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[TGS2023]eスポーツがもたらす新たな可能性──多様性と社会的効果について,有識者が意見交換したセッションをレポート
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印刷2023/09/23 18:27

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[TGS2023]eスポーツがもたらす新たな可能性──多様性と社会的効果について,有識者が意見交換したセッションをレポート

 2023年9月22日,東京ゲームショウ2023のビジネスセミナー「TGSフォーラム」にて,日本財団と日本eスポーツ連合(JeSU)共催のセッション「eスポーツがもたらす新たな可能性」が行われた。このセッションでは,eスポーツの多様性と社会的効果について,有識者が幅広く意見を交わした。登壇者は,以下の5名である。

ユニバーサルeスポーツネットワーク代表理事/国立病院機構北海道医療センター 作業療法士 田中栄一
ユニバーサルeスポーツネットワーク 吉成健太朗
ライアットゲームズ パブリッシング統括部ブランドマネージャー 森下 諒
ゲーム教育ジャーナリスト/東京国際工科専門職大学講師 小野憲史
JeSU 広報担当 戸部浩史氏


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eスポーツから生まれているストーリー


 セッションでは2つの話題が取り上げられ,その1つめが「eスポーツから生まれているストーリー」である。田中氏は,自身が勤務する国立病院機構北海道医療センターにて,手を使えないなどの障害を抱えた人たちが,顎や頬,視線で操作するといった,それぞれの障害に合わせてカスタマイズされたデバイスを駆使して,「Apex Legends」などのゲームをプレイしていることを紹介した。

田中栄一氏
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 また自身も脊髄性筋萎縮症の当事者であり,同様に専用デバイスを使ってゲームを楽しんでいるという吉成氏は,通常のコントローラやキーボード,マウスではゲームをプレイできないけれども,デバイスを工夫することにより,ゲームをプレイできるようになったと語る。さらにゲームを通じて,さまざまな人たちとオンラインで交流できるようになったという自身の体験を披露した。

吉成健太朗氏は,北海道からオンラインでセッションに参加
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 森下氏は,ライアットゲームズが掲げている「世界でもっともプレイヤーを大事にするゲームパブリッシャであり続ける」というモットーを紹介し,同社の考えるプレイヤーの中には,障害を抱えた人達も含まれることを説明。

森下 諒氏
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 その1例として,森下氏はライアットゲームズの「レジェンド・オブ・ルーンテラ」をプレイしている筋萎縮性側索硬化症(ALS)の当事者から寄せられた「視線操作では,マウスのクリック長押しが困難」というフィードバックをもとに,「クリック操作のカスタム」にオプションを追加したというエピソードを挙げた。「できることとできないことはあるが,少なくとも我々はプレイヤーと対話し,どうすればすべての人が楽しめる環境を作り出せるかについて,一緒に考えていく姿勢を保ち続けていきたい」と意気込みを語った。

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 森下氏の話を受けて田中氏は,障害を抱えた人たちが「ゲームを買っても,どうせプレイできないだろう」と最初から諦めていることが多いとし,「プレイできなかったら,それを伝えられる窓口があるのはすごく大事だし,それを見える化していくといい」とコメントした。

 戸部氏は,JeSUがeスポーツを通じて社会貢献に取り組んでいることに言及し,その一例として熊本・美里町にて行った高齢者福祉の事例を紹介した。この事例では,eスポーツを使って「高齢者の認知症予防やフレイル対策」「小学生など若い世代に向けたICT教育の充実」「高齢者と若者の世代間交流」といった課題の解決に取り組んだとのこと。

戸部浩史氏
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 この取り組みは,科学的な検証により,高齢者であれば脳の血流がよくなるなど,それぞれの世代に応じた効果があったとされたという。その結果,内閣府の地域推進モデルケースに選出され,各地方自治体にてeスポーツの活用が推進されるようになっているそうだ。

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 小野氏は,自身が講師を務める大学に,とある医療福祉センターから「施設の利用者向けにゲーム大会を開催できないか」という相談を受けた事例を紹介した。実際にやってみたところ,利用者のほとんどが,障害によって両手でコントローラを持てないという状況だったとのこと。さらには利用者をサポートする職員のほとんどがゲームに疎く,ゲーム機をまともに扱えないという状況だったという。

小野憲史氏
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 そこで小野氏が,1ボタンで遊べる4人対戦のシンプルなゲームを自ら作って,あらためてゲーム大会をやってみたところ,すごく楽しんでもらえたそうだ。「子どものころはゲームが好きだったが,障害によってもう遊べない」「生まれつき障害があるので,ゲームは自分とは縁遠いもの」と思っている利用者もいたそうだが,そうした人であっても遊べるゲームがあることに,皆驚いていたとのこと。
 また小野氏自身も,この事例を受けて,ゲームを使った社会貢献ができるのではないかと考えるようになり,現在は実践と検証を重ねていると話していた。

