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印刷2023/05/02 13:00

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「Sky 星を紡ぐ子どもたち」で行われている,“もの作りの一環”としてのプロモーションとは。京都精華大学の講義をレポート

 京都精華大学は2023年4月18日,同大学のキャリア教育科目「クリエイティブの現場」にて,「感情と体験を伝える『Sky 星を紡ぐ子どもたち』のプロモーションアプローチ」と題した講義を行った。

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 講義では,thatgamecompanyのブランド・マーケティング・アソシエイトを担当する藤原未歩氏と,ジャパン・ブランド・リードを務める水谷 立氏が登壇。同社の「Sky 星を紡ぐ子どもたち」iOS / Android / Switch / PS5 / PS4)のプロモーション事例を学生に向けて解説した。

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プロモーションとは,「伝えたいもの・ことを,どうにかして,誰かに届ける」こと


 冒頭で藤原氏は,プロモーションについて「もの作りに取り組んでいるすべての人が大切にしている,とても大事なこと」と説明した。どんなにいい作品を作ったとしても,発信しなければ誰にも届かない。“誰かに伝えたい作品と,伝える先の誰か”をつなぐ役割を担うのがプロモーションというわけである。

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 ここで言う作品とは,芸術作品や映画,漫画,アニメ,イラストなどのコンテンツだけでなく,企業の商品やサービスも当てはまる。今回のテーマとして取り上げた“作品”「Sky 星を紡ぐ子どもたち」について藤原氏は,「あれだけ膨大な時間をかけて作った作品であっても,世界の片隅に置いてあるだけでは誰からも気づいてもらえないかもしれない」と,あらためてプロモーションの重要性を説いた。

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 さらに藤原氏は,上記の過程を「伝えたいもの・ことを,どうにかして,誰かに届ける」と簡潔に表現し,そのなかの「どうにかする」という部分がプロモーションにあたると説明した。この「どうにかする」を分解していくと,そこにはさまざまな手法がある。その中から,作品にもっとも適した効果的な手法を,プロモーションごとに選んでいかなければならない。

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 では,適した手法を選ぶにはどうすればいいのか。藤原氏は,「誰かに届ける」の“誰か”を具体的にする──つまりターゲットを絞っていくとし,「どんな人にこれを届けたいのかを,最初にしっかり決める必要がある」と説明した。
 さらにプロモーションの基礎としてとは,「伝えたい人のことをよく考えたうえで,どんな方法が一番喜んでもらえるのか,驚いてもらえるかを考える」ことを挙げた。

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 水谷氏は,「毎年多くのスマートフォンゲームがリリースされるなか,せっかくいいものを作ったときに,それを知ってもらったうえで,『これはすごくいいものだ』『これは少し好みじゃない』と評価されるならまだ納得できる。しかし,知られていないまま埋もれてしまうのはもったいないし,悲しいこと」と話す。「プロモーションとは,よりシンプルに言い換えると『知ってもらうこと』であり,thatgamecompanyではもの作りの一環だと捉えている」と語った。

 プロモーション事例の紹介に先駆けて,thatgamecompanyのJapanチームがどんな部署なのか,藤原氏によって説明された。それによると,Japanチームはthatgamecompanyが開発した「Sky: Children of the Light」(「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の原題)を,日本にもっと広めるために生まれた部署とのこと。
 そのミッションは,「日本で『Sky』をプレイしてくれる人をもっと増やす」「日本で『Sky』をもっとプレイしやすい環境にする」の2つで,上記の「誰かに届ける」の「誰か」には,大前提として「日本で『Sky』をプレイする人」が入ると話していた。

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 Japanチームをさらに分解すると,大きく5つのセクションに分かれる。
 「User Acquisition」(UA)は,新規プレイヤーの獲得を目指すチームだ。「ローカライズ」は英語で作られた「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の世界観を伝える翻訳に取り組む。「プレイヤーサポート」は,プレイヤーから寄せられた問い合わせやフィードバックを受けて,プレイ環境を整えていく。「コミュニティ」は,プレイヤーとの関係の構築をしていく仕事──いわゆる「TwitterやInstagramなどSNSの中の人」のことである。そして「ブランドマーケティング」は,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の価値を高めていく役割を担う。
 講義では,その中からとくにプロモーションに重きを置くというUAとローカライズ,ブランドマーケティングの3つの事例が紹介された。

