企画記事
変化を迎えるオンラインゲーム業界で成すべきことは,何か――ガマニア,ガンホー,ゲームポット,ハンゲーム,ハンビットのそれぞれの思惑。マルチプラットフォーム化から若手の育成まで
ふとした雑談をきっかけに,ガマニアデジタルエンターテインメント,ガンホー・オンライン・エンターテイメント,ゲームポット,NHN Japan,ハンビットユビキタスエンターテインメントという5社の社長/副社長が集まり,オンラインゲーム業界の現在と今後についてあれこれと話し合うことになった。
参加してくれたのは,NHN Japan 代表取締役社長 森川亮氏,ガマニアデジタルエンターテインメント 取締役最高執行責任者 浅井清氏,ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 森下一喜氏,ゲームポット 代表取締役社長 植田修平氏,ハンビットユビキタスエンターテインメント 取締役副社長 パク・クワンヨプ氏の5名だ(社名五十音順)。
古くからのゲーマー的には,1997年の初代Diabloから……というのが正確な表記かもしれないが,現実的に日本でのオンラインゲームムーブメントは,ラグナロクオンラインのβ2サービスが開始された2002年あたりから始まっている。すなわち,事実上まだ6年しか経っていないジャンルなのだ。
黎明期からプレイしている人であれば,このわずか6年で業界に何が起こり,どういう変化を遂げてきたのかは逐一見てきたことだろう。筆者もそうだし,この座談会に登場する5名の社長/副社長達もそうだ。そんな6年の変遷を前提として踏まえつつ,いまオンラインゲーム業界に携わる会社として,何を成すべきなのか,どう進むべきなのか。見知った顔同士ということですっかり打ち解けて和やかな(いや,むしろ賑やかな)雰囲気の中,そんな話題をお互いにざっくばらんに語り合う座談会となった。
せっかくこれほどの顔ぶれになったのだし,今後の業界予測,コンシューマ業界とのボーダーレス化,マルチプラットフォーム,ゲーム内広告,プレイマナーの低下,法整備,今後のビジネスモデル,海外展開……聞きたいことは山のようにあったのだが,時間を合わせるだけでも一苦労のメンバーでは,それらをすべて聞くことは不可能だった。その一部だけではあるが,ここにお届けしたい。
ひとしきり,挨拶やなぜか健康診断の結果報告などが行われたのち……。
――さて,本日はよろしくお願いします。どういう風に進めましょうか。
浅井氏:
……なんかそっち側3人が豪華ですよね(注:森下氏,森川氏,植田氏を指している)。
パク氏:
ね,そうですよね。僕たちラーメンだけどあっち3人チャーシューメンみたいな。
森下氏:
なんだかよく分からない比較なんですけど(笑)。
――大きなイベントやったりして割と動きの激しいゲームポットさんあたりから,ぜひ口火を。
植田氏:
ここにいるみなさんに比べると,たぶんウチって後発な部類に入ると思うんですよね。オンラインゲームを始めたのが4年前くらいなんですけど,そのときの状況と今の状況を比べると,明らかに各社さんのサービスの質が上がってきてると思うんですよ。
――昔は本当にルールも鉄則もない無法地帯でしたしね。
ええ。で,みなさんご存じのようにマーケットも大きくなってるし。……しかし本当に明らかに昔と違うのは,ユーザーさんのコンテンツの消費速度が,尋常じゃない勢いで上がってることでしょうか。
コンテンツやサービスに対して要求するレベルも上がってますよね。「CBT」っていう言葉が持つ意味もすっかり変わってますし。昔のCBTは本当に「テスト」だった。
――動くかどうかもよく分からない状態だった(笑)。
植田氏:
そうそう(笑)。動いたら喜んだりして。でもいまそんな状態のテストをやったら,作品そのものに傷がつきますよね。テスト段階からすでにプロモーションが始まっているという厳しい状態になってる。速度もクオリティも,昔よりも段違いに高いレベルが求められてますね。
浅井氏:
それこそ昔,「ラグナロクオンライン」やらウチの「エターナルカオス」やらが始まったころって,オンラインゲームってホントにまだ一部のコアなユーザーさんだけのものでしたよね。ある意味ニッチなサービスというか。
時間が経って,そこにライトな一般層の方々がいっぱい入ってきて,それで植田さんのおっしゃるような状態になったんだと思うんですよね。なんというか「コンシューマのゲームと比較される土俵に上がった」というか。
――言い得て妙かもしれません。
浅井氏:
なので,グラフィックスやゲーム性ばかりでなく,クオリティ管理なども含めてコンシューマのゲームと比較されるわけで,そういう意味では厳しくなってきてるのかもしれませんが,裏を返せばユーザーさんが確実に増えているんですよね。
