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[GDC 2023]IGFにノミネートされた学生作品を紹介。「こんなゲームが作りたい」という強い思いを具現化。SteamでデモのDLも可能
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印刷2023/03/26 20:47

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[GDC 2023]IGFにノミネートされた学生作品を紹介。「こんなゲームが作りたい」という強い思いを具現化。SteamでデモのDLも可能

画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2023]IGFにノミネートされた学生作品を紹介。「こんなゲームが作りたい」という強い思いを具現化。SteamでデモのDLも可能
 GDCに併催される「Independent Game Festival」(以下,IGF)は,インディーズゲームファンにとって年に1度のお祭りだが,ちょっと残念なところもある。世界的なグランプリであるだけに,ノミネート作品はファンにとって,すでによく知っている作品になりがちなのだ。
 今年のIGFでも,「TUNIC」がSeumas McNally Grand Prizeを取るのではないかという予想をあちこちで耳にした。
 実際に受賞したのは非英語圏のファンにはややなじみの薄い「Betrayal at Club Low」だったが,それ以外の部門でも,とにかく有名作品がノミネートされることが多く,エキスポ会場の展示を見ても,なかなか「初めて見るゲーム」に出会えない。新し物好きなインディーズゲームファンとしては,これはこれで若干の寂しさを感じずにはいられないものだ。

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「Independent Game Festival」公式サイト


 とはいえ,IGFに「初めて見るゲームばかり」のエリアがまったくないかと言えば,そんなこともない。学生作品がノミネートされる「Best Student Game」部門があり,学生らしく,どれも自分たちが作りたいものを一直線に目指した作品ばかり。初めて見るゲームと高確率で遭遇できる。

 ということで本稿では,Best Student Gameアワードを獲得したrandomerzの「Slider」と,独特のアートスタイルが異彩を放つIndoor Sunglassesの「Mind Diver」の2本を簡単に紹介したい。


世界をスライドさせる「Slider」


 「Slider」はアクションパズルアドベンチャーで,大災害に襲われて分断された世界で,プレイヤーは,大切な相棒である猫と再会するために冒険を繰り広げるという作品だ。
 まず目を引くのはモノクロを基調としたドット絵というアートスタイルだが,これはインディーズゲームの世界で珍しいものではない。本作を特徴づけるのは,ゲームシステムだ。

制作チームの一人,Chase O’Brien氏
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基本的には2Dのアクションパズル
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 「世界は分断されている」と述べたが,ゲームシステム的に言えば,この世界は3×3に分割されていて,実際に移動できるのはこのマス目のうち1つだ。プレイヤーは,伝説のアーティファクトを用いることで,このタイルを上下左右に移動させられる――早い話が,世界のマップが3×3のスライディングブロックパズル(一般的には4×4で構成された16パズルが最も有名だろうか)になっているのだ。これが本作のタイトル,「Slider」の所以となる。
 Steamではデモ版が公開されているので,実際にどんなゲームなのかは,ダウンロードして遊んでもらうのが早いだろう。「スライディングブロックパズルを再解釈する」という一点にゲームを絞り込んだ,インディーズらしいインディーズゲームだ。

世界そのものを再構築して,問題をクリアしていく
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ゲーム開始直後は世界を構成するタイルの数が少なく,謎を解くことで次第にタイルが増えていく
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タイルの内部で,解くべき別のパズルが提示されることもある
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 本作を制作したrandomerzは複数の大学に所属する学生からなるチームで,コアとなるメンバーはジョージア工科大学に通う10人前後の学生だ。プレイテストそのほか,制作を手伝ってくれたメンバーの数は30人以上になるという。
 開発は続いており,将来的にはタイムトラベル要素など,さまざまなドラマが発生する,結構なボリュームのパズルアドベンチャーになるという。ゲームの骨子はすでに間違いなく面白いので,正式リリースを心待ちにしたいところだ。

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記憶の海へダイブして事件の謎を解く「Mind Diver」


