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[GDC 2023]Steamにおける「低評価」レビューを事前に食い止めるには。フォーラムの活用法を示唆する講演をレポート
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印刷2023/03/23 15:30

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[GDC 2023]Steamにおける「低評価」レビューを事前に食い止めるには。フォーラムの活用法を示唆する講演をレポート

 世の中には数多くのPCゲームダウンロード販売サイトが存在するが,その中でもSteamの存在感はいまだに強く,GDC 2023でも「Steamで売る」ことを前提とした講演は非常に多い。

 Steamというプラットフォームは,ただゲームを販売するサービスというだけでなく,ユーザーと開発者が相互に交流する場としても機能している。なかでもForumはその筆頭で,バグ報告から次期パッチに期待すること,ちょっとした小ネタや攻略情報まで,熱心なファンによる書き込みが見られることも少なくない。

 そして当然ながら,Forumは「ユーザーが開発者にモノ申す」場としても機能する。そしてこの「訴えたいことがある」という思いは,ときにSteamの別の機能を用いて発揮されることもある――レビューにおける「評価」だ。「こんなに素晴らしいゲームを作ってくれてありがとう」という熱い思いが「高評価」として現れることもあれば,「こんなに期待したゲームなのに完全に期待外れだった」という強い落胆が「低評価」として現れることもある。

 さて,となるとForumにおける書き込みと,高評価・低評価には相関がある可能性が浮上する。この仮説に対し,とくにForumにおける苦情の書き込みと低評価の相関を調査した講演がGDC 2023の初日に行われたので,その模様をレポートしたい。

CreatureのSenior Producer,Chris Hanney氏
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「低評価」レビューが生まれる前には,その前兆がある?


 「Negative Reviews Begin With a Forum Post」と題された講演を行ったのは,CreatureのSenior ProducerであるChris Hanney氏だ。Hanney氏はこれまで複数のインディーズゲームの制作に携わってきており,そこではコミュニティマネージャーとしての仕事も多い。

コミュニティマネージャーだけでなく,制作サイドの仕事もこなしている
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 Hanney氏は最初に,「みんなが大好きなSteam Forumは,いわゆるBBS的なものとして唯一の存在ではないが,重要な存在」だと指摘する。事実,ユーザーがコメントし,制作者がそれに返事をする場(あるいはユーザー同士が議論する場)としてはYouTubeのコメント欄などもある。だがSteam Forumはそれらと異なり,「開発側が参加しなくてはならない」という点で大きな違いがあるというわけだ。

みんな大好きSteam Forum
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 そのうえでHanney氏は「あくまで個人的に行った調査の結果ではあるが」と留保した上で,「あるユーザーがForumに問題点を書き込み,それが解決されなかったことによって発生する『低評価』の数は,そのゲームに与えられる『低評価』の総数の,10%〜15%にのぼる」とした。

 Steamレビューにおける「評価」は,そのゲームの売れ行きに対して大きな影響を与えることで知られる。実際,Steamページの非常に目立つ場所に,そのゲームがどれくらい人気があるかの指標(「圧倒的に好評」「非常に好評」「賛否両論」など)が表示されるし,少なからぬユーザーがこの指標を購買の参考にしている。

 このため,「低評価」がつく可能性をできる限り減らしたいというのが,開発・販売側の偽らざる思いだろう(売上への影響を抜きにしたって,自分が作ったゲームは「圧倒的に好評」であってほしいものだ)。

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 となると,Forumに不満点を書き込むことと「低評価」がどのようにしてつながるのかが問題になる。
 これについてのHanney氏の分析結果はシンプルで,

・ゲームを購入する
・起動した時点で何らかの問題が発生する
・発生した問題をフォーラムに書き込む
・書き込み終わってもう一度遊んでみると,やっぱり問題が発生する
・「低評価」をつける

 ……という流れが基本となるようだ。納得できる流れである。

 となるとひとつの対策として,「低評価」をつけたレビューに対して開発側がコメントをする(その問題点はこう解決できます,など)ことで,低評価を撤回してもらえるのではないかという推測も可能になる。だが興味深いことに,この施策はあまりうまくいかないことのほうが多いという。

 低評価レビューを書いた段階でユーザーはそのゲームに見切りをつけてしまっているし,ひいては開発側に対する信頼感も喪失している。このため,この段階で開発側からアクションを起こしても,あまり効果はないというのは理解できる。

 では,開発・販売側は,どうしたら良いのだろうか?

こうなってからでは手遅れ
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開発側がフォーラムに参加する・しないによって生まれる差はいかほど?


 Hanney氏はここで,彼がコミュニティマネジャーとして仕事をした案件をもとに,実際にどういう数字が現れているかを幾例か示した。

 まずは2022年に発売されたスノーボードゲーム「Shredders」。この作品には1490件のレビューが寄せられたが,そのうち「低評価」は70件(4.6%)。
 フォーラムへの書き込みは1081件あり,制作側からの投稿は220件。1081件の書き込みのうち,「低評価」と紐づけ得る書き込み(Steam IDなどで追跡できる)は7件ある。つまり「低評価」のうち10%弱は,フォーラムへの不満の書き込みという前兆があった,というわけだ。

