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[CEDEC 2021]新興国のゲーム市場では何が起きているのか。「新興アジア諸国のゲーム産業・市場の現在:東南アジア,南アジア,中東」レポート
「CEDEC 2021」公式サイト
登壇したのは新興国のゲームビジネスに詳しいルーディムス代表取締役の佐藤 翔氏で,佐藤氏は,中東ヨルダン・ハシミテ王国のゲーム業界団体設立に携わったあと,メディアクリエイトの「新興国ビジネスレポート」の仕事で各国の実情を現地調査。コンテンツビジネスの海外進出をコンサルタントするルーディムスを立ち上げ,マーベラスの「インディーゲームインキュベーター」の運営にも携わる人物だ。
東南アジア,南アジア,中東,中南米,東欧といった国や地域のゲーム市場は大きな成長を遂げているが,日本のゲームメーカーが現地にスタッフを置くほどの規模ではないという。スマートフォンの普及と新型コロナウイルス感染拡大の影響でPCやモバイルゲームのプレイヤー層は拡大しているが,課金額が伸びていないうえにカスタマーサポートの増員などの投資も必要で,売上自体はさほど成長していない。新興国では中国系企業のシェアが5〜6割を占めており,アラブでは7〜8割に達している。それぞれの国や地域に合わせたゲームも作られており,見た目はアラビア風だが開発は中国といった例もある。遊ばれているのは基本プレイ料金無料のゲームがほとんどで,改造ゲーム機や違法コピーなど,インフォーマル(非正規)マーケットも存在するため,ゲームにお金を支払っているのは「ごくごく一部の人達」なのが現状だそうだ。
こうした国々でゲームビジネスを展開するうえでは,「ゲームへの認識」「ニーズ」「ユーザー」というカテゴリで起きている3つの矛盾に向き合っていかなければならないと佐藤氏は指摘する。
国によってゲームに対する認識が異なっており,カジノやパチンコといったギャンブルと同一視されることもあり,その巻き添えで規制を食ったりしかねない。ゲームプレイヤーは増えているが上記のとおりインフォーマルマーケットが非常に強く,「正規ビジネスは,インフォーマルマーケットの中に,ポツリと浮かんだ島程度の規模しかない」状態だと佐藤氏は言う。
こうしたインフォーマルマーケットが拡大した結果,先進国に進出してくる可能性さえあり,予断を許さない状況だ。スラムと呼ばれる地区に日本のコンシューマ機を遊ばせるカフェがあるなど,おおむね,社会階層には関係なくゲームが遊ばれている。したがってプレイヤー数は非常に多いが,市場規模では先進国が圧倒的だというジレンマが生じている。
以上のような3つの矛盾を放置すると,先進国でのゲームビジネスにも影響を及ぼしかねないと佐藤氏は警鐘を鳴らす。続いて,アジア各地域の現状が紹介された。
東南アジア
東南アジアでは,モバイルゲーム市場の拡大が著しい。携帯機向けのハイパーカジュアルゲームや,50人対戦のバトロワ「Garena Free Fire」,MOBA「Mobile Legends」といったeスポーツ的なゲームが多く遊ばれている。
「Garena Free Fire」では,インドネシア出身の俳優であるジョー・タスリム氏(映画「モータルコンバット」の2021年版で人気キャラのサブ・ゼロを演じた)が,キャラクター「JOTA」として登場するなど,現地ならではの盛り上がりを見せている。
同作のeスポーツ大会「Free Fire World Series」では,インド代表の2チームが新型コロナウイルス感染症拡大の影響で出場できなかったものの,ヒンディー語の実況が行われたことで,言語別視聴者数でインド圏が第2位になったという。このあたり,現地向けの情報発信がいかに大事であるかが分かるケースだ。また,東南アジア各国では政府と連携したインディーズゲームへのサポートプログラムが進んでおり,先んじて成功したメーカーが基金と積み立てて後発メーカーを支援しするという動きが見られる。
南アジア
インドでは映画産業が強いため,ゲームはなかなか伸びなかった。また,インドは現金社会でクレジットカードの普及率が低く,地域ごとに多数存在する通信事業者がそれぞれに決済権を持っているため,モバイルゲームパブリッシャの参入も地域単位になっていた。
佐藤氏によれば,こうした事情も変わりつつあるという。2016年にモディ首相が高額紙幣を突然廃止したことから,人口の7〜8割が銀行口座を持つようになり,これに伴ってクレジットやモバイル決済が普及。4Gの普及をきっかけに弱小通信事業者の淘汰が始まり,キャリアの数が少なくなったことから,これまでよりも広い範囲を抑えられるようになってきたという。
インドでは,ゲームすなわち「PUBG MOBILE」(現地タイトルは「BATTLEGROUNDS MOBILE INDIA」)と呼べるほどの人気を獲得し,1日あたりのサービス利用者数は1600万人,同時接続者数は240万人を数えるほどになった(関連記事)。
ゲーム実況も普及しつつある。インドは20以上の言葉が使われる多言語社会で,ローカライズに困難が伴う。「BATTLEGROUNDS MOBILE INDIA」もそのため英語で展開しているが,ゲーム実況者がそれぞれの言語で実況することで人気を集めると同時に,ゲームの人気を底上げしているという。
eスポーツの概念も広まってはいるが,モバイルゲームで現金を稼げるサイトがeスポーツ扱いされるなど,先進国とは認識が異なっているようだ。
中東
中東では,サウジアラビアの皇太子が設立した財団が,SNKの株式を大量購入するなど(関連記事),ゲームへの投資が拡大している。サイバー戦争を担当する部門も持つイスラエルの諜報機関「8200部隊」出身者がIT産業サポートプログラムを立ち上げるという例もあり,中東のスタートアップを支援しているという。
以上のように,アジア各国でもゲーム作りが盛んになっており,政府が産学官連携や各種プログラムなどでサポートすることも増えてきた。SNKの例で分かるように,中東の富裕層による日本企業への投資も増えていくだろう。こうした状況下にあるアジア各国に日本のゲーム企業のプレゼンスが感じられないのは,あまり良いことではないだろうと佐藤氏は指摘する。専門のスタッフを配するまではいかなくとも,兼業でもいいから国内に担当者を置けばいいのではないかと佐藤氏はアドバイスして,講演を終えた。
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