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[CEDEC 2021]オンラインライブの現状と今後,オフラインライブとの違いを紹介する講演をレポート
「CEDEC 2021」公式サイト
ご存知のとおり,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,オフラインでのライブやコンサートは現在,開催しづらい状況にある。以前からゲーム音楽のライブやコンサートを開催していたAetasは,オンラインでどのようなことができるかをコロナ禍の中で模索してきた。それを元に,有料オンラインライブの現状や今後をお伝えしようというのが今回のセッションの趣旨となる。登壇したのは,ゲーム音楽のコンサートを企画する会社を運営し,現在はAetasの音楽事業推進室プロデューサーを務める斉藤健二だ。
2019年に比べて,2020年のライブエンタテインメント市場規模は,6295億円から1836億円と,70%近く減少した。一方,オンラインライブの市場規模は,2020年は140億円だったが,急成長を続けており,2024年には約7倍になるのはないかという予測もある。
かつては有料配信ができるプラットフォームは限られており,オンライン配信はオフラインのオマケという位置づけだった。しかし,現在は有料プラットフォームも増え,どこで配信するかを選択するのも一苦労な状況だ。
Aetasではこれまで,イープラスが運営する「Streaming+」,チケットぴあが運営する「PIA LIVE STREAM」,ローソンエンタテインメントが運営する「ローチケ Live STREAMING」を活用し,3公演のオンラインライブを配信した。
1つめが2020年11月13日の「スペースチャンネル 5 ウキウキ ミュージック フェスティバル」,2つめが2021年3月20日の「『真・女神転生』オンラインライブ2021 〜オンガクのコトワリ〜」,そして3つめが6月26日の「聖剣伝説3 25th Anniversary Orchestra Concert」だ。いずれも無観客公演の有料配信となっている。
以上のようにオンラインライブを展開しているAetasだが,ここで改めて,オフラインライブとの具体的な違いが紹介された。
まず,会場選定に関しては,オンラインライブはキャパシティの影響を受けづらい。そのため,会場の選択肢も広くなる。もちろん,これは事前収録を行い,オフラインを考慮せずに開催する場合の話だ。
一方のオフラインライブは,チケットの予定枚数に合わせてキャパシティを考慮する必要があるため,会場の選択肢は狭くなる。例えば2000人の集客を想定できるコンテンツなら,2000人前後の会場を押さえたり,1000人規模の会場を使った2公演開催を検討したりする。休日のほうが集客は望めるが,休日のホールやライブハウスはなかなか空いておらず,1〜2年前から動いても希望した会場が取れないことも珍しくない。
チケット代は,オンラインライブのほうが安い傾向にある。オンラインライブでは3000〜4000円で視聴者には嬉しいが,主催する側にとっては収支の計算が難しい。対策としては,投げ銭機能の検討や,グッズ,スポンサーなどの収入源確保が挙げられた。
一方,オフラインライブのチケットは,6000円を超えることも珍しくない。
オンラインライブとオフラインライブでは,チケットの販売傾向も明確に異なる。オンラインライブでは,初動は全体の売上の2割ほどで,1週間前から当日で5割ほど,アーカイブ期間で3割ほどとなる。つまり,開催直前までほとんど売れないため,主催者としては胃が痛い。最終的に1000枚売れる公演でも,販売からしばらくは200枚ほどしか売れないのだ。
なぜこうなるかというと,オンラインライブはチケットの売り切れがないため,興味があってもギリギリに購入する人が多いのだ。対策として斉藤は,初動に特典や割引をつけることを挙げた。
対してオフラインライブは,初動から先行抽選までで7割ほど,一般販売・当日券が3割ほどだ。初動で収支の見通しは立ちやすいが,開催が近づくにつれてPR効果が薄くなっていくという懸念がある。
関連して,PRについて掘り下げると,オンラインライブの場合はチケットの販売傾向に合わせて配信2週間ほど前からPRを厚くすることが効果的だ。配信終了後も,告知次第ではアーカイブ期間終了まで券売を伸ばすことができる。
また,事前収録ならば,本番と同じ映像を告知に使用でき,どういったライブなのかを伝えやすい。
オフラインライブは,初動から先行抽選のタイミングで,PRを厚くすることが重要だ。
オンラインライブは,場所や時間の制約は受けづらいという利点がある。遠方や海外に在住している人,生活環境的に外出しづらい人でも,自宅から楽しめる。
オフラインライブは,遠方から参加するには時間や金銭的な負担が大きい。
ライブでおなじみのグッズ販売は,オンラインショップを活用して受注販売を行えば,売り切れの心配はなく,購入者はゆっくり選べる。主催側としても,売り切れによる機会損失や,在庫過多に対する処理などの負担が少ないのもメリットだ。
対して,会場でのグッズ購入は,早朝の待機列や売切の可能性,持ち運びの負担などに悩まされる。ただし,会場の雰囲気や,現物を確認できる手軽さから,買いやすいという利点もある。
続いては主催側の話で,コストの違い。オンラインライブでは,当日の案内スタッフは必要ないものの,カメラや配信の費用は安くない。
オフラインのみの開催の場合,案内スタッフは必要だが,配信の費用は不要だ。
最も大きいのが,言うまでもなく臨場感の違いだ。オンラインライブは,音や視覚,雰囲気といった臨場感は,やはり現地でのライブには及ばない。また,ディスプレイやスピーカーなど,視聴者の環境によっても体験に差が出てしまう。
ただし,ほかの視聴者のコメントが見られるという楽しみや,VRやAR,インタラクティブなシステムなどによる拡張性があるという点は,オンラインライブならではのもの。
オフラインライブの場合は,これ以上の臨場感ある体験はなく,そこが一番の強みだろう。
これらを踏まえて,オンラインライブの現状をまとめると,視聴者にとって,場所や時間の制約を受けにくい,気軽に見られる,チケット代が安価といったメリットがある一方,デメリットとして,臨場感はおよばず,単純な満足度でオフラインライブにはかなわない。
チケット代が安価なことは,主催者側にとって課題にもなる部分で,オンラインライブだけでは,今までのオフラインイベントのような収支は立てづらいことも指摘された。
そんなオンラインライブだが,ここ1年でさまざまな有料配信プラットフォームが生まれ,オンラインで視聴するという文化も一定層に広がってきた。今後は,オンラインとオフラインのハイブリッド開催が主流になるのではないかと斉藤は考えている。オンラインライブで,場所や時間の制約なしに,多くの視聴者に届け,オフラインライブで満足度や売り上げの高さを保つスタイルだ。
最後に,Aetasが開催したオンラインライブの中には,海外在住者が3割ほどを占めた公演もあったことをお伝えしておきたい。これは,今までのオフラインライブではリーチできていなかった層にも届いた形だ。海外向けのPRや翻訳,配信時間を考慮しなくてはならないが,無視できない数字であり,今後はより積極的に対応していくことになるだろう。
日本のゲームが海外で人気があったり,海外のゲームが日本で人気があったりするのは珍しいことではない。斎藤は,オンラインライブとオフラインライブのハイブリッドなスタイルが定着し,ゲームのコンテンツが国の垣根を越えて広がってほしいと,今後の期待を述べて講演を締めくくった。
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