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求められているのは「遊び」だけではない! 「ゲーム開発の副産物で収益化!?ゲーム会社のグッズ制作ノウハウ」聴講レポート[CEDEC 2024]
また同セッションでは,海外でのグッズ販売や電子書籍販売に関する最新の情報なども紹介された。
IPを長く愛してもらうために
まず入部氏は,ゲーム会社がグッズを制作する理由を2つ挙げる。一つはファンに作品を長く愛してもらえる,つまり作品を忘れられないこと。もうひとつはゲームの売上以外での収入を得られることだ。
作品のことは実制作に関わった人々が一番深く知っている。そんな自分たちがグッズを通して作品の新たな魅力を伝え,かつ資料などを有効活用して会社全体の収益アップを図る。それは新たなクリエイティブにもつながるわけで,意義深いことでもある。
ちなみに同社では2023年だけでも約200アイテムを制作したという。売上もコロナ禍で減少した2021年の2099万円から,昨年は3516万円にまでアップしている。
こうした好調な販売の要因は,すべての工程を内部で完結しており,機動力が高いことだとする。宣伝広報課には専任のグッズ室があり,企画課のデザイン室と漫画室のスタッフと役割分担して作業を行っている。
専任のスタッフがいることで企画から進行管理,在庫管理,販売までを一括して行える。また同じ宣伝広報課内の宣伝室と協力し,タイトルのPRに合わせた販売促進を実行でき,売上の最大化も図れる。
また,デザイン室はUIの作成やイラストワークの一部など,ゲーム開発の作業にも関わっているため,作品の理解度もとても高い。そのため高品質のグッズをスピーディーに作ることが可能だ。
さらに開発チーム本隊と協力体制を取れることも,この体制の強みだという。デザイン室と開発チームの仲立ちをグッズ室が行うため,デザイン室も開発チームも本来の業務の妨げにならない範囲で,グッズ制作に協力できる。
続いて田島氏が具体的なグッズの制作事例を発表する。商品に使う素材は,設定資料,没案,絵コンテ,モデルデータ……など,開発中の資料が中心になる。また,開発の様子が分かる写真やスタッフのちょっとしたラクガキなどもいい素材になるという。
資料を網羅した究極の形が,いわゆる設定資料本や画集だ。サイバーコネクトツーが初めて作ったグッズであり,もっとも売上を上げたグッズでもある。社内でも文字通り「資料」として重宝しており,外部の会社や新入社員にデータを渡したりしている。
ぬいぐるみやコレクションアイテム(小物)も,設定に基づいた細やかな指定をしたり,3Dデータをもとにクオリティの高いものを作ったりできるアイテムだ。
カラーイラストの線画だけを組み合わせてデザイン的にあしらう,そもそもイラストを使わない文字柄のグッズを作るなどして,作画コストを抑えつつアイテムの点数を増やす工夫もしている。
また,生産時にいくつかのアイテムを抱き合わせで作ることで,単体では採算が合わないであろうグッズも商品化できている。たとえば.hackアクリルスタンド3600個と,サイバーコネクトツー代表の松山 洋氏のアクリルスタンド120個を組み合わせて生産するといったテクニックだ。
別々のIPのアイテムをまとめて生産してコストを抑えつつ,それぞれのプロモーション計画に合わせて発売時期をずらすというのもひとつのテクニック。また,イラストや資料を展示する記念展系のイベントでも,イベント主催側が販売するグッズとターゲットを住み分けたグッズを置いてもらい,集客や販売のアップにつなげている。
マチアソビでは社長で遊ぶ
現在は見直し期間となっているが,ゲームやアニメの制作会社など,エンターテイメントが集いファンと交流する人気イベント「マチ★アソビ」。続いて,主にこのイベントで販売した松山 洋グッズの事例が紹介された。
サイバーコネクトツーといえば名物社長・ぴろしこと松山氏がまず思い浮かぶ人も多いはず。この人気と知名度を放置しておく手はないわけで,タオルやトレーディングブロマイドなど,さまざまなグッズが販売された。これらはなんと「基本的に完売」しているそうだ。
「基本的に」というのは,そこに至るまでに紆余曲折あったため。一番最初に作った松山氏の「アクセルフレーズ」を使った缶バッジは壮絶な爆死を遂げたという。いわゆる推し活に使う「痛バッグ」を作りやすいように,イラスト/デザイン化するなど力を入れた商品だったが,今でも在庫が少数残っているそうだ。
