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ワンコインのゲームがこんなにすごい! 「500円ゲームズ」から見えてくる,アナログゲーム界におけるスモールパブリッシャの可能性
ここに出展する小規模団体の多くはボードゲームファンの集まりに過ぎず,制作物はいわゆる同人ゲームと呼ばれるものだが,なかにはボードゲーム流通を助ける企業と組んで専門店へ卸したり,通販などによって広く認知されるものもあり,クオリティや活動規模・注目度といった部分で,アナログゲームの世界でも,もはや無視できない存在となっている。
今回の記事では,2013年11月に開催される「ゲームマーケット2013秋」の予習も兼ね,2013年4月に開催された前回のゲームマーケット「ゲームマーケット2013春」で入手したゲームを紹介しながら,これらスモールパブリッシャの可能性について考えていこう。
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アナログゲーム界のスモールパブリッシャ「500円ゲームズ」
これには,当時のゲームマーケットがまさに規模を拡大し始めた頃だったという背景がある。制作者達の間で印刷技術やノウハウが蓄積され,立派なボックス入りの同人ゲームが制作可能となった一方で,同人ゲームでも1000円を越えるものが増えてしまった。それに対する問題提起として持ち上がったのが,500円ゲームズだったのだ。
その当時,アナログ同人ゲームサークルの御用達となっていた印刷会社・萬印堂では,1シートあたり16枚のカードが印刷できるプランにサービス料金を設定しており,これを利用して,16枚のカードだけで遊べるように作られたのが,4Gamerでも何度か紹介したことのある,カナイ製作所の「Love Letter」である。「Love Letter」はその後,その優れたゲームデザインで人気を博し,デッキ構築型カードゲーム「サンダーストーン」などを手がけるアメリカのアナログゲームパブリッシャ・AEGから,海外版が発売されるに至っている。
東京と大阪で,すでに2回が開催されている2013年のゲームマーケットでも,この「500円ゲームズ」企画は行われ,最終的な参加サークル/デザイナーは23サークル,出展ゲーム数は36に及んだ。その中には,話題性のある作品がいくつも含まれている。
以下,500円ゲームズによって生まれたタイトルを中心に,スモールパブリッシャによる注目タイトルを紹介していこう。
なお今回紹介するものの多くは,基本的には同人ゲームであるため,それぞれ生産数は少なく,再生産の可能性も低い。そのためゲームマーケットなどのイベントに行くか,あるいは販売委託が行われている専門店などでなければ入手は難しいだろう。興味を引かれたタイトルを見つけたら,2013年11月4日に開催される次回ゲームマーケット,「ゲームマーケット2013秋」に足を運んでいただければ幸いだ。
※500円という価格は,ゲームマーケットでの頒価なので,店頭や通販ではその限りではない。
■Sail to India
Okazu Brandは「ゲームマーケット2013春」において,「500円ゲームズ」に賛同する作品を2タイトル出展していた。
その1つである「Sail to India」は,大航海時代を舞台にした海洋開拓もので,12の寄港地をめぐりながら,資金稼ぎや技術開発,拠点建設などを進めていくというゲームだ。誰かがインドへ到着するとゲームが終わるので,先行つっきり型の冒険野郎から,地道に資金を集めて航路を制圧する東インド会社,布教優先の建設侵略者まで,いくつかの戦術が取れるのが魅力といえる。勝利点や資金,船や拠点までを,1種類13個のコマで管理するので,その割り振りに頭を悩ませる。入門用のワーカープレイスメントゲーム(自分のコマ=ワーカーを配置していくことで行動を選ぶシステム)として,なかなか面白いタイトルといえる。
寄港地などのカードが非常に綺麗なのだが,コマなどが小さめで扱いにくいのが難点といえば難点か。なお本作は,ボードゲーム専門店のgamefieldにて,内容物を大幅にブラッシュアップしたパッケージ版も発売されている(価格:税込3000円)。快適に遊びたい人は,こちらの購入を検討してみよう。
※初出時,パッケージ版は未発売という主旨の記述がありましたが,上記のとおり発売済みでした。訂正してお詫び申し上げます。
■パトロナイズ
Okazu BrandがSail to Indiaと同時に発表したトリックテイキング系カードゲーム(親が決定したルールの元で最も強いカードを出したプレイヤーが勝者となり,以後このサイクルを繰り返すゲーム。トランプの大富豪など)「パトロナイズ」。ルネッサンス期のイタリア,トスカーナ地方を舞台に,さまざまな職種の人材と資源を集め,名声を高めていくというのがゲームの主旨となっている。
まず,人材カードによるトリックテイキング(数字による勝負)の後,勝負の結果,もしくはパスすることによって,資源や名声を獲得していく。トリックテイキングでありながら,パスによって有利になる場合があるのが面白い。駆け引きを理解するためにルールの習熟が必要だが,1回のゲームは15〜20分と短めで,やりがいのあるタイトルだ。なお,こちらもgamefieldからパッケージ版(価格:税込2500円)が発売されている。
■ダンジョン・オブ・マンダム
I was gamesの「ダンジョン・オブ・マンダム」は,モンスターの巣くうダンジョンに,どれだけ軽装で挑めるかを競い合う,男気あふれるカードゲームだ。ファミコンを彷彿とさせるドット絵だが,実際にプレイしてみると,ブラフと読みが絶妙に組み合わされたスピード感のある“競り”が楽しめる。
事前の告知もほとんどなく,ゲームマーケット2013春でゲリラ的に発売されたタイトルであるため,偶然に出くわした人しか入手できなかった,ある意味貴重なゲームだったが,その後オインクゲームズでのリメイクが決定。11月の「ゲームマーケット2013秋」に出展される予定とのことだ。
■ドンブリコ!
童謡「どんぐりころころ」を題材にした,サークル・有限浪漫のカードゲーム。
場に並べられたカードの後ろに,その列の合計値が6を超えないようにカードを出していき,ギリギリと感じたところで回収して得点を稼いでいく。カードは伏せて出せるうえ,マイナスや1と5の兼用カードなどもある。ほかのプレイヤーが裏向きに出したカードの内容を推測しながらプレイするのが楽しい。合計がちょうど6の列が取られてしまうと,「どんぶりこ!」となり,ラウンドが突然終了してしまうので,スリリングである。
■ぐるぐるパンツァー
紐を引っ張ると走る戦車のおもちゃに回転する円盤パーツがついており,これが攻撃力と防御力を示している。テーブル上で紐を引っ張って走らせながら拠点を確保し,相手の戦車と交戦して三度ダメージを受けたら負けとなる。戦車好きには,ちょっと嬉しい一品だ。
ゲームマーケットの可能性
コスト削減のため,ボードがないものがほとんどで,カードも16枚からどんなに多くても30枚。安価なトークンと自宅のプリンターで印刷したルールシートを制作者自ら手詰めするため,販売数は100もあれば多いほう。当然,儲けはほとんどないし,荒削りなできのものも少なくないが,それだけに制作者の熱意と挑戦の心意気があふれている。
こうした企画のかたわらで,ゲームマーケットに出展するスモールパブリッシャの中には,値段のつけられないような一点物のゲームを参考出展したり,自分の理想のゲームを求めて凝りに凝ったコンポーネントを追求したりする制作者もいる。ゲームマーケットという場の混沌を象徴する風景だが,こういった小さなゲームを通してこそ,見える未来もあるのではないだろうか。
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