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[TGS 2013]若き才能を開花させる「Dare to be Digital」に日本チームを! Dare to be Digital説明会レポート
ここに日本チームを送り込もうというプロジェクトのセミナーを取材したので,ここに紹介しよう。なお取材時間の都合上,説明会に続けて行われた遠藤雅伸氏による「日本のゲーム文化に関する講演」をレポートできなかったことを,読者の方々と遠藤雅伸氏に深くお詫びしたい。
10週間に渡るゲーム開発コンペティション
東京大学大学院 情報学環教授の馬場 章氏 |
Dareとは,スコットランドのアバテイ(Abertay)大学で開催される,国際的なゲームデザイン・開発コンペティションである。参加するのは,各国から選抜された,ゲーム開発を学ぶ学生5名からなるチームとなる。
このコンペティション(以下,コンペ)が特徴的なのは,まず,その開催期間だろうか。Dareはなんと10週間(約3か月)に渡って開催され,参加チームはこの期間を使って,ゲーム(厳密にはプロトタイプ)を1本作成することになる。ゲーム開発を学ぶ学生は日本にもたくさんいるのだから,そこから優秀な学生を選抜し,Dareに派遣しようというのが今回のプロジェクトとなる。
「1983年7月15日にファミリーコンピュータが発売されてから今年で30年が経過した。その間に,日本のゲーム開発力が世界を席巻し,大学におけるゲーム開発教育やゲーム研究も進展した。だが一方で,日本のゲーム開発力に陰りが見えていること,また大学での教育や研究が,それぞれの大学の枠組み,あるいは国境を越えられないという現状がある」(馬場氏)。
確かに,米国で開かれる世界最大のゲーム開発者イベント「Game Developers Conference」(GDC)には,インディーズゲームのコンペがあるが,「日本からの参加はほぼなく,受賞歴もない」「大学における教育も実を結ばないケースが多々ある」と馬場氏は指摘。元気を失いつつあるゲーム産業や,またもっと元気になるべき大学のために,Dareというイベントを活用しようというわけだ。
- 海外におけるゲーム開発の体験を通じ,国際的に通用する人材の育成に貢献。
- 日本と海外のゲーム開発の相違を体験し,日本のゲーム開発の良き伝統を伝える。
- Dareの体験のフィードバックで,日本のゲーム開発者教育の国際化を図る。
とくに2つめについては,日本には日本独特のゲーム開発ノウハウの蓄積があるが,このノウハウを明確に把握するためには,海外における開発ノウハウとの違いを理解する必要があると,馬場氏は指摘する。
とはいえ,ただ「派遣しよう」で済むのであれば,今まで日本チームが出場していない理由にはならない。具体的に見て,「学生の英語力の問題」と「派遣時期や期間の問題」がある。なにしろ会期が10週間に渡るので,一定の英語力は欠かせないし,Dare参加期間が「大学の講義に出席せずに海外で遊んでいる」扱いになると,卒業のための単位取得が難しくなる。これでもなお行こうという学生は,そうはいないだろう。
一方,後者については,日本の大学との協力が欠かせない。参加学生の自助努力として,「それまでに卒業に必要な単位をあらかた取得しておく」という手もあるが,「実習(演習)科目として単位を認定する」「大学間協定に基づく単位互換によってカバーする」といったアイデアも提示された。
馬場氏は「こういった取り組みを通じ,オールジャパンで学生を選抜し,Dareへの派遣とそこでの成果獲得を実現したい」と語った。
ちなみに,Dareはスコットランドで開催されるコンペであるが,2013年の勝者はノルウェー・インド・中国チームだ。「ヨーロッパのチームが有利」だとか,ましてや「イギリスのチームが有利」といった,一種のホームタウン・ディシジョンのない,公平なコンペティションであるという。
コンペには,一般プレイヤーに開放された大規模な試遊イベントも含まれており,これへの対応もまた重要なポイントと言えるだろう。
英国アカデミー賞にもつながる「Dare」
先だって馬場氏からも説明があったように,Dareは10週間に渡るイベントで,参加チームは15チームにのぼる。このDareに参加する学生が得られるメリットとして,White氏は「国際的な,非常に濃厚な経験」を挙げた。また非常に大きな特徴として,Dareには海外の大手デベロッパが協賛しており,各社が指導員として技術者を派遣しているということが挙げられる。
これを例えて言うなら,類似のイベントが日本で開催されるとしたら,スクウェア・エニックスの三宅洋一郎氏(リードAIリサーチャー)や,モバイル&ゲームスタジオの遠藤雅伸氏らの直接の指導とサポートが受けられるようなものだ。これが学生にとって非常に大きな経験となるのは,想像に難くない。