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「User Acquisition」(UA)セクションの事例


 UAは,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」を知らない人,知っているけれどまだ遊んだことがない人などに対して,ゲームの魅力が伝わるようなWeb広告を届け,ダウンロードまで導くことが仕事となる。さまざまなデータを駆使して「Sky 星を紡ぐ子どもたち」を楽しんでくれる可能性の高い人に広告を届けるべく,業務に取り組んでいるとのこと。

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 UAの目的は「新規プレイヤーを増やす」ことであるため,「誰に届けたいか」の“誰に”の部分には,「『Sky』を知らない人」「『Sky』を好きになってくれそうな人」「知っているけれど遊んだことがない人」などが当てはまる。そういった,今後ユーザーとなってくれそうな人達の属性や年齢を調べ,Web上のどこにいるのか,ほかににどんなことに興味があるのかなどを分析していく。

 UAでは,そのうえでターゲットの属性とYouTubeやTwitterなど媒体の特性に合わせて,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の魅力がもっとも伝わる広告とは何かを考え,情報を発信しているとのこと。スマホやタブレットでプレイするゲームなので,テレビCMや駅の広告よりも,スマホに流れるデジタル広告を活用するケースが多いことも言及された。

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 実際に使用されている動画広告も紹介された。この広告では,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の基本的な情報や実績,口コミなどを端的に入れることで,プレイヤー数の多さや評価の高さをアピールし,さまざまな側面から興味を持ってもらうことを狙っているという。

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 この動画広告は,Google上のさまざまなページで配信されており,何万人もの人達に届いているそうだ。また,動画広告を何秒見たのか,見た人の中から何人が実際にダウンロードしたのかといった詳細なデータもチェックできるとのこと。
 さらに動画広告で伝えたかったこととしては,ゲームの基本的な情報だけでなく,「自由に空を飛べるゲームであること」が挙げられた。そのため空を飛ぶ爽快感や美しい景色,音楽,魅力的な世界観を直感的に伝えて,見る人の「気持ちよさそう,楽しそう」という気持ちを引き出すことに注力したそうだ。

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「ローカライズ」セクションの事例


 ローカライズは,直訳すると「地域化」で,原文をそのまま訳すのではなく,ゲームの世界を理解・熟知し,翻訳先言語の文化にも寄り添った言葉にすることを指す。開発チームがゲームの中に込めたメッセージや,アップデートなどの重要な情報を,正しく親しみやすい日本語に変換することも重要な役割の1つだ。

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 「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のローカライズは,日本で本作をプレイする人たちに向けられたものである。しかし一度世間に公開された翻訳は,基本的に変更されることがない。そのため,将来的にプレイヤーになる可能性のある人達に向けて,時代性や流行を問わない言葉選びをすることも重要になるという。

 ローカライズをするにあたっては,「原稿の内容の確認と理解」「グローバルや日本チームとのすり合わせ」「日本版名称の確定」など,さまざまな手順がある。とくに「使用可能な表現・語彙の確認」は,「ゲーム内で使う言葉を,しっかり世界観に合わせることで,秩序を守る仕事」と説明がなされた。

 ローカライズによって届けたいものとしては,「慣れ親しんだ言語で『Sky』の世界を楽しめること」「言葉という側面から『Sky』の秩序を守ること」「ほかの国のプレイヤーと共通した認識を持ち,イメージのズレを互いが感じることなく,一緒に『Sky』をプレイできること」の3つが挙げられた。
 とくに3つめに関して藤原氏は,「ローカライズ担当者は,世界中の誰とでも友達になれる『Sky』だからこそ,違う言語を話すいろんな国の友達とも同じことを感じられるようにローカライズするということを大切にしています」と話していた。

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 具体的なローカライズの事例として,先日スタートしたインゲームイベント「Season of Passage」が紹介された。このイベントは,日本では「ならいの季節」と名付けられたが,そこには4つのプロセスがあったという。

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 まずブレインストーミングでは,イベントの開発版やβ版をプレイしたり,開発担当者の意図を確認したりして,しっかり理解を深める。次に「Season of Passage」の“Passage”という単語から連想して20〜30程度の名称候補を挙げていく。

 絞り込みでは,テーマにより近い響きや字面のよさなどを踏まえて,名称候補を絞っていく。その過程では,漢字やひらがな,カタカナにしたらどうなるかといった比較も行うそうだ。この段階で,名称候補は5〜10に絞り込まれる。

