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【PR】男色ディーノ選手がデバッグ業務に挑戦。適性テストの結果はいかに? デジタルハーツの“エキスパートデバッガー”に突撃取材も
どうも! ゲイレスラー 男色ディーノです! 4Gamerでは毎週木曜更新の「男色ディーノのゲイムヒヒョー」を連載しているゲイムライターでもあります。どうぞお見知りおきを。
突然ですが,皆さんはデバッグについてどんなイメージを持ってる? ただひたすらゲイムをプレイしてバグ(不具合)を探し続ける……。そんな印象を持ってると思うの。私がそうだから。
でも! 聞くところによると,デバッグをさらに極めた者に与えられる称号「エキスパートデバッガー」というものがあるらしいのよ! 普通のデバッガーとの違いは? 果たして彼らが持つ能力とは? 本当にグランドラインにひとつなぎのお宝はあるのか?
……私ももう41歳だからね。プロレスラーは長く最前線にいられない職業じゃない? そもそもあんまり最前線にいたことないんだけど。とにかく,セカンドキャリアも考えたい。そんな中,耳にしたのがエキスパートデバッガーですよ。当然,興味も出てくるじゃない。
なので行ってきました,デジタルハーツ。デバッグ業界の最大手ね。そこにエキスパートデバッガーがいると聞いて,突撃してきたわ。果たして,私はセカンドキャリアを見つけられるのか!?
デジタルハーツ 公式サイト
デバッガー適性テストを受けてみた
男色ディーノ選手(以下,DD):
頼もう! 私の名は男色・D・ディーノ! ここにひとつなぎのお宝というか,エキスパートデバッガーがいると聞いてきたぞ!
テンションが高いですね。お宝はありませんが,私がデジタルハーツのエキスパートデバッガー,伊藤 純です。
DD:
エキスパートデバッガーに,俺はなるっ!
伊藤氏:
はい,それでは順番として,まずはデバッガーになりましょう。ディーノさんがデバッガーに向いているかどうか,さっそく適性テストを受けていただきます。
DD:
え……。まさか,この適性テストで実際に採用を決めているのかしら?
伊藤氏:
いえいえ,これはあくまで「デバッガーに向いているかどうか」を測るものです。では,さっそく始めてみましょう。
DD:
えーと,「わくわく柴犬散歩」というゲイム内に5つの不具合が存在するわけね。プレイしながら,それらを探し当てると。むむ,制限時間は8分? 5分でも10分でもなく,8分だと! これは不具合と見た!
伊藤氏:
違います。仕様です。そこは受け入れてください。
DD:
……要するにプレイしながら「間違ってる」と感じた部分をクリックすればいいのね。
伊藤氏:
適当にクリックして見つけられなくもないですが,それはNGということでお願いします。ちゃんと不具合を見つけて,「ここだ」と指摘してください。
これがタイトル画面か……。まさか,すでにここから始まってるとか?
伊藤氏:
……まずは画面をよく見ることが大事です。
DD:
お,図星? ハハハ! 私を誰だと思ってるんだい,男色さんだぞ?
何はともあれ,まずは説明を読みましょうかね。「障害物にぶつかると柴犬ちゃんの顔が変化します。4回ぶつかるとゲイムオーバーです」「骨付き肉を取るとパワーアップ」「フルーツを取ると得点が入ります」……ふむふむ。
伊藤氏:
「ヒント」もありますけど,使いますか?
DD:
いやいや,使わないわよ! ノーヒントで洗い出したほうがカッコいいじゃない! ……しかし,これ,ゲイムとして普通に夢中になってしまうわね。
デバッグでは「1回通してプレイする」ということも必要です。
DD:
あれれ,取れないアイテムがあるわよ……。
伊藤氏:
はい,それが1つ目の不具合ですね。
DD:
おお! なるほど,そういうことね!
DD:
むむむ……。
伊藤氏:
一度,タイトル画面に戻って「ヘルプ」を参照しましょうか。
DD:
ほう,やはりタイトル画面に何かあるのね? 最初からあやしいと思ってたんですよ。実は漢字が違うとか?
伊藤氏:
いや,ここには何もありません(笑)。
DD:
なんだと! 男心をもてあそびやがって! 偉そうにしちゃった,あの時間を返せ!
