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[CEDEC 2011]サンライズ小高忠男氏が語る「セルアニメスタイルのCG制作」。「SDガンダム三国伝 BraveBattleWarriors」の制作過程とは
講師を務めたのは,テレビアニメ「機動警察パトレイバー」や,フルCG映画「FINAL FANTASY」など,数多くの作品のCG制作に携わってきた経歴を持つ,小高忠男氏だ。現在はサンライズに籍を置いており,入社の理由を「アニメっぽいCGを作ってみたくなったから」と語る。
今回の講演では,「SDガンダム三国伝 BraveBattleWarriors」(以下,SDガンダム三国伝)の制作時に使用した開発ツールなどが紹介された。
「SDガンダム三国伝」はデジタル作画とCGのハイブリッド
小高忠男氏 |
続いて紹介されたのは,「SDガンダム三国伝」の制作に至るまでのエピソードについて。SDガンダム三国伝を作るきっかけとなったのは,2002年から2004年まで放送された「SDガンダムフォース」だ。SDガンダムフォースはフルCGテレビアニメで,モーションキャプチャーが本格導入されたり,全編でハードウェアレンダリングが行われたりと,数多くのチャレンジがなされた。
しかし,見た目はセルアニメなのに,動きがヌルヌルしていて違和感があったり,ポリゴン感が前面に出ている感じが気になったりと,表現の面で問題が多かったという。
「SDガンダムフォース」の制作で,CGを使うメリットとデメリットの両方を肌で感じたそうだが,「ここで取り入れた制作手法は二度と使われなくなった」と小高氏は振り返る。
また,「SDガンダムフォース」とは別に,「スチームボーイスタジオ」(現サンライズ荻窪スタジオ)で,フルCGアニメではなく,作画をCGで行うチャレンジが行われ,「新SOS大東京探検隊」(2006年)や「FREEDOM-PROJECT」(2006年〜2008年)などが制作された。とくに「FREEDOM-PROJECT」について小高氏は,「どこまでがCGで,どこまでが手描きか分からないくらいのクオリティでした」と胸を張る。ただし,これは2年間で30分の作品を7本作るという長いスパンでの制作だっため,ちょっと特殊な例になる。そして「FREEDOM-PROJECT」で得た成果を,テレビアニメの制作に取り入れられないかと考えた結果,「SDガンダム三国伝」のプロモーションビデオ(2009年作)につながり,作画スタイルのCGアニメをテレビシリーズに活かすための模索が始まったそうだ。
「SDガンダム三国伝」のワークフローはセルアニメと同じ
問題解決のため,さまざまな取り組みも行った
ここで「SDガンダム三国伝」と同系列にあたる「SDガンダムフォース」のワークフローが紹介された。「SDガンダムフォース」は,絵コンテやモーションキャプチャ,データ編集を済ませると,CGアニメーションの制作に入るという流れで制作された。それに対し「SDガンダム三国伝」は,従来のセルアニメの制作と変わらない手法で作られるため,手間がかかっている。
SDガンダム三国伝を制作するうえで問題となったのがツールだ。SDガンダム三国伝は,秒間12コマや8コマ程度で描かれるのだが,これに3DCGソフトウェア「MAYA」の標準機能が対応していなかった。
そのため小高氏は,「SDガンダム三国伝」専用のツールを開発することから始めた。これによって作画スタイルのワークフローをサポートできるようにしたり,色換えのシステムを用意したり,タイムシートデータをMAYAに読み込ませることで,不規則なコマ打ちへの対応を行ったそうだ。
また,スタッフ用に掲示板を用意し,制作チームごとに情報を共有する仕組みを作ったり,マニュアルを整備したりと,細かいサポートも充実させた。
開発ツールやカスタムシェーダを用意し満足できるクオリティに
作業段階ではラインテスト動画,CGチェック動画,撮影(コンポジット)動画という3つの工程を踏んで完成に近づけ,最終的には各素材を合成し,必要な特殊効果などを追加し完成させるのだという。
標準フレームサイズに対し横長になっているそうだが,これは撮影時にトリミングして動きをつけるそうだ |
開発ツールの中では「フレームエディタ」が一番手間がかかった部分だという |
「SDガンダム三国伝」の主要キャラクターや馬,戦艦などのCGモデルは約40体あるが,その作成には,さまざまな技法が用いられた。
ここでは劉備ガンダムがピックアップされて紹介されたが,モデルデータ自体は約8万ポリゴンで,レンダリング時に33万ポリゴンにまで増やしたという。
また,キャラクターの顔の動きや口パク,武器装着などセットアップに関する部分や,キャラクターモデルの色換えの仕組みは,ツールにより自動化,もしくは半自動化され作業効率を上げたそうだ。
ほかにも,キャラクターを指定した状態(汚したり,縛られる,傷をつけるなど)で呼び出す「キャラクターローダ」や,各種アニメーションに関連する「フェイシャルマネージャ」,タイムシートを読み込んだり,レンダーレイヤを設定する「フレームエディタ」,タイムシートのデータから口パクキーを自動的に設定する「自動口パク」など,制作時に使用したツールが次々と紹介された。
CGのレンダリングツールもデフォルトでは不便だったそうで,カスタムシェーダを用意し,満足できるクオリティを出せるようになったとのことだ。
「SDガンダム三国伝」のプロジェクトを終え,反省点も見えたという。良い点は「作画素材とのマッチングは予定通り上手くいき,リミテッドアニメ独特のメリハリを実現できた」こと。小高氏は「『SDガンダムフォース』での悪い点は完全に払拭できたと思います」と述べていた。
Furryballを用いて,「SDガンダム三国伝」のモデルデータ3体(約24万ポリゴン)をレンダリングしたムービーも公開された。こちらは画面全体で約54万ポリゴンになったという |
シェーディングは「SDガンダムフォース」より改善されたそうだが,「フレームごとに色が極端に変わってしまう問題が発生し,手作業で対応するなど,新たな課題も生まれた。
最後に小高氏は「レンダリングの高速化を図り,時間短縮できた部分をアニメーション制作の方に向けたい」と今後の課題に触れ,講演を締めた。
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