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しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?
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印刷2024/06/12 08:00

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しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?

画像集 No.006のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?

 ゲーマーにしてライターのしげるさんが,頭を悩ませつつも楽しんで子育てに向き合う過程をエッセイにする企画「しげるのゲーミング子育て日誌」。不定期でお子さんの成長とともに起こる悲喜こもごもを連載していきます。

 第3回は「オタクが父親になるとき」のロールモデル不足について。周囲の若いお父さんたちに気圧されているというしげるさんが,「世間の父親像」のバリエーション不足について語ります。

 「自分に初めて子供ができた」という状況になって,改めて戸惑ったのが,オタクのまま父親になるということがどういうことなのか,わかったようでわからないことだった。

 自分はゲームもプラモもオモチャも映画も好きな,世間的には充分オタクと言っちゃっていいタイプの人間である。そういう人間が親になるとはどういうことなのか,どのような心構えが必要なのか,生まれた後も無事に趣味を楽しむことができるのか……という情報や先人のロールモデルが,右を向いても左を向いても全然見当たらなかったのだ。

 オタクといっても,自分の場合はアイドルを推したりするわけでもなく,殺伐としたものを好んで見たり読んだり自作したりしてきた。ゲームももちろんする(最近は時間がなくてできてませんが……)し,部屋の引き出しにはトランスフォーマー,ダイアクロンなど各種オモチャ・フィギュアがパンパンに詰め込まれており,作業机にはプラモデル用の道具がずらりと揃っている。「好きなもの:兵隊とメカと武器と破壊」みたいな感じで長年やってきたので,頭の引き出しの中にはその手の情報しか入っていない。

 対して,子育てというのは基本的にホンワカ,優しげ,丸っこくてファンシーでパステルカラーで角がなく,「赤ちゃんかわいいね」「健やかに育ってね」というトーンで統一されたジャンルである。メカや兵器が入り込む余地がないし,さすがに自分でも「そんなもん入り込まない方がいいよ」と思う。当たり前ですね。

 子育て関連のデザインがどれほど丸っこくてファンシーか,ということの端的な実例で言うと,こども家庭庁のWEBサイトのデザインがある。他の省庁のWEBサイトと見比べてみれば一目瞭然,官公庁のWEBサイトとは思えないほど丸っこくてホンワカしたムードで統一されている。

 書体の角も丸いし,「春のこどもまんなか月間」のイメージビジュアルなんか,黄緑色の森っぽいところにモグラさんやキツネさんやウサギさんが配されていて,もう激甘。官公庁っぽいドライさがゼロ。

こども家庭庁公式サイトから引用
画像集 No.005のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?

 管轄省庁の公式サイトがこのトーンなんだから,西松屋やアカチャンホンポなんか店内全要素の角が丸い。どっちを向いても丸っこくてホンワカしているのが,子育ての世界なのである。マジか。これから十数年,この感じでやってかないといけないのか。「好きなもの:メカと兵器と破壊」という人間がこの空気になじむのは,端的に言ってけっこう難しい。

 ホンワカまあるくてピースフル……という方向性ではない父親のロールモデルとして,もうひとつ世間に広く受け入れられているのが,ヤンチャ系のお父さんである。ネタが中途半端に古くて申し訳ないが,反町隆史が昔やってたトヨタ・ヴォクシーのCMみたいなノリとテイストと書けばわかっていただけるだろうか。

 偏見を含めて言えば,昔はそれなりにヤンチャしてたけど,今は就職してサラリーマン(営業職)やってて,ママと出会って家族もできて,最近は子煩悩だけどシメるところはビシッとシメるイケてるパパ……みたいなロールモデルである。

「フォールアウト4」で作った「ヤンチャ系のお父さん」イメージ図
画像集 No.002のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?
画像集 No.003のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?

