インタビュー
ゲームマーケット2019秋で新作を発表したゲームクリエイター3人へインタビュー。ゲームマーケット大賞2019は「FOGSITE」が受賞
ゲームマーケット大賞2019は「FOGSITE」が大賞を受賞!
今回のゲームマーケット大賞は,これまでと違ってゲームマーケットの開催前日に発表された。来場者が「あの作品が大賞になったんだ。じゃあ試遊してみよう」「売っているなら買っていこう」ということができるように,という配慮からそうなったそうだ。
今までは会期中2日目に発表されていたため,1日目だけの参加の人は,大賞作品を現場でチェックすることができず,再販分が出展されていたとしても1日目で売り切れてしまって……なんてこともあったわけだ。
というわけで今回の受賞作品は以下のとおり。
■大賞
FOGSITE(出展者名:SoLunerG)
■エキスパート賞
横濱紳商伝デュエル(出展者名:OKAZU brand)
■キッズ賞
ポラリッチ(出展者名:ナナワリ)
■優秀賞
FILLIT(出展者名:ラディアスリー)
■優秀賞
斯くして我は独裁者に成れり(出展者名:クリエイティブAHC)
冒頭でもお伝えしたとおり,今回でゲームマーケット大賞が終了することが,10月末に発表された。
ゲームマーケット大賞は2014年秋に創設され,以降毎年行われてきた。ゲームマーケットで発売された新作ゲーム1年分の中から優秀な作品を表彰する,日本で一番権威のあるボードゲームアワードだったといえる。ところが,10月末ごろ発売されたゲームマーケット2019秋カタログ誌上にて,ゲームマーケット大賞終了に関する告知がなされたのである。
いろいろな事情があるのだろうが,いちばんの大きな理由は「1年間に発売されるゲーム数が増加し続けている」という点にある。1年間にゲームマーケットで発売される新作は1000本を超え,これらを4人の審査員ですべて遊んでみる,というは相当な負担だったはずだ。
多くの論議が行われた結果,ゲームマーケット大賞は終了され,その代わりに「ゲームマーケットセレクション」が創設されることが発表された。ゲームマーケット大賞が「審査員とゲームマーケット事務局が選出・決定する」ものであったのに対し,ゲームマーケットセレクションは「ゲームマーケット来場者による投票」で決まる。スケジュールはこれまで同様に,秋のゲームマーケットで発表となる。
ゲームマーケットセレクションの詳細をもっと知りたい方は,公式サイトを確認してほしい。
ミニインタビュー:「まじかる☆ベーカリー」シリーズのMAGI
今回のゲームマーケット取材では,筆者が気になった3つのブースにミニインタビューを行ったので,そのレポートをお届けする。
まずはここ1年で大人気シリーズに成長した「まじかる☆ベーカリー」シリーズのゲームデザイナーであるイノモトショータ氏に話をうかがった。
同社の人気作「まじかる☆ベーカリー」がゲームマーケットに登場したのは2018年春で,このときはまだ委託だった。まずまずの反響を得たことを受け,2018年秋は自社で出展。2作目となる「まじかる☆ベーカリー 〜わたしが店長っ!〜」をリリースしたのだが,ここで想定外の大行列となり,数十分で完売してしまう。
「これは本腰を入れてやらなければならない」とそれまでMAGIの本業だったWeb系の仕事をすべて辞めて,ボードゲーム専業の会社となったそうだ。
「まじかる☆ベーカリー」シリーズはなぜここまで人気が出たのだろうか。
「キャラクターの名前をプレイヤーの皆さんと考えてもらったりとか,僕らとしては開発段階からお客さんと一緒に作っている感覚だったので,そういう部分ではとても応援してもらっているのかなと。あとは,見た目のキャラの可愛さとは裏腹に,とてもブラックな内容だったりするギャップも,喜んでもらっている部分だと思います」と,イノモト氏は語る。
本作はシリーズものでありながら毎回ゲームシステムが異なる。それでいてストーリーは続いているので,ファンとしては話の続きが気になるはずだ。ちなみに,シリーズはトータルで10万本に届くかという売れ行きだという。