僕は個人的にエンターテイメント業界が長いので逆に冷静に分かるんですけど,世の中には「楽しいこと」がいっぱいあるんですよね。当たり前ですけど。オンラインゲームは,最初こそコアなプレイヤーさんのものだったかもしれないけど,いまではもはや,「エンターテイメントの中でのオンライン」というものをどのように作っていけるかが重要な気がしています。
NHNは実はオンラインゲームだけにこだわっているわけではないので,インターネットでエンターテイメント――インターテイメント,みたいな――というものを追求しています。でも実はインターネットって,いくら面白いものであっても,“面白い”と思わせるのがすごく大変なんですよね。
――奥深い言葉ですね。
森川氏:
まさに実店舗を作ったところなんですけど,やっぱり“楽しそうに思えること”も重要だと思うんですよね。やって楽しいことはもちろん最重要ではありますけど,やってるのが楽しそうに見えないと,なかなか普及にまでは至らないんですよ。
オンラインゲームって,やってる本人はとても面白いんですけど,端から見ててちょっと不健康に見えちゃうとかそういうことが,やっぱり世間的には壁になると思います。なので,それがもしもっと健全なイメージを出せれば,もっと市場は拡大できるんじゃないかなぁ,と思ってます。
――PCゲーム好きである私が昔から唯一「悔しいなぁ」と思っているのは,コンシューマゲームってリビングに置いても様(さま)になるんですよね。端から見てても面白いですし。でもPCゲームじゃあ,どうやっても絵にならない。そもそも端から見てて面白そうには,ちょっと見えない。
森川氏:
そうですよね。そういう部分を考えても,ニンテンドーDSやPSPっていうのはよく出来たプラットフォームですよね。
浅井氏:
……あの,インターテイメントって今度使ってもいいですか。
(一同笑)
浅井氏:
なんかちょっといいなぁ,その言葉。今度どこかで使おう。
パク氏:
私が2005年にオンラインゲームのマーケット調査をしてるとき,「初めてオンラインゲームで遊んだ」っていうユーザーさんが,当時5割を超えてたんですよね。2005〜2006年が,日本のオンラインゲーマーが一番増えた時期だと思います。
……そういえばコンシューマゲームって,当たり前ですけど基本的にはアップデートできないので,バグの存在は許されないじゃないですか。でもオンラインゲームって――許されるわけじゃないですけど――手は打てますよね。2002年とか2003年とかに爆発的に増えなかったのは,それが原因なんじゃないですかね。
植田氏:
というと?
そのやり方を,みなさんに分かってもらえるまですごく時間がかかったというか。むろんバグなんてないほうがいいんですけど,「残しておいてでもサーバーを開けるべき問題」とか「後回しにしてもよい問題」っていうのもあるわけじゃないですか。AバグBバグCバグ,というランクでいうならCバグクラスですよね。そういうやり方がユーザーさんに理解されるまですごく時間が必要だったんじゃないかなぁ,と思ってます。
裏を返して言うならば,いまのユーザーさんは,そりゃもう色んなところで怒っててウチもよく怒られてますが,オンラインゲームというものに対する“理解”はすごく浸透したんだなぁ,と感じます。
――静かなガンホーさん,どうですか。最近多角化の方向に手が。
森下氏:
多角化って言われると話しづらいなぁ。
(一同笑)
難しい振り方しないでくださいよ(笑)。
パクさんの話にちょっと尾ひれがつく感じなんですけど,以前だとコンシューマゲームとオンラインゲームっていうのは「まったく無縁」のものだった。少なくともそういうイメージがあったものなんですけど,むしろ今って,“オンラインを使おう”っていう方向性で一致してますよね。そのオンラインというものがどの程度のものなのか,という差異はそれぞれあると思うけど。
――パブリッシャの枠に留まっていないがゆえの発言ですね。
森下氏:
そう。コンシューマゲームの販売部門にしても,もちろん開発部門にしても,みんなの考え方がそういう方向にシフトしつつある印象があります。つまりそれって,段々自分達も「何をもってオンラインゲームなのか」という線引きが分からなくなってきている――もちろんいい意味で――ということなんですけどね。ゲームそのものの面白さとオンラインで足される付加価値,みたいなものに対する認識は,2000年ごろとかに比べると格段に変わりましたよね。
市場自体の伸びが鈍化してるんじゃないかとか言われてますけど,可能性についてはまだまだあると思いますね,個人的には。まぁガンホーは最近コンシューマしかやってないって思われてますけど……。
(一同笑)
森下氏:
そんなことないです。そんなことないですから。
パク氏:
2回言うのは怪しいなぁ(笑)。
森下氏:
でも,もっとオンラインゲームというものを,幅広く認知してもらおうとは思ってていろんなことやってきましたよ。市民権を得よう!というほどではないけど,花火とかやったりね(笑)。
植田氏:
ありましたねえ。何年前でしたっけ。千葉県で。
浅井氏:
あれもうやらないんですか?
