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[CEDEC 2023]プロのゲーム開発者への架け橋になりたい。開発会社がWebメディアを立ち上げた理由
「ゲームづくりを楽しむためのWEBメディア」として同社が運営する「ゲームメーカーズ」(※リンク)が誕生した経緯や方針,今後の展望などが語られた。
ヒストリアは家庭用ゲームやアーケードゲーム,VRゲームなどに加えて,建築や自動車,映像といったノンゲームコンテンツの開発も行っている。すべての開発にUnreal Engineを使用し,開発者コミュニティとして技術ブログやイベントの開催,そしてWebメディア ゲームメーカーズの運営を担う。
ゲームメーカーズは2022年5月にスタートした。平日は毎日,2〜4本のペースでゲーム制作全般に関する記事を更新し,現在の記事数は1000以上となっている。
佐々木氏はゲームメーカーズの立ち上げのきっかけとして,5年ほど前の出来事を挙げた。セミナーに参加していた学生から「自分なりに勉強したいが,何を参考にすればいいのか」という質問を受けたが,答えられなかったという。「ゲーム開発の情報がまとまった場所があればいいのではないか」と考えたものの,会社として動くには懸念事項が多く,構想段階で止まってしまう。
佐々木氏はかねてより,「ゲーム制作」「ゲームテクノロジー×非ゲーム領域」「ゲーム制作コミュニティ」というテーマに興味を持ち,それぞれに課題を感じていたという。その最たるものが「人材課題」であり,ゲームクリエイターになりたい人は多いが,業界の人材不足は解消されていないと語る。その理由として,佐々木氏は「ゲーム制作は難しい」という見解を示した。
確かにゲーム制作は難度と専門性が高く,知識と技術が必要だ。ゲームクリエイターになりたい人の実力が,そのボーダーを超えられないことが多いというのだ。
ボーダーを超えられる人材を育てるには,自然と教育コストは高くなる。また,業界全体で1年間に育成できる新人の数に限界があり,ゲーム業界の成長速度に対して人材育成が間に合っていない状況が続いている。
では,クリエイターの専門学校の教育が足りていないのか。佐々木氏は「改善点はあるものの,難しい条件の中で頑張っている」と述べた。
だが,専門学校以外からのゲーム業界への入り口(ルート)が細く,何を応募したらいいのか分からず,それを調べる手段さえ少ない現状を指摘する。
さらにゲーム制作に興味を持ったとしても,そこからプロへなるための道のりが長く遠いうえ,「興味がある」と「プロの開発者」の間を埋めるコンテンツ(場所や教材なども含む)がない。同人イベントやコンテストなど,アマチュアも参加できるコンテンツもあるが,それらはストイックにゲーム制作を続けられる人向けで,広く一般的とはいい難いとのこと。
一方,あまり表立って見えない部分もあるが,ゲームエンジンの普及によりノンゲームコンテンツのコストが下がったことで,多くの業界がゲームエンジンを導入している。とくに盛り上がっている業界が自動車業界とバーチャルプロダクションだという。
盛り上がりを見せるノンゲームコンテンツだが,佐々木氏は最大の課題として「業界がないこと」を挙げる。
ゲームエンジンを活用する,ゲーム開発以外の職業があることがあまり知られておらず,作られているコンテンツの存在も知られていない。これでは職業に対する憧れなどが生まれる機会もなく,なりたい人がいなければ教育機関も設立されない。これでは業界として成り立たない,つまり「業界がない」というわけだ。
また,喫緊(きっきん)の大きな課題として「案件は増えるが,制作者になる人がいない」ということがある。佐々木氏によると,ゲームを作りたい人が何らかの理由でゲーム制作から退いた,もしくは諦めた場合,知識と技術を持っているがノンゲームの制作者の候補になりにくいらしい。
ゲーム制作イベントにおける人数の上限は,オンラインの場合は300〜500人,セミナーイベントの場合は1000〜2000人だという。こうしたイベントは有意義な体験であるものの,高コストな施策のため,参加者の負担が大きい。佐々木氏はコミュニティ活動を通じて,もっと気軽に多くの人へ届けることはできないのかと考えたそうだ。
そうした背景があった中で,佐々木氏は「ぷちコン」で気づいたことがあった。近年の参加者に「ゲーム業界に入りたい人」ではない社会人,つまり「趣味でゲームを作っている人」の割合が多く,中でも小学生から趣味で作っている人も多かったという。
