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[CEDEC 2019]運営経験から生まれた「ロイヤルユーザー」という指標と,AIがゲーム運営に参加する可能性。「ロイヤルユーザーの伸ばし方 〜データ・ドリブンが実現するゲーム長命化の秘訣〜」レポート
「CEDEC 2019」公式サイト
講演を行ったのは,マイネットの執行役員 データドリブン統括部長である梅野真也氏だ。マイネットはオンラインゲームの運営に特化する会社で,メーカーからタイトルの権利を買い,リビルドしたうえで運営を続けていくという独特のスタイルを貫いている。
現在は「黒騎士と白の魔王」「神獄のヴァルハラゲート」「ミリオンアーサー エクスタシス」「ドリランド 魔王軍vs勇者!」など,スマホアプリからブラウザゲームまで37タイトルの運営を行っており,こうした運営によって得られた知見を活かし,ゲームのポテンシャルを示す指標として生まれたのが「ロイヤルユーザー」という概念だ。
オンラインゲームの状態を表すには通常,MAU(Monthly Active Users。1か月でログイン/利用した人数)やPU(Paid User。課金ユーザー数)などの指標が用いられる。
しかし,MAUではユーザーの何人が課金しているのかといった動向が分からないし,PUはそのときの施策によるブレが大きい(例えば,ガチャが特定層にヒットした場合は急上昇するが,そうでないときは下がる)。そうした,MAUやPUといった指標では見えない数値を表しうる「ロイヤルユーザー」という考え方が生まれたという。
ゲームに貢献してくれるプレイヤーを「作品にとっての資産」と捉えることにより,ポテンシャルを予測し,施策を計画して長期運営につなげていくというわけだ。
この考え方では,プレイヤーをロイヤルユーザー,準ロイヤルユーザー,ユーザーに分類することが必要になる。分類の基準となる指標は,ゲームに価値を感じてログインする「ファン」,需要を感じたときに相応の対価を支払ってくれる「ポテンシャル」,存在がコミュニティ(ゲームタイトル)の継続に直結する「永続貢献」の3つで,以下のように,ログイン日数に過去の月間課金額と3か月以内の課金額を組み合わせて判定を行う。
●ロイヤルユーザー
・ファン:月間ログイン日数1日以上
・ポテンシャル:過去に一度でも,月に1万円以上の課金をしている
・永続貢献:過去3か月以内に,1万円以上の課金をしている
ゲームに価値を感じてログインし,需要を満たすなら課金するという実績を持ち,さらに3か月以内に課金することで最近の施策や方針に共感している姿勢を示している。彼らを維持することがゲームの存続に貢献するという層がロイヤルユーザーだ。
●準ロイヤルユーザー
・ファン:月間ログイン日数1日以上
・ポテンシャル:過去1か月の間に,1万円以上の課金をしている
準ロイヤルユーザーは,ゲームにログインし,需要を満たすものがあれば課金をした実績があることから,熱量を持っていることは確かだが,ここ3か月以内の施策には響くものがなかったというユーザー。
●ユーザー
・ファン:月間ログイン日数1日以上
1か月以内にゲームにログインしてくれているが,月間での課金額が1万円を超えたことがない。また,直近3か月の課金額も1万円以下。
この分類でマイネットが運営する37タイトルを調べてみたところ,売上の87%がロイヤルユーザーと準ロイヤルユーザーが担っていることが判明したという。
とくにロイヤルユーザーの売上は,総売上の78%に達している。詳しく見ると,人数はMAUの5〜10%で,月に26日以上ログインしている人が9割を占め,8〜9割の人が課金をしていたという(顧客の20%が売上の80%を生み出す「パレートの法則」にほぼ合致する数値になっている)。
このように分類できるロイヤルユーザーだが,その推移が安定的なタイトルが多く,シミュレーションによってある程度予測可能だという。過去13か月のロイヤルユーザー数のデータを使い,2019年第一四半期の推移を予想したところ,実際の結果もこれに近いものになったという。
つまり,似たタイトルなら,ロイヤルユーザー数の推移を見て今後の施策をある程度,計算することができるわけで,オンラインゲームを運営するうえではありがたい指標といえる。また,ロイヤルユーザー数の予測に,施策によって上下するARPU(Average Revenue Per User,平均課金額)を組み合わせることで,課金総額の上限・下限の推移をシミュレーションするグロスガイドも制作可能になり,これは,目標を実現するための難度を知るうえで役に立つとのこと。