実際,Dareを紹介するムービーでは,Eidosの終身会長であるIan Living
Dareの紹介ムービー。日本でもゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの作者として名高いIan Livingstone氏(右)も,コメントを寄せている |
参加する学生チームは,「異なる専門性を持った5人」と定義されており,プログラマー/デザイナー/アーティストといったメンバーが,同じテーブルを囲んでプロダクトを進行させることによるメリットも強調された。小規模のゲーム制作が世界的に広がっている現状や,日本の同人ゲーム制作環境を考えると,少人数チームがそこまで特殊ではないかもしれないが,これが特徴としてピックアップされること自体が興味深いトピックと言えるだろう。
ちなみにDareでは,ただゲームを作るだけでなく,パッケージデザインや広告デザインといったマーケティング分野の作業も含まれており,パンフレットには参加チームが作った広告が掲載されていた。
学生側にとっての意義やメリットは分かったが,これを支援する大学や企業には,どんなメリットがあるのだろうか。
まず大学にとっては,学生の国際的な体験を推進できるだけでなく,大学そのものがグローバルな人脈の形成のチャンスとなりうるという。
また,世界的なゲームプラットフォームとの連携や,地元のゲーム産業との連携も深められるし,なにより「参加した学生チームがコンペに勝てば,大学の認知度や名声が高まる」という,若干の生臭さもあるが,重要なメリットがあるわけだ。
企業にとってのメリットはさらに直接的で,新たな人材獲得はもちろん,新しく革新的なアイデアを得るチャンスでもある。Dareで作成されたゲームはプロトタイプだが,ここに対して協賛企業が資金援助を行い,正式な商品としてリリースするというケースもあるという。
また,White氏は「極めて大型化したゲーム産業においては,その規模の大きさゆえに,才能が埋もれてしまうことも多い」と述べ,Dareは「才能の原石たる若き人材を,発掘する場としても有用である」とした。加えて,国際的な規模における産学連携の機会となるというのも,いよいよ高度化するゲーム開発事業においては重要な意義を持つだろう。
まずは参加,話はそれから
Dareは非常に大きなイベントであり,世界的にはその知名度も高い。
学生にとっては,ほかでは得られない経験を獲得するチャンスであると同時に,ゲーム業界に就職する「ジャンプ台」でもある。たとえば,協賛するSony Computer Entertainment EuropeのMaria Stukoff氏はSkypeを通じてメッセージを寄せたが,Dareで勝利したチームメンバーが,全員ゲーム業界へと進んでいると述べている。
また,BAFTAを獲得する学生を輩出することは,言うまでもなく大学にとって大きな名誉となるし,企業は常にフレッシュな才能に飢えている。
ただし,これは今回のセミナーに参加した大学関係者も語っていたことだが「誰にとってもメリットが大きいのは理解しているし,ぜひ学生を送り込みたいと思ってはいるのだが,やはり単位が大きな問題になる。Dareを契機として就職も決めても,単位不足で卒業できないというのではマズい」という。この点に関しては,大学側のより深い協力が必要となるだろう。
また個人的には,「日本代表チーム」という話になると,「なんの権威があって日本代表を名乗るのか」とか「日本代表として参加したのに勝てないとは何事だ」とか「俺たちのほうがもっとうまくやれる(うまくやれた)」といった,お決まりの(あるいは必然的な)ゴタゴタが生じるのではないかという点も,気にかかるところだ。
これについて筆者は,Dareがコンペである以上,参加したい者はどんどん手を挙げるべき,ということに尽きるように思う。また,Dareがコンペであるといっても,勝敗がそのすべてではない。「コンペに敗北するのは,コンペに参加した人間だけ」なのであって,とにかくまずは日本からの参加チームが出ることが,最重要なのではないだろうか。
そしてこのことは,必ずしもDareというイベントだけに限られるものでもない。そもそもゲーム大国である日本にこそ,Dareのような若者を対象とした,長期に渡る濃厚なゲーム開発イベントが,あってもいいように思う。
ゲームがネットを介してダウンロードで購入できる現在,買う側にとってみれば,「そのゲームがどこの国で作られたか」は,些細な問題となった。大事なのは「それが面白いゲームであるかどうか」である。優れたゲームを作る人材を産むチャンスであるDareと,それに対する挑戦は,ゲーマーとしても大いに期待していきたいところだ。
Dare to be Digital 公式Webサイト(英語)
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