森下氏:
もうやらないと思います。何が大変って,一番大変なのは「天気」かな。外でリアルにやるイベントがあれほど難しいものだったとは……。1回目で雨降っちゃって。
森川氏:
楽しみにしてくれているユーザーさんのことを思うと,リスク高すぎですよね。焼きそば焼くのも大変だし(笑)。
森下氏:
最初にサービス精神出し過ぎて肉入れすぎて途中で肉がなくなって,慌てて買いに行ったりしたのもいい思い出です(笑)。
オンラインを軸としたジャンルの融合――日本の開発会社が,もっともっと日本人のためのオンラインゲームを作るべきだと思うんですよね
パク氏:
でもガンホーさんも,ゲームアーツとかジーモードとか,発想がいいですよね。ゲームって一つのプラットフォームだけで終わるものじゃなくて,本当はどんどん広がっていくものだし。
森下氏:
元々ラグナロクオンラインを出すときに,コンシューマはやろう,って思ってたんですよね。携帯があったりコンシューマがあったり,一つのブランドを掘り下げていく方向がいいと思ってるんですよ。多角的,ってやつですかね?
――すみません,そこにそんなにこだわらないでください……。
森下氏:
まぁ言葉としてはそうなんだけど(笑)。
――やはり割とみなさん「オンライン」というものを軸としたジャンルの融合……融合というか広がりというか,そういう認識はある感じですね。いわゆる既存の「オンラインゲーム」という枠だけでは収まらない事業範囲を想定しているというか。
森下氏:
やはり今後は外せない方向だと思うんですよね。
――4Gamerももう9年目に差し掛かり,さすがに以前ほど激しい読者数の伸びこそありませんが,それでもまだなお増え続けています。作品数も,みなさんよくご存じのように,いっときほどの勢いはないにせよ,まだちゃんと増え続けています。それにも関わらず,なんとなく業界全体がパッとしない印象を与えてしまうなのはなぜなんでしょう。
最近よく業界に閉塞感があるとか,確かに統計上は伸びが鈍化してるとかって聞きますけど,確実にまだ成長していっているのは,ここにいるみなさんならよくお分かりの歴然とした事実ですよね。
この鈍化というか,飽和した市場が淘汰されつつあるというか,この状態は何か新しいものが出てきてそれが広がっていく過程の中でよくあることですよね。ファミコンもそうでした。このビジネス儲かりそうだぞ? と思ったら一斉にいろいろなものが参入してきて。
ここの淘汰フェーズを超えられれば,いわゆる“オンラインゲーム”というものはさらにまた伸びていくと思うんですけどね。正しい進化の方向なのではないかと。
森川氏:
要するにこれって「時間の取り合い」なわけじゃないですか。相手は携帯だったりテレビだったり。もしくはPC見てるにしても,Yahoo!見てるのかブログ書いてるのかオンラインゲームやってるのか。
いままでやったことなかった人に,オンラインゲームというものの魅力をどう広げていくのか,そういう話まで含めて広げていかないと,利用時間とか使うお金とかが増えるだけで,大きくステップアップすることが難しそうな気はします。
そんな中でのもっとも分かりやすい形は,日本の開発会社が,もっともっと日本人のためのオンラインゲームを作るべきだと思うんですよね。やはり海外のものを日本のお客様に訴求するというのは,思った以上に難しいし,そもそも根本的に合わない部分も多い。しかもそれを直すのに莫大な時間がかかったり,または直せないものだったり。なので日本の開発会社が,積極的にオンラインゲームにチャレンジできるような文化というか風習ができれば,もっともっと普及していくんじゃないですかねえ。
植田氏:
