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次世代無線LAN規格「Wi-Fi 7」はいつごろ利用可能に? IntelがWi-Fiの現状と今後の見通しを語る
ざっくりしたタイトルどおり,具体的な製品の話ではなかったが,ゲーマーにとっても馴染み深い「Wi-Fi」の最新事情と今後のロードマップなどが語られたので,簡単に内容を紹介したい。
日本国内での認可が待たれる「Wi-Fi 6E」対応製品は拡大中
かつては,有線LANに比べて通信速度が遅く,レイテンシ(遅延)も大きいとゲーマーに敬遠されていたWi-Fiだが,そうした問題も,今や昔話になりつつある。Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)では,遅延を大幅に低減して,アクセスポイントとの通信状況が良好であれば,有線LANに迫る快適さでゲームがプレイできるようになった。低遅延がシビアに求められる一部のジャンルは別として,ふだんからWi-Fi環境でゲームをプレイしているゲーマーも多いだろう。
Intelは言うまでもなく,PCにおけるWi-Fiインタフェースのトップメーカーだ。とくにIntel CPUを採用するノートPCのほとんどは,Intel製のWi-Fiモジュールを採用している。また,無線LAN機能に対応したマザーボードにも,Intel製Wi-Fiモジュールを搭載するケースが多い。
現在,Intel製Wi-Fiモジュールは,一般消費者向けの「Wi-Fi 6E AX210」と,ゲーマー向けの「Killer Wi-Fi 6E AX1675」という2製品が主力となっている。いずれも製品名にあるとおり,Wi-Fi 6E(IEEE802.11ax)に対応するのが特徴だ。
ちなみに,現状,日本国内では,Wi-Fi 6対応製品が広く普及しているが,Wi-Fi 6Eへの対応を謳う製品はそれほど多くない。先にあげたIntel製Wi-Fiモジュールも,日本ではWi-Fi 6対応製品として販売している。本題から少し離れるが,国内では,まだWi-Fi 6Eを利用できない理由を簡単にまとめよう。
Wi-Fi 6は,最大160Hzの帯域をデータ転送に当て,無線通信のデータ変調方式に「1024QAM」を用いることで,最大9.6Gbps(理論値)の通信を可能にした無線LANの規格である。
160Hzのデータ転送が行えるのは,5GHz帯に限定されているのだが,5GHz帯で使える周波数帯は5.150〜5.350GHz(W52/W53)と,5.470〜5.725GHz(W56)しかないのがネックだ。160Hzを専有するデータ通信が,実質2つ分しか利用できない計算となる。ノイズや,同じ周波数帯を使うほかの通信との混信を考慮すると,Wi-Fi 6の帯域をフルに使うのはなかなか難しい。
そこで,データ通信に使える帯域として,新たに6GHz帯(5.925〜7.125GHz)を追加したのがWi-Fi 6Eだ。160MHzのデータ通信が,既存の5GHz帯と合わせて9つ分とれる計算で,混信などの影響を避けやすくなるため,最大の帯域幅を得ることも容易になると考えられる。
アメリカやヨーロッパ,韓国では,すでに6GHz帯を利用したWi-Fi 6Eの運用がスタートしている。海外メーカー製の無線LANルータやスマートフォンで,スペックにWi-Fi 6Eを明記している製品を見たことがあるかもしれない。
しかし,電波の利用法を決めるのは各国や地域の政府で,日本ではまだWi-Fiによる6GHz帯の利用が認可されていない。そのため,いまのところ日本で手に入る製品は,ハードウェア的にWi-Fi 6Eに対応していたとしても,Wi-Fi 6までしか利用できないというわけだ。
なお,いままさに,総務省の情報通信委員会において「6GHz帯無線LANの導入」について審議中だ。それを見越してか,バッファローはWi-Fi 6E対応製品を近日発売することを明らかにしている。早ければ2022年中に日本でもWi-Fi 6Eの周波数帯が認可される可能性が高そうだ。対応製品自体は出揃っているので,認可されれば,日本でもほどなくWi-Fi 6Eが広く普及するだろう。
次世代の「Wi-Fi 7」では,近接検知や状況認識が可能に?
