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スクエニ,東映アニメ,フジテレビは,どうIP作りとNFTに向き合ってきたのか。各社のキーマン3名によるディスカッションをレポート
IVS2024 KYOTOの初日(7月4日)に行われた同セッションは,アニメ,テレビ,ゲームの各業界でNFTに関わるキーマン3名が,IP作りや今後の展開についてディスカッションを行うというもの。登壇者は,東映アニメーション 営業推進部デジタルプロダクト推進室長の植野良太郎氏,フジテレビジョン ビジネス推進局副部長の赤井誠一氏,スクウェア・エニックス インキュベーションセンター ブロックチェーン・エンタテイメントディビジョン ディレクター 畑 圭輔氏だ。
まず,モデレータであるエンタメ社会学者の中山淳雄氏から,2010年から2022年までのアニメ,漫画,ゲーム各業界の市場規模分析が紹介された。
アニメはこの10年で1.5兆円市場から3兆円市場にはなったものの,その要因の9割が海外での急増によるものだったという。続いて漫画は,日本の漫画は0.4兆円から0.7兆円と急成長し,北米(6億ドル)やフランス(3億ユーロ)でも好調とのこと。
そしてゲーム市場だが,国内では1.3兆円から2.5兆円へと市場はほぼ倍増しており,任天堂の海外売上は0.5兆円から1.4兆円と約3倍に成長したそうだ。オンラインゲームは苦戦中ではあるものの,全体的にはかなり好調だったという。
そうした背景があるなかで,今回登壇した3社はどのような取り組みを行っているのだろうか。中山氏は,新たなIP作りは始まっているのか,それともファンダム(熱心なファン)を盛り上げるためなのか問いかけた。
東映アニメーションの植野氏は,オリジナルIP作りを目的にしているものの意外とそろっておらず,漫画原作のアニメ化作品が流行っているのが現状だと話す。そのため,これからの5年後,10年後を支えるIPを作ることが,東映アニメーションのミッションになっているという。
そんななかで植野氏は,約1年半前に始まった「電殿神伝-DenDekaDen-(でんでかでん)」のように,NFTという話題の技術を使ったデジタルプロダクトコンテンツに取り組んでいる。それも,日本だけでは市場に天井があるためグローバルに,とにかくIPを作るということをゼロからやっているのだという。
フジテレビの赤井氏は,テレビ局のIPとなるドラマなどのテレビ番組は,役者やタレントといった出演者が関わることもあり,アニメ化やゲーム化といった二次展開はかなりのハードルの高さがあると話す。
アニメで言えばノイタミナや+Ultraがあるが,そこでもやはり原作を借りる制作委員会方式であるため,自分達でコントロールできるアニメはそこまで多くない。
IPプロデュース部にも所属している赤井氏は,「100%オリジナルのIPは無理だとしても,IPをハンドリングして作っていこう」という考えで,Webtoonやショートアニメといったさまざまな形での展開にチャレンジしているそうだ。
続いて中山氏は,スクウェア・エニックスの畑氏に,NFTプロジェクト「資産性ミリオンアーサー」について質問した。
ミリオンアーサーシリーズは,拡散性,乖離性とモバイルファーストで作られたゲームIPだが,それらと比較して畑氏の資産性ミリオンアーサーのIP作りはどう異なり,どのように作られたのか。
畑氏によると,ミリオンアーサーはそれぞれのシリーズでいろいろなチャレンジをしてきたことでプレイヤーから注目されていたこと,ほかの作品が終了し始めていたことから,自身で引き継ごうと考えて資産性をスタートさせたものとのこと。
NFTやブロックチェーンについては,そもそもよく分からないというゲームプレイヤーは多く,また“稼げる”というワードでのコンテンツへの訴求が多いなかで,そこを少し変えたいという考えがあったという
そこで,資産性ミリオンアーサーではWeb3のワードを一切使わず,通常のコンテンツとして楽しむことで“実は作ったシールがNFTで,それをマーケットに出せば売買できる”と体験でき,その体験からNFTを理解できるようにしたそうだ。
プロダクトを作るときには,見えない苦労もかなりあったという。例えばリーガル面もガイドラインも整備されていないなかでは,大手企業としてなんでもかんでもはできない。それはしっかりとした準備を行い,石橋を叩いて渡るようにプロダクトを進めていったそうだ。
デジタルデータを売り買いすることには,どういったリスクが孕んでいるのか,どこに気を付けなくてはいけないのか。当初は弁護士を交えてずっと文書を作っていたそうで,それが今につながっていると話していた。
中山氏はさらに,ミリオンアーサー経済圏のなかで形成されているファンダムについて質問した。それらのファンはもともとのミリオンアーサーのプレイヤーなのか,それともWeb3の投機目的の人たちなのかと。
畑氏は,スクウェア・エニックスとしても初のNFTということもあって,ゲームのファンだけではなく投機目的で買いにきたプレイヤーも集まり,それはサーバーのパンクを引き起こすほどだったと答えた。
ただ,最初は投機的な目的だった層のなかには,2年間プレイしていくなかでコレクション自体を楽しむ人たちも増えたそうだ。
ここからファンダムとの付き合いかたについての話になった。
プロデューサーとしてゲーム制作にも関わっているフジテレビの赤井氏は,テレビという性質上いろいろなコンテンツを扱うため,それぞれに個別のファンが付くので難しいと述べた。
ゲームのプロデューサー時代は,プロデューサーレターや生配信でのプレイヤーとのコミュニケーションを大事にしていたという赤井氏だが,テレビではどこかのファンに寄り添うと,一方で別のファンが……ということが起きやすいようだ。
そういった意味で電殿神伝-DenDekaDen-のサービスでは,「ファンと作る」「ファンを巻き込む」という形で,これまでにはなかったようなファンとのつながりを強く感じられるものとなっているようだ。またファンには,“自分たちがいるから世界が変わっていく”という体験を与えられているのではないかと話した。
なお,電殿神伝-DenDekaDen-は,具体的な話はまだということだが,“プレイヤーと一緒にゲームのなかを変えていける”というゲームの作りを念頭に,ブロックチェーンゲームの制作にも挑戦しているそうだ。どのようなコンテンツに進化するのか,電殿神伝-DenDekaDen-の今後も気になるところだ。
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