今話題沸騰の「リアル脱出ゲーム」を誌上リプレイ。クリア率わずか0.3％の「ある使徒からの脱出」から，君は脱出できるか

　「リアル脱出ゲーム」という遊びをご存じだろうか。Flashゲームなどでは定番の「脱出ゲーム」を現実世界に移し，実際の密閉空間を手がかりをもとめて探し回ったり，呈示された謎を解き明かしたりしながら，制限時間内の脱出を目指すというアトラクションだ。括りとしては，いわゆる「ARG（Alternative Reality Game）」に属するゲームということになるが，これが近年，意外なほどに遊ばれている。
　中でも企画会社SCRAPがプロデュースする「リアル脱出ゲーム」は，どれも絶妙な難しさで人が人を呼び，ここ半年だけでも東京ドームを会場とした大規模なものから，マンションの一室からの脱出を少人数で目指すものなど，全国各地でさまざまな形式のものが開催され，人気を博している。

　そこで今回4Gamerでは，その人気の秘密を探るべく，11月に富士急ハイランドを会場に開催されたイベント「ある使徒からの脱出」に参加。全2回の記事で，その全貌を明らかにしていく。第1回の今回は誌上リプレイとして，イベントの最初から最後までを，ネタバレも込みで完全レポートしていこう。
　タイトルからもわかるように「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」とのコラボレーションで行われ，「史上最高の難度にして最高級の面白さ」となったこのイベントに，これまで10回以上のリアル脱出ゲームに参加してきた，リアル脱出ゲームマニアの筆者が挑む。

　果たしてあなたは，この「謎」が解けるだろうか？

「リアル脱出ゲーム」公式サイト

ネルフ富士急支部，誕生

　すでに肌寒さを感じる11月の山梨。「ある使徒からの脱出」は，閉園後の富士急ハイランドを貸し切っておこなわれた。18時の閉園と共にゲーム開始ということで，筆者のグループは，余裕をもって受付開始の17時15分から会場入り。今回の攻略メンバーは，リアル脱出ゲーム初参加の2名を含む，総勢10名の精鋭達だ。
　ゲーム開始までの小一時間，参加者達は富士急ハイランド併設のホールシアターで待機する。そのホールシアターへの入場の際に渡されたのが，以下のアイテムだ。

封筒：開始の合図があるまで開けてはいけない。表にはイベント全体の注意書きと，エヴァ基本用語集が印刷してある

携帯カイロとボールペン：カイロは夜の園内は寒くなるためサービスとして，ボールペンは謎を考えるときのメモ用として配られる

　前述のとおり，今回のイベントは遊園地を貸し切っておこなわれる，リアル脱出ゲームの中でもかなり大規模なものとなる。ホール内には，約1200人の参加者が，ゲームの開始を今か今かと待っている。筆者のグループも席には着いたものの，手持ちぶさたでホール内を歩き回ってみる。後方では限定コラボグッズなどを売る物販ブースもあって盛況なようだった。

開始前のホールの様子。各回1200人ものお客さんが参加する

身軽になってゲームを楽しめるよう，荷物を預かるクロークも用意されている

コスプレをしたエヴァファンのお客さんもたくさん来場していた

物販ブース。奥に並ぶのは，立ち歩きながら謎解きをするのに便利なオフィシャル・クリップボード。4色展開のうち，一番人気は「綾波色」の水色だとか

使徒，襲来

　18時。いよいよイベントの開始時刻となる。会場の照明がすーっと落ちると，ホール内には少しあせったような，そしてファンには聞き慣れた声が響く。

「え？　何？　これ，もうマイク入ってるの？」

　この声はミサトさん！　会場にざわめきが走る。
　気を取り直したミサトさんによれば，どうやらここは「ネルフ富士急支部」であり，集まった我々は，今日から配属されたネルフの新人職員ということのようだ。否応なく盛りあがる会場からは，喝采の声があがる。

スクリーンに映し出された着任式の画面

　しかしミサトさんが新人歓迎のあいさつを始める間もなく，轟音とともに（これまたお馴染みの）警報が鳴り響く。「こんなときに！」と毒づくミサトさん。使徒が襲来したのだ。


「使徒の目的は，ネルフおよびネルフ職員の殲滅と推測。エヴァンゲリオン初号機が対処にあたっていますが，活動限界までの時間はあと80分しかありません」

SCRAP 代表取締役 加藤隆生氏

　ここでエヴァに詳しいチームメイトからは「80分!?　ながっ！」などとツッコミが入るわけだが，ゲームの制限時間の80分を，エヴァの活動限界に絡めたのはナイスアイディアだ。80分が経過するまでに，ネルフ職員である我々参加者は「避難区域」を探して，そこへ辿り着かねばならない。失敗すれば，待っているのは使徒がもたらす「死」だ。
　ミサトさんいわく，「スーパーコンピュータMAGIが“避難区域”を算出しましたが，使徒による浸食攻撃のため，そこへの道のりは暗号化されています」とのこと。さまざまな謎を解いていくことで，避難区域がどこなのかが次第に明らかになるというわけだ。最後にミサトさんが「いい？　一番大切なのは，絶対に生き残ること。またここで会いましょう」と優しく伝える。

