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[SIGGRAPH]「Halo 4」と「WoW: Mists of Pandaria」の予告編も入選した「Electronic Theater」レポート後編
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印刷2013/08/01 00:00

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[SIGGRAPH]「Halo 4」と「WoW: Mists of Pandaria」の予告編も入選した「Electronic Theater」レポート後編

Electronic Theaterが開かれた,Anaheim Convention Centerのアリーナホール入口。多くの来場者が楽しみにしているイベントだ
画像集#007のサムネイル/[SIGGRAPH]「Halo 4」と「WoW: Mists of Pandaria」の予告編も入選した「Electronic Theater」レポート後編
 今回は,前編に続いて,SIGGRAPH 2013で開かれた「Electronic Theater」レポートの後編をお届けする。後編では「Computer Animation Festival」(コンピュータアニメーションフェスティバル,以下 CAF)審査委員会が選出した受賞作品と,特別な賞を与えられた作品を中心に紹介していきたい。

[SIGGRAPH]技術とセンスが光る映像作品が集結した「Electronic Theater」レポート(前編)。ゲームからは「ZombieU」と「Cyberpunk 2077」が入選



Rollin' Safari

Kyra Buschor氏ほか,Filmakademie Baden-Wurttemberg,ドイツ


 最優秀学生作品賞(Best Student Project)を受賞したのは,CAF常連として有名なドイツの映像専門学校「Filmakademie Baden-Wurttemberg」の学生である,Kyra Buschor氏の作品「Rollin' Safari - what if animals were round?」(以下,Rollin' Safari)だ。
 「飽食の時代」といわれる現代において,最大の健康問題といえば肥満。この肥満問題はいまや人間だけではなく,そのペットにまで広がってきている。その肥満問題が野生動物にまで広がったとしたら……。Rollin' Safariはそんなifの世界を描いた作品で,1本1分前後のショート作品を集めたオムニバススタイルになっている。


 if設定の馬鹿馬鹿しさや,登場動物達の体型が非現実的な一方で,ライティングやポストエフェクト,カメラワークなどは徹底したリアリズムにこだわっていて,そのアンバランスさがまた楽しい。

 この作品からは,女性作家らしい柔らかいタッチが感じられるが,Buschor氏の過去作品には,テイストのまったく異なるダークな作品もある。興味のある人はBuschor氏の公式サイトを覗いてみてはいかがだろうか。


Sleddin'

John Pettingill氏,Texas Agricultural and Mechanical University,アメリカ


 最優秀学生作品賞次点に選出されたのが,アメリカはテキサスA&M大学の学生,John Pettingill氏の作品「Sleddin'」だ。タイトルを和訳すれば「そりすべり」となる。

 視界が非常に悪い吹雪の日に,山の頂に立つ者がいる。それは「そり」を抱えた年端もいかぬ少年だった。危険な場所でスポーツを行う「エクストリームスポーツ」さながらに,少年はそりに乗って崖から滑り降りる。視界が悪い中,障害物を避けつつ滑走を続けた少年は,とうとうえぐれた崖っぷちから空中に飛び出してしまう。眼前に広がるパノラマに感動する少年だったが,そのまま雪原に叩きつけられる。はたして少年の運命は…?


 Pettingill氏はCGアーティストだが,プログラミングにも堪能なようで,ゲームエンジンの「Unity」と,Kinectセンサーを組み合わせたオリジナルのゲーム風アート「Jet Fu」も発表している。今後の活動が楽しみなアーティストだ。氏の作品やスケッチが掲載された個人サイトはこちらである。


Lost Senses

Marcin Wasilewski氏, ポーランド


 シュールレアリスム派のアーティストとしては,日本ではサルバドール・ダリと人気を二分するほどの存在,ジョルジョ・デ・キリコの絵画を,「もし,あの空想世界が生きて動くとしたら…」という想定でアニメーション作品にしたのがこの「Lost Senses」だ。作者はポーランドの映像作家Marcin Wasilewski氏で,今回は審査員特別賞を受賞している。

 踏み込んだら最後,必ず迷ってしまう不思議な空中都市に,薔薇の花を持った男性が訪れる。彼が空中都市にやってきたのは,愛する女性を取り戻すため。彼女もまた,彼の写真を手に彼を探している。この「惑いのトラップ」だらけの街で,2人は巡りあうことができるのか……。

 乾いた空気感を演出するオレンジ色を大胆に使ったライティングと,ハードエッジな影の描写は,まさしくキリコの絵画世界だ。3Dグラフィックスでの表現が難しそうな,遠近法の原則から逸脱した“歪曲した奥行き感”はかなり斬新で,この辺りが高く評価されていた。余談だが,筆者はこのキリコ風の世界を見て,PlayStation 2時代の名作「ICO」のパッケージを思い出した。なんとなく似てませんかね?