というわけで,まだ日本ではWi-Fi 6Eを合法的に使用できないわけだが,Intelは今回,次世代無線LAN規格「Wi-Fi 7」(IEEE802.11be)について説明している。
Wi-Fi 7では,データ通信に使う帯域をWi-Fi 6/6Eの160MHzから,320MHzに倍増する。さらに,変調方式も「1024QAM」の4倍にあたる通信速度を可能にする「4096QAM」に対応することで,理論上の最大通信速度は40Gbpsと,大幅な高速化を実現するそうだ。
通信速度以外の要素にも触れておこう。Wi-Fi 7における特徴の1つである「Multi-Link Operation」は,1対多数の同時通信をサポートする機能だ。Wi-Fi 6/6Eは,最大8台までの同時接続が可能だったのに対して,Wi-Fi 7ではこれを最大16台に拡大する。
次の「Multi-RU Puncturing」は,連続していない周波数の利用を可能にするものだ。データ通信に320MHzを当てると言っても,320MHz分の連続した周波数が,各国の規制や混信などで確保できない可能性がある。Wi-Fi 7のMulti-RU Puncturingを使うと,20MHzごとに飛び飛びの周波数を束ねて320MHzを確保できるとのことだ。
最後の「Deterministic Latency」はレイテンシを一定化する技術で,ゲーマーにも関係する技術になるかもしれない。現在のWi-Fiは,通信状況などによって,レイテンシが一定にならない。レイテンシを一定化する技術を盛り込むことで,レイテンシが予測可能(Deterministic)になるという。
このほかにも,Intelは,「Wi-Fi 7で利用するチャンネルを使って,近接検知や状況認識が可能になる」ともアピールする。これによると,「たとえば,部屋に何人いるのか,動いているのか,止まっているのかといったことが検知できる」そうだ。
この機能は筆者も初めて聞いたのだが,Wi-Fi 7は策定中の規格なので,Intelが主導してそういう機能も組み込む計画があるのかもしれない。Intelは,「Wi-Fi 7は,単にネットワーク接続の技術革新というだけでなく,Wi-Fi全般の新しい革新的な利用を可能にする技術なのだ」と強調する。
Wi-Fi 7対応製品は2024年以降に登場予定
そんなWi-Fi 7だが,実際に対応製品が登場するのはいつになるのか。Intelによると,「順調に開発は進んでいるものの,2024年より前はない」とのこと。Wi-Fi 7の仕様が確定し,業界団体であるWi-Fi Allianceが,Wi-Fi 7製品の認証を開始するのが2024年末の予定なので,実際に製品が市場に並ぶのは,2025年以降になるかもしれない。
Intelは,アメリカのオレゴン州にコードネーム「Casper」と呼ばれるワイヤレス技術試験施設を持っているそうで,そこで製品開発や相互接続の検証を行っているという。
一例としてあげられたのが,企業で広く利用されているCisco Systems製アクセスポイントとの総合接続性を検証していることだ。Casper内で実際の建物を使い,アクセスポイントの数や位置を変えながら,Intel製のノートPCとの接続製や,接続先のスムーズな切り替え動作といったことを検証しているという。
また,Casperでの検証結果をもとに,Intel製のワイヤレス接続向けドライバやソフトウェアの開発も行っている。ちなみにIntelは,5G技術に関して台湾MediaTekと協業しており,おもに5G向けのPC用ソフトウェアの開発を行っているそうだが,そういった用途にもCasperのような設備が使われているというわけである。
以上,Intelの説明会の概要をざっくりとまとめてみた。ゲーマーとしては,Wi-Fi 6E対応機器がいつ頃使えるようになるのかに,注目しておくといいだろう。一方,Wi-Fi 7は,まだまだ先の話なので,そんな規格の開発も進んでいることを記憶に留めておくくらいで十分だ。
Intelの日本語公式Webサイト
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