これまでのゲームマーケットでは毎回売り切れだったので,今回はブースを大きくしてバックヤードに十分なスペースを確保し,欲しい人全員にちゃんと届けられる数を持ってきたそうだ。
また,今回は「まじかる☆ベーカリー」シリーズ以外にもう1つ,「ニャーメンズ」という正体隠匿系ゲームも発売した。こちらは別のデザイナーが手掛けているとのことで,今後は2〜3ラインを動かしてゲームマーケットでは複数本の新作を出せるようにしていきたいという。
また,前回のゲームマーケットから,「まじかる☆ベーカリー」のイラストが描かれた大きなバッグを無料で配布するなど,ファンサービスの投資にも力を入れているそうだ。
ゲームマーケットで先行販売しつつ,販売経路はイエローサブマリンなどのボードゲームショップやAmazonなどで行っているが,「もっと手軽に買えるようにしたい」という思いもあって,今後は量販店やLOFT,東急ハンズなどにも力を入れていく予定だそう。せっかくなので次回作についても聞いてみた。
「いくつか考えていて,コロネちゃんエピソードゼロか,バイトリーダーに焦点をあてたものか……5つくらい候補があるのですが,どれにしようかなという感じです」
引き続き,今後の動向に注目していきたい
ミニインタビュー:「ツインラインアベニュー」が評判のタクティカルゲームズ
2017年の1作目「スペースエディター」で出展して以来,ほぼ毎回ブースを構えているのが,タクティカルゲームズだ。代表の鈴木陽太氏は副業でボードゲームを作っているのだが,「スペースエディター」のパッケージがかなり本格的な仕上がりだったので,海外タイトルの日本語版なのかと勘違いする人もいたそうだ。鈴木氏の本業が映像製作やUIデザインだと聞けば,このセンスは納得できる。
「本業でコンテンツ作りの知見を深めたいという気持ちから,ボードゲームを作ってみることにしました。デジタルゲームでもよかったんですが,もともとボードゲームが好きだったので……」と,その経緯を説明してくれた。
普段の開発スタイルを聞いてみたところ,「システムを決めてからフレーバーを落とし込んでいきます。フレーバーによってシステムを調整していくんですが,そこを意識しすぎるとやりすぎてしまって複雑になるので……」と,そこは注意しているという。
今回持ち込んだ新作は2本。「タイムトラップ」は,「単純に数字を使った軽めのゲームが作りたかった」というコンセプトから制作したそうで,大富豪をベースに調整されている。10分程度で終わるゲームなので,これまでタクティカルゲームズが作ってきたタイトルではいちばん軽いタイプと言えるだろう。
もう1本の新作「ツリーラインアベニュー」は,ドラフト+タイル配置ゲームだ。手番を取るか欲しいタイルを取るか,悩ましい内容となっている。立体的に見える素晴らしいアートワークのおかげもあり,本作は2日間ともに多くの来場者が試遊に訪れた。「かなり手ごたえを感じています」とのことで,実際にネット上での反響を確認してみても,楽しんでいる人が多いようだ。
「とても嬉しいことに,少しずつですがファンが増えているのを実感しています。好きと言ってくれる方が増えていけば……」と,将来的には海外市場も狙っていきたいという鈴木氏。今回の新作「ツリーラインアベニュー」は,最初から英語マニュアルをPDF形式で用意しており,その効果もあってか海外から来た来場者も手にしていた。
ボードゲームを作ることになった経緯は,前述のとおり「コンテンツ作りに関する知見を深める」ということだったが,実際デジタル作品のUIや映像製作に影響はあったのだろうか。
「今まではデザイナー目線だけで意見をしていましたが,コンテンツをプロデュースする側の意見も少しずつですが意味がわかるようになりました」(鈴木氏)
次回作はかなり軽めの作品を予定しているとのことだが,いつかタクティカルゲームズの思い切り重いゲームも遊んでみたい。
ミニインタビュー:「クリプティッド」日本語版を発売したJELLY JELLY GAMES
ボードゲームカフェの展開だけでなく,ボードゲームの出版も始めたJELLY JELLY CAFEの白坂 翔氏に,今回のゲームマーケットで先行発売した新作2本について話をうかがった。
