCUH-1200
以後本稿では,CUH-1000A分解記事で紹介した内容にも適宜触れることになる。そのため,必要に応じてWebブラウザの別タブで開いておいてもらえるとありがたいと述べつつ,いよいよ分解だ。
このパネルは数本のビスで留められており,その下にはLSI(大規模集積回路)が3基実装されていた。CUH-1000Aでは,BDドライブの制御部が,マザーボードとは別の制御基板上に実装されていたが,CUH-1200だと,それがマザーボード上に集約されているわけだ。
おそらく,ここがプラスチック製カバーで覆われているのは,「EMIや発熱の問題がなく,金属シールドで覆う必要はないが,ユーザーがストレージを交換するとき誤って触れて壊す可能性を排除したい」という考えによるものではなかろうか。
下の写真は横置き時の底面側にある外装パネルを取り払った状態だ。CUH-1000Aのそれと見比べてもらえればと思うが,大まかなレイアウトは変わっていない。
CUH-1000Aでは,BDドライブ部の金属シールド下にBDドライブ制御基板が取り付けられていた。それに対してCUH-1200では,先ほど指摘したとおり,制御部がマザーボード上へ移動したため,BDドライブ周りのシールドがなくなった。そのため,マザーボード以外の基板は,フラットケーブルと,BD取り出し用スイッチが搭載された,ドライブユニット上の小さなものを残すだけになっている。
BDドライブ周りがスッキリしたことで,組立て工数の低減が実現されているはずである。
電源ユニットは,そのシールドを共締めしている2本のビスを外すと,筐体から取り出せる。長い金属板を使ったコネクタと,制御用のケーブルで電源ユニットとマザーボードが接続される仕様自体はCUH-1000Aと同じだが,電源ユニットはやや小振りになり,重量もかなり減っている。消費電力が250Wから230Wへ低減したことに合わせて,小型軽量化が図られたのだろう。
ちなみに,電源ユニットのDC出力は4.8V 1.8A,12V 16Aという仕様だった。製造メーカーを窺わせる表記はなく,ただ「SONY COMPUTER ENTERTAINMENT」と刻まれているのみだ。
電源ユニットを外すと,底面側から見えるすべてのフラットケーブルを取り外せるようになり,結果,BDドライブユニットを取り出せるようになる。
なお,左下の写真を見てもらうと分かるのだが,BD取り出し用スイッチの載った小型基板は,スペーサー付きのビスでドライブユニットに半固定されており,前後に数mm程度の前後に動すことができた。
ドライブユニットを分解すると元に戻せないことが多いため,基板を取り外して調べることまではしていないが,おそらくこの基板と光ヘッドがフラットケーブルか何かでつながっているのだろう。光ヘッドの移動にともなってケーブルに負荷がかかるため,基板に遊びをもたせることでケーブルの負荷を軽減しているのだと思われる。
こちらも,大枠ではCUH-1000Aとの間に大きな違いはない印象だ。天板部の外装に,LEDインジケータ用の導光板が取り付けられている点も変わっていないが,導光板のサイズは明らかに小さくなっている。
なおこの状態からシールドのビスを外すと,マザーボードにアクセスできるようになる。実際に金属シールドを外したところが下の写真で,GDDR5メモリチップはシリコンシートを介して金属シールドと接触し,熱を逃がす仕様になっていた。
メモリチップに囲まれるような格好で配置されている金属プレートは,APUを放熱機構に固定するためのバネ的な役割を果たしていて,取り外すと,その下にもう1枚,クッション材付きの保護板があると分かる。これを外せば,いよいよマザーボードとご対面だ。
下に示したのがマザーボードを取り出した状態のカット。先ほど薄い金属板を取り外したときにちらっと見えたヒートパイプは,ヒートプレートに埋め込まれているのが分かる。
ヒートプレートが取り付けられた金属シールド板も取り出してみたところが下の写真で,ヒートプレートの“裏側”には,平行四辺形柱のようなヒートシンクが取り付けられていた。空気の流路に沿った角度で取り付けられているのも,何となく見て取れるだろう。
ヒートシンクのサイズは実測で約100(W)×40(D)×28(H)mmで,CUH-1000Aのそれを比べると,その大きさは約85%。CUH-1200は若干小型化したことになる。CUH-1000Aの場合,ヒートシンクには2本のヒートパイプが通り,かつ,空気の流量に応じてフィンピッチを変える工夫が施されるという,凝ったものになっていたが,それと比べると,CUH-1200のヒートシンクはかなりシンプルだ。
もちろん,「CUH-1000Aは豪華すぎたので,適正なものに変更した」という可能性は十分に考えられるが,何らかの刷新により,APUの発熱量が減ったという可能性も,ゼロではないように思う。
サイズは直径が約82mmなので,PC用のファンでいうと92mm角相当といったところだろうか。インペラの高さは約20mmだった。
以上が分解結果だが,総じて,CUH-1000Aと比べて構造がシンプルになった印象がある。BDドライブ周りを中心に構造が単純化されており,また使われているビスの種類も少なくなった。CUH-1000Aの基本構造を継承しつつ設計の最適化を行い,組立て工数を減らしてコストを削減した,という感じだろうか。
LSI数が削減され,基板レベルでシュリンクされたといえるCUH-1200
では,マザーボード上のLSI類を見ていこう。以後本稿では,APUが実装された面を「部品面」,その裏を「パターン面」と便宜的に呼ぶが,下に示したのは,部品面を正面から撮影したものだ。
