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[CEDEC 2016]行動経済学で説明する「Pokémon GO」ヒットの理由や,ソーシャルゲームが目指すべき境地とは。「人がゲームにハマる心理 〜行動経済学とソーシャルゲーム〜」をレポート
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印刷2016/08/26 16:27

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[CEDEC 2016]行動経済学で説明する「Pokémon GO」ヒットの理由や,ソーシャルゲームが目指すべき境地とは。「人がゲームにハマる心理 〜行動経済学とソーシャルゲーム〜」をレポート

 2016年8月24日から神奈川県のパシフィコ横浜でスタートした,開発者向けカンファレンス「CEDEC 2016」。その初日に「人がゲームにハマる心理 〜行動経済学とソーシャルゲーム〜」と題する講演が行われた。ソーシャルゲームに夢中になるときの心の動きを,行動経済学の知見で解き明かすという内容で,「Pokémon GO」をモデルに,今後のソーシャルゲームが進むべき方向性も示された。

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「CEDEC 2016」公式サイト


橋本之克氏
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 壇上に立ったのは,アサツーディ・ケイ第1アクティベーション・プランニング本部 第1アクティベーション・プランニング局 プランニング・ディレクターの橋本之克氏だ。行動経済学をマーケティングに活かした「モノは感情に売れ!」「9割の人間は行動経済学のカモである ―非合理な心をつかみ,合理的に顧客を動かす―」などの著書で知られている。

 行動経済学とは,経済学に心理学を取りいれた学問で,これまでの経済学が暗黙のうちに,常に合理的な判断を下す「経済人」を前提としていたのに対し,行動経済学では,そのときの心理状態に影響されて不合理な判断も行う,生身の人間の行動を扱っている。
 ちなみに橋本氏によれば,講演での「ハマる」という言葉は,ポジティブな意味合いで使われているとのこと。「夢中になる」と言い換えることもできる。

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 人がソーシャルゲームにハマる理由を橋本氏は,「レアアイテム,ガチャ」「継続」「複数プレイ」に大別し,このとき人の心の中で何が起こっているのかを行動経済学で説明していった。


・レアアイテム,ガチャでゲームが止められなくなるのはなぜか

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 橋本氏によれば,これは「サンクコスト効果」で説明できるという。「コンコルド効果」という呼び方でも知られているが, “ゲームを続けるか否か?”という判断を下すとき,真に合理的な考え方からは,将来のことのみを考慮すべき。しかし,将来性がないと分かっていながら,これまで投入してきた資金や予算を考えて投資をやめられなかった超音速旅客機コンコルドのように,人間の心理として,これまでに支払ったコスト(=サンクコスト)のことを優先して考えてしまう。
 ソーシャルゲームでは,ガチャなどに使ったお金やゲームに費やした時間を考えて,ゲームを止めるという選択になかなか至らなくなる現象が起こる。結果として人はゲームに夢中になるのだ,と橋本氏は語った。

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 しかし,こうした心理がこじれてしまうと,ゲームに費やしたお金や時間で何ができたか,という可能性を軽んじる「機会費用の軽視」や,ネガティブな意味で,今までの努力やお金を無駄にしたくないから,とりあえずゲームを続ける「損失先送り」などの現象が起こる。

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続けるほどゲームが止められなくなるのはなぜか


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 橋本氏によると,「保有効果」がその理由だ。自分が持っている(保有している)ものに高い価値を感じ,手放したくないと思う心の動きで,「損失回避」の影響が強いという。

 人は得をしたときの満足よりも,損失を出したときの不満のほうを強く感じる。利益を得るより,損失を避けようとするのが「損失回避」だ。そのため,ゲームで得たものに高い価値を与え,それを失うことを恐れて,ゲームを止めることができなくなるのだ。

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 育ててきたキャラクターをなくしたくないから,あるいは,ここまでクリアしたという実績を無にしたくないから,という理由でゲームを続けた経験は,読者の多くが持っているだろう。


複数のプレイがあるとゲームを止められなくなるのはなぜか


 ここでいう複数プレイとは,プレイヤーが複数いるということ。チームを組んで遊ぶCO-OPなどに限らず,自分以外の多くの人が同じゲームを遊んでいると感じられる雰囲気も含んでいる。要は,みんながやっているゲームは,なぜか止めにくいのだ。

