インタビュー
[TGS 2017]日本オフィスを立ち上げたTwitchのこれからについて,2人のキーパーソンに話を聞いた
果たして,日本オフィスの設立によってTwitchはどのように変化するのだろうか? またモバイル,PCともに競合するサービスが多い中,Twitchはこれからどのようなビジネスを展開していくのか?
というわけで,会場で行われた合同インタビューの模様を簡単にお届けしたい。質問に答えてくれたのは,Senior Vice-President of ContentのMichael Aragon氏と,APAC DirectorのRaiford Cockfield III氏だ。
Twitch公式サイト
モバイルの配信は,もはやグローバルな課題
――Twitchは2017年,正式に日本オフィスを開設したわけですが,その目的はなんでしょうか。
Raiford Cockfield III氏(以下,Raiford氏):
簡単に言って,「(Twitchで働く)人を増やす」ことが目的です。2015年から2016年にかけて,我々は日本市場を学び,人員を増やしてきました。その流れで,2017年はより人を増やす。それがオフィスを開設した狙いです。
日本でもTwitchは成長を続けており,視聴時間は倍々で伸びています。また,我々が重視する指標としてストリーマーと視聴者との間で交わされるチャット量があるのですが,これも2倍以上の伸びを示しています。
――動画配信サービスは,すでに競争が厳しいマーケットとなっています。Twitchが日本でサービスを定着させるためには,何が必要だとお考えですか。
我々はこれまで,クリエイターのコミュニティに集中してきました。そして,クリエイターとファンが交流を深め,互いに影響を与え合えるような環境を作るため,さまざまな施策を行ってきました。 2週間ほど前にも,サードパーティのツールで,ストリーマーが放送する画面の下にペットが飼えるというものを公開しました。これ以外に,投票機能はもちろん,Spotifyのリストを公開して,そこからストリーマーの曲を購入できる機能など,視聴者とストリーマーをつなげるための努力を続けています。
実際のところ,我々は「競合がこういうことをしているから,これをしなくては」といった視点では考えていません。我々のユーザーが何をほしがっているかというのが最も重要なのです。ユーザーのフィードバックを重視し,「これをすべきだ」という方針もユーザーからの意見を聞いて考えています。そしてユーザーとクリエイターとの交流が促進されればされるほど,コミュニティは成長し,そこから我々の得られるフィードバックも増えていくのです。
Raiford氏:
「エコシステム」というのが,我々の大きなキーワードです。簡単に言えば,「Twitchを使っている人がうまくやれていれば,めぐりめぐってTwitchの実績として戻ってくる」というわけです。
――世界と比べて,日本のマーケットは「ここが違う」というのを感じることがありましたら,教えてください。
Aragon氏:
日本ではとくにクリエイティブコンテンツ(何かを作っているところを実況するもの)や,音楽,アートなどのジャンルが人気ですし,コンテンツとして占める割合も高めです。つまり,「ゲーム以外の放送も人気が高い」ということであり,見方を変えれば,「コンテンツが多様である」ということになります。つまり日本では,この多様性に対応できるサービスである必要があるということです。
アジア全域で言えることなのですが,1人のクリエイターやインフルエンサーが多彩なコンテンツを提供するという傾向が強くあります。つまり,あるストリーマーはゲームの実況をするけど,それ以外のこと――音楽だったりアートだったり――もするんです。これがアメリカですと,ゲームの実況をする人はゲームの実況だけをする,といった傾向が強くなります。
そのうえで,繰り返しになりますが「いま,Twitchのユーザーは何を求めているのか」というのが,一番大事なことであり,Twitchの開発を進めていくにあたってはそれが基本になります。ですから我々は,ユーザーがより活動しやすくなるような,そんな施策が打てる人間を採用したいと思っています。具体的に言えば,各分野のスペシャリストがユーザーの声に対応できるような体制を作っているということです。
Twitchが今後,日本で成功していけば,表に出てくるのはクリエイターであったり,あるいはクリエイターをサポートするスペシャリストであったりするでしょう。僕の顔がメディアに出ることが減れば減るほど,Twitchは日本でも成功していると考えてください(笑)。
――日本ではコンテンツの多様性が重要というお話ですが,ゲームの立ち位置はどのようなものになっていくでしょうか。
Aragon氏:
Twitchにとってゲームが中心かつ焦点であるというのは,これまでもそうでしたし,これからも変わりません。ただゲーマーはゲームだけを楽しんでいるわけではありません。アニメや映画など,ゲーム以外のコンテンツも提供していきたいと考えています。
――日本で流行っているゲームは,ほかの地域とは異なる傾向が見られます。具体的に言えば,日本ではモバイルがゲームの中心になっていますが,これに対してTwitchでは何か対策をお考えでしょうか。
Raiford氏:
モバイル対応という点については,「モバイルが強い」のはなにも日本に限った話ではなく,世界的な傾向です。実際,グローバルでもモバイル=PCくらいの市場規模でしょう。
ですから,モバイル対応はグローバルで取り組まなくてはならない課題なんです。
実際,数か月前にTwitchではスマートフォンからの発信を可能としていますし,また視聴アプリのユーザーインタフェースも継続的に改善しています。いずれにしても,モバイルを大事にするという姿勢はもう日本だけを見た施策ではありません。
Twitchがアニメに出資する未来は来るのか?