A la Française

Morrigane Boyer氏,SupInfoCom Arles,フランス


 2013年の最優秀作品賞を射止めたのは,CAF常連でフランスの名門映像専門学校であるSupInfoCom Arlesの学生,Morrigane Boyer氏らの作品「A la Française」だ。

 この作品は,18世紀フランスのベルサイユ宮殿で繰り広げられる貴族達の生活を,ニワトリに置き換えてコミカルに描いたものだ。シンプルなコメディ作品なのか,それとも風刺作品なのかがいまひとつ分からないのだが,そこもまた持ち味なのだろうか。

 宮殿で舞踏会を楽しむ貴族ニワトリ達。ある者は不倫相手に夢中だったり,ある者は自分の正義に酔いしれていたり,ご婦人方はお茶会と噂話に夢中だったりといった具合に,誰も宮殿の外で起きていることなどお構いなし。優雅で気ままな暮らしに明け暮れている。そんな貴族達の贅沢で自堕落な生活を,淡々と文書に記録している書記官がいた。ところがある日,ちょっとした手違いでその記録が宮殿中に広まってしまい……というお話だ。

 当時の貴族が着ていた羽根飾りだらけの衣装を,そのままニワトリの姿に当てはめたのが発想の源なのだと思うが,人間らしい動きと鳥っぽい動きがシームレスに紡がれていて,キャラクターアニメーションはとにかく秀逸だ。
 鳥の羽の質感や,ライティングのリアリティ,各種マテリアル表現の説得力も,相当にレベルが高い。ほとんど,プロのプロダクションスタジオで制作されたとしか思えないでき映えが,審査員に高く評価されて受賞に至ったのだろう。



 作者であるBoyer氏の公式サイトには,彼女の過去作品が紹介されている。興味のある人は,そちらも見てはいかがだろうか。


Harald

Moritz Schneider氏,Filmakademie Baden-Wurttemberg,ドイツ


 冒頭のRollin' Safariで,最優秀学生作品賞受賞者を出したドイツのFilmakademie Baden-Wurttembergからは,もう1点,「Harald」という作品も最優秀学生作品賞次点に選ばれている。レポート前編で紹介した,「Ophelia: Love & Privacy_Settings」も同校学生の作品であった。この学校,とんでもなくレベルが高い。

 作品の内容は,毒がやや強めなダークコメディである。プロレスラーのHaraldは無敵で,試合は毎戦一方的な勝ちばかり。優勝トロフィーが増えすぎて,部屋に置き場所がないほどだ。そんな怖い物知らずのHaraldだが,実は花を愛する心優しい男で,そのうえ筋金入りのマザコンだった。
 しかも,この母親がとんでもない意地悪おばさんで,心優しきHaraldが大事にしている花を人質(?)に取り,無理矢理Haraldに試合をさせては,金ピカの優勝カップを集めていたのだ。そんなある日,大切な花をズタボロにされたHaraldは,意地悪な母に復讐するために,ある秘密の種を植木鉢に植えたのだが……。



Halo 4 "The Commissioning"

Nicolai Fuglsig氏ほか,Method Studios,アメリカ


 2012年のE3 2012で公開された「Halo 4」予告編のオフラインレンダリング(プリレンダー)ムービーが,Electronic Theaterに入選した。
 制作を担当したCGプロダクションは,ハリウッドでも著名なMethod Studiosだ。最近の作品では,「Iron Man 3」(邦題:アイアンマン3)や「White House Down」(邦題:ホワイトハウス・ダウン)のVFXを担当している。
 本作の監督は,テレビCM監督として著名なデンマーク人のNicolai Fuglsig氏。ちなみに,Fuglsig氏を一躍有名にした作品は,25万個のスーパーボールをサンフランシスコの街で転がした,ソニーの液晶テレビ「ブラビア」のテレビCMだった。

 予告編に出てくる宇宙船をはじめとしたメカニックや,マスターチーフを初めとした主要キャラクタは,ゲーム開発元である343 Industriesから,ゲームで使われている3Dモデルデータを受け取り,Method Studios側でオフラインレンダリングの品質に見合うレベルに改良してから使用したとのこと。詳細は語られなかったが,ゲーム制作と同時進行でこうしたやり取りをするのはかなり大変だったそうで,その甲斐あって,シリーズのハードコアなファンが見ても違和感のない“Halo世界”を再現できたと,Method Studiosは振り返っている。
 ちなみに,冒頭の実写部分はルーマニアのブカレストで撮影されている。本作の制作期間は非常に短く,ブカレストでの撮影後,なんとわずか4週間でポストプロダクションを終えなければならなかったそうだ。