 これを説明するのが「同調効果」で,集団生活を送る動物の本能として,多数派に従うこと(同調)を良しとする心の動きのことだ。
 友達も同じゲームをやっている。深夜にネットにアクセスすると,多くの人が同じゲームをプレイしている。みんながこのゲームをやっている。こうした同調を感じることで,よりゲームに夢中になっていくと橋本氏は述べる。

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行動経済学で説明する「Pokémon GO」のヒット。そしてこれからソーシャルゲームが目指すべき境地


 人がソーシャルゲームにハマる理由に続き,次は「Pokémon GO」の話題だ。わずか1か月で1億3000万ダウンロードを突破したメガヒットタイトルを題材に,これからのソーシャルゲームがどうあるべきかを考えていこうというわけだ。
 上記の各要素は,「Pokémon GO」でもプレイヤーを夢中にさせるために大きな効果を発揮している。今までの努力や時間を失いたくない「サンクコスト効果」,ポケモンやポケモン図鑑を大切に思う「保有効果」,友達やみんなが遊んでいるという「同調効果」などだ。

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 これにプラスして,「位置情報ゲームであること」「ボール投げのモチーフ」「外へ出るゲームであること」も,ゲームに熱中することに関連しているという。順に見ていこう。


・「位置情報ゲームであること」
 「Pokémon GO」は,歩けばポケモンが手に入り,ポケストップなどではアイテムも増える。そのため,あちこちを歩き回って「Pokémon GO」をプレイしたくなるのだが,これは先に挙げた「損失回避」で説明できる。歩くという日常に密着した行為でポケモンやアイテムを手に入れられるため,「Pokémon GO」を立ち上げないことが「損である」と感じられるのだ。こうした「損失回避」の心理により,ポケモンやアイテムを探し続けることになるという。

・「ボール投げのモチーフ」
 画面をスワイプしてモンスターボールを投げ,ポケモンをゲットする様子は,昆虫採集を連想させると橋本氏は語る。物事を判断する際,取り出しやすい記憶に頼ってしまう「利用可能性ヒューリスティクス」という心の動きがある。つまり,昆虫採集の楽しい記憶が「Pokémon GO」の面白さを判断することに影響を与えているということだ。

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・「外へ出るゲームであること」
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 ゲームを知らない人には,スマホゲームは家に籠もって画面を見つめる不健康なもの,という先入観がある,と橋本氏は指摘する。一方,「Pokémon GO」は外へ出て健康的に歩き回ることが重要なため,こうした先入観を持つ人々をも取り込んでいるのではないか,と氏は推測した。

 不健康な(イメージがある)スマホゲームで遊ぶのは,ときに,理想の自分と矛盾した行為となる。この時の心理状態を「認知的不協和」と呼ぶ。一方,健康的な(イメージのある)「Pokémon GO」を遊ぶことには矛盾がない(認知的不協和が解消された状態)。普段スマートフォンでゲームをやらない人が「Pokémon GO」を遊ぶ理由は,こうした「認知的不協和」とその解消という側面からも説明できる。

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 また,マクドナルドがポケストップになるように,実在店舗と提携した「スポンサード・ロケーション」,そして被災地にレアポケモンを出したり,町おこしに「Pokémon GO」を利用することが検討されているなど「社会貢献」の考え方があることも,認知的不協和を解消するのに役立っていると橋本氏は指摘した。

 こうした例を踏まえ,今後のソーシャルゲームは,社会貢献までを含めて関わった人がWIN-WINになる構造を作ることが重要だ,と橋本氏は結論づける。

 現代の消費者は「収奪されたくない」という意識を強く持つようになった一方,公平なもの,良いものにはお返しをしたいとも考えている。WIN-WINの構造を作るには,ユーザー心理はもちろん,震災からの復興を考える人々など,幅広い層の心理を考えることが重要であるという。こうしたときに活用できるのが行動経済学の知見であるとして,橋本氏は講演を締めくくった。

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 ソーシャルゲームになぜここまで夢中になるのか,そのとき心には何が起こっているのか,という疑問がシンプルに説明されたこの講演。行動経済学の知見をゲーム作りに役立てるだけでなく,関わる人々みんなが幸せになれるところを目指すべきという考え方は,非常に興味深いものだと感じられた。

「CEDEC 2016」公式サイト

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