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[GDC 2024]ハイパーローカルの環境問題をシュルレアリスムな表現で伝える。ゲームとインタビューで構成されたドキュメンタリーゲーム「Atuel」
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印刷2024/03/23 20:11

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[GDC 2024]ハイパーローカルの環境問題をシュルレアリスムな表現で伝える。ゲームとインタビューで構成されたドキュメンタリーゲーム「Atuel」

 アメリカ・サンフランシスコで2024年3月18日から22日まで開催された「Game Developers Conference 2024」で,「Independent Games Summit: 'Atuel': How We Made a Surrealist Documentary Video Game」というセッションが行われた。

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 「Atuel」は,アルゼンチン西部に実在するアトウェル川の自然を題材としたドキュメンタリーゲームだ。内容は,実写のインタビュー映像で川の歴史を振り返りながら,環境問題による生態系の危機や,今起きていることを学ぶというもの。独特のアートスタイルにより,まるで夢のなかにいるかのような体験をしつつ,思考するという不思議な特徴を持っている。

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 そんなシュールでありつつも地に足のついた不思議なゲームは,なぜ作られたのか。ゲーム部分の制作を担当したプロデューサー/ナラティブ・デザイナーのPablo Quarta氏が,“シュルレアリストのドキュメンタリーゲーム”の歩みを解説した。

 Atuelの世界には,不思議なレンズを通して現実を見ているような,奇妙な夢のような風景が広がっている。
 制作を担当したのは,アルゼンチンのゲーム労働者協同組合・Matajuegos。現代ラテンアメリカの文化やアイデンティティを取り入れた,社会的,政治的,芸術的視点の強いインディーゲームの制作に取り組む団体で,Pablo Quarta氏はその共同設立者のひとりだ。


 Atuelでは,山や川といった実際の地形に基づく不思議な風景の中を探索し,生態系を構成するさまざまなものにシェイプシフトすることで,シーンが次々と切り替わっていく。魚やキツネ,コンドルといった動物だけではなく,雲や雨,そして川を流れる水になって世界を体験することも可能だ。

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 一方の実写ドキュメンタリーは,歴史家,地質学者,エンジニア,活動家,詩人などから,地域の過去,現在,未来,そして気候変動と現在の対立について聞くことができる。
 ゲームの表現とは真逆とも言える要素を手掛けたのが,学術機関や慈善団体,科学者,自然保護活動家を映画制作やデジタルメディアで支援するプロジェクトで,国際的なドキュメンタリー作家が集まっているThe 12.01 Projectだ。

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 ゲームと実写,この2つの要素が組み合わさることで,私たち(人間)と自然の歴史的な関係や,私たちの居場所である自然の生態系について,詩的にも学術的にも学べるゲームが誕生したというわけだ。
 リリース当初は,それこそ超現実な表現で現実を描くシュールなゲーム性のため,注目が集まるとは思っていなかったそうだが,その内容は次第に地域社会から強い支持を集めることになった。

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 またいくつかのキュレーションの枠組みに適合するものであり,映画祭,アートギャラリー,デザイン系の美術館でAtuelの名が挙げられた。そうしたイベントへの参加もあり,2022年には多くの賞にノミネートされ,ベルリンの主要な賞の最終選考にも残った。そして同じ年の後半には,イノベーションとデザインの両方で評価を得ている。

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 では,そもそもどうしてシュルレアリストのドキュメンタリーゲームを制作したのか。

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 The 12.01 Projectは2021年,とあるドキュメンタリー映画に取り組んでいた。それは気候変動とその影響をテーマにしたもので,山の中で生まれた川が干上がるまでの道のりを,徒歩とラフティングの視点で追う内容だった。
 そして調達した資金で小さなビデオゲームを作るため,その仲間としてPablo Quarta氏に接触。初めての顔合わせから何度も何時間も話し合い,また大量のドキュメンタリー映像や専門家との会話といった知見を共有した。

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 地球温暖化と気候危機により,アンデス山脈の氷や雪は年々少なくなっている。このことは,河川の流出量が減少し,河川の水量が減少していることを意味する。川の水量が減るということは生活用水や,かんがい用水も減るわけで,この地で暮らす人々の生活や文化も失われることになる。

