インタビュー
会社経営はクソゲー過ぎる!――ユビキタスエンターテインメントの清水 亮氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第9回
会社経営はクソゲー過ぎる!
川上氏:
ところで清水くんは,会社を興してからもゲームって遊んでいるの?
清水氏:
正直,あんまり遊んでないですねぇ。
川上氏:
僕は,会社を経営するようになってからゲームが楽しくなくなっちゃったんだよね。
4Gamer:
という割には,結構遊んでいるような(笑)。
川上氏:
いやでも,“新鮮さ”みたいなものは本当に感じなくなってしまったんですよ。
まぁ,会社経営の方がゲーム性が高いですしね。
川上氏:
確かに会社経営ってゲーム性はかなり高いよね。だけど会社経営って,凄いクソゲーじゃん? ゲームバランスなんじゃらほいみたいな感じじゃないですか。
清水氏:
あはは。確かに!
川上氏:
なんでこんなクソみたいなバランスで,かつ縛りプレイをし続けなきゃいけないのっていうね(苦笑)。
清水氏:
見てるだけでいい時と,自分で死ぬほどやんなきゃいけない時のバランスもかなり悪いですよねぇ。
川上氏:
それにご褒美がもらえる間隔が長すぎて,もう待ってらんないみたいな感じもある。そもそも,ご褒美をもらえるかどうかも分からないし。
清水氏:
まぁあと,ご褒美をもらえるような時はずっともらえ続けますからね。それはそれで,もはや麻痺してきて,これがご褒美なのか罰ゲームなのか分からなくなる。
川上氏:
そうそう。
清水氏:
ちなみに会社経営とゲームって話で言うと,僕は会社を起こす前に「シムシティ」と「ザ・コンビニ」をかなりやり込んだんですよね。
川上氏:
え,なんで?
清水氏:
いやー,「会社が潰れる感覚」っていうのを掴みたいなと思って(笑)。
川上氏:
あんなゲームをいくらやったって,なんの勉強にもならないでしょ。
4Gamer:
れ,連載のテーマ……。
清水氏:
いやでも,シムシティとかって,慣れないとすぐに借金漬けになって破綻するじゃないですか。だから借金は計画を立ててやらないと駄目だっていうのは,僕はシムシティから学びましたよ。
川上氏:
あー,それは確かに。でも市販のゲームってさ,何か一つ法則を見つけたら,それで全部オッケーになるじゃないですか。
4Gamer:
そうですね。
清水氏:
確かに実際の会社経営と比べたら全然簡単なんですけど,やっぱりある程度は通じるものがありますよ。とくに僕は最初,会社を経営するうえで「資金繰り」っていうのが分からなくて。
川上氏:
あー,会社が軌道に乗るまでっていうのは,基本的に「資金繰りゲーム」を延々とやらされる感じだよね。
清水氏:
人を雇い始めてからしばらくは「資金繰りゲーム」ですよね。
4Gamer:
じゃあ人を雇う前,会社を起こした直後とかってどんな感じだったんですか?
清水氏:
んー,僕の場合は,ゲームで喩えるなら初代「ウルティマ」みたいな感じだったかなぁ。
川上氏:
ウルティマ? それは何を喩えているの? クソゲーってこと?(笑)。
えーと,クソゲーだったのは間違いないんですけど,ウルティマの何がすごいかって,あれってゲームをスタートすると,いきなりフィールドのど真ん中に放り出されるじゃないですか。ぽつんと。
4Gamer:
ああ……何していいか分からないみたいな?
清水氏:
そうそう,あの感覚ですよ。で,左側に行くと最初の町があるんですけど,間違って右に行くと,いきなり犬に襲われて死ぬ,みたいなね。なんでこの犬がこんなに強いの?という(笑)。
川上氏:
いやぁ,理不尽なバランスだよねぇ。
清水氏:
ウルティマは,本当に何の説明もないゲームでしたよね。同時期に出た「ウィザードリィ」が凄く親切に感じたくらいに(笑)。 だってウィザードリィは,目の前にちゃんと道があって,前に進めばいいんだっていうのが分かりましたから。
川上氏:
あの頃のゲームってさ,あらゆる選択肢を“全探索”するようなゲームばっかりだったよね。
4Gamer:
基本的にそうですね。
川上氏:
すべての枝(選択肢)をチクチクしてくっていう。今はテンプレというか,型が出来てしまっているのもあって,RPGだったら「次はきっとこうだろ」みたいな感じになっているけれど。
4Gamer:
そろそろセーブポイントがあるな,みたいな。
川上氏:
ちなみに社員はいつくらいから雇ったの?
清水氏:
二年目の終わりぐらいですねぇ。
4Gamer:
最初はどんな人を雇ったんですか?