ロイヤルユーザーが課金をしないでいると準ロイヤルユーザーになり,さらにログインしないと離脱扱いになる。こうした流れで,ユーザーは推移していく。上記のファン,ポテンシャル,永続貢献の3指標だが,このうち2つを満たさないユーザーは,そのままゲームから離脱していくことが多いことが判明したという。
梅野氏はこの状態を野球にたとえ,「2ストライクにさせない(指標2つを満たさない状態にさせない)施策が重要である」と強調した。気になるのが,ロイヤルユーザーが次の月も課金してロイヤルユーザーであり続ける継続率だ。これについては2か月前と3か月前に1万円以上課金した割合を使うことによって,高い精度で予測できるという。
オンラインゲームの運営では,直接施策を考案するプランナーだけでなく,デザイナーやエンジニアもこうした方針を知ったうえで取り組みを行っほしい,と梅野氏は述べた。
ロイヤルユーザーが課金する熱量を維持するには,彼らに対する施策だけを打ち出せばいいのかというと,決してそうではないと梅野氏はいう。ロイヤルユーザーは周囲の環境から影響を受けて需要を感じるため,課金をしていない人を含めて,さまざまなゲーム内要因を考慮する必要がある。
例えばPvPの場合,ロイヤルユーザーの動向は,同ランクのユーザーや無課金や低課金ながらも高ランクのユーザー,ギルドの仲間の強さ,PvPランク1位のユーザーなどに影響される。ほかの人が強いなら戦力強化の必要性を感じ,ランク1位のユーザーのレシピをコピーするため特定のカードを求める,といった具合だ。つまり,ロイヤルユーザーだけを大事に扱うのでなく,準ロイヤルユーザーや無課金ユーザーとのバランスの中で熱量を持続させることが大切だという。
マイネットでは,こうした予測を用いて今後の施策をシミュレートすることがある。その結果,あるタイトルでロイヤルユーザーの維持率を上げるために施策を改善したが,その際,似たシステムを持つゲームで同様の施策を行った際にどういう効果があったかを調べ,シミュレーションに取り入れた。このことによって,非常に精度の高い予測ができたそうだ。
別のタイトルでは「一時,ロイヤルユーザー数が減少したが,次第に回復している」という現象が見られた。データを調べたところ,準ロイヤルユーザーが課金することでロイヤルユーザーへ復帰していることが明らかになった。
そこで,ギルド間の競争を活性化することで準ロイヤルユーザーが課金したくなる状況を作り,さらなる復帰を狙ったという。こう書くと課金煽り的な施策をイメージしてしまうが,実際はそうではない。ログインするだけでカードバックがもらえるようにして,10連ガチャの割引も実施。ギルドの所属人数が最大になることで報酬を与え,さらにイベントで好成績を収めると新レアリティのカードをプレゼントするという,すべてのユーザーに恩恵がある施策を行ったという。
マイネットではイベントの盛り上がりを示すデータを「アソビKPI(Key Performance Indicator,主要業績評価指標)」としてモニタリングしているが,これらの施策を行ったあとは,アソビKPIである「イベント終了時の1位と30位のポイント比率」が上がっていた(=イベントが盛り上がっていた)という。
今後マイネットでは,プランナーだけでなくデザイナーやエンジニアも,ロイヤルユーザーや準ロイヤルユーザーに関する数値を意識して施策が語られる状況を目指していく。また,データの蓄積と成功パターンの分析を行い,マイネットとしての「勝ち筋」を探っていきたいと梅野氏は述べる。
将来的には人間が施策の狙いを決定し,細かな数値はAIが決めてくれるようなところまで行き着くのではないかと,梅野氏は予想しており,マイネットでは過去の運営データを用いた実験も行われているという。
「復刻カード選定AI」は,カードゲームで過去のカードを復刻させる際,これをAIに選定させることはできないかという発想で開発されたAIで,カードの育成状況や輩出枚数,デッキへの採用率などをもとに需要が高いものをリストアップするのだが,結果は現実によく合っているという。
とはいえ,AIが実用化されたとしても,AIの施策が妥当なものかどうかを判断するのは人間の役目だ。そこではタイトルへの理解度が問われるため,やはり優秀な人材は不可欠だと梅野氏は言う。
ゲーム運営にデータを活かすうえで,どんなデータを基準とするかの大事さ。そして,AIと人間が共にゲームを運営する時代の到来を予感させる興味深い講演だった。
「CEDEC 2019」公式サイト
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