では初めてヒットした松山 洋グッズはなんだったのかといえば,「NOぴろし NO LIFE」というコピーと本人の顔写真をもとにした図案で構成された松山 洋タオル。マチアソビの会場は暑いため,汗を拭くタオルはその場での実用アイテムとして便利でもあるという。
これはなんとイベント初日の早いうちに完売し,販売したスタッフたちも大変驚いたそうだ。ファンたちは松山氏が提唱する概念ではなく,「彼そのもの」との関わりを求めるようになっていたのだ! これがいわゆる宗教化/信者化……かもしれない。
日本人の「推し活」と宗教との類似性,そこに潜む課題とは。「消費社会の宗教:ファンダム・カルチャー」聴講レポート[CEDEC 2024]
CEDEC 2024の初日に行われた「消費社会の宗教:ファンダム・カルチャー」と題したセッションを紹介する。「推し活」に代表される日本のファンダムカルチャーと宗教との類似性,そこに顕在化する問題点と共に,“ファンダムが「善い」宗教である”ために何が重要であるかを解説するという内容だ。
これらのことから「中途半端が一番ダメ」と思い知り,トレーディングブロマイドを販売するなど,思い切った展開を始めた。トレーディングブロマイドのコンプリートを目指すため,その場でファンによる交換会が始まるといった想像外の出来事も起こったという。
オンライン販売と電子化のススメ
続いては,自社オンラインショップの効果について。オンラインショップ立ち上げ前はリアルイベントと委託店舗の2つを軸にしていたが,スピード感や販路についての課題があった。そこで2020年10月より「CC2STORE International」をオープンする。
このとき,海外販売は必須だと考えたという。ただ,それに付随する業務はそれなりに大変である。やはり専門外のことなので「何が分からないのか?」すら分からない。
そこでこの課題は代行サービスを導入することで解決している。サイバーコネクトツーが導入した「WorldShopping BIZ」は,広い国や地域への対応が可能で,決済や発送も対応してくれる。
結果,海外売上が大幅に上昇する。2019年は4.34%だった海外売上の割合が,2023年には売上の37.05%までを占めるようになった。海外展開しているタイトルを持つ会社は,海外販路を持たない手はないようだ。
なお,海外のファンには「戦場のフーガ」「テイルコンチェルト」など,ケモノ系の作品は深く刺さる傾向があるため,そこはひとつ考慮すべき要素ではあるだろう。
リアルイベントとオンラインの売上の割合についても,イベントでの販売の割合はコロナ禍のときに激減し,その後もイベントの形態の変化などでコロナ以前には戻ってはいないという。
オンラインショップのまとめとしては,リアルイベントの状態や時期に左右されず,海外のファンにも対応でき,タイムリーな販促施策が行えるこの取り組みにより,大きな売上アップにつながったとしていた。
また,書籍についても,やはり電子版を作ることはオススメだという。以前は自社でequbデータを制作,Amazon Kindleで発行していたというが,こちらも電子書籍配信サービス「ナンバーナイン」に移行。初期費用が安く,入稿形式もJPEGやPDFでよく,データ制作の手間もかからなくなっている。副次的なメリットとして,誤字脱字のチェックや見開きの絵がズレていないかなど,かなり細かいところまでチェックしてくれるのもありがたいそうだ。
細かいテクニックとしては,書籍ではページ数が多かった本も,電子版では分冊化するほうが良いという。こうすることで1冊あたりの価格を抑えられるだけでなく,1巻のみ無料にするなど,セールを打つときにも融通が利きやすい。
電子書籍展開前後の売上推移を見ると,サービス移行で明らかに売上が上がっている。これはAmazon Kindleのみではなく,さまざまなストアに配信できたことが大きい。電子版は紙の書籍を再販するよりも圧倒的にコストを抑えられるため,完売していた書籍を再販しやすいのもメリットだ。これはファンからも大いに喜ばれたという。
最後に入部氏は,「グッズ販売は根強いファンの獲得にもつながり,その満足度は大きく上げるため,シリーズ展開の可能性にもつながる。そのためグッズを作る意義は想像以上に大きい」と語り,今回のセッションのまとめとした。
なお松山 洋グッズは版権使用料がいっさいかからず,利益率が高いことも販売側にとっての魅力らしい。知名度/求心力の高い人物がいる会社は「その人そのものをグッズ化することをオススメしたい!」そうだ。
「CEDEC 2024」公式サイト
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