清水氏:
最初に雇った社員は,僕の補佐をする事務の人でした。ただ,補佐の人なんだけど,その人は僕よりも給料が高かったんですよね。当時,僕は月15万円くらいの給料でなんとかキリキリやり繰りしていたんですけど,初めての社員には,25万円くらい払っていて。
川上氏:
ふむふむ。
清水氏:
でも,事務処理をしてくれる人がいないと困るからって,なんとか頑張って払うんです。ただ当時は,会社(ドワンゴ)を辞めて俺は何をやっているんだ!って真剣に思いましたね。
川上氏:
ドワンゴのストックオプションとかもかなぐり捨てて出て行ったわけだしね。
清水氏:
そう。川上さんよりも高い給料が欲しいと思って出ていったのに,現実は,自分は15万円の給料で,社員に自分より高い給料を払いながら会社を回しているというね。なんというか,屈辱的な状態だった。……あの頃が一番辛かったな(苦笑)。
川上氏:
ともかく,会社が軌道に乗らない間の資金繰りって本当に厳しいよねぇ。
清水氏:
厳しいですねぇ。
4Gamer:
分かりやすく言うと,どんな感じなんだろう。
川上氏:
んー,ゲームで喩えるなら,「宿屋が使えなくて,やくそうだけで回復しながらプレイするドラクエ」みたいな感じですかね(笑)。
一同:
(爆笑)。
もう会社に行きたくない!って思う時
川上氏:
最初の段階(会社経営の)がウルティマみたいなゲームだったとして,次はどういう感じだったの?
清水氏:
次は……「スペランカー」かな。
4Gamer:
やっぱりクソゲー?
清水氏:
だいぶ分かりやすくなって,目標とかも明確になるんだけど,やっぱり理不尽!という感じですね。
川上氏:
その後は?
んー,資金繰りをあまり考えなくても大丈夫になった後は,「昔の川上さんの気持ちを追体験するゲーム」だったかも。
川上氏:
なにそれ?(笑)。
清水氏:
いや,「もうなんでこいつに給料払わなきゃいけねーんだ」とか,そういう気持ちというか。あ,こういう話って公でしちゃまずいかな。
川上氏:
まぁ,分かるけどね。
清水氏:
本当に会社に行きたくなくなった時期とかもありましたからねぇ。
4Gamer:
ええっ,清水さんでもそんなことを思うんですか?
清水氏:
思いますよ。なんかね,部下に尊敬されてないって気持ちが強くなってしまった時期があったんです。「俺はみんなに尊敬もされてなければ,大事にもされてない。ただの給料払いマシーンだ! キャッシュ・ディスペンサーになってしまった!」みたいな。
川上氏:
お父さんみたいな。
清水氏:
本当にそう。僕が一人で頑張って営業して仕事を取ってきて,キリキリ働いて給料を払っているっていうのに,「みんな俺を尊敬してないばかりか,むちゃくちゃな要求ばかりしてくる!」ってね。「何なんだこの状況は?」と思っていた時期があって。
川上氏:
でも,そういうのって,だいたい被害妄想でしょう?
清水氏:
まぁそうですね。そう思ってた時期の社員は誰も辞めたりしてないですし,結果としては,ただの被害妄想だったかもしれません。
4Gamer:
でもなんか,ちょっと意外だなぁ。
清水氏:
あ,あと,会社で部下を叱ったりすると,なんか「気分で怒ってる」とかって言われたりもするじゃないですか。あれも,僕は辛くて辛くて……。
川上氏:
あー,はいはい。
清水氏:
別にそういうわけじゃないんだけどなーっていうか。そもそも「怒る」なんて,もの凄くエネルギーが必要で面倒くさいのに,いちいち気分でやってらんないよって思ったりもして。そういう時も辞めたくなる(笑)。
川上氏:
まぁ,怒る怒らないで言ったら,僕は損得で考えてますよ。怒る必要があるな,怒って意味がある(得をする)と思ったら怒るし,意味が無いと思ったら怒らない。だから会社で怒るのって,基本的には演技だったりしますよね。
4Gamer:
ああ,そうなんだ。
清水氏:
でも,なんか怒るの忘れたりしませんか? 後で「あ,これ怒っとかなきゃいけなかったな」って思い出して後悔したりしますよね。
川上氏:
するする。
清水氏:
だから,2回目に同じようなことがあった時には,ちゃんと「駄目だろ」って言うんですけど,そう言うと「気分で怒ってる」とかって話になって……。
4Gamer:
それは凄くよく分かるな……。
川上氏:
あーでも,気分で怒らないって言うのは,それは間違いだと思うんですよねぇ。
清水氏:
え,そうなんですか?
川上氏:
うん。気分で怒ってるって思われてるぐらいが,実は社長としてはちょうどいいんですよ。
4Gamer:
んん,それはなぜなんですか?