 また水の配給政策によって,この水を利用する住民と産業との緊張は高まり続けている。それを伝えるインタビューは,とても現実に根ざした,説明的で直線的なナレーションによって届けられていた。そしてそれは美的で,映画のようなフォトリアリズムと連動している。

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 このドキュメンタリーにゲームを加えるにはどうすればいいか。Pablo Quarta氏はこう考えた。ドキュメンタリーに欠けていた視点や美学を取り入れることで,映像を補完しよう。まったく異なる方法で機能させよう――と。

 Pablo Quarta氏が作ろうとしたのは,短い時間で終わるウォーキング・シミュレーターだった。直感や解釈,感情によって操作する反射的な瞑想体験を作り出すために,録音されたインタビューを活用するという形をとった。
 誰かではなく“生態系(エコシステム)自体が主人公となるゲーム”を作りたい。生命が織り成す複雑な相互関係を感じ取るため,生態系に主眼を置き,「川は単なる水の流れ」以上のこと――例えば光の源であることを示そうとした。

 このアイデアを聞いたドキュメンタリー・チームは,とても興奮しながらそれに賛同し,本格的なゲーム開発が始まった。

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 開発チームは,まず目標として15分〜30分以内の短いゲームを作ることを考えた。これは,予算の問題やチームが小規模だったという理由もあるが,それよりもまずターゲットはゲーマーではないと決めていたからだ。

 一般的なラテンアメリカの人々はゲームに馴染みがない。つまり,プレイ時間の長いゲームになると触ってもらえない可能性が大きくなる。それを考慮し,ゲームプレイはかなりシンプルで単純なものにした。無理に引き延ばす必要はなく,一瞬一瞬を大切にすることに集中する。
 実際の情報が得られるゲームとして,それが集中的でインパクトある体験になったほうが,その人の記憶に残るものになるからだ。実際にそうした作戦が功を成し,本作はほとんどのプレイヤーがクリアまでプレイし,ポジティブな評価を残した。

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 本作に登場する川は,実際のものを参考にモデリングされた。写真やビデオ,地形データなどを見ながら,ドキュメンタリストと緊密に協力し,全長550kmの川が実際にどのような姿をしているのかを実感できるよう調整する。
 ゲーム内で表現したい特定の風景やバイオームを決め,実際の地図をもとに砂漠や渓谷などを配置し,湖やダムといった川に関連するランドマークになるものも選ぶ。それぞれの生息地に自生している動物や植物にも注目し,それらをモデル化して表現するための選択も行われた。

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 重要なものの1つとなったのがオーディオデザインだ。オーディオは,瞑想的な体験を作り出すために欠かせない要素で,制作前のプロセスからそれは決まっていた。音と動きの相互作用によって生まれる,ヨガの瞑想のようなものをイメージして作られ,ドキュメントチームのデータも活用された。

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 インタビュー映像は,川や生態系に対する日常的な視点に何らかの形で疑問を投げかけ,私たちに再考を促し,私たちが辿り着くことのなかった新しい視点でそれらを見られるかという1つの基準があった。2つ目の基準は,ある種の驚きや感動といった感覚を生み出しているかどうか。そして3つ目は,親密で個人的なものであると感じられること。つまり証言者と川との間に親密な絆が感じられることである。

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 最後に語られたのは,フォトリアリズムではなくミニマルなローポリゴンを選んだアートスタイルについて。フォトリアリズムは現実を偏りなくありのままに映し出す客観的な表現だと思われがちだが,そこに罠があるのはほかの美術表現と同じだ。
 一方で,自分自身で強く様式化した視覚言語は,その中に生きている現実の効果として自らの主観を表現することを可能にする。

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 曖昧さではなく向き合うことで前景化でき,それによって経験豊かなデザインを得るためのより幅広い物語の可能性や,より深く多様なアプローチを追求できる。グローバルではない,限定された地域の事象をテーマとした作品に相応しいスタイルだろう。

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 夢としてのゲーム。主人公としての生態系(エコシステム)。解釈と考察。グローバルではなくハイパーローカル。フォトリアリズムに代わるシュルレアリスム。それらのコンセプトのもと,空想的かつ現実的な,しかしそれらが相反しないシュルレアリストのドキュメンタリーゲームが作られたのだ。

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「Atuel」itch.io


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