うーん,見つからない。こうなったら……ヒントを見てしまえ! 「終了画面の柴犬ちゃんが気になる」だと。
あ,そもそも「5個もない」っていう間違いではない?
伊藤氏:
それはないです(笑)。
DD:
分かった! ここの色が違う!
伊藤氏:
そうですね。やはりゲームの説明をちゃんと読んだほうがいいですよ。
DD:
もう一つのヒントは「肉を食べると,どうなる?」ですって。
肉,肉,肉! ああ,こういうときに限って肉が出ない〜!
DD:
ふう,なんとか全部見つけてやったわ……。エキスパートデバッガーの立場から見て,この適性テストの信頼度ってどれくらいなの?
伊藤氏:
ヒントを見ないで全問正解できれば,「この人はちゃんとものを見ている」ということが測れると思います。
DD:
ほほう。で,実際,私の適性はどうだった? ヒントはあっさり見たけれども。
伊藤氏:
十分,見込みがあると思いますよ。ちゃんとゲーム画面やテキストを見ようとする姿勢がありましたし。
DD:
え〜,やだな〜。褒めるなあ〜。今日これから私を抱こうとしてる?
デバッガーからエキスパートへ
DD:
ところで,私が試した適性テストの難度自体は高いの? 低いの?
伊藤氏:
こう言ってはなんですが,ライトもライトです。ヒントも表示されますし,クリアできないということは,ほぼないと思います(笑)。
ただ,適性テストでは不具合をクリックすると「正解」と表示されますが,実際のデバッグ業務ではそのようなことはなく,自分自身で「これは不具合だ」と認識できなくてはいけません。
DD:
実際のデバッグ作業では答えがないからこそ,「疑い」が重要になるのね。その「疑い」が「確信」に変わる瞬間ってあるの?
伊藤氏:
基本的には「仕様書」が用意されていますので,そのとおりにならなければ「不具合ではないか?」と疑い,報告することになります。また,自分の経験則から,仕様書どおりだったとしても「この作りだとプレイヤーは不便に感じると思います」と報告するケースもあります。
DD:
そういうのって報告するタイミングが難しくない?
伊藤氏:
開発が終盤に差し掛かってくると,「今さら,それを言うなよ……」という反応が返ってくることはあります。もしそうなっても,「ここは直してほしいんです」とお願いするしかないですが。
DD:
ああ,やっぱり。でも,そこはゲイムに対する感情移入や“愛”が生まれているからなんでしょうね。
デバッグはゲームへの愛がないとできない仕事です。「より良いゲームにしよう」「ユーザーのところに届くときには,いいゲームにするぞ」という熱意がないと,積極的にそうした意見を出したり,絶対に不具合を探してやろうと思ったりできないですよね。
DD:
とはいえ,デバッガーの中には愛がある人,そこまでじゃない人がいるわよね。そのあたりの見極めというか,ふるいに掛ける必要に迫られることはない?
伊藤氏:
マネジメントリーダーがデバッガーの適性を見極めて,それぞれに合ったポジションに配置しています。そのため,必ずしも希望する案件に入れるわけではないです。
DD:
ということは,一人ひとりのデバッガーの適性,つまり,強みや弱みがあると?
伊藤氏:
もちろん,あります。不具合の種類もさまざまで,「テキスト関係の不具合を多く指摘している」という人は,それに合った案件に配置するといった具合ですね。
DD:
私,高校も大学も文系なんだけど,勝手にデバッガーって理数系が有利かな〜思い込んでたのよ。でも,必ずしもそんなことはないのね。
伊藤氏:
ええ,ゲームにはいろいろな要素が入っていますから,いろいろな角度で見ることが大事です。人がいれば,それだけの種類の見方があるというわけで,デバッグの精度が増します。
DD:
実際,多くのデバッガーと接していると思うんだけど,その中でも「面白い見方」をする人っている?
すごい「気づき」がある人は着眼点というより,みんなが普段は「おかしい」と思っていないところを指摘してきますね。
たとえば「セーブしますか?」という選択画面では,「カーソルの初期位置が『はい』になっていると,間違ってセーブする可能性が高い。デフォルトは『いいえ』のほうがいいのでは?」とか。ゲームに慣れていると見過ごしてしまうところに気づける人は,面白いと思います。
DD:
確かに! 突飛な着眼点というより,普段は流してしまうところで立ち止まれるかどうかってことなのね。幸せは身近にあるんだけど,暮らしているとなかなか気づけないというか。
そういえば,エキスパートデバッガーは普段どのような業務をしてるの?