そうすると,「怒る時の精密さ」を部下から要求されにくくなるんですよ。この人は「ちゃんと怒るべき時に怒る人だ」と思われていると,逆にちゃんと怒るべき時に怒らないと,たったそれだけで,もの凄く信頼度が下がってしまうんです。
4Gamer&清水氏:
なるほど!
川上氏:
だから,部下の「要求レベルを下げる」っていうのが,長い目でみたらすごい重要で。怒るときにランダム性があるっていうようなキャラ設定にしておく方が,社長をやるうえでは楽だと思いますよ。そうしないと,ホントやってられないから(笑)。
清水氏:
いや,さすがですねぇ。
4Gamer:
そういう考え方もあるんですねぇ……。
清水氏:
まぁともかく。自分で会社を経営していく中で,みんなロクに働かないでワガママばっかり言っていた昔のドワンゴを思い出して。「ああ,川上さんはあの時こういう気持ちだったんだな」って。大変だったんだなと思うようになりました。
川上氏:
んー(笑)。っていうか,昔のドワンゴって会社は,森さん(※)の会社だからねぇ。森さんが連れてきたエンジニア達の会社で。彼らに仕事が発注できると,そこで利潤が生まれるって構造だった。だから,仕事をしていたのは彼らで,僕はむしろ寄生してただけなんだよね。
※森 栄樹:ハンドルネームはalty(アルティ)。Bio_100%の代表で,プログラマーとして活躍。MicrosoftでDirectXの開発に関わったのち,ドワンゴに合流した。ドワンゴの開発部長を経て,現在は独立
清水氏:
いやでも,今振り返ってみれば,当時の川上さんはちゃんと仕事してたなって思いますよ。だって,みんながゲームばっかり遊んでるあの時,セガやマイクロソフトから仕事を取ってきたのって,主に川上さんですよね?
川上氏:
まあ,仕事があればね。仕事が回ってれば,会社って回るから。
当時はむしろ川上さんしか働いてないと思いますよ。僕はむしろ「この人,こんな仕事を取ってきて大丈夫なのかな」とは思ってましたけどね。
4Gamer:
そのマイクロソフトの仕事って,ジェイムス・スパーンさん(※)とかが絡んでいるものですか?
※ジェイムス・スパーン:セガを経て,マイクロソフトへ入社。DirectXやドリームキャストのOS開発,そしてXbox事業を担当し,国内外でゲームビジネスに従事していた人物。Xbox事業部の初代部長。2012年10月付けで,ドワンゴの執行役員に就任した
川上氏:
そうですそうです。よく知ってますねぇ(笑)。
清水氏:
Xbox事業部の初代部長ですよね。
川上氏:
うん。というか,マイクロソフトで「Xbox」の企画が立ち上がったのって,マイクロソフトがドリームキャストのOSを作っていて,そのノウハウがベースとしてあったからだしね。だから,セガとマイクロソフトの取り引きがなかったら,今頃Xboxだって存在しなかったと思うよ。
清水氏:
ジェイムスは元セガですしねぇ。
川上氏:
マイクロソフトとセガの取り引きも,そのジェイムス・スパーンが一人で決めたんだよね。勝手にさ(笑)。
4Gamer:
知られざる……ってほどでもないけど,ゲーム業界の歴史の一つですよね。
清水氏:
っていうか,ドワンゴの日本法人を作ったのもジェイムスでしたっけ。
川上氏:
あ,そうそうそうそう。ジェイムスがアメリカの親会社に勝手に電話したんだよ。日本のマイクロソフトのオフィスから国際電話をかけて,「川上さんに日本法人作らせたらどうかな?」って,勝手に米国のドワンゴの創業者と交渉をはじめたんだよね(笑)。だから,ドワンゴの設立交渉のための電話代は,言うなればビル・ゲイツが払ったんですよ。
清水氏:
ビル・ゲイツといえば,以前,ジェイムスが「ビル・ゲイツからメールが来たよ」とかいって喜んでましたよね。大した内容でもなくて,「元気?」ぐらいのメールだったんだけど,彼はもの凄く喜んでいた。
川上氏:
……いや,ビル・ゲイツから「元気?」ってメールが来るのって普通に凄い話でしょ。事務的な仕事のメールが来るよりも,そういう「元気?」くらいのメールが来る方が凄いし,何倍も嬉しいんじゃないかな。
4Gamer:
それは確かに。
清水氏:
なるほどぉ。じゃあ僕も,社員にそういうメール出そうかなぁ。
川上氏:
それは,逆に社員が心配するんじゃないの。
清水氏:
「俺,リストラされんのかな……」みたいな?
川上氏:
いやいや,「社長,大丈夫かな」って方向で。
4Gamer:
ああ,「社長,なんか病んでるな」みたいな。
川上氏:
「元気?」って言ってる社長の元気さを心配されると思う(笑)。
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