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[SIGGRAPH]君も身長5mの巨人になれる! 筑波大開発の体感型VR「Big Robot Mk.1A」を体験してきた
5mの巨人になった体験ができるBig Robot Mk.1A
搭乗にあたって体験者は,バックル付きのハーネスを着用してヘルメットをかぶり,ハシゴで5mもの高さがあるロボットの搭乗位置まで上がる。搭乗位置に着いたら転落を防止するために,ハーネスのバックルをロボット側のフレームに固定して準備完了だ。
スタッフがゴーサインを出したら,ロボットの左右肩口に備わるロボアームのハンドルを両手で掴んだうえで,左右の足を交互に振り上げて歩く。眼下を見下ろすと,首を上げてこちらを見上げる人や,カメラを上に向けて撮影している人の姿が目に入ってきた。地上では見えなかった会場の奥にあるブースの様子もよく見える。
体験自体は,20m2程度の体験スペースを直進しては引き返すだけなのだが,一歩進むごとに,自身の頭部に慣性によるものらしい振動が伝わってくるのが新鮮だ。巨体が歩くと,こんな感じに頭部が揺れるのだろう。
VR HMDを使わない仮想巨人体験
Big Robot Mk.1Aの開発と制作を担当した研究室の岩田洋夫教授によると,この研究は「もし自分が身長5mの巨人になったら,巨人の三半規管にはどのような刺激が伝わるのだろうか。巨人となる仮想体験を作りたい」といった動機で始まったプロジェクトだという。「エンターテインメントとして楽しいこと」も理由ではあるが,学術的な探究心がきっかけで始まったのだ。
岩田教授によれば,人間が歩くときの頭部は,一定周期の山なり軌道を描くそうだが,巨人になると背が高くなり,足も長くなって歩幅が大きくなるため,山なり軌道の波形は振幅と波長が拡大されるはずだという。また,地球上の動物は,体重の3倍に比例して歩行速度が遅くなるそうで,このシステムはそうした法則にも配慮した設計になっているとのことだ。某巨人アニメで描写されるあの素早い動きは,実際には無理なのかもしれない(※編注:「進撃の巨人」における巨人は,身長に対して体重が非常に軽いので,動きが素早いという設定がある)。
さて,写真を見ても分かるとおり,「巨人VR」ともいえるこの体験では,仮想現実(以下,VR)対応型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使わない。なぜVR HMDを使わないのかと岩田教授に質問したところ,「VR HMDで体験者に仮想世界の映像を見せることも技術的にはできますが,それだと,せっかく高い場所にいるのに,遠隔操作をしている体験と変わらなくなってしまいますよね。巨人として歩行したときのリアルな高所からの視界,そして頬で風を切る感覚。あえていうなら,巨人という体の感覚を味わってほしいために,VR HMDをかぶるアプローチは採用しませんでした」とのことだった。
その代わりというわけではないが,地上に設置した外部カメラで移動するBig Robot Mk.1Aの様子を撮影しながら,ロボットのフレームにCGのロボットを重ね合わせた映像をリアルタイムに生成して,それを外部のディスプレイに表示するという展示も行われていた。
歩行ではなく車輪での移動だが,巨体を操る感覚は確かにある
Big Robot Mk.1Aのハードウェアと,それを構成する技術もチェックしてみよう。
Big Robot Mk.1Aを身につけた体験者が足踏みをすると,搭乗スペースの床にある足踏み式スイッチを,左右の足で交互に押すことになる。すると,スイッチの動作がコンピュータに伝わり,左右のモーターを駆動して,足にある車輪を回転させることで歩行するという仕組みだ。モーターは産業用ロボットに使われているオーソドックスな交流モーターで,電力は有線で供給している。
二足歩行ではなく車輪による走行ではあるが,両手でつかんだ左右の長い手を振り回しながら一歩ずつ歩みを進めるので,巨体を操っている感覚が確かに感じられた。
最先端のVR研究では,映像や音響などだけでなく,歩行や触覚といった絵や音以外にVRを拡張する「プラスα的な研究」が盛んになってきているように筆者は感じている。
東京ジョイポリスにオープンした多人数参加型VRアトラクション「ZERO LATENCY VR」もある意味ではそうだし,エクササイズバイク型のVR機器「VirZOOM」や,視覚だけでなく触覚も利用して狭い室内でも広い空間を感じさせる東京大学廣瀬・谷川・鳴海研究室の「無限回廊」も,VRプラスαの例といえよう。
岩田教授によれば,「VRが身近になってくると,多くの体験者は『見えているものに触れたい』という願望を感じるはず。触覚刺激はもちろん,さまざまな身体感覚を拡張する取り組みが,今後のVR研究には重要になってくる」と述べていた。今回のBig Robotシステムは,そんな+αの部分を人体拡張の方向から取り組んだものというわけである。そして今後も,+αの技術開発は,盛んになっていくのではないだろうか。
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