伊藤氏:
デバッグの現場における,ほぼすべてですね。不具合の量と質,ともにスピード感をもって検出していく役回りですが,ユーザーの利益につながる提案や改修の要望なども随時行います。また,プロジェクトのリーダーをフォローすることも多々あり,とにかく動き回っています。
DD:
ほぼすべて! それはすごい! いわばデバッガー界の頂点,キングオブデバッグってことね。
伊藤氏:
いえ,エキスパートですけど。
DD:
そんな伊藤さんのスタート地点が気になるんだけど?
伊藤氏:
最初はアルバイトですね。僕は北海道出身なんですが,すごく楽しみにしていたゲームに不具合が頻出したことがありまして。誤字脱字も多くて,「これはどうなってるんだ……」と。そのゲームの品質管理を担当していたのがデジタルハーツだったので,「オレだったら,もっと不具合を見つけられる!」と意気込んで上京したんです(笑)。
ただ,実際にデバッグに携わった今にして思えば,そのゲームの開発も非常にシビアなスケジュールで進行したものだったことが想像に難くないですね。
おお,カチコミだ! 最初の原動力は怒りだったのね。
伊藤氏:
採用も何も決まってないうちに上京しちゃいました。当時は「ヤバいヤツが会社に来た!」って思われていたそうです(苦笑)。
それで雇っていただいたのが,12年前の話です。余談ですが,それまで北海道から出たことのない僕が東京まで出てきたら,その直後に札幌Lab.(ラボ)が設立されました(笑)。
DD:
その当時,デバッグ業界ってどんな状況だったの? ゲイムの開発環境も移り変わっていると思うけど,デバッグの位置付けは変わった?
伊藤氏:
だいぶ変わっていますね。もともと,ゲームメーカーの内部で手が空いた人がデバッグ業務をやっていたそうなんです。マスターアップが近づくと,デザイナーは手が空くのでテストプレイに回ったり。
DD:
実は私も十数年前,デバッグのバイトをしたことがあるの。ほんの2週間くらいだったけど,そのときはバイトが1人か2人だけだったわ。そう考えると,今の規模は「すげー」と思うのよ。
伊藤氏:
デバッグのスタッフ数が増えた背景には,開発期間が短くなったことが挙げられます。開発に長く時間をかけられなくなり,予算にも限りがある。当然,デバッグに与えられる時間も短くなって,専門会社に依頼するほうが効率がいいという流れだったと思いますね。
DD:
なるほどね。ところで,デバッガーがアルバイトから次のステップへ,“上に行く”には具体的にはどうすればいいのかしら?
伊藤氏:
自分のケースをお話ししますね。プロジェクトのリーダーが用意する項目書(チェックリスト)は「リーダーの見方」を反映したものなので,そこにはないところで「これは不具合なのでは?」と気づくことがあります。それを積み重ねると,明確に「アイツはできる!」と一目置かれるようになりますね。
DD:
言われたこと以外にも気づいたことを報告するってのは,さっきの話じゃないけど愛や熱意がないとできないわよね。
伊藤氏:
淡々と項目書に沿って作業を進めることも大事ですが,僕はそうではなかったという話です。
項目書を渡されると,一つ一つの項目から想像が広がるんですね。「これをチェックするためには,これもやらなきゃ。あれもやらなきゃ」と。一つの項目のために,ものすごい時間をかけたこともあります。愛が深すぎたかもしれません(笑)。
DD:
そのこだわりという名の執念が評価を上げたわけね。
デバッガーの面白み,エキスパートとしての矜持
DD:
デバッグの仕事って,ほとんどは「ゲイムが好きだから」という理由で入ってくるわけじゃない? そこから「デバッグって楽しい!」って感情に変化するものなのかしら。
伊藤氏:
そうなる人が,デバッガーとして次のステップに上がる人ですね。「ゲームを楽しむこと」と「ゲームの不具合を見つけて楽しむこと」には親和性があると思います。ただ,システマチックにチェックをしていくだけでは疲れますし,流れ作業になっていきます。そういう作業の中にも「面白さ」を見出していくことが大事ですね。
DD:
そこは難しいところよね。淡々と感情を入れないでマシーンにならなきゃいけない部分もあるだろうし,どうしても流れ作業になるんじゃないの?
