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[COMPUTEX]5GHz帯と2.4GHz帯を自動切り替えしながら,オンラインゲームも途切れない。無線LANの新技術「Wi-Fi SON」とは何か?
ただ,その中で説明された近い将来に登場する無線LAN技術「Wi-Fi SON」は,コンシューマーにも関わってくる技術となりそうだ。そこで,カンファレンスで説明されたWi-Fi SONについて,簡単にレポートしよう。
無線LANの容量を拡大するために,Qualcommは,「More spectrum」(周波数帯の拡大)「More antennas」(より多くのアンテナ)「More efficiency](さらなる効率化)という3つのアプローチを研究しているという。
無線LANの容量拡大に効果的な手法として,すでに広く利用されている技術に「Multi User-MIMO」(MU-MIMO,関連記事)がある。IEEE802.11ac規格では,MU-MIMOを利用することで,無線LANのスループット(通信速度)や容量を3倍にできたという。
ちなみにSONとは,携帯電話の通信ネットワークでも使われる用語だが,それと同様の仕組みを無線LAN向けに導入したのが,Wi-Fi SONなのである。Wi-Fi SONの発表自体は2016年1月に行われたのだが,機器メーカーの多い台湾の地で詳細に説明することで,対応デバイスの拡大につなげたいとQualcommは考えているのだ。
IPQ40x9は,5GHz帯で2つ,2.4GHz帯で1つの合計3波を使う「Tri-Radio Platform」という技術を採用しており,無線LANルーターが今までよりも効率よく,柔軟に周波数帯域を活用できる。Wi-Fi SONでは,これをさらに進化させるという。
現在の無線LANルーターでは,2.4GHz帯と5GHz帯がSSIDによって区別されており,ユーザーがどちらかを選んでつなぐ必要がある。Wi-Fi SONでは,これを簡略化して,1つのSSIDで,どちらもつなげられるようになるとのことだ。
同社の説明員は,「切り替えに遅延は発生しない」と述べていた。本当に一切遅延がないのかはともかくとして,少なくともパケットロスが起こるようなことはなく,2.4GHz帯から5GHz帯,5GHz帯から2.4GHz帯へといった切り替えを自動的に行えるそうだ。
通常は高速で安定した5GHz帯を使っているが,他の端末がビデオストリーミングを見始めたので帯域が逼迫するようなときには,2.4GHz帯に切り替えると安定する場合もある。だが,これまでの無線LANでこのようなことをするには,ユーザーが明示的にSSIDを切り替える必要があったし,セッションも途切れるために,プレイ中のオンラインゲームが終了してしまうこともありえた。それがWi-Fi SONであれば,切り替え中もセッションが維持されるため,常に安定した回線でゲームを楽しめる,というわけだ。
ほかにも,無線LANルーターとの接続を簡単にするためにBluetoothを利用する技術や,無線LANのリピーター(中継器)を設置して無線LAN環境を改善する場合でも,より簡単に環境を構築できるような技術も導入していくという。
とくにQualcommでは,今後のIoT時代において各部屋の無線LAN環境を快適化するために,リピーターの重要性が増すと見込んでいるそうだ。Wi-Fi SONでは,リピーターも含めて管理できるので,リピーターから別のリピーター,さらに親機となる無線LANルーターといった相互の接続もシームレスに行えるようになる。
さらに,管理用アプリを提供することで,無線LANルーターの接続管理を容易に行えるようにして,多数のIoTデバイスを管理しやすくなるだろうと,Qualcommは主張していた。
今回の説明によると,すでに販売されているIPQ40x9搭載無線LANルーターでも,ファームウェアのアップデートでWi-Fi SONのサポートが可能になるとのことだ。日本でも,IPQ40x9を採用した無線LANルーターはすでに販売されているので,今後のアップデートを期待したい。
また,Wi-Fi SON対応ルーターに接続するデバイス側は,無線LANの管理に利用する標準規格である「IEEE802.11k」や「IEEE802.11v」をサポートしていれば――たとえば現行製品のiPhoneなど――,自動切り替えに対応できるという。
今後,さらに高速な無線LAN技術である「IEEE802.11ad」が登場すれば,2.4GHz帯や5GHz帯に加えて,60GHz帯も使った自動的切り替えが可能になる。短距離だが高速な60GHz帯,長距離に届く2.4GHz帯,干渉の少ない5GHz帯といった切り替えも,ルーターが自動で行ってくれるようになるわけで,家庭内での安定した高速な無線LAN通信環境の実現が近づきそうだ。
Qualcommによる当該プレスリリース(英語)
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