 こういう感じの父親像は,現在の若いお父さんの中ではそれなりに広く共有されているようだ。

 先日,近所で開催されていたストライダー(ペダルとかチェーンとかスプロケットとかがついていない,蹴って進む自転車みたいな子供向けの乗り物)のイベントに子供を連れて行ってみたのだが,周囲にいたのが見事にちょっとヤンチャ系でブイブイ言わせてる感じのお父さんばっかりで,久しぶりにオタク特有の萎縮ムーブをカマしてしまった。

 いやあ,普段あんまり接しないタイプの若い男性がたくさんいる空間って,どうにも緊張しますね。みなさんもちろん悪い人ではないんだろうけど,会場から出たら即プラモ屋に駆け込んで深呼吸してしまった。プラモ屋の空気,体に馴染むわ……。

 しかしその現場で「現在のヤンチャ系ヤングお父さんは服装もけっこう似通っている」ということがわかったのは,思わぬ収穫だった。

 最近のあの手のお父さん,本当にみんな似たような格好をしている。大抵髪型はツーブロックかスキンフェードであり,頭頂部の毛は軽くパーマがかかってたりワックスで毛先を遊ばせてたりして,そして外で遊ぶならグラサンは大体標準装備である。

 大きめのヘビーウェイト白Tシャツを着こなし,ボトムスは黒とか濃いめの色のハーフパンツ。そして,くるぶしが見えるようなスニーカーを履いている。あとなぜか,全員キャンプとかで使うような折りたたみ型のワゴンを引いている。マジで本当にみんなあのワゴンを引いていた。なんでだ。

画像集 No.001のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第3回は「オタクが父親になるとき」問題。人生のキャラ変更にオタクはどう向き合うべきか?

 というわけで,自分が子育て開始以降の2年と数か月で観測できた父親のロールモデルは「ほんわか系の空気になじむ優しいお父さん」か,「どことなくヤンキーっぽいツーブロック不動産屋営業風ヤンチャ系お父さん」の2種類である。2種類……少なくないですか……?

 「偶然子育てすることになっちゃったオタクのおっさん」みたいなものも含めて,もうちょっとバラエティがあってもいいのではないだろうか。ヤンチャ系の人の中にも,どういう感じでやっていったらいいのかわからず,結果的に「なんかみんなこんな感じっぽいので」であの雰囲気に収まっちゃった人もいるのではないだろうか。多様性,どこいっちゃったんですか。

 どこにもエッジの立っていないホンワカした優等生的子育てのムードに馴染むか,それともうっすらヤンチャな父親のロールモデルを選ぶのか。正直自分がどちらかに馴染めるとはちょっと思えない。

 だいたい,長年親しみすぎてほとんど人格の一部みたいになっちゃったオタク趣味と,子育てっぽいバイブスとの相性が悪すぎる,数百時間プレイしてステータスを上げたキャラクターを丸々捨てて,全く新しいキャラクターを作り直してもう一度ゲームをプレイしろと言われているようなもんである。い,嫌だ……まだおれはゲームやプラモやトランスフォーマーで遊びたいんだ……!

 もちろん,世間には趣味と子育てをうまく両立しているオタクなお父さんがいるのは知っている。たまにそういう人が描いたエッセイ漫画とかが,TLに流れてきたりもする。

 でも,母親が描いたそれに比べると,圧倒的に少数である。自分のリサーチが下手なだけかもしれないけれど,彼らが具体的に何をどうやって子育てという過酷な作業に適応し,どのようにして仕事もこなしながら自分の趣味の時間をゲットし,そして引き換えに何を犠牲にしているのか。とんと情報を見かけないのだ。

 特に「何を犠牲にしているのか」はものすごく知りたい。金銭にせよ時間にせよ感情にせよ,自分の持っている何かを犠牲にしなくては子育てという作業は回らない。何を捨てて何を得たのか,子育てに真面目に向き合っている父親ならば,それぞれに抱えている切実なものがあるはずなのだ。

 オタクなお父さんたちは,世間的に「こういう人たちがいます! キミたちもこうなりたくないか!」というロールモデルとして宣伝されにくい。趣味と子育てに必要なもの以外さほどお金も使わない人が多いだろうから,企業としてもロールモデルとして認めにくいのかもしれない。

 地味でさほど面白いことも起こらず,しかし趣味などでそれなりの楽しみを日々見つけながら,子供と一緒にボチボチやっているような,地に足のついた日常を送っているお父さんたちの話が聞きたいのだけど,おれは。