 続いて田中氏は,「Xbox アダプティブ コントローラー」やSwitch用の「Flex Controller」,PS5用の「Access コントローラー」を紹介。これらのデバイスは,通常のコントローラよりも多彩なプレイスタイルを実現するデバイスで,もちろん障害を持つ人たちがゲームを楽しむためにも活用可能なものである。

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 吉成氏は,リアルスポーツの選手がどんなにスーパープレイを披露したと言われても,自身が実際にそのスポーツを体験できないため,ピンと来ないのだと明かす。しかしゲームであれば,上記のようなデバイスのおかげで実際にプレイできるため,たとえばeスポーツプレイヤーのスーパープレイがどれだけすごいことなのか実感できると語った。

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 吉成氏の話を受けて田中氏は,吉成氏が以前「eスポーツに救われた。努力のしようがないことはたくさんあるけれど,ゲームだったら努力のしようがある。そこにすごく救われた」という旨の発言をしたというエピソードを披露していた。


eスポーツを多様な人がプレイするために必要なこと


 2つめの話題は,「eスポーツを多様な人がプレイするために必要なこと」である。森下氏は,ライアットゲームズの取り組みの1つである「VALORANT Game Changers」を紹介。この取り組みは,「VALORANT」において「女性プレイヤーが活躍できるように」というミッションのもと行われているという。

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 「VALORANT」の大会では,出場選手に性別の制約は一切設けていないのだが,現実問題として上位に入ってくるチームでは女性がスターターメンバーに選出されることは稀だという。と言うのも,昨今のプロゲームチームは同じ場所で寝食を共にしつつ練習を重ねるケースが多く,男性ばかりのところに女性が1人入っていくのはかなり困難といったように,乗り越えなければならない課題がいくつかあるからだ。

 そこで,ポテンシャルがあるのになかなか表に出てこない女性プレイヤーにスポットライトを当てるべく,女性限定の大会として「VALORANT Game Changers」が設立されたとのこと。
 森下氏は,「女性限定大会はサブ大会と位置付けられがちだが,我々としてはメジャー大会の1つとして扱っている。出場選手もeスポーツで生活していこうという覚悟で臨んでいるので,彼女たちが輝ける場所を作っていくことが我々の使命であり,今後のeスポーツの発展や多様な人にプレイしてもらうところにつながっていく」と話していた。

 小野氏は,E3 2018のメディアブリーフィングにて,Xboxのトップであるフィル・スペンサー氏が発言した「ゲームは──とくにオンラインゲームは人種,国境,文化,性別,障害の有無,すべてを乗り越える力がある」という言葉を紹介した。その発言を小野氏は,前日にシンガポールにて行われた,アメリカと北朝鮮による史上初の米朝首脳会談を踏まえたものであると解釈したという。

 さらに小野氏は,1995年のラグビーワールドカップにて,南アフリカの黒人と白人の混合チームが国中の応援を受けて優勝した事例などを挙げ,「スポーツには,社会の分断を乗り越える力がある。そうしたスポーツの持つ本質的な部分の中に,eスポーツを位置付けていくような議論も必要なのではないか。ゲームに興味がある人ない人,障害がある人ない人,子どもや大人といったさまざまな人をつなげていく。そういったゲームの役割を考え直す時期に来ているのではないか」と語った。

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 吉成氏は,自身がさまざまなデバイスを活用してゲームを楽しんでいるという事実を,広く伝えていくことが使命だと話す。そうすることにより,より多くの人に障害を持っていてもゲームがプレイできることを知ってもらいたい,また障害を持っている人自身にも工夫すればゲームを楽しめることを知ってもらいたいと話していた。

 田中氏は,現行のゲーム大会におけるレギュレーションでは,基本的に運営側がデバイスを用意しているため,障害を持つ人たち向けのデバイスを持ち込めないケースが多いことを指摘する。それは障害を持つ人達を排除しているわけではなく,ゲームをプレイするためにそういったデバイスを必要とする人たちがいることを知らないから対応できていないだけであると説明を加えた。

 ただ,そうした課題を乗り越えるためには,障害を持つ人たちがどのようにゲームをプレイしているかを世間にもっと知ってもらう必要がある。そのため自分の病気がどういうものなのか,どれだけゲーム大会に参加したいと思っているのかなどを,障害を持つ人たち自身が声を上げてほしいと語っていた。

セッションの最後には,eスポーツの特徴や可能性などがあらためて紹介された
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日本財団が現在作成している「肢体不自由者のためのeスポーツ手引書」も紹介に
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