時間の取り合いというお話はまったくそのとおりで,オンラインゲームって,ゲームビジネスの要素とネットビジネスの要素があると思うんですけど,いまゲームポットは“ネットビジネス”という位置づけで事業を行ってるんですね。で,すごく大事だなと思うのが,いかにユーザーさんのライフサイクルの中に入り込めるか,という部分なんです。
ウチはいまPCで基盤の事業を作っていますが,これは将来コンシューマ機に変わる可能性だって十分ありますよね。でもプラットフォームが変わってもなお変わらないのは,ライフサイクルの中に“オンラインゲーム”というものを入れ込むというのがすごく大事だということです。YouTube見たりブログにコメント書いたりするというアクションの中に,ちゃんとオンラインゲームをリンクさせていけると,いま以上に根付いてくるんじゃないかなぁ,と思いますね。
オンラインゲームそのものが,“ライフサイクルを制するプラットフォーム”になるというか,そういうものが,我々が目指していくところなんじゃないですかね。
パク氏:
コンシューマ機がPCに近づいてるとかいろいろ言われてますけど,逆にPCがコンシューマ機になることもできるわけですし,プラットフォームに関してはこの先はまったく分からないですよね。
植田氏:
でもPCが主流であってほしいですよね。携帯とかコンシューマだと好き勝手に自由にできないというか……。
(一同笑)
――ちょっと離れてお隣韓国を見てみると,割と大変そうな状況ですよね。突如「バタン」と倒れた感じで。
浅井氏:
確かに入ってくる数も減ってますね。国内モノが増えてきつつあることもあるのかもしれませんけど。
森川氏:
タイトル数は多いんですけど,失敗するとそこで開発やめて閉じちゃうので,うまくいく前にみんな閉じちゃうんですよね。
森下氏:
パブリッシャ自体も慎重になってるしね。
――なぜか世界のゲームショウ会場でしか会わない植田さんはどう思います?
植田氏:
ホントに。日本では全然顔合わせないのに(笑)。
確かに韓国もいま厳しそうな状況ですよね。……って話ズラしちゃいますけど,中国の開発会社ってみなさんどう思います? 今はまだレベル的には「ちょっとね」というのが正直なところだと思うんですけど,あのキャッチアップの速さと,圧倒的なマンパワーの巨大さを考えると,中国のデベロッパが今後は世界に出てくるというのは十二分に考えられるのかな,と思ってるんですが。
――いまはまだ企画力がないだけだと思うんですよね
植田氏:
そう。だからまだ「どっかで見たゲームだな」というものしかないけど,あれで企画するパワーを手に入れたら,物量とスピード感から考えても想像するだけで恐ろしいというか。
――みんな軽く100人以上で1作品を作ってますし
浅井氏:
単純比較をするのは難しいんですが,売り上げ規模も相当大きくなってますよね。韓国NCと盛大やNetEaseなんかはもうほとんど並んでそうな気がする。
森川氏:
コンシューマ業界で言うところのElectronic Artsみたいな会社が出てくるんじゃないですかね,そのうち。中国から。
植田氏:
でもEAみたいな会社だって,15年くらい前までは「なんだかなぁ」っていうゲームも多かったじゃないですか,真面目な話。その後スタジオ買収とかを繰り返して,急激にクオリティが上がってきたというか。
中国の開発会社には,そういう“肉食系の臭い”を感じますね。
浅井氏:
開発環境も,数年前までは廃墟かというくらいのところでみんなやってたけど,最近の会社さんはすごいですよね。オフィスもピカピカで。PCから何から最新鋭のもので統一されてて。
森川氏:
中国の大学にはオンラインゲーム専門の学科とかもありますし,卒業したら即戦力になったりして,そういう部分からもう違いますよね。
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