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[CEDEC 2015]「誰でも神プレイできるジャンプアクションゲーム」を通じて得られた「上達するための経験」とは
インタラクティブセッションには,講演に負けず劣らず興味深い展示が多数並んでいるのだが,本稿ではCEDEC 2015に出展されていた「誰でも神プレイできるジャンプアクションゲーム」に注目したい。これは,昨年のCEDECで展示された「誰でも神プレイできるシューティングゲーム」のシリーズ展開となっており,いかにしてプレイヤーにゲームを投げ出させず,プレイヤーのスキル向上を達成できるか(それでいてデザイナーは細かなパラメータ調整に右往左往せずに済ませられるか)が目標として掲げられている。出展者は,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の簗瀬洋平氏である。
「人間,3回やれば上達する」――の,ですかね?
まずは実際のゲームから見てみよう。
ゲームの内容はタイトルどおり,ジャンプアクションゲームである。プレイヤーキャラクターは画面右端から流れてくる緑色の餌的なものを,ジャンプしてゲットするのが目標だ。
ちょっと変わっているのは,ジャンプの仕様である。いわゆる「溜めジャンプ」となっており,キーを押すと溜めモーションに,離すと溜めの長さに応じた高さのジャンプをするという具合だ。近作では,「スプラトゥーン」に収録されているミニゲーム「イカジャンプ」を想像すると分かりやすいだろう。
実際にプレイアブルデモを試してみると,これがなかなか難しい。溜めジャンプはそもそも難しいものではあるが,狙った高さに,狙ったタイミングで到達するというのは,想像していたよりずっと難しい。
さらに,ステージデザインが難しさを助長している。ステージに出現する緑の餌(計10個)の位置はランダムだが,高さは10段階あり,すべて別々の高さに出現するようになっている。そのため,プレイ中に「前回のジャンプの経験」を活かしにくくなっているのだ。
このデモはオンラインでも一時期公開され,複数の被験者がプレイしており,初プレイにおける餌の獲得数はおおむね4つ前後だったという。達成率にして40%ということになる。
この難しいゲームだが,2度めにプレイした人は,ほとんどの場合において成績が上向く。
やはり人間,慣れるもの――という話ではない。
タネを明かすと,2度めのプレイにおいては,ジャンプに補正が入るようになっているのだ。要はジャンプするタイミングで,自機の位置と餌の位置を見て,ジャンプの高さが足りないようなら少し高めに飛ぶように補正し,高く飛びすぎるようなら少し低めに補正する。そんな補正機能が,ゲーム内部に組み込まれているのである。
これが3度めのプレイとなると,多くの人が満点である10点を取るようになる。理由は簡単で,2度めのプレイにおけるジャンプ補正率は30%(上下30%のズレなら補正してくれる)だったのに対し,3度めは補正率100%だから。ジャンプするタイミングさえ合っていれば,溜め時間に関係なく最適な高さにジャンプするのである。
さすがに補正率が100%ともなると,プレイヤーも露骨に「これは何かおかしい」と感じるが,30%の段階ではほとんどのプレイヤーは違和感を覚えないという。それでいて,30%も補正が入ると,補正なしの状態に比べて「上達した」感覚があり,実際にスコアも上向く。
現状では,ジャンプのタイミングが遅すぎると100%の補正をかけても追いつけないケースが発生しうる。具体的には,餌の真下でジャンプした場合,その場で垂直に飛び上がるという,もはや補正を越えた「自動追尾」をしない限り,餌を取れなくなる。つまり,ジャンプタイミングが遅い人は,あまり点数が伸びず,「うまくなった」感覚も得にくい。これは,ハッキリと分かる弱点といえるかもしれない。
また,今回のデモは補正の効果をはっきりと見せるため,極めて要素を絞り込んでいる。そのため,自分でプレイしていても,端から見ていても,「これは神プレイだ!」という感覚は低かった。
スキルアップに必要な「経験」とは
さて,この「誰でも神プレイできるジャンプアクションゲーム」だが,個人的に最も面白かったのは,被験者にさまざまなバージョンをプレイしてもらっていて,それぞれのスコア統計が取られていたことだ。
なお,バージョンの違いは,以下のとおり。
A:1回め 補正0%→2回め 補正0%→3回め 補正0%
B:1回め 補正0%→2回め 補正30%→3回め 補正0%
C:1回め 補正0%→2回め 補正30%→3回め 補正100%
統計の結果,Aの3回めのプレイにおける平均スコアと,Bの3回めのプレイにおける平均スコアに有意な差が見られなかった。
これは,非常に興味深い現象と言える。
理論的には,Bのバージョンは2回めに「補正30%」というゲタを履かされた状態でプレイしている。よって,そこで得られる経験は,あえて大げさに言えば,偽物(作られた経験)であり,そこから得られた教訓は本人のスキル向上にそれほど助けとならないはずである。
ところが実際には,一度も補正をしていないAのバージョン(=最もシビアに現実と向き合うバージョン)とBとの間で,プレイヤーのスキル向上には有意な差が発生していない。ということは,「このゲームにおいては,30%くらい騙されていても,プレイヤースキルは向上する」という結論が導き出せる。来場者の一人の言葉を借りれば「つまり,補正しない理由がないってことですよね?」ということだ。
この結果について簗瀬氏は,予想と完全に反する結果であった(氏自身,Bにおける3回めの平均スコアは,Aにおけるそれより大きく下回ると予想していた)ことを告白した。
そのうえで,Bのプレイヤー達が,Aのプレイヤー達よりも,若干ながら元々の腕前が良かったという点を指摘(1回めのスコアはBのほうが上だった)。もっと多くのサンプルから統計を取れば,「3回めの平均スコアは,BのほうがAよりも気持ち落ちるのではないか」と予想したが,それでも「気持ち下」であり,当初の(あるいは常識的な)予想である「大きく下」にはならないだろうとも語っていた。
ちなみに,簗瀬氏は来年のCEDECでも「誰でも神プレイできる〜」シリーズを発表したいとのこと。本件に興味があり,かつゲーム制作の腕にも自信アリという人は,「誰でも神プレイできる」シリーズに参加してみてはいかがだろうか。
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