型番が異なる以上,何らかの改訂が加えられたのは間違いないが,どのように変わっているのかは不明だ。ただ,製造に用いるプロセス技術は28nmのまま変わっていないようで,実際,実測約19×19mmというダイサイズもCXD90026Gから変わっていない。
面白いのは,CXD90036Gの機能がCXD90025Gから変わっていることだ。これは基板上のパターンを追ってみるとすぐに分かるのだが,CXD90025Gの場合は,Serial ATAポートが,富士通製のUSB 3.0―Serial ATAブリッジ「MB86C311B」を介して接続されていたのに対し,CXD90036GではパターンがSerial ATAポートへ向かっているのである。
Macronix International製のシリアルフラッシュメモリは健在。型番は「MX25L25635FZ2I-10G」で,微妙にCUH-1000A時代とは異なっているが,今回も用途はファームウェア格納用だろう |
RT5069という型番のLSIが,CXD90036Gの近くに置かれていた |
ちなみに,CUH-1000AにあったIntegrated Device Technology(以下,IDT)製のLSIも,CUH-1200のマザーボードには見当たらなかった。CUH-1200の場合,CXD90036Gのすぐ近くに「RT5069」と記された小さなLSIがあり,パターンからすると,これがCUH-1000AにおけるIDT製LSIの機能を果たしている可能性もあるのだが,RT5069は,データシートこどころかメーカー名すら分からないので,なんとも言えないというのが正直なところである。
CUH-1000Aを分解したときサウンド用ではないかと推測したが,その後の情報から,1330KM420はシステム制御用のマイクロコントローラであると明らかになっている。スリープ時や起動時にはこのマイクロコントローラがシステムバスを乗っ取ってシステムを制御するというゲーム機らしい設計で,おそらくは電源のオン・オフ以外に,システムの起動,スリープ,ファームウェアのインストールなども制御していると考えられるが,それが新しくなったというわけだ。
HDMIトランスミッタであるMN864729。CUH-1000Aでははんだづけされた金属シールドの下になっていたが,今回はシールドされていない |
APU用と思しき4フェーズ電源部 |
こちらはそのほかの要素用となる2フェーズ電源部 |
部品面で大きな面積を占めているのが電源部だというのは論を俟(ま)たないと思われるが,マザーボードを見る限り,APUの近くに3フェーズ,HDMIトランスミッタの近くに2フェーズという構成になっているようだ。位置関係こそCUH-1000Aとは異なるものの,4+2フェーズという構成自体は変わっていないと見ていいだろう。
なお,APU近くの4フェーズにはパワーICとしてFairchild Semiconductors製の「FDMF6840C」が,またフェーズコントローラとしてはInternational Rectifier製IC「35211」がそれぞれ利用されていた。CUH-1000AだとパワーICがVishay Siliconix製だったので,メーカーが変更となった。また,フェーズコントローラはメーカーは同じだが型番が変更となっている。
続いてはパターン面だが,こちらで目を引くのは8枚並んだGDDR5メモリチップだろう。
メモリチップの枚数が半減したことは,コストダウンに間違いなく寄与していると断言していい。
パターン面にはそのほか,分解パートの序盤で紹介した,BDドライブの制御回路も実装されている。BDドライブコントローラにはルネサスエレクトロニクス製の「R9J04G011FP1」で,またモータードライバICはロームの「BD7764MUV」だ。LSIの型番こそ変わっているものの,基本構成そのものはCUH-1000Aから変わっていないわけである。
以上,マザーボード全体として,搭載されるLSI数の削減が,CUH-1200における最大の特徴とまとめられそうだ。とくに,SCE銘入りのカスタムLSIであるCXD90036Gに多くの機能が集約されたことが,LSI数削減に効いているように見える。
従来,据え置き型ゲーム機の場合,半導体製造技術の進歩によってプロセス技術の微細化が進み,それがメインプロセッサの小型化,省電力化,低コスト化につながって,それが製造コストの低減を実現してきた。しかし,よく知られているとおり,プロセッサ向けのプロセス技術は微細化のペースが落ち気味で,かつてのようなパターンを踏襲することが難しくなっている。
CUH-1200は,そんな状況に対する,SCEなりの回答と評することができるのではなかろうか。メインのプロセッサをどうにもできない以上,サブのLSIに手を加え,基板レベルのシュリンクとでも呼べるような最適化によって,コストダウンを図ればいい。SCEはそう考えたのではなかろうか。
次世代プロセス版APUを搭載したモデルまでの“つなぎ”として,順当な進化を遂げた新型PS4
APUの製造を請け負うTSMCのロードマップからすると,2015年の終わりか2016年には,APU製造プロセスのシュリンクが行われる可能性が高い。その暁にはPS4筐体の再設計が行われることも大いにあり得るが,今回のCUH-1200は,それまでのつなぎとして,順当に進化を遂げたモデルとまとめることができそうである。
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