考え方次第ですね。本当に時間がないときは,流れ作業が正解になりますが,それも考え方一つで「この短時間で終わらせる」という成果を設定すればいいのかなと。そうすれば達成感が得られると思います。
項目書は通常,ゲームの基本的な動作を担保するために使用されます。それを終えると,今度は各種の仕組みを合わせて複合的にチェックするフェイズに入ります。これは「探索型テスト」と呼ばれているもので,自分で不具合を探しにいく作業です。弊社では「能動的デバッグ」「フリーデバッグ」とも呼んでいますが,これが一番面白いですよ。項目書に縛られず,自由に探せるわけですから。
DD:
ある程度,完成が近づいている時期になっても不具合は多く出るの?
伊藤氏:
それはもう,たくさんありますよ。製品版では数件の不具合が報告されると「不具合が多いゲーム」と感じると思いますが,それは全体のほんの一部です。運悪く残ってしまったということですね。
もちろん理想はゼロにすることですが,「あれだけの量がここまでになった」ということで達成感はあります。
DD:
一方,致命的な不具合が残ってしまったときは敗北感があるのかしら?
伊藤氏:
そうですね……。自分たちが不具合を見つけられず,修正パッチがあたることがあれば,残念な気持ちになります。
DD:
最近は発売して終わり……じゃないからね。オンラインゲイムの場合,サービスが始まってみないと分からない部分も多いし,想定していなかった不具合も出てくるでしょう?
伊藤氏:
それでも「なんで気づけなかったんだろう?」「なんでやらなかったんだろう?」と考えますね。
DD:
そうなんだ! 私だったら「しょうがないじゃん! そんなのどうしようもないし!」とか考えそうなんだけど。
伊藤氏:
それはないですね。ただ,同時に「この失敗を次に活かそう」とも思います。
DD:
……ポジティブね。
伊藤氏:
そう考えていないとやってられないんですよ(笑)。反省材料しかないので,いつまでも反省ばかりをしていられないです。どんどん次に活かさないと。
DD:
デバッグの仕事を始めてポジティブになった人もいそうだけど,その楽しみ方や折り合いの付け方は結局,自分で見つけるしかないのよね。きっと。
デバッグって「言われたことをやればいい」というイメージだったんだけど,そうではないんだなというのが分かってきたわ。
伊藤氏:
言われたことをこなしつつも,さらに「自分で考えて何がやれるか」が大事ですね。用意されている項目書を埋めるだけだと,つまらなく感じる場合もあります。「うわ,1万項目もあるのか」と。だから,考え方の一つとして「早くチェックしてリーダーを驚かせてやろう」でもいいと思います。
DD:
ん? さらっと数字出たけど,チェック項目って1万もあるの?
伊藤氏:
1万はライトなほうです(笑)。案件によっては,10万近くになることもあります。
DD:
そこまでいくと,さすがに心折れない?
見た瞬間は,さすがに固まっちゃいます(笑)。そう考えると,デバッガーにはハートの強さも必要になるかもしれませんね。
ただ,デバッグと一口と言ってもいろいろあって,デジタルハーツは「総合デバッグサービス」を掲げて,デバッグを起点にさまざまなことをやっています。「開発補助」という業務では,ゲームのテーブルデータを作成したり,格闘ゲームのチューニング(バランス調整)をしたりといったことも依頼されるケースが増えていますね。
DD:
となると,今後も仕事の幅は広がっていくわよね。ゲイムの表現や規模が増えるにつれて,やってほしいことも増えていくわけだから。
伊藤氏:
ええ。現時点でも仕事が多すぎて,嬉しい悲鳴をあげているところです。
DD:
そういえば,エキスパートデバッガーは何名いるの?