 「Mind Diver」は一人称視点のアドベンチャーゲームだ。
 プレイヤーは,事件に巻き込まれた(と思われる)被害者の記憶へダイブし,事件の真相を解き明かさねばならない。被害者の記憶は一部欠落しているので,プレイヤーは被害者の記憶を探索することで,何が起こったかを「思い出させる」必要がある。

制作チームのAndreas Johonsen氏(右)Anne Sofie Schaumburg氏(左)
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 ゲームシステムは比較的シンプルだ。プレイヤーは3D空間を歩き回ってさまざまな人物の声を聞き,それを手がかりとして記憶領域に存在するオブジェクト(これらは記憶に紐付けられている。なにせプレイヤーは記憶の中を探索しているのだ)を回収し,正しい記憶の復元を試みていく。

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 例えば,ある女性が恋人の男性と会話をしており,その中で男性が朝食のメニューについて語っていたとしよう。その女性は何かを手に持っているようだが,その部分が「記憶の空白」になっており,ブラックホールのようなものが女性の手を中心に表示されている。

 この場合,プレイヤーがやるべきことは

(1)朝食のメニューを正確に把握し
(2)記憶領域を探索してキッチンを探し出し
(3)そこに置いてある料理の中から正しいものを確保して
(4)「記憶の空白」にその料理を置く


……という流れになる。

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 プレイヤーが探索できる記憶の広さはそれほどでもないので,記憶を先に探索していれば,キッチンがあることが分かる。そしてこれが会話の中で語られている朝食のメニューに注目する根拠としても機能する。このように,十分に合理的な範囲内で,記憶の空白に何を充当すべきかが推理可能になっている。

 そのうえでゲームを強く特徴づけているのは,記憶に存在するすべてのものが,3Dスキャンされた物体のようなアートスタイルで描かれていることだろう。一瞬の記憶を切り取っているせいか,何もかもが静止しているのも印象的で,デジタル時代の印象派の世界を探索しているような気持ちになれる。ただし技術的に言えば,各種オブジェクトを3Dスキャンによって作っているわけではなく,フォトジオメトリーによる,3Dスキャンっぽい表現だという。

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 また本作の記憶領域は,「記憶の海」に漂う「記憶の泡」として表現されており,複数の「記憶の泡」の間は,海中を泳いでいくように異動していく。それでは移動速度が遅くてストレスになるのではないかと心配する向きもあるだろうが,テレポートゲートも用意されているので,せっかちさんも安心だ。

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 あえて弱点を指摘するなら,バーチカルスライスを作っている段階だということもあり,レベルデザインが未成熟だという点が挙げられる。はっきり言って,謎解きのために移動するフィールドが広すぎるのだ。このあたりは今後の開発で重点的に完成度が高められていくことを期待したい。こちらもSteamでデモ版をダウンロードできるが,「Slider」ともども,学生作品に日本語ローカライズを期待してはいけない。

 本作はデンマークのオールボー大学の学生を中心としたプロジェクトで,こちらも複数の大学の学生がチームに参加している。
 オールボー大学にはゲーム制作コースが存在しないが,「ゲームを作るために必要な技術を学ぶ講義は複数存在する」とのこと。つまりCG制作や3Dモデル制作,Unity実習など,個別に存在する講義で得られたスキルをつなぎ合わせてゲームが作られているわけだ。まさに「ゲームを作りたい」という情熱が産んだプロジェクトと言えるだろう。

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 IGFのBest Student Gameアワードにはこれ以外にも複数のノミネート作品があり,この2つを含めて合計6作品が展示されていた。いずれも尖った表現を持つ高度な作品だが,微妙に(かつ肝心なところで)詰めの甘さも感じられる学生作品らしいインディーズゲームだ。良くも悪くも,「これを作りたい!」という強い意思が現れた作品なのだ。

 そのうえで6つのノミネート作品が,例えば東京ゲームショウに出展される学生作品と比べて突出しているかと問われれば,「国際的なアワードにノミネートされるだけあって,確かに差はあるものの,かけ離れてはいない」というのが正直な感想だ。個人的には,当たって砕けろの精神で日本の学生作品も積極的にIGFに出展するべきではないだろうかと思う。

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