 本当はもっと,世間的に認知されている父親像のロールモデルは,多種多様でいいんじゃないかと思う。「父親も育児にコミットするのが当たり前である」という点は世間的にもかなり常識として認知されてきたけど,しかし父親になるにせよ母親になるにせよ,「親になる」というのはもう一回生まれ直すような大変化である。

 そこに関してどのような意識の変化が必要で,どうやったら自分の楽しみもそれなりに確保しつつ,パートナーと良好な関係を保ちながらしんどい時を乗り切ることができるのか。どのような先人たちがどう子育てという作業に挑み,どのように変化したのか。そういった父親たちの多様なロールモデルの情報が,本当に少ないのである。

 優等生的でもヤンチャでもない父親像,しんどいけど程々に適当にやってなんとかなっている父親像を語ることは,社会的にもプラスの効果をもたらすのではないか。

 思うに,金銭的な面でも精神的な面でも,現代は「子供を持つ」ということが過剰に恐怖されている時代である。 ビッグローブが2023年に行った調査によれば,18〜25歳の男女で「子供が欲しくない」と答えたのは全体の5割にのぼったという。ネットでも,子育てという営みの評判は必ずしも良くない。

 金もかかるし時間もかかるし,どんな子供が生まれてくるのかは運任せだし,だいたい子持ちは子供が熱出したとかですぐ帰っちゃうし,そもそも子供を産むこと自体が親のエゴなのではないか……。そういった意見には,確かに一定の正しさがあるように思う。

 ただ,子供が生まれてしまえば,その辺りの理屈が吹き飛ぶくらいの圧倒的な良さがある。これはあくまで自分の感想だけれど,子供の良さは文字通り「理屈ではない」という感じがするのだ。日々デカくなっていく我が子を見るのは単純に面白いし,こいつはこの先どうなるんだろうなあ……という形で,自分以外の人間に関する将来を展望する楽しさも感じる。

 ぼちぼち日常を送ったり自分の趣味を楽しんだりしながら,そういった面白さをじんわりと感じている父親像が語られれば,特に男性に「そんなに子供にビビらなくてもいいのかもしれない」と思ってもらえる可能性がないだろうか。別に「少子化の解決」みたいな大それたことにつながらなくても,ちょっと「へ〜,子供って面白いんだな」と思ってもらえればそれでいい。

 あとはもうひとつ,多様な父親のロールモデルが語られることで,「自分の親」という呪縛から自由になれる人がいるんじゃないかな,とも思う。 新しく父親になった人間がテンプレ以外に参考にするロールモデルを探そうとすれば,それは自分の親から引用してくるほかないだろう。そうなった時,いわゆる毒親的な人々に育てられた人は大変であることは想像がつく。

 だが,そこで「自分の父親以外のロールモデル」に触れることができたら,結果も大きく変わってくるのではないだろうか。この世には意外にいろんな父親がおり,色々とダメだったり頑張ったりしながら,そこそこボンヤリやっているという事実は,自分の親以外の父親像を探している人の参考になるかもしれない。まあ,全て仮定の話なので,文末が「かもしれない」ばっかりなのは堪忍していただきたい。

 残念ながら,自分も親になって3年目。まだまだ暗中模索ばかりである。なんかきっと,フラフラと暗中模索をしているうちに子供がどんどんデカくなって,あんまり模索する必要がなくなるのかもしれないな。そんなころにはおれもいい歳で,子供は反抗期で口も聞いてくれないかもしれない,という予感すらしている。

 でも,だからこそ,もっと「オタクのおっさんの子育て」は声高に語られていいと思う。いやほんと,マジで先達の声を参考にしたいので,これを読んで「うちはこんな感じだったよ」って話をしてもいいという方からのご連絡,切実にお待ちしております。

■■著者プロフィール■■
しげる

 ミリタリーとかプラモデルとかの本を作る編集プロダクションに勤務後、現在フリーライターとして活動。2022年に生まれた子供の面倒を見つつ、プラモデルの雑誌やインターネットなどに文章を書いたりしながら神戸で生活しています。
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