インタビュー
日本と欧米,双方で受け入れられるキャラクターを目指して――老舗デベロッパXPECとXACが挑戦する台湾発のアートスタイルとは
そんな中,毎年定番とも言えるのが台湾ブースだ。全体的に日本のゲームの影響が強く見られるなか,それでいてさまざまな独自色を持つ作品が並ぶのが台湾ブースのこれまでだったが,今年は際立って目立つブースがあった。台湾のデベロッパ,XPEC Entertainmetとそのグループ企業であるXPEC Art Center(以下,XAC)の出展である。
とくに目を引くのは,下の画像のキャラクターだろう。完全に写実寄りというわけではなく,かといってアニメ寄りでもない,近年ネット上でも目にすることが増えてきたこのスタイルのアートは,どこから生まれてきたのだろう? XACのスタッフに,彼らのこれまでの仕事と,同社のキービジュアルとして用意されたこのキャラクターの発祥を聞いてみた。
XPEC Art Center公式サイト
このキャラクターはXACの「実力」だ――Manager,Business DevelopmentのMucia Chang氏に聞く
4Gamer:
最初に,XACの成り立ちについて教えてください。
Mucia Chang氏(以下,Chang氏):
XACはXPEC Entertainmentのグループ企業です。XPEC Entertainmentはゲーム開発を行うデベロッパで,XPEC Art Centerはアート専門の会社となっています。XACは今年で12年目を迎え,これまで世界中のデベロッパからアートの制作のみならず,コンセプトアートの作成,各種ゲームデザイン,あるいはレベルデザインまで含めた業務を引き受けてきました。
4Gamer:
これまで請けた仕事には,どのようなものがあるのでしょうか。
Chang氏:
最近の日本から仕事ですと,やはり「FINAL FANTASY XV」(PC / PS4 / Xbox One,以下,FF15)でしょうか。キャラクターやモンスターの制作に関わったほか,2Dコンセプトアート,背景などに関わりました。それから,料理のモデルもXACの仕事ですね。スクウェア・エニックスとの共同開発という形で仕事を請負い,プランニングにも関与しました。
そのほかコンシューマゲームの大型案件では,カプコンの「バイオハザード7 レジデント イービル」(PC / PS4 / Xbox One,以下,バイオ7)やフロム・ソフトウェアの「DARK SOULS III」(PC / PS4 / Xbox One)があります。バイオ7ではグラフィックスのみならず,ステージ制作も手がけました。
4Gamer:
ずいぶんと幅広く手がけていらっしゃいますね。そうした制作は台湾で行っているのですか。
Chang氏:
場合によります。FF15のケースでは,制作にあたってはスクウェア・エニックスさんのスタッフが台湾に来て,1年半くらい弊社スタッフと一緒に仕事をしていました。ゲーム制作においてはコミュニケーションが大事になりますので,やはり一緒に仕事をしたほうが交流が早くて良いですね。
4Gamer:
日本以外のメーカーとのお仕事もある?
Chang氏:
欧米圏との仕事で大きかったもので言えば,最近だと「Horizon Zero Dawn」ですね。こちらの仕事では,3Dキャラクターの制作に4人のスタッフを送り込みました。また,大型機械獣も作っています。プレイされた方なら必ず見たであろうキリンの機械獣も,弊社が手がけたものです。これらの機械獣は非常に複雑なもので,普通は1体あたり制作に1年ほどかかるのですが,弊社では5〜6人のスタッフによるチームワークによって,2〜3か月程度で完成させています。
4Gamer:
コンシューマ以外はいかがですか。スマホ向けであるとか。
モバイルなら,Cygamesさんにカードイラストや各種エフェクトを納品しています。
特殊な事例では,「三國無双」のモバイル版である「真・三國無双 斬」(iOS / Android)はXACが手がけたタイトルです。このタイトルはコーエーテクモゲームスさんからIPをお借りする形で作りましたが,実はモデリングデータなどはお預かりしていません。登場するキャラクターのモデルは,すべて弊社のスタッフが自力で制作し,忠実に再現しました。同時にステージも,社内でゼロから制作しました。この作品は全世界で800万ダウンロードを達成するヒットとなり,コーエーテクモゲームスさんからも高い評価をいただいています。
4Gamer:
ああ,それはすごいですね。
Chang氏:
