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[GDC 2013]ゲームのストーリーテリングはどうなる? 技術の進歩によって変わるストーリー伝達方法
サンフランシスコで開催されている開発者会議「Game Developers Conference 2013」の2日目,2013年3月26日に「The Future of Storytelling」(ストーリーテリングの未来)という講演が行われた。登壇したのはSchell GamesのCEO兼,Carnegie Mellon University(カーネギーメロン大学)の特別教授という異色の人物であるJesse Schell氏だ。
参考までに将棋や麻雀,トランプなどが古典にあたるのではないかという見方もあるが,ここで議論しているものは,あくまでもストーリーがあるゲームについてとなる。
では,なぜゲームに古典がないのかといえば,それはゲームの特徴にあるとSchell氏は考えているそうだ。ゲームには,走る,撃つ,跳ぶ,登る,投げる,演じるなど,肉体的な動きを描写するものが多い。一方,映画は,話す,尋ねる,交渉する,叫ぶなど,首から上の行動,つまり精神的な動きが描かれる傾向にある。もちろん映画でも,終わってみれば主役はほとんどしゃべっていなかったといったような,肉体的な動きが中心のアクションものもある。個人的にそういった映画は好きだが,確かにそれが次の世代に伝えられる作品だとは考えづらい。
また,Schell氏はゲームの場合,悲しみが表現しづらいということも指摘していた。というのもゲームの場合はセーブポイントに戻るといったことができるため,あまり悲しくならないのだ。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」も,「ジュリエットが死んでしまったからチェックポイントに戻ろう」となってしまったら,悲しくはない。Schell氏の意見としては,語り継がれているストーリーは,多かれ少なかれ“悲しみ”が描かれており,ゲームではその表現が難しいというわけだ。
また,プレイヤーによってストーリーが異なる可能性があるのもゲームの特徴である。これもストーリーが語り継げない理由の一つであるとSchell氏は考えている。
では,ゲームで優れたストーリーを描くことが不可能なのかというとそうではない。技術の発展や新たなゲームシステムの開発により,本や映画では到底表現できないストーリーを描けるようになるという。
映画も登場したばかりのころは音声がなく,そこに音が足されることで新たな表現が可能になった。ゲームの技術も今,映画以上に分かりやすい形で進歩しており,数年前では考えられなかったことが次々と当たり前になってきている。Schell氏は,まだまだ発展段階だが,プレイヤーとゲーム内キャラクターの交流がメインのゲームが登場し,本や映画では決して表せなかったストーリーテリングの手法が生まれると予想している。最終的には,“Virtual Companions”(仮想世界の仲間)と呼ばれるものが登場し,プレイヤーと一緒にストーリーを紡いでいくようになるのではないかと,語っていた。
Virtual Companionsが登場することで,ゲームではあまり表現されてこなかった心理描写が描かれやすくなり,ストーリーに深みが増す。それによりストーリーが何年も語り継がれるような作品が生まれるのではないかとSchell氏は予想しているわけだ。とくに,人生のほとんどをVirtual Companionsと過ごすようになれば,プレイヤーの死後に,その人物像がVirtual Companionsによって語られる,なんていうこともあるかもしれない。もっとも,そうなってくるとストーリーテリングの域を越えている気はするが。
以上がSchell氏の思い描く,未来のストーリーテリングだ。だが,これはあくまでも同氏の予想にすぎない。ひょっとしたらまったく別の方向に,ゲーム周りの技術が進歩する可能性もある。Schell氏が考えている未来の答えが出るには,まだまだ時間がかかるだろう。古典の定義にもよるが,数百年後に語り継がれているかどうかは,我々には確認できない。とはいえ,後生に語り継がれるようなゲームが,1本でも多く世に出てくることを願いたいものだ。
Game Developers Conference公式サイト
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