伊藤氏:
全社で30名くらい,東京には10名弱です。デジタルハーツのテストチームは,クリエイター達が長い年月をかけて作ってきたゲームなどの開発における最終工程(テスト)を担当するのが主な業務となるのですが,その中でもエキスパートは難度の高い案件に携わることが多いですね。
DD:
最終工程! そう言われると,めちゃくちゃ怖い仕事ね。
伊藤氏:
プレッシャーはありますよ。僕達が不具合を見逃すと,それが市場に出てしまうので必死で探します。
不具合にも特殊なものがあって,「この仕組みとこの仕組みを合わせると,こういう動作になって,最終的におかしな挙動になるのでは?」という想定ができるので,狙い通りになったときは嬉しくなりますね。パズルみたいな感覚です。
エキスパートデバッガーにもいろいろなタイプがいるのですが,僕はゴールを先に考えるタイプです。「この不具合を発生させるために,その手順を考えてみよう」と。
「あるかどうか分からない不具合を探そう」ではなくて,「こういう不具合を発生させよう」というスタンスなのね。そういう存在は仕様書を見たときに分かるものなの?
伊藤氏:
仕様書に「○○はできません」と書かれていたら,「できる」にしようと考えます。これもデバッグの面白さだと思いますね。
DD:
「おお,できないって言ったな,本当だな。じゃあ,確かめてやるぞ」と。言うなれば,へそ曲がりだ。
伊藤氏:
へそ曲がりは活躍できます(笑)。基本的には「意地悪をしてやろう」という気持ちがあったほうが,不具合を見つけやすいです。
エキスパート選抜試験も受けてみた
DD:
あ,これも聞いておかないと。デバッグのツライところはどこ? 仕事なんだから楽しいことばかりじゃないでしょう。
伊藤氏:
そうですね……。強いて言えば,「守秘義務」がありますので,どうしても我慢は必要です。社外の人とゲームの話をするときに,フラットな状態では話せないかも。
DD:
話したくなるわよね。
伊藤氏:
ええ。でも,そこはしっかりと「心のガード」を固めなくてはいけません。守秘義務が徹底しているので,発売後であっても業務のことは話せないんです。具体的なタイトルが言えないので,対外的には何をやってるのか分からない「謎の集団」だと思われているかも(笑)。
そのほかに,仕事に対してツライと思ったことはないですね。担当したゲームがリリースされたら達成感がありますし,嬉しさもあります。
DD:
伊藤さんにとって,デバッガーに求められるスキルとはズバリ何だと思う?
伊藤氏:
「探究心」は欠かせないでしょうね。
DD:
なるほど。じゃあ,「いざエキスパートデバッガーになりたい!」と志したとして,実際にはどのようなステップがあるの?
伊藤氏:
エキスパートデバッガーによるOJTや選抜試験を受けてもらいます。試験は「デバッガーに必要な発想力」を計る内容ですね。
DD:
適性年齢はあるの?
伊藤氏:
年齢は関係ないと思います。「考え方が柔軟」というのは適性の一つですが,「長年の経験」も重要ですから。
DD:
ほほう。それなら私もなっちゃおうかな? エキスパートに!
伊藤氏:
だったら試しに1問,受けてみますか。その選抜試験を。
DD:
……え,あるの?
エキスパート選抜試験 問題
3Dアクションゲームにて,デバッグモード(※開発中にのみ使用できる特殊な機能のこと)によってイベントコリジョンの表示が可能であるとします。
画面遷移等の切り替えが存在しない広大なマップの作りとなっており,イベントコリジョンを踏む事でボスが出現するイベントが発生します。このときのイベントコリジョンに対するアプローチを考えてください。
なお,問題文から得られない不明瞭な仕様は各自の想像で補い,補った仕様部分については回答に含めるものとします。
※実際の問題を簡略化しています。
伊藤氏:
これは「イベントコリジョン」に関する問題です。ゲームの仕様を自由に考えて構いませんので,デバッガーの視点でチェックのアプローチや予想される不具合をどんどん挙げてください。
発想力を試すものなので“正解”というものはありませんが,「普段,どういうことを考えながら仕事をしているのか」が分かります。
DD:
イベントコリジョン……つまり,この赤い線にプレイヤーキャラクターが当たったらイベントが始まるということか。うーん,設問がふわっとしているわね。
伊藤氏:
ええ。ですから,「こういう仕様があった場合,どういうデバッグをするべきか」を考えてください。仕様というのは「ダッシュ」や「ジャンプ」などですね。
DD:
となると,この問題のポイントは「イベントコリジョンの踏み方」よね。プレイヤーが素直に橋を渡らなかったときに,ちゃんとイベントが発生するのかを確認すればいいのか……ふむふむ。
あ,この問題は平面だけど,3Dアクションゲイムだったら空中や下から行けるかも考えないとね。どこかに抜け道があって,橋の向こう側に渡れないかどうか……。人間はなんのために生きているのか……この世界の何を信じていいのか……(ブツブツ)。
伊藤氏:
人間の生きる目的はともかく,“空中”はチェックすべきポイントですね。ジャンプしたときに赤い線を越えてしまわないのか,もし「二段ジャンプ」が可能だったら橋の柵を越えられるんじゃないか。こうしたケースがありえるので,必要な発想です。
DD:
なるほど。ここには「馬」があるけど,ほかの乗り物の場合も考えていいのよね。あ,ワイヤーアクションで越えられるかもしれないし,オブジェクトが壊せる可能性もあるし……。
伊藤氏:
いいですね,そういうのも。自由な発想が大事です。
DD:
出た! 褒め上手! やっぱ私を抱こうとしてる……。しかし,これって自分が遊んできたゲイムの知識量も大事よね。
伊藤氏:
ええ,実際の経験は手助けになります。
DD:
このテストって,突飛な発想を求められているわけではないのよね?