 この段階で,名称候補をコミュニティチームと共有。ここで別の名称候補が生まれるケースもあるそうだが,協議して1つに絞り,監修のOKが出たら決定となる。
 藤原氏は,これらのプロセスについて「皆さんが,これから作品のタイトルやキャラクター,設定を考えたりするときにも,このプロセスは活かせるかもしれない」と話していた。

「Season of Passage」のローカライズが,誰に向けたプロモーションで,どんな手法を使い,何を伝えたかったのかのまとめ
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「ブランドマーケティング」セクションの事例


 ブランドマーケティングは,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の魅力を最大限に活かしつつ,ほかのブランドや企業とのコラボレーションやイベントなどを実施することで,メディアにも訴求して,より多くの人に本作を知ってもらう機会を創出することが役割となる。
 また,すでに本作を知っている・プレイしている人にとっても,より身近なものと感じてもらえるような企画にも取り組んでいるとのこと。

 水谷氏はブランドマーケティングについて,「プロモーションという言葉から受けるイメージからすると,一番分かりやすいものではないか」とし,「UAが,知ってもらって触れてもらうところまでをゴールにしていると考えると,ブランドマーケティングはそれより一つ前の段階。本当に何もないところから,まずは気づいてもらう,知ってもらうことを考える。そして,その時点では触れてもらうまで至らなくとも,何となく記憶に残ってもらえればそれは大きい。何かのタイミングで再び見かけたときに,『これ,前に見たことがある』と思い出して記憶が結びつくのを狙う」と説明を加えた。

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 メディア向けの展開もブランドマーケティングの仕事だ。藤原氏は「私達が伝えようとしても,限界がある。そこで情報を届けることに関して専門のメディアの力を借りない手はない」とし,メディアが興味を抱いて「自分も情報を発信したい」と思ってもらえるような取り組みを行っていると説明した。

 ターゲットそれぞれに対して,どういった手法で取り組みを行っているかに関しては,PRキャンペーンやコラボ企画,オリジナルグッズの企画・販売,展示会への出展やイベント開催,それらを告知するための広告施策が挙げられた。
 そうした手法を駆使して伝えたいことは,より多くの人に「Sky 星を紡ぐ子どもたち」を知ってもらうきっかけを作ることだ。また,すでに本作を知っている人やプレイしている人に向けては,より身近に感じてもらったり,より愛着を持ってもらったりすることで,ブランドの価値を向上させるという目的もあるという。

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 具体的な事例として,ヴィレッジヴァンガードとのコラボレーションが紹介された。このコラボでは,店舗を「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の世界観を伝えるような装飾でデコレーションするなど,さまざまな取り組みを行ったとのこと。とくに,ヴィレッジヴァンガードの特徴的な黄色いPOPを使ったことで,プレイヤーとの双方向のコミュニケーションを実現できたのが大きかったという。

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黄色いPOPをテンプレートとして配布し,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」をオススメする言葉や好きなところを募集したところ,900件前後の応募があったという
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ヴィレッジヴァンガードとのコラボでは,2名のイラストレーターがアートを手がけたグッズも販売された
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東京ゲームショウ2022へのブース出展および広告出稿の事例も。こちらは,主にコンシューマゲームをプレイする人などを意識した取り組みだったとのこと
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インフルエンサー施策では,漫画家やVTuber,イラストレーターの協力を得て,それぞれのファンに「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の魅力をアピールした
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より広い層を狙って,人気番組でテレビCMを展開。見た人が「自分とも関係があるのでは」と興味を抱くように,ゲーム画面だけでなくリアルの映像も採用した
各プロモーションに触れた人の反応も紹介された
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 セッションの最後に藤原氏は,「thatgamecompanyのゲーム作りの精神や,『Sky 星を紡ぐ子どもたち』の精神を全てのプロモーションに反映させることで,本作ならではの体験や感情を届けられる」とあらためて語った。さらに「私達のプロモーションは,『Sky 星を紡ぐ子どもたち』というゲームを知ってもらうことだけで完結するのではなく,ゲームを通して伝えたいことや本作でしかできない特別な体験をしっかり入れ込んで伝えることを常に意識しています」と続けて,講義をまとめていた。

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聴講者の学生が考えた「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の広告コピーを,thatgamecompanyのスタッフが講評するコーナーも設けられた
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