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[CEDEC+KYUSHU]松山 洋氏がゲームクリエイター採用のリアルを語った「ゲーム業界大解剖! 〜ゲーム制作の基礎知識と攻略法について〜」をレポート
ゲーム業界の基礎知識として松山氏は,「(ゲーム業界の人は)みんな声に出さないけど,業界はとても潤っている状態」と話す。グローバル展開が当たり前になり,多少の誤差はあるが,多くのメーカーのソフト売上のおよそ9割が海外になったうえに,円安が続いていることも影響している。松山氏は「フィーバータイムは今だけだと思うけど」とことわりをを入れつつ,「親にゲーム会社に入りたいといったら,昔なら『ピコピコ作るって,おまえちゃんと給料もらえるのか』と言われたけど,今は『ゲーム業界,儲かります』と伝えていい」と述べた。
実際,ゲーム業界の市場規模が2030年には100兆円になるという予測もあり,世界を相手にしたビジネスであるため,日本の景気に左右されにくい。日本では少子高齢化が問題になっているが,子どもは世界中にいる。また,現時点でゲームクリエイターの平均年収は,日本の一般的なサラリーマンの平均年収より高く,親や保護者に自信を持って「食っていける」と言える業界だというわけだ。
もちろん,誰でもなれる職業ではない。ゲームクリエイターは,専門的な知識や最先端の技術を身につけ,それを駆使してゲーム開発に従事する専門職だ。給料が高く,なによりゲーム作りを仕事とするゲーム好きにとって憧れの仕事であるため,競争率は高い。
サイバーコネクトツーの2023年度(2022年1月1日〜2022年12月31日)の新卒採用を例にとると,ゲームデザイナー,アーティスト,プログラマーの応募数は739人。最終面接の合格者は23人で,内定率は3%だった。例年,世界中から応募があり,その数が900人〜1000人になる年もあるので,年によって内定率はさらに低くなる。それは,サイバーコネクトツーに限った話ではないと松山氏は語った。
松山氏は続けて,それぐらいゲーム業界はハードルが高いと“思われている”とし,「ここが大事。『思われている』だけで,実はハードルは高くはない。やることをやっておけばクリエイターになれる」と主張した。
ゲーム会社は人手が足りていない。それで各メーカーは「ご応募お待ちしています」と募集をかけるが,具体的にどのような能力を求めているかまでは言わない。それが分からないまま挑んでは不合格を繰り返す“不思議の負け”を続けている応募者がたくさんいるという。
ここで松山氏による“ゲーム業界に入るための攻略法”のレクチャーが始まった。
まずやるべきは,業界を知ることだという。具体的には,ゲーム会社の分類や基本的な業界用語,ゲーム開発のツールと制作フロー,開発に関わるクリエイターの具体的な作業内容などだ。例えば,同じアーティストであっても,キャラクターに動きをつけるアニメーターやインタフェースのデザイナーなど,役割によって必要な知識や技術は異なる。
「今なら,ビジュアルエフェクトアーティストが一番足りていないポジション。エフェクトアーティストを目指していると言うだけで『あっ,ちょっと好き』ってなる。下手でもいい,大事に育てる」と松山氏が述べたように,ゲーム開発の知識を持ったうえで明確なビジョンを伝えられるかどうかが,面接の合格に影響を与える。また,制作進行やローカライズ,QA(品質保証),開発サポートなど,アートやプログラムとは異なる形でゲーム開発に携わる職種についても紹介された。
松山氏はまた,ゲーム業界全体の動きにアンテナを張ることの重要性にも言及した。ゲーム開発者を目指す人が,SNSなどで複数のメディアのニュースをチェックするのは当然だが,好きなタイトルの情報ばかりを追いかけているか,広い視野をもって業界のさまざまなニュースをピックアップしているかで,プロになる人と単なるファンとの差が出るという。
これは,ゲームをプレイすることにも当てはまる。自分の好みでゲームを選び,好きではないジャンルだからと話題のゲームに触れない人や,遊んだゲームを分析しない人は,それらをしてきた人と大きな違いが出る。
サイバーコネクトツーの面接では,雑談のように「最近やったゲームと,それをプレイして何を感じたか。強いて改善点を挙げるとしたらどこか」「最近どんな映画を見たか」「どんな漫画を読んでいるか」といった話をすることに重きを置いているという。映画や漫画など,ゲーム以外のジャンルの話をすることについては,エンタメ全体への関心の深さが見えるからで,最近見た映画が1年前の作品だったり,漫画は基本的に雑誌連載で追わず単行本を待つなど,ちょっとした返答の違いでそれが測れるからだ。
世の中には,1つのものが好きでそれを突き詰めるタイプの強者もいるが,会社の立場としては,さまざまなプロジェクトの中心になれる人かどうかが合否の判断の重要な材料になる。松山氏は,エンタメへの興味関心の程度,それにどれだけアンテナを張っているか,自身が触れた作品を分析し,それを客観的に他人に伝えられるかといった部分が,クリエイター志望者のアピールポイントとして大きいこと,ひいては合格率を上げる大きな要因になると語った。
自分の作りたいゲームは,コンシューマ向けなのか,PCなのか,それともスマホなのか。ゲームで自分は何をしたいのか。自分の目標を明確にし,やりたいことを実現するための具体的な方法を考え,そして実践する。その過程で最も重要なのはゲームを作ってみることだという。
松山氏は,これはアーティストやプログラマーなど,志望職種を問わず,最もシンプルな「やっておくべきこと」であり,作っていれば合格,作っていなければ不合格と言い切れるほど大事だとする。
1人でもいいし,仲間と一緒でもいい。最初は完全なコピーでも,ひどい出来でも問題ない。1つではなくいくつも,最初はパズルで次はシューティング,そのあとは2Dアクションといった感じで,どんどん作ってみることが重要だという。たくさん作ることでゲーム開発のスキルを磨けるのはもちろん,調べる力や,失敗の積み重ねで見えてくるモノなど,多くが得られるわけだ。
新入社員に学生時代についてのアンケートをとると,学校の授業とは別に,平均4時間をゲームの勉強やゲーム開発に費やし,平均8〜10本のゲームを制作していたという。16本も作っていた人もおり,クリエイターになるような人たちは,それだけゲーム作りに時間と情熱を注いでいたことになる。志望者の中には,「これにすべてをつぎ込みました」という1本を持ってくる人も少なくないが,それでは勝負にならないとのこと。
松山氏は,軽い作品や簡単な作品を何本も作るより,渾身の一作を持っていったほうが評価されると思っている人に対して,「学生の作るもののクオリティに大きな差はない。数に手を抜くような生半可な考えを持つ人や,数を作る努力ができない人は,たとえゲーム業界に入れたとしても活躍できない」と話した。
分かりやすい比喩をまじえつつ,ときに厳しく,ときにユーモアたっぷりにクリエイター採用のリアルを語った松山氏は,「ハードルを下げるつもりが,また上げてしまったかもしれない」と苦笑しながら,セッションのまとめとして「最も重要な2つのこと」を伝えた。
それは,「たくさん遊ぶ」と「たくさんゲームを作る」こと。ただ遊んでるだけではダメだが,“遊んですらいない”人とは,面接官である開発者たちも「この人と一緒にゲームを作りたい」とはならない。自分の目標を明確にし,それに向けた正しい努力をすること,そしてゲームを作ることは重要だが,遊びの気持ちを忘れてはいけないということを最後に強調して講演を終了した。
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