　ミサトさんのナレーションが終わると，SCRAPの代表取締役であり，これまで数多くのイベントで司会を担当してきた加藤氏が，ステージに登壇して諸注意を述べる。内容は「夜の遊園地は暗いのでなるべく走らない」「立ち入り禁止の場所には入らない」といったものだったが，軽妙なその喋り口に会場は大ウケ。
　ここで加藤氏から，受付時にもらった封筒を開けるように指示が出る。はやる手で中身を取り出すと，以下のアイテムが入っていた。

マップ：「ネルフ富士急支部」の大きな見取り図。下にはAとBのIDを記入する欄がある。また，よく見るとマップの座標が通常の「A」からではなく，「N」から始まっているのが気になる

メモ用の白紙：謎を書きとめるための紙。ここで物販で手に入れたクリップボードが役立つわけだ

職員証：ネルフ職員であることを示すカードで，首から提げられるようになっている

　加藤氏は言う。

「このカードをまず首にかけてください。これがないとネルフ職員とは認められません」
「そして，最後に重要なことをお伝えしておきます。それは心と心をつなぐことです。心がつながれば，MAGIが行き先を示すでしょう」
「それでは，リアル脱出ゲーム，スタートです！」

……謎めいた文句とともに，いよいよ「リアル脱出ゲーム」がスタートした。

【ネルフ富士急支部壊滅まで，あと80分】

見知らぬ，パネル

　オープニングが終わると，さっそく前方スクリーンに5つの謎が映し出される。


　すごい勢いでホールを飛び出していく人もいるが，まずは落ち着いてこの謎を解いてから出発することにしよう。それぞれの謎を解くと，富士急ハイランド内の5つのアトラクション名が答として出てくる。先に示したマップと照らし合わせれば，読者の皆さんにも行くべき場所が分かるはずなので，ぜひ一緒に考えてみてほしい。

最初の5つの謎の解法（選択して反転）

1. マップと照らし合わせると，ちょうど似たような形のエリアがあり，●がついている場所には「合戦 戦国BASARA」のアトラクションがある。
2. バラバラにされた漢字を復元すると「招」「猫」という漢字になる。「ナガシマスカ」というアトラクションには，巨大な金色の招き猫があった。
3. この文字列は，アルファベットが後ろから順に並んでおり，最後から読むと「DEFGHIJ」となっている。抜けている文字は「G」と「E」。「GE」が3つで，「GEGEGE」……つまり，「ゲゲゲの妖怪屋敷」のアトラクションが答。
4. そのものズバリ，「EVANGELION:WORLD」というアトラクションがある。書いてあるとおり，ここへはゲーム開始から「40分以内」にたどり着かなければならない。
5. エヴァ風の漢数字で書いてあるが，数字に直すと「23＋12÷3−3×3」となり，答は18。マップ上で18番のアトラクションは「大観覧車」。

　答が分かったので，さっそくそれぞれの場所へと向かう。筆者のグループは10名なので，「5つの場所を2人ずつ手分けして回るのはどうか」などと相談するが，初参加者2人を含む3人が「全部自分達で解きたい」と言って離脱していった。結果残りの7人で，5つの場所を順番に回ることにする。

　ホールから外へ出ると，当日の天候はまさかの「霧」。幻想的な光景があちこちに広がっていた。普通では見られない夜の遊園地は，ライトアップがとても美しい。

ホールから一歩踏み出すと，幻想的な「夜の遊園地」の世界が広がっていた

　広い遊園地内を，ほとんど走るように（※注意にもあったが，危ないので走らない）早足で移動し，順番にアトラクションをめぐっていく。気温は低いが，歩いているうちにどんどん汗をかいてくる。それぞれのチェックポイントには，こんなパネルが設置されていた。

1のパネル
2のパネル
3のパネル
4のパネル
5のパネル

　筆者のグループは広い園内を移動する途中，3人と4人のチームに分裂してしまったが，一番奥の「ナガシマスカ」パネルにたどりついたところで再び合流できた。それぞれ，携帯電話のカメラなどで撮影してきたパネルの写真を突き合わせて確認する。4人チームのほうは観覧車のパネルを見ておらず，代わりに「あやしい数字があった」と言う。
　ゴンドラの一部にだけ明かりがついており，照らし出された数字「28・20・16・4」があやしいのでは？　とのこと。ただかなり目がよくないと見えないような数字もあって，本当に謎に関連しているかは分からない。しかしリアル脱出ゲームの最中はどんな小さな手がかりも見逃すわけにはいかないので，一応覚えておく。とりあえず今はパネルの謎を解くことだ。