まずは「クリプティッド」だが,こちらはOsprey Gamesが2018年のSpielで出展していたもので,日本でも日本語マニュアル付きのものが流通していた。それがこのたび,JELLY JELLY GAMESから正式に日本語版として発売されることになったわけだ。どちらかと言えばパーティーゲームなど軽めのゲームを中心にリリースしてきたJELLY JELLY GAMESなだけに,こうした中量級のタイプは珍しい。
「昨年のSpielでうちの社員がこれを見つけてきたんです。ぜひうちで日本語版を発売したい! と手を挙げてくれたので,すぐに交渉しました」
本作は,推理ゲーム(もしくは論理ゲーム)と言われるジャンルのもので,少しずつ明かされていく条件からボード上のどこかに隠れている未確認生物がいる場所を特定するというゲームだ。
これまでも「タギロン」(JELLY JELLY GAMES)や,「4人の容疑者 湯けむりに消えた謎」(テンデイズゲームズ)など人気の推理ゲームはいくつかあったが,これらの場合は,公開された条件をどうメモしていくかという“メモ力”が問われていた。
まとめ方のコツが掴めないまま適当にメモをしていると,まったく答えにたどり着けないため,この手のゲームが苦手な人には難しいものであったが,本作の場合はボードがあるため視覚的に分かりやすく,初心者でも推理しやすくなっている。
また日本語化にあたり,変更した箇所がいくつかあるという。
「ゲーム性はまったく変えていません。ちょっと遊びづらいかな? と思った部分を分かりやすくしました。たとえばトークンの色は,オリジナルはどれも淡い色で見分けがしづらそうに感じたので,濃いめの色にしました」
海外ゲームをローカライズして日本で発売する場合は,マニュアルとパッケージだけ少しいじれる程度で,ほかは一切修正できないケースが多いそうだが,今回はいろいろ話し合ったうえで日本向けの調整もできたという。
ゲームマーケット分はスケジュールを前倒ししてもらって少量の先行販売となり,正式な発売日は2020年1〜2月あたりになるとのこと。今回手に入れられた人は,本当にラッキーだったかもしれない。
もうひとつの「限界しりとりパーティー!」は,東大卒の伊沢拓司氏を中心としたクイズ集団「QuizKnock」がYouTubeなどで行っている「限界しりとり」を,製品パッケージ化したものだ。これはJELLY JELLY CAFE横浜店の店長から「このゲームは面白いから,ぜひパッケージにしましょう!」と提案があったそうで,その店長と一緒に白坂氏が企画を提案しにいったそうだ。
「限界しりとり」とは文字数制限のあるしりとりで,トランプの2からJまで使い,引いた数の文字数でしりとりを行っていく,というもの。1人15分の持ち時間で1対1のタイマンバトルをする。
もとはただのトランプだったが,これを専用カードにして,特殊カードなどが追加。2人から6人までのプレイに対応している。さらには,ゲームの進行を管理する本作専用アプリも開発しているそうだ。「限界しりとりパーティー!」は,12月11日より店頭で発売となる。
「じつは8月から作り始めたんですが,当初は年明けくらいで,と考えていたんです。でもスケジュール調整するうちに,頑張ればゲームマーケットに間に合いそうだったので……がんばりました!」と白坂氏。QuizKnockファンはもちろんだが,「しりとり」という分かりやすいルールゆえに広く一般層に広まりそうだ。
ちなみに,ボードゲームカフェのJELLY JELLY CAFEは,11月16日に秋葉原店がオープンしたばかり。「地方都市への進出も興味はありますが,都内のほうが土地勘もありますし,まだ出店できるエリアはあると思います」と,都内はもうちょっと増えそうな勢いだ。JELLY JELLY GAMESの新規タイトルはもちろん,次なるボードゲームカフェ出店エリアはどこになるのかも注目しておきたい。
ゲームマーケット 公式サイト
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