このほかにも,ソニー・インタラクティブエンタテインメントやバンダイナムコスタジオ,グリー,ディンプスといった日本の各企業,あるいは多くの欧米メーカーから多数の発注があります。そして我々には,こうした多彩な発注に対して,どんなテイストのアートであっても対応できる自負があります。
4Gamer:
実際に発注を請けて仕事をするにあたり,地域ごとのアートスタイルの違いというのは,どの程度意識されているのでしょうか。
Chang氏:
もちろん,地域ごとのテイストの描き分けは行っています。ただ,地域ごとの差も大事ですが,我々としては各メーカーさんやデベロッパさんがこれまで積み上げてきた,IPごとのテイストが重要だと感じています。これは何も,弊社に限ったことではないと思いますが……。
4Gamer:
それは確かにそうですね。
Chang氏:
例えばNianticが開発を担当した「Pokémon GO」(iOS / Android)の場合,キャラクターのデザインはアメリカで行われていますが,誰が見ても「これはあのポケモンだ」「このキャラクターはポケモンに出てきそう」と,納得できるデザインになっていますよね。決してテイストにブレはありません。それに欧米圏でも,日本のアニメのテイストが与えている影響というのは無視できません。アメリカでもヨーロッパでも,日本のマンガやアニメが好きな人は,本当に好きですから(笑)。
ただ,そのうえで日本の特徴を挙げるとするなら,日本のゲームには,とくに多様なアートスタイルが求められるということでしょうか。
4Gamer:
このXACブースに描かれているキャラターについてお聞きしたいのですが,これは日本で一般的なアートスタイルとは異なるように感じます。一方で,欧米で一般的なアートスタイルとも異なっている。このキャラクターは,いったいどんなコンセプトで描かれたものなのでしょうか。
Chang氏:
お話ししたように,XACは世界中のさまざまなメーカーからの発注を受け,その要望に応えてきました。その経験の積み重ねのなかで模索しているのが,「日本にも欧米にも受け入れられやすいアートスタイル」なのです。日本と欧米のどちらの市場にも受け入れられ,かつ自分達らしいアートスタイル。それを目指す試みの一つの結実が,今回起用したキャラクターということになります。
ですので,このキャラクターは今の我々にできる最大の表現――言わば「XACの実力」とお考えいただくのが良いと思います(笑)。
4Gamer:
なるほど。本日はありがとうございました。
台湾は第二のポーランドとなるか?
キャラクターの魅力を最も直感的に表現するグラフィックスは,今なおゲームにおいて重要な要素であり続けている。むしろ「キャラクターを売っている」状況と言っていい,今のモバイルゲーム市場においては,より顕著だろう。
と同時に,こうしたイラストが持つアートスタイルの差は,「和ゲー」と「洋ゲー」を分ける,分かりやすい境界線でもあった。曰く「日本のキャラクター造形では,欧米市場で売れない」,反対に「欧米のキャラクターは日本市場でウケない」など,市場ギャップを語るときにはかかせない話題の一つであった。
一方,欧米市場でヒットするゲームが,ここにきて急激に「アジアのアートのテイスト」を取り入れているのも事実だ。実際,「Overwatch」(PC / PS4 / Xbox One)のキャラクター造形に対して日本国内デベロッパが危機感を抱いているという話も,ちらほらと耳にする。
このような状況にあって,単独でゲームを開発する能力を持ちながら,日本と欧米のAAAタイトル開発を通じて蓄積されたノウハウでもって,その「中庸」を狙い撃ちしてくるデベロッパが台湾に存在するというのは,極めて面白い状況ではないだろうか。
かつて筆者が台北ゲームショウを取材したとき,「台湾は国内市場が小さいがゆえに,最初から日本市場を期待したゲーム制作をする傾向がある」という,ある種の嘆きを現地の開発者から耳にしたことがある。だが,この「国内市場の小ささ」という問題は,今や世界有数のゲーム開発大国となったポーランドが抱えていた問題でもある。ポーランドの場合,「初手から世界市場を狙う」という選択をして成功を収めたわけだが……では,果たして台湾の場合はどうだろうか。
東京ゲームショウのブースに描かれた1枚の絵の向こうに何が生まれるのか。台湾のゲーム開発は,これからどこに向かっていくのか,大いに期待したい。
XPEC Art Center公式サイト
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