伊藤氏:
少しはあってもいいんですが,そればかりでは困りますね。自分は「橋を爆破したときにもイベントが発生するのか」と考えましたが,ここで求められている答えではありません(笑)。
DD:
……う〜ん,悩ましい。ちなみに,たくさん回答を出したほうが評価されるのかしら。
伊藤氏:
必ずしもそうとは言い切れないです。数は少なくても,致命的な指摘をピンポイントに挙げた場合は評価につながるでしょう。個人的には,30分もあれば10個以上は出してほしいところですが。
僕らの仕事は仕様上の「できる」を「できません」に,「できません」を「できる」にする方法を探すことだと考えています。時間との勝負にはなりますが,こうした可能性をできるだけつぶしたいんです。そのためには多少の「知識量」が必要ですし,「スピード感」も求められます。
DD:
仕様を「信じる」ために「疑う」仕事ということか……。
伊藤氏:
ゲームに対するユーザーの信頼を損なわないために,僕達が先回りして疑っているといった感じですね。
それでは,そろそろ回答例を見てみましょうか。
DD:
おおー! そういうことか。確かに「カメラの角度」はおかしな挙動が発生しやすいわよね。イベントが始まったら操作ができなくなると思い込んでるけど,それも試したほうがいいのか。……固定観念を捨てるのって思いのほか,難しいわね。
伊藤氏:
市場に出ているゲームをプレイするときとは目的が違うので,なかなか思いつかないですよね。ただ,デバッグの現場では予想外のことが起きますよ。それすらも面白さの一つと言えるかもしれませんけど。
DD:
敵の存在も思いつかなかったなあ。戦闘とイベントが同時に始まったら? そのダメージはどうなるのか? 確かにいろいろと考えられるわね。
伊藤氏:
ええ,そういうところから致命的な不具合が見つかるかもしれません。
DD:
ゲイムが進行できなくなるような不具合に遭遇したら,その時点でクソゲー認定だからね……。
伊藤氏:
たったこれだけの場面でも,デバッグにはさまざまなアプローチが考えられるということです。
そして,伝説へ……
DD:
さて,そろそろお聞きしましょうか。私はデバッグに向いてるかしら? どうなの?
伊藤氏:
つぶやいていた内容が面白くて,出てくる発想が的を射ているので,とても向いていると思いますよ。
DD:
キャー!! 気持ちいいー! あ,接待でしょ?
伊藤氏:
いやいや,ホントですよ(笑)。探索型テストには自由な発想も大事ですから。
DD:
私,純粋だから信じちゃうわよ! よし,これでセカンドキャリアの候補ができたわ! これで安心してプロレスなんていう不安定な仕事に向き合える……デバッグが待ってるんだもの!
伊藤氏:
ディーノさんがエキスパートデバッガーになれるかはさておき,まずは気軽に応募してみてください。それから考えればいいんですよ!
デジタルハーツではテスター/デバッガーを募集しています!
本稿の提供元であるデジタルハーツでは,最新ゲームやスマホアプリ,Webサイトなどのバグ(不具合)チェックに携わるテスター/デバッガーを募集中。デバッグ未経験の人には研修やトレーニングが用意されています。ゲームが好きで,ゲームの仕事に興味を持っている人は,以下のリンクをチェックしてみてください。
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