【コラム】大人数VS.少人数

　今回のような広い場所をめぐるタイプのリアル脱出ゲームは，大勢でチームを組んで参加したほうが，探索場所を手分けして回ることができるので，時間的に有利なことは間違いない。ただし1人でもクリアできないわけでは決してない。すべての謎は必ず1人でも解けるようにできており，この点については運営側から保証されている。もちろん今回の「ある使徒からの脱出」でも，1人で脱出に成功した人がいたそうである。

　……必死に考えを巡らす7人だが，5枚のパネルに隠されたメッセージが分からない。このままじっとしていても始まらないので，とりあえず移動してみることにする。5つのパネルのうちの2つには，場所を示していると思われるヒントが書いてある。2つ目パネルにある「A＝ええじゃないかのロゴマーク」と，5つ目のパネルにある「B＝迷宮（おそらく「戦慄迷宮」のこと）」がそれだ。

　「ええじゃないか」と「戦慄迷宮」に行くと，それぞれの入場ゲートでスタッフが道をふさいでいた。どうやらマップに書き込んだIDを見せれば通してもらえるようだ。すると，最初に離脱した初参加者たち3人組が「お先に！」とゲートを通り抜けていくではないか！

　これは意地でも解かなければ，と再度パネルの写真を見比べていると，チームの1人が「分かった！」と大声を出した。「AのIDはリンゴ，BのIDはアダム」と答を聞いて，マップの下にあるIDを書く欄に「アダム」と「リンゴ」を書きこんでみる。ゲートでドキドキしながら見せると……通してくれた！

【ネルフ富士急支部壊滅まで，あと45分】

謎のかたち 葉のかたち

　さて皆さんはこの5枚のパネルから，2つのIDを導けただろうか？
　答はこうだ。まず5枚のパネルに書かれたひらがなを，順に書き並べるとこうなる。

だ で び ん で え
む ぃ ー ご ぃ ー
で ー の で ー の
あ は あ あ は あ
る あ い り り い

パッと見では意味不明だが，後ろから縦に読んでみると……，

「えーのあいでぃーはりんごでありびーのあいでぃーはあだむである」

「AのIDはリンゴであり，BのIDはアダムである」。なるほどそういうことか。見事回答を導き出したチームメイトの説明を聞きながら歩みを進めると，AとBの各ゲートの奥で，こんなパネルが見つかった。

Aのパネル

Bのパネル

　数式のようなので，とりあえず代入してみると，「いちじ＜か＜せ」となるが……どういうことだろう？　この答はすぐに出た。パネルを写真に収めたあと，明るいところまで歩きながらチームの1人が言うには「これは簡単でしょ。いちじくでしょ，いちじくかくせ」。

　一見不等号に見えた「＜」，実はこれは不等号ではない。ひらがなの「く」だというのだ。つまりこのパネルは「いちじくかくせ」というメッセージなのだ。なんだって！
　……いやでも待てよ？　「イチジクを隠せ」って？　実は，参加者全員のすぐ近くにイチジクは存在していた。参加者全員が首から提げている「ネルフ職員証」に書かれたNERVのロゴ，これこそがイチジクだったのだ。

筆者「ああ，このネルフのロゴのことか！」
エヴァファン「そうそう」
別のメンバーA「なんでこれがイチジクなの？」
筆者「この葉っぱがイチジクだって，封筒に書いてあるじゃないですか」
別のメンバーA「そんなの読んでないよ」
エヴァファン「へー，そんなとこに書いてあるんだ」
筆者「え，読んでないのになんで知ってるんです？」
エヴァファン「そんなの，エヴァ知ってる人なら常識でしょ！　ていうかなんで知らないの!?」
ほか全員「知らないよ！」

この葉っぱがイチジクであるということは，よく訓練されたエヴァファンなら周知の事実だろうが，封筒の用語集の中にもちゃんと書いてある

ここでカードホルダーから職員証の紙を取り出してみると，「TEXT IS MAIN」（中に文章あり）と書いてあり，開くと謎めいた文章が現れた

　さてイチジクが指し示すものは分かった。この職員証をどうにかすれば，次のチェックポイントと，そこでやるべき事が分かるはずなのだ。しかしこれが超難問である。事実，ゲーム終了後の答合わせでも，ここで詰んでしまった参加者は非常に多かったようである。画面の前の皆さんも，ぜひ考えてみてほしい（解答は次のページ）。

【ネルフ富士急支部壊滅まで，あと30分】