World of Warcraft: Mists of Pandaria Cinematic Intro

Marc Messenger氏ほか,Blizzard Entertainment,アメリカ


 Electronic Theaterに入選した「World of Warcraft: Mists of Pandaria」のオープニング映像は,Halo 4予告編と同じく,プリレンダーで作成されたゲームの予告ムービーである。

 Alliance陣営とHorde陣営の軍艦が,洋上で激しい戦闘を繰り広げた末に転覆。どちらが勝者なのかも分からないまま,Hordeのオーク戦士とAllianceのヒューマン戦士は,未開の島に漂着する。ほどなくして鉢合わせになった2人は,見知らぬ島で激しい戦闘を再開するが,そこに謎の人物が現れて……,という内容だ。

 さながら,「バイオハザード ダムネーション」といったフルCG映画並みのライティングやシェーディングのクオリティと,アニメーションの見事さに目を奪われ,ゲームの予告編であることを忘れて見入ってしまう出来映えだ。技術的にも優れているが,カット割りと編集が見事なことにも気がつくだろう。


 本作を監督したのは,Marc Messenger氏。もともとハリウッドで数多くの映画制作に携わった経験を持つ彼は,現在はBlizzard Entertainmentにて,プリレンダームービー制作を専門とする部署に在籍しているとのこと。ここ最近のBlizzard作品におけるムービー部分は,そのほとんどを彼が監督しており,たとえば「Diablo III」の全プリレンダームービーシーンも,彼が担当したそうだ。


The Blue Umbrella

Saschka Unseld氏ほか,Pixar Animation Studios,アメリカ


 日本でも現在上映中の,Pixar制作によるCGアニメ映画「Monsters University」(邦題:モンスターズ・ユニバーシティ)。その同時上映短編作品である「The Blue Umbrella」が,Electronic Theaterに入選していた。
 題名のとおり,青い傘が主人公のファンタジーな物語で,Pixarが手がけた作品らしく,傘はすべて擬人化されている。

 雨が降る夜の街。道行く人はみんな傘を差していて,互いの顔は見えない。交差点で信号を待つ間,ある青い傘は,可愛らしいデザインの赤い傘に気がつく。赤い傘も青い傘に気がつき,互いに頬を赤らめる。ところが,信号が変わり,2人(?)はそれぞれの方向に……。赤い傘の行方が気になって仕方がない青い傘は,風の力や道路のマンホール,排水溝の蓋やゴミ箱の助けを借りて,赤い傘との再会を目指す……,といったコメディタッチのラブロマンスが描かれる作品だ。

 青い傘と赤い傘には,擬人化された表情がデカールテクスチャとして貼られているが,作品全体のテイストは,Pixar作品としては非常に珍しく,徹底したリアリズムで描かれている。コンクリートの歩道やアスファルト上の薄い水たまり,そしてそれらに映り込む周囲の情景。あるいは,遠景が湿度の高い空気で,白く霞んで見える様子などなど,何から何までが徹頭徹尾リアルで,ライティングやシェーディングは一切デフォルメされていない。
 下に掲載したトレイラーを見た人によっては,この作品は実写映像を加工した合成映像かと思ってしまうかもしれないが,すべてが完全なCGで実現されている。


 監督のSaschka Unseld氏は,ドイツ人のCGアーティスト兼エンジニアで,ドイツのCGプロダクションStudio Soiの創設者でもある。
 Unseld氏は,「Toy Story 3」(邦題:トイ・ストーリー3)や「Brave」(邦題:メリダとおそろしの森)にて,カメラワークと演出を担当しているそうだが,Pixarでの最近の仕事は,どちらかと言えば技術系が多かったという。そんなUnseld氏が手がけた本作は,彼の強い意向により,大局照明(Global Illumination,以下,GI)技術を徹底的に活用することとなった。
 Pixar関係者に聞いたところ,Pixar社内は,GI派とVPL(Virtual Point Light)※1派という2つの派閥に分かれているそうで,Unseld氏は当然ながらGI派だ。自分の作品でGIを駆使した絵作りをするのは,当然といったところか。
※1:バーチャルポイントライト,仮想点光源。間接光照明表現をGIではなく,新たに光源を置くことで疑似的に再現する手法。

 余談だが,The Blue Umbrellaのストーリーは,SIGGRAPH 2012のElectronic Theaterに入選した,Walt Disney Animation Studios制作の「Paperman」(日本では映画「シュガーラッシュ」と同時上映)のストーリーと着想が似ているなと,筆者には思えた。PixarはDisneyグループの企業なので問題はなかろうが,ストーリー展開にもう少し驚きがあればな……と感じたのも事実だ。

Electronic Theater|SIGGRAPH 2013

SIGGRAPH 2013 公式Webサイト


  • 関連タイトル:

    Halo 4

  • 関連タイトル:

    World of Warcraft: Mists of Pandaria

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