それを目の当たりにした佐々木氏は「ゲーム制作は趣味として成り立つのでは? それにより課題を解決できるのでは?」という考えに至ったそうだ。そして,佐々木氏は価値ある行動として,Webサイトの立ち上げを決意する。
コンセプトは“ゲーム制作のエンタメ化”
Webサイトの立ち上げを決めた佐々木氏が,まず行ったことはコンセプトワークだ。Webサイトで事業を行う,Webサイトで儲けるといったことを軸にしていたわけではなく,ゲーム制作をエンタメ化し,「ゲーム制作をするすべての人を応援する」ことを目標に掲げた。そしてゲーム制作に興味がある人と,プロの開発者の間に橋を架けたいという思いだったという。
そうした目標を達成するために,佐々木氏は「どんな人でも,自分の思いどおりにゲームが作れる」コンテンツとして,メディアや公式SNS,コンテストやジャム,セミナーなどのイベント情報をWebサイトにまとめることにした。
コンセプトワークを具体化する
有末氏はゲームメーカーズにおいて,ユーザー調査やニーズ分析を担当している。コンセプト決定後,想定ユーザーの調査として身近な社内の開発者にヒアリングを行ったという。
ヒアリングの結果から,ゲーム以外のものづくりをデジタルで行っている「デジタルクリエイター」,ゲームが好きな「濃いゲームユーザー」,職業として仕事をしている「ITエンジニア」,そして「プログラミング初心者」という4種類のユーザーを設定,各々がどのようにゲームづくりをしていくのか,それぞれに生じうる疑問点や問題点を想定し,Webサイトによって解決することを目指すことにした。
ユーザーのイメージが固まってきたところで,そのユーザーに受け入れられそうなデザインを模索した。サイトのタイトルを「ゲームメーカーズ」に決定し,ブランド全体のデザインは明るい雰囲気,eスポーツ系を意識した結果,現在のロゴが完成したとのこと。
コンテンツ制作とその方針
神山氏からは,サイト制作とコンテンツの内容について紹介が行われた。
ゲームメーカーズに求められる要件を「情報がまとまっている」「アイデアが得られる」「いつでも誰でも享受できる」ことであるとし,それぞれを2つの要素に落とし込んでいったという。
一見するとオーソドックスなメディアの機能に落とし込まれているようだが,神山氏はバックボーンにコンセプトがしっかりあることが重要だという。ゲームづくりに不要な情報を省き,ごく一部のプロのみがターゲットとなるものは作らないという考えを編集部では徹底しているとのことだ。
サイト制作を進めていく中で,あらためて価値提供ラインを話し合ったという。それが上の画像である。
毎日2本のニュース記事は,1か月間のゲーム開発に関するニュースをまとめて精査した結果,1日平均2〜3本程度の取り上げるべきネタがあったことから基準にしている。また,インタビューなどについては,ゲーム開発会社であることから,詳細な情報を語れる点を生かした内容にしていくことにした。
そして,保守管理を加味すると,当初の想定よりコストが大幅にかかってしまうため,コンテンツの維持と安定供給を行うためにPR記事やバナー広告といった,一般的なセールス機能を持つことを決定している。
神山氏は1年間の運営について,やや上級者向けの記事が多い結果になったと振り返る。今後は間口を広げるべく,カジュアルな記事によって趣味層に近いユーザーにリーチしたいと今後の展望を語っていた。
「ゲームメーカーズ」だからできることを
最後のテーマとして,有末氏から「ブランドの広がり」について解説が行われた。
有末氏はゲームづくりの情報とアイデアを届けることは重要だが,「それだけでは足りないのではないか」「実際にゲームづくりを行う人は増やせないのではないか」と考え,Webサイト以外の施策を行っているという。
「ゲーム作りで盛り上がろう」をコンセプトに掲げて開催した「ゲームメーカーズスクランブル」は,未経験者からプロまで幅広く楽しめる講演,ゲーム制作を体験できるハンズオンイベント,講演者や開発者に相談できるコーナーを用意したリアルイベントだ。
また,学生にとって当たり前のメディアを目指すべく,ゲームメーカーズのポスターを専門学校に配布し,ボーンデジタルとのコラボレーション施策として書籍を発売した。
セッションの締めくくりでは,佐々木氏から「ゲーム開発者に向けて良い情報を届けていくとともに,ゲーム制作という活動を世の中に広げていき,業界全体を盛り上げていきたい」との意気込みが語られた。
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