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 だが,「ならば前兆が現れた段階で対処する」ことによってハッピーエンドを迎えられるかと言えば,そう話はうまくいかない。「Shredders」の場合,フォーラムに対する不満の書き込みの10時間後には,「低評価」がつけられているからだ。
 Steamが全世界的なプラットフォームであることを考えれば,10時間はどうしたって対応できない可能性を秘めた数値だ。人的資源に限界のあるインディーズゲームにおいては,24時間体制でフォーラムを監視するのは非常に難しい。時差の関係で,「担当者が寝ている間に低評価まで至る」可能性は十分にある。

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 似たような数値は,別の作品でも見られる。リリースされたばかりの「Deliver Us Mars」には720件のレビューが寄せられたが,そのうち低評価は233件(32%)。
 フォーラムへの書き込みは1354件あり,制作側は10件の書き込みを行っている。1354件の書き込みのうち,「低評価」と紐づけられそうな書き込みは23件で,およそ15%強(17%程度)となる。

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 ここで興味深いのは,「Deliver Us Mars」は開発側の書き込みが少ないことと,「低評価」に紐づく書き込みの比率が高いことだ。また「Deliver Us Mars」では書き込みから3時間後に低評価がついているケースがあり,こうなると開発側がレスポンスする難度は「Shredders」よりずっと高くなる。
 またフォーラムでは「ここを開発者は見てるのか?」という疑義が提示されており,「こんなところに書き込んでも無駄だ」というユーザーの思いが垣間見える。

あまりにもな言い方ではあるが,そう言いたくなる気持ちにも,いちゲーマーとしては共感できる
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 さて,となると気になるのは,開発側の書き込みが少ないことと,フォーラム経由で低評価を発生する可能性の間に,相関があるかという点だろう。この疑問に対しHanney氏は別の極端なケースを示した。

 登場したのは「Total War Warhammer III」である。この作品は47301件のレビューが寄せられ,そのうち低評価は11840件(25%)。
 フォーラムへの書き込みは12232件あるが,この作品では開発側がフォーラムをほぼ使っていない。12232件の書き込みのうち,「低評価」と紐づけ得る書き込みは1269件で,およそ14%となる。
 またさすがに件数が多いだけあって,フォーラムへのネガティブな書き込みからたった3分で低評価レビューがつくケースも観測されている。この場合,ユーザーはフォーラム経由の対応をまったく期待しておらず,フォーラムに書き込んだ段階で低評価が確定していたと考えるべきだろう。

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 では逆に,開発側がフォーラムにベッタリ張り付いたらどうなるのだろうか?
 「Space Pirate Trainer」の開発チームは,「Forumを鷹のように監視し,開発側への要望が書き込まれたら,数分以内に反応する」という無茶をやり遂げている。結果,2550件のレビューが寄せられ,そのうち低評価は152件(5.9%)。
 フォーラムへの書き込みは2033件あり,制作側は875件の書き込みを行っている。そして2033件の書き込みのうち,「低評価」と紐づけられそうな書き込みは,なんと1件しかなかった。しかもその1件が付くまでには,4か月の猶予が発生している。
 「Space Pirate Trainer」のユーザーは,「Forumに書けば,時間はかかっても,なんとか対応してもらえる」という強い信頼感を持つに至っていたというわけだ。

ちなみに「4か月待ったが開発側が対応してくれなかった要望」は,「古いバージョンのゲームを遊びたい」というもの。ちょっと対応し難い案件だ
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すべてをコミュニティマネジャーが行う必要はない


 この4つの調査は,最初に述べたようにHanney氏が個人的に,かつ手作業で行っていることもあり,「相関がある」と断言するには母数が少なすぎる。だが「Space Pirate Trainer」の例は,開発側がForumに対するケアを徹底することで,「Forumへの不満の書き込み」という不吉な兆候を,兆候の段階で処理できる可能性を示唆している。
 とはいえ,繰り返しになるが,人的資源に限りのあるインディーズゲーム開発チームが24時間体制でForumに張り付けるかと言えば,端的に言って「無理」と答えるほかないだろう。また,そこまで労力を投じても,「低評価」のうち10%〜15%程度を削減できるに留まるというのも,なかなか悩ましい問題だ。

本記事がとくに気になったプロの読者向けに,Hanney氏が行った調査法のスライドを示しておく
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 これらを踏まえ,Hanney氏は「Forumに現れた不満に対応してくれるような,強いコミュニティを作る」ことの重要性を指摘した。

 またそういった「強いコミュニティ」にしても,「誰かの疑問にその場で即答できる熱心なファンを作る」といった非常識な目標ではなく,「そういう疑問はForumではなく,(例えば)この公式Discordチャンネルに投稿すると対応してもらえるよ」と教えてくれるファンを作るという,現実的な目標が示されている。また,「こういう問題が起こったが,こうすれば解決できた」という書き込みをしてくれるファンを育てるのも,同様に現実的だ。

 そしてそのために最も効果的かつ絶対に必要なのが,「開発側が積極的にフォーラムに書き込む」ことだと,Hanney氏は指摘した(ちなみに氏の言葉をそのまま翻訳すれば「Steam Forumという怒れる海に飛び込んでいこう」)。

飛び込んでいこう
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 インディーズゲーム関係の講演では,「コミュニティを大事にしよう」という言葉が頻繁に語られるが,「では『大事にする』とはどういうことであり,現実的な目標として何を掲げ,具体的に何をすればいいか」というところまでしっかりと踏み込んだ講演は決して多くない。本講演はCommunity Management Summitで行われただけあって,具体的かつ現実的な指標が示された,有益な講演であったように思う。

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