――Amazonとの連携はどのような状況でしょうか。
Raiford氏:
Twitch Primeについては,近日中にローンチすることをお約束します。
Amazonとの連携については,日本の場合,日本のAmazonと個別に対応しなくてはならなかったという事情があります。日本Amazonとの間の技術的連携が想像より難航したため,サービスの提供が遅れてしまったことは,深くお詫びします。
この問題についても,日本のスタッフを増やすのは効果的な対策になると考えています。日本Amazonとの連携もスムーズになりますので。
グローバルな視点で言うなら,AmazonとTwtichは非常に強く連携しています。ゲームについては,AmazonはAmazon Game Studioという開発スタジオを持っていますし,Lumberyardというゲームエンジンも保有しています。さらにAmazon Web Servicesは多くのゲーム運営会社が利用しています。
Twitchでは,ストリーマーが提供する商品,例えば,自分の名前が入ったマウスなどをAmazonで販売するというチャンスが生まれています。
いずれにしても,Amazonとは「一緒に何ができるだろうか?」という話し合いを常に行っています。
――日本のローカルなコンテンツを,グローバルに認知してもらうためのサポートなどは,あり得るでしょうか。
Raiford氏:
最大の障壁は,言語でしょうね。ただ,音楽やe-Sportsの大会などは言語に関わらず楽しさが伝わるものだと考えていますので,言語の壁を超えてコンテンツがヒットすることも十分にあり得るでしょう。
また,日本発祥の文化が世界に受け入れられるケースは,すでにTwitchでも見られます。その代表例が,EmojiやTwitch Stampでしょうね。日本市場に向けて作った8つのスタンプが,海外でも大きくヒットして,「うちの国でもサービスしてくれ」という強い要望をもらったこともあります。
Twitchは,グローバルなサービスであり,日本でうまくいったものは,おそらく世界でもうまくいきます。そうしたコンテンツを発掘して,広げていきたいですね。
――いまe-Sportsの話が出ましたが,日本のe-Sportsの現状についてどう思われますか。
Raiford氏:
基本的に,良い方向に進んでいると理解しています。日本での展開にはさまざまな法律の規制がありますが,それらも変わろうとしていると聞いており,e-Sportsが良い方向に向かっていると言えるでしょう。
ただTwitchとe-Sportsは,「Twitchがe-Sportsの可能性を広げる」という関係にあり,我々が無理に市場を拡大するのではなく,あくまで市場をサポートしていくのが基本方針になります。
具体的には今後,世界のe-Sports市場に提供しているものを,日本でも提供するということになります。実際,いくつものサポートがすでに行われていますし,今後も継続していく予定です。
――Twitchはクリエイターをサポートしていくというお話でしたが,究極のクリエイターサポートとして,例えばアニメの制作に出資するといった形もあるかと思います。そのようなビジネスはすでにNetflixが行っていますが,Twitchにもそうした可能性はあるでしょうか。
アニメ市場の構造は複雑ですし,そうした出資に我々が手を広げるかどうかは分かりません。
ですが,コンテンツのライセンスを獲得し,プレミアムコンテンツとして提供するサービスはすでに行っていますし,このサービスがTwitchに新しい視聴者をもたらしてくれることも把握しています。Twitchで動画を見る人が増えれば,Twitchのファンも増えるでしょうから,プレミアムコンテンツの提供はこれからも行っていきたいと考えています。
まとめれば,「Twitchがアニメなどに出資する可能性はある。だが実際にそれが始まるのは,数歩先の未来」になるでしょうか。
――日本ではShowRoomという動画配信サービスが,高い利益を出しています。このサービスは,ざっくり言ってTwitchが行っている「Bitsによるストリーマーへの投げ銭」に近いものなのですが,TwitchからはShowRoomほど活発な印象を受けません。これは,ユーザー層が違うからなのでしょうか。
Twitchにも,Bits,Subscribe,Donateなど,ストリーマーに寄付をするさまざまなシステムがあります。Twitchは寄付の一部を運営費としてもらい,マネタイズの一部にしています。それを踏まえて言えば,ユーザー層の違いはそれほど大きくないと考えています。実際,日本でもBitsの動きはかなり活発なのです。
ただ,Bitsを始めとした「投げ銭」システムを導入するかどうかはストリーマーの判断に任されています。ストリーマーが「僕はそうしたくない」と思えば導入しなくてよい,という姿勢なんです。
もちろん,Bitsに代表される寄付を可視化するようなシステムを実装すれば,状況は変わるかもしれません。ですがそういう機能を,我々のユーザーは求めていないと考えていますので,実装する予定もありません。
ただ,繰り返しになりますが,Bitsの流通自体は増大しています。そして我々としては,それに満足しています。
――本日はどうもありがとうございました。
「ストリーマー・ファースト」を貫くTwitch
インタビューのあと,通訳を務めてくれたTwitchのAyuha氏が語った情報によると,「Bitsの動きは,コンテンツによってかなり差がある」という。具体的に言うと,「PLAYER'S UNKNOWN BATTLEGROUND」の実況では,非常に大きなBitsの動きが確認されているそうで,なるほど,確かにひいきの実況者がドン勝ちしたら,Bitsを送りたくもなると思った。
そういう状況があり,またRaiford氏が語るように,Bitsの動きを可視化すれば,もっと熱狂的な状況を作れるのは間違いないだろう。そんな予測があるにも関わらず,「ユーザーがそれを望んでいないので実装はしない」とする言葉からは,Twitchの示す「ストリーマー・ファースト」の姿勢が強く感じられた。
動画配信サイトの競争はいよいよ激化しているが,Twitchが今後日本でどのような展開をしていくのか,さらなる注目が必要だろう。
4Gamer「東京ゲームショウ2017」特設サイト
- この記事のURL: