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「ロード・オブ・ザ・リングス オンライン」インタビュー。OBT,サーバー分割,そして地獄の翻訳作業について
三つに分けられたワールドの意図,オンラインゲームのシステム上にある翻訳の困難さ,今後の展開など,本作に関心を持つ人には,興味深い内容となっているだろう。すでにOBT開始と共に公開された情報もあるが,いま遊んでいるプレイヤーはぜひチェックしてみてほしい。
■パッチは2週間くらいでぜひ導入していきたい
すいません,こんな慌ただしいときにお時間を取っていただいてありがとうございます。まずは,クローズドβテスト,お疲れさまでした。手応えはどうでしたか?
笹田氏:
そうですね。今回,大規模クローズドβテストということで,たくさん集まっていただき,ご要望も多くいただきました。なんとか,それらご要望を組み入れようと,いま頑張っているところです。
4Gamer:
同接はどれくらいいきました?
笹田氏:
うーん,4000人近くまでいきましたね。満足のいく結果です。
4Gamer:
“洋ゲー”といわれる中では,確かにかなりの人数ですね。ではこれから始まる(編注:インタビュー時は5月10日)OBTではどれくらいのアカウント数を見ていますか?
笹田氏:
3万人くらいですかね。
4Gamer:
OBTの後に正式サービスが始まって,その後の無料期間は予定されていますか?
笹田氏:
1週間です。
4Gamer:
昔ならまだしも,今これだけ無料のオンラインゲームが溢れている中で1週間というのは,LotROのようなゲームだと,ちょっと短い気がしますが。
笹田氏:
OBTから含めると3週間ありますし,パッケージを購入した人は同梱されたプレイチケットで1か月プレイできます。土日を1回は挟めますし,なんとかご容赦いただきたく。
4Gamer:
なるほど。確かにLotROは1週間でもそれなりにレベルも上がりますしね。
ところでLotROというと,どうしても「指輪物語」が表に立ってしまって――いや,それは当たり前なんですけど――見逃されがちな話題としてサーバー分割があると思っています。
業界でもよく話題には挙がりますが,実際にサーバーのテーマを三つに分割するのは,非常に珍しい試みですよね。
笹田氏:
そう言っていただけると(笑)。
4Gamer:
いまは三つのサーバーですが,四つめというのは?
笹田氏:
1サーバーの同接をMax3000人で考えているんですが,第4サーバーもいつでも立ち上げられる準備はしています。
4Gamer:
おや,もうスタンバイしてるんですか。第4サーバーが上がるとしたら,そのテーマは,そのときの状況に応じて,ということになるんですか?
笹田氏:
いやいや。第4のネタもちゃんと考えてありますよ。
4Gamer:
まだネタがあったんですか! どんな感じのものでしょう?
笹田氏:
まだちょっと内緒にさせてください。内容はコミュニティに重点を置いたものになります。むろん,第4サーバーの内容は,状況に応じて使い分けることになるとは思います。
4Gamer:
しかしそんなにサーバーを分け……あぁ,そうか。クライアントバージョンは同じだからパッチで問題が出たりはしないんでしたね。
笹田氏:
ええ,全部一緒です。ゲーム自体は一緒で,イベントなどが違うだけです。
4Gamer:
パッチといえば,本家アメリカ版とのタイムラグはどれくらいを想定していますか? 例えば,6月にアメリカで実施されるアップデートは,日本ではいつくらいに導入されるのでしょうか。
笹田氏:
そうですねぇ……できれば2週間までには,と考えていますが,どんなに遅れても1か月以内くらいには。6月にアメリカで導入されるアップデートについては,すぐ対応します。翻訳も来週から開始しますしね。
■三つのサーバーをどう考えるべきか
では,3サーバーの特徴を改めて教えてください。まずは,Aeglos(ノーマルワールド)についてです。「さまざまなイベントを実施」とありますが,どんな内容を想定していますか?
笹田氏:
具体的にはまだちょっと発表できないんですが,基本的には,指輪物語に出てくるようなキャラクター達と触れ合えるようなイベントなどです。
4Gamer:
原作に名前が出ているような,著名なキャラクターですか?
笹田氏:
そうです。どちらかといえば,指輪物語の小説,映画のファンの人に満足していただけるイベントをやりたいなと思っています。
4Gamer:
しかし,そういう意図があるとすると,場合によってはNarya(ロールプレイワールド)とかぶったりませんか?
笹田氏:
大丈夫です。NaryaはグループSNEさん主導のイベントが売りで,どちらかというと,SNEさんと触れ合うイベントとでも言えばよいでしょうか。
4Gamer:
あぁ,なるほど。ちょっと理解できました。
笹田氏:
Naryaでは,指輪物語を題材にした,ゲームの中で実現可能なイベントをやっていただくようなイメージです。例えば,SNEの人達と一緒にモンスタープレイの人と戦ってみたりとか,そういうことができると楽しいかなと思ってます。
4Gamer:
しかし「ロールプレイワールド」と呼ばれているため,その言葉にあまり馴染みがないプレイヤーは戸惑ってしまうと思うのですが。
わざわざ定義するようなものではないですが,あえてさくらインターネットとして,Naryaサーバーの「ロールプレイ」の定義はありますか? ロールプレイに慣れていない日本のプレイヤーに向けて,ぜひなにか指針を与えてください。
笹田氏:
うーん,言葉で簡潔に表現するのは難しいですね。本人がなりきって遊んでいただければいいな,と個人的には考えています。
4Gamer:
なるほど。厳密な意味でのロールプレイではなくて,“なりきり”プレイですか。
笹田氏:
ええ。キャラクターに思い入れをもって,自分の分身として遊ぶことを楽しんでいただければいいんじゃないですかねえ。
4Gamer:
ロールプレイ……って割と定義が難しいですよね。古い話で恐縮ですが,EverQuestでのRPサーバーとかになると,もう凝っててすごいじゃないですか。
笹田氏:
そうですね(笑)。まぁでもそこは各自の判断でお願いしたいです。さくらとしては「ロールプレイがこうでなくてはならない」という定義はしませんが,そういう「なりきり遊び」が好きな人が集まっていただけると嬉しいです。
4Gamer:
楽しく“ごっこ”しようという感じですね。
笹田氏:
そのイベントがSNEブログに載ったりして,そのリプレイに自分のキャラが出てるよ! みたいな楽しみ方もできますね。
4Gamer:
……しかし今話を聞いて思ったんですが,ゲームシステム上,イベントを自由に起こせるようになってるんですか?
笹田氏:
Naryaではプレイヤー主催のレイドイベントのようなものをSNEさん主導でやってもらおうと思っていますが,それはあくまでも「プレイヤーイベント」ですね。おそらくいま聞かれているであろうGMがやるようなイベントは,Aeglosで行うことになります。
4Gamer:
Aeglosのイベントでは,どのあたりまで細かくできそうですか? 結構制限がキツそうな印象があるのですが。
笹田氏:
何か物体を出したりNPCを出したりは,ある程度できます。まあ,それなりの制限はありますけどね。許される限り,やれるだけやってみようと思っています。
4Gamer:
DDOもそうでしたが,割と原作シバリが大きいのかな,と思って。
笹田氏:
そうですねえ。相当なシバリがありますよ。
4Gamer:
ですよね。アイテムとか勝手に作れないから,どこをどう間違えてもアイテム課金はないでしょうし(笑)。
笹田氏:
ええ,まぁそもそも作り方が分からないんですけど(笑)。
ただトールキン財団は,比較的本作に対して好意的でいてくれてます。
4Gamer:
前回もおっしゃってたロアマスターとミンストレルの件とかそうですよね。
笹田氏:
そうですそうです。ロアマスターが火の玉を投げたりするじゃないですか。あれ許してくれたこと自体が,ほぼ奇跡だと思うんですよね。
4Gamer:
魔法使いでもないのに。
笹田氏:
いくら古代の知識を得たっていっても,いくらなんでも火の玉は出せないだろう,と(笑)。
4Gamer:
プレイヤーは一人の市民に過ぎませんからねえ。
笹田氏:
そういう意味では,うちからの問い合わせも,およそ2週間くらいで比較的早く返答をもらえます。アメリカの会社と付き合ううえでは相当早いですよね。
4Gamer:
DDO(ダンジョンズ&ドラゴンズオンライン)のときは2か月だった気がしますが(笑)。
笹田氏:
あれはまた絡んでる会社さんも多いですし……(笑)。しかし,2週間くらいじゃないと,このスピードでサービスインできなかったと思います。そこは本当に感謝してます。
■イメージガールは,毎日ログインする人が選ばれた
話がどんどんそれちゃいました。では,三つめのGrondワールドは?
笹田氏:
世のMMORPGって,女の子のイメージキャラクターを使うタイトルが結構多いんですが,本当にゲームをやっているパターンって少ないじゃないですか。じゃあ逆をやってみようということで,実際にプレイしてくれる人にお願いしています。
4Gamer:
プレイしてくれる人縛りで選ばれてるんですね。
笹田氏:
ええ。仕込みなしで,リアルで本人達が毎日現れてプレイするという感じです。
4Gamer:
みなさん名前はそのままですか?
笹田氏:
一応,そのままの名前でいくつもりです。
4Gamer:
ほかのプレイヤーに取られていたら?
笹田氏:
そこはそれ,さすがにキープしてますから。私も今回は名前をキープして,本名シバリでプレイするつもりです。
4Gamer:
お,やる気十分ですね。
笹田氏:
ええ,もう。「遊んでばかりいないでブログも書け」と言われてますが。
4Gamer:
ぜひ両方。ちなみに,どのクラスを?
笹田氏:
ハンターかロアマスターあたりの,人気のないクラスをやろうかなと。
4Gamer:
あれ,ハンターは人気ないんですか?
笹田氏:
人気があるのは,派手で分かりやすいからか,チャンピオンとかですね。最初のうちはあまり強くないという理由で,ロアマスターは比較的,低位をうろついています。
4Gamer:
なるほど,確かにロアマスターの序盤は,他職に比べるとややツラいですね。
笹田氏:
いまハッキリしたデータは持ってないんですが,CBTでチャンピオンが一番人気だったのは間違いないですよ。で,ハンターとロアマスターはイマイチでした。上と下しか覚えてなくてすいません。
4Gamer:
じゃあぜひロアマスター……って,違いますよ,社長の話じゃなくて。彼女達が文字どおりプレイするんであれば,ギルド(キンシップ)とか作ってもらっても面白いんじゃないですか?
笹田氏:
もちろん作ってもらいます。で,最終的にはやっぱりカンスト(レベル制限まで育成)ですね。
4Gamer:
……カンストですか。
笹田氏:
はい。東京ゲームショウ(編注:9月20日〜23日)までにカンストを目指すというのが現在のポリシーです。
4Gamer:
ポ,ポリシー? しかしその期間は短くないですか?
笹田氏:
いやー,毎日やればいけるでしょう?
4Gamer:
ええ,いけるとは思いますが,私や笹田さんの「いけるでしょう」はちっとも当てはまらない気がするんですが……。
笹田氏:
そうですかねえ……。まぁそこは,ファンの皆さんで頑張ってサポートしていただきたいです。ひいひい言いながら生産した強力なアイテムを,どんどん貢いだりとか(笑)。
4Gamer:
なんか謎なサーバーになってきましたね……。イベントなんかも中心になって起こしたりしてくれるんですよね。
笹田氏:
もちろんです。アイドルと一緒にモンスターを倒しに行ったり……あぁ,逆にモンスタープレイでアイドル達を倒すのも楽しいかもしれませんねえ。守るほうもテンション上がりそうで。
4Gamer:
しかしこのサーバーはオープンが遅いですよね。ちょっともったいない気がするのですが。
笹田氏:
ブログのサービスに合わせてオープンするという形です。
オープンβテストから始めてもいいんですが,実は彼女達の訓練が必要なので……。本当に毎日プレイしてもらうためには,さすがにマシンとクライアントをあげて「はいよろしく」と放ってはおけないですから。どうしても操作なりルールなりの訓練期間が必要になってしまうのです。
彼女たちは「のほほん」と遊ぶわけではありません。どこか地方に行くときも,そこでノートPCでプレイするという縛りが入っています。中には「毎日やります」「寝る間も惜しんでやります」という子もいるので,誰か一人くらいはカンストするんじゃないかと期待してる次第です。
4Gamer:
なるほど。なんといいますか,ある意味ネタ系のサーバーなので,逆に最初からオープンしたほうが良いのかなと思ったんですよ。
……そういえば,確かキャラクターのサーバー間移動とかできないですよね。サーバーのテーマを分けた以上,キャラ移動できないのはつらくないですか?
笹田氏:
一から遊べる楽しみということにしておいてください。オープンβテストでは,レベル15までしか育てられません。ファンの人達は,先に先行ワールドでプレイして,戦闘,生産の仕方とかを覚えて,彼女達をガイドしてみたりとかそういうことを目指していただければ。
4Gamer:
なるほど,サポーターですね。
笹田氏:
文字どおりサポーターになる人もいるでしょうし,「おー,やってるやってる」と眺めつつ,自分達のプレイを楽しんだりしている人もいるでしょうね。
ところで彼女達は,プレイした日にリアルタイムでブログを書くことになるんですよ。
4Gamer:
コアユーザー並みですね。
笹田氏:
みんな相当,やる気ですよ。
4Gamer:
クラスは何を?
笹田氏:
4人いるので,それぞれ違うクラスをやってもらおうかなと思っています。種族は,たぶんエルフかマン以外の選択肢はないでしょうねぇ。
4Gamer:
ドワーフとか。
笹田氏:
いやいや。なぜ,そこでドワーフ! 自分たちの名前が出ますから。その名前の下の姿が,“ドワーフ”で“ひげ面”で“ピアスしている”とかいうのは,さすがにどうなんでしょう(笑)。
4Gamer:
割とインパクト強いと思うんですが(笑)。
ところでちょっとネガティブな話題になりますが,やはり最初に聞いたときに,イメージガールの存在は,指輪物語の世界にはまったく馴染まないと思いました。笹田さん,どうしちゃったんだ,くらいの。改めてお聞きしたいのですが,そのあたりはどのようにお考えですか?
笹田氏:
まぁそうでしょうね。なので,そういう意味でサーバーを分けたんです。アイドルがリアルで遊んでいるような世界に入りたくないという人は,ちゃんと用意しましたから別のサーバーで遊んでくださいという形です。イメージガールと遊びたい,彼女たちを助けたいという人はGrondに来ていただければ楽しいかと。やはり比較的カジュアルな層かな,と考えています。
■あまり知られていない,翻訳作業の悲劇
CBTでは,カジュアル層はいましたか?
笹田氏:
ファンタジーにはコアな層だけど,ゲームは初心者という人とか,結構いましたよ。このネーミングは,小説の何ページのこれの話のはずなので日本語が違う,などのツッコミもありました。
実は今回,ご承知のようにカタカナのスキル名とかを残してCBTをやったんですが,指輪物語の世界観には合わないという意見が多かったです。なので,全部日本語化します。
4Gamer:
全部を日本語化ですか?
笹田氏:
ええ,全部チェックしました。これはOBT開始後,間もなく修正が入ります。
4Gamer:
OBTが始まってちょっとしたら,って結構早いですね。
笹田氏:
はい。今日ターバインに日本語のファイルを送ったところです。それがパッキングされて戻り次第,すぐアップデートをかけます。
4Gamer:
何がどの程度日本語になるんでしょう?
笹田氏:
ほとんどのスキル/特性が日本語化されます。例えば,シールドの“バッシュ”が“盾殴打”となるなど,カタカナ英語も日本語訳の名称になります。
4Gamer:
なるほど。この先もずっとその路線で?
笹田氏:
ええ,この路線でいきます。ちなみに,小説でカタカナのままのものは,カタカナのまま残してあります。例えば“ダガー”は“短剣”にしますが,“エルフ”や“ゴンドール”など固有名詞はカタカナのままですね。もちろん,意味が通るように語順も変えています。このような感じで,食料も全部見直しました。
4Gamer:
食料も……。
笹田氏:
3日徹夜しました。昨日海外から戻ったばかりなんですけど,飛行機の中でもずっとやってたのでようやく終わりましたよ。
4Gamer:
いや,ちょっと待ってください。なんでそこで,社長が3日徹夜するんですか。
笹田氏:
私の勝手なこだわりと言いますか(笑)。結構,翻訳しづらいものがあるんですよ。例えば,エール,ブリュー,ビールは,全部“ビール”だったんです。これを全部分けたりとか。
4Gamer:
それはどう分けたんですか?
笹田氏:
エールはエール,ビールはビール,ブリューは醸造酒……だったかな。
4Gamer:
ゲーム内で統一を図るのが大変そうですね。
笹田氏:
出来る限り統一しました。でも日本人には考えられないような食べ物があるんですよねえ。“ねずみのシチュー”とか“ナメクジのすり身”とか。
4Gamer:
そのあたりも含めて日本語になってるんですね。
笹田氏:
そうですね。今日仕上げた分については,昨日の夜遅くまでかけて全部見直しました。例えば「アップル」も,“りんご”と“アップルパイ”など使われ方によって分けて訳されてます。あとスキル名などもこのポリシーで翻訳しました。楽器などは,ホーンは“角笛”ですが,リュートは小説の中でリュートと書かれているので“リュート”のままにしたり。
4Gamer:
その作業は,全部さくらの社内でやっているんですか?
笹田氏:
ええ。私がやりました。
4Gamer:
“私”!?
笹田氏:
最終的には色々チェックをしないといけないんですが,もちろん私一人で百数十万ものワードを翻訳できるわけじゃありません。下翻訳自体はさくらインターネットUSAで作業していますが,「時間がないので自分でやる!」と翻訳したものもあります。
4Gamer:
なるほど……。しかし確かに,まだまだ翻訳がこなれていない部分もありますよね。
笹田氏:
そうですね。まずはユーザーインタフェース周りとレベル15までのクエストを全面的に見直しをかけ,OBTの早い段階でパッチが当たるようにします。正式サービスのときには,レベル15以降のクエストも見直したものがパッチで当たるという形になります。
4Gamer:
修正プランというかマイルストーンみたいなものはあります? パッキングのこともあって,ちょこちょこと直せないじゃないですか。
笹田氏:
いや,ちょこちょこ直しますよ。“パッチ”ですから。ゲームの世界観を大事にしたいので,なるべき早いタイミングで。
4Gamer:
なるほど。先日お話したときに,ファンの声も取り入れていければいいなぁ,ということをおっしゃっていたじゃないですか。そのあたりは可能になったりしますか?
笹田氏:
そこなんですけど,最終的にうちで判断できないことが多いんですよ。その人によって指輪物語への想いが違って,こう翻訳するべき,こう変えるべきというのが,同じ箇所でも3〜4個の見解で送られてくるので,それらを評論社に確認してもらう感じです。
4Gamer:
お,評論社さんが確認してくれるんですね。ではその作業をやりやすいように,ユーザーからの投稿フォームなどを用意したりはしないんですか?
笹田氏:
追って公式フォーラムがオープンするので,そこに修正依頼スレッドを立てる予定です。ぜひそこにガシガシと。
4Gamer:
その公式フォーラムはいつごろオープンですか? 思ったより遅いなぁ,というのが正直な感想なのですが。
笹田氏:
これも5月25日のプレミアム先行サービス,正式サービスに合わせて,ブログとフォーラムをオープンさせる形です。
翻訳関係は,人によって意見が違うので,ユーザーさんの声を聞いて初めて分かるものも多いです。とくに説明文などは,こなれていない部分もあって100%の完成度ではないですが,これまでかなり多くを見直し,修正をかけたつもりです。これからもどんどん,ユーザーさんからの意見を聞きながら修正を継続して行います。
4Gamer:
しかし英語版の本文そのものが間違えてることもありますよね。
笹田氏:
ええ……。それはこちらで適宜対応していくつもりです。ペースとしては,2週間に1回ぐらいずつ,細かなマイナーアップデートで修正する感じでしょうか。
■突き抜けるようなコア路線は取れないですから
4Gamer:
その数百万ワードにもわたる翻訳の問題を考えると,それなりの規模のチームが必要ですよね。現在,何人くらいいるんですか?
笹田氏:
現在は,さくらインターネットUSAを含めて17名です。ちなみにGMは,二交代制で20名くらいで行う形になると思います。
4Gamer:
おや? 二交代制ですか? 時間が合わない気が……。
笹田氏:
ええ,そのため朝方はGMがいません。えーと……15:00から翌朝5:00までがGM対応時間ですね。つまり朝5時から午後3時まではGMがいません。オンラインゲームはみなさんあまり差がないとは思いますが,このあたりの時間って同接がガクンと落ち込みますし。
4Gamer:
とはいえプレイヤーはいますし,緊急時などは大丈夫ですか?
笹田氏:
まったく誰もいないわけではなく,「表に出ているGMがいない」というだけですから,緊急時でも大丈夫です,対応できますよ。
4Gamer:
なるほど,単に「GMのサポート時間外」ということですね。
ところで運営体制が発表されたときから気になっていることがあるのですが,教えてください。例えばですが,どこかのサーバーに人が集中したり,逆にどこかのサーバーがスカスカだったりした場合は,併合なども検討されるんですか? いきなりネガティブな話題で申し訳ないのですが,特徴が分かれすぎているので気になっていて。
笹田氏:
今のところは考えていません。
4Gamer:
どれほど落差があっても?
笹田氏:
うーん,Aが1万人,Bも1万人,Cが1000人とかだったりした場合は考えますが。
4Gamer:
それくらい差がついちゃった場合は併合もあり得る,ということですね。
笹田氏:
さすがにその場合は併合しますよ。マージは問題なくできます。分割はできませんが。
4Gamer:
あら,そうなんですか。マージのほうがキャラ名問題で大変そうだと思ってました。
笹田氏:
システム上,少ないサーバーの人達が改名することになってしまうと思います。とはいえ自分で名前を変えられますけどね。
4Gamer:
名前といえば,ネーミングポリシーはどうなっていますか?
笹田氏:
もちろん,あまりにも変な名前は許容されません。アメリカではネーミングポリシーから外れると蹴られますが,日本語を許した時点で,ある程度はプレイヤーに任せている形です。
日本語名に関してはずいぶん揉めたんですよ。アルファベットのみにすべきじゃないか,とか。ギリギリまで協議したんですが,小説で日本語の名前も出てくるので,仕方がないかなと。
4Gamer:
今までお話を聞いている感じでは,過去にDDOに関してお話ししたときに笹田さんがおっしゃっていた「コアゲーマーに遊んでもらえればそれで満足」というものからは,ずいぶん雰囲気が変わりましたね。
笹田氏:
そうですね。DDOはある程度「やる気」にならないとプレイできないゲームだったのに対して,LotROは極論,一人でまったりと遊べるゲームなので,色々な方に遊んでいただけるように心がけています。そういう意味で,イメージガールにプレイしてもらい,女性でも遊べるよという印象を与えられるといいですね。
4Gamer:
笹田さんといえば,てっきりコアゲーマーという感じかと。
笹田氏:
なんていうか,私一人の趣味では仕事ができないということです(笑)。
4Gamer:
なかなか意味深なセリフですね(笑)。
笹田氏:
いやもう,私個人の好きにしていいのであれば,突き抜けるようなコア路線でいきますけどね!
■やってみて分かる
■オンラインゲームローカライズの大変さ
そんな一人のゲーマーであり社長でもある笹田さんが,データセンターという本業から,オンラインゲームへと事業展開を広げて,すでに2作品目です。運営前に想像していたことと実際は全然違った,ということは何かありますか?
笹田氏:
私自身はオンラインゲームに対して,見た目などのビジュアル部分はあまり重視していなかったんですよ。でもやはりそこへの要望が多いなというのは感じます。ただ,それがクリティカルかというと,思ったほどではなかった。
4Gamer:
キレイであればそのほうがいいな,というくらいですかね。
笹田氏:
最近は,キャラクターメイキングに凝ったゲームもありますが,結局プレイ中の大半は後姿しか見ないじゃないですか。LotROなんかも,やはりまだまだ洋ゲーの雰囲気は抜けませんし,もっとクリティカルに「キャラクターがダメ」というのが来るかなと思いましたが,あまり文句が出なかったですね。
4Gamer:
なるほど。では運営面ではどうですか?
笹田氏:
サーバーの運営については,ほとんど予想どおりですね。すべては想定内,というか。しかし翻訳に関してだけは,完全に予想外でした。
もっと整理された情報が来ると思っていたのですが……IDと数字,それに伴う文章の羅列が書いてあるファイルが来るだけで,予想以上に整理されていませんでした。
4Gamer:
あぁ,それはみなさんハマりますね。来たデータからシーンや使われ方がまったく想定できないので,探し回るしかないんですよね。
笹田氏:
そうなんですよ……。例えば,スキル名らしきものの説明文があるんだけど,どこでどう使われてるのかさっぱり分からない。書いてある名前が装備品なのか食料なのかすら分からないし,売っている場所はもちろん,そもそもそれが売られているのかすら分からないんですよ。これは思った以上に困りましたね。今も困ってますが。
4Gamer:
とりわけアイテム名なんかは,変数に言葉を入れて単純にマージするだけですしね。
笹田氏:
ええ。実際にゲームに適用してみないと分からないという感じです。例えば“Blade”という名詞があって,それを武器だと思って翻訳していると,実は生産で使われる刃の部分だったりとか,そういうことがザラですね。
4Gamer:
そこが最もツラい部分ですか?
笹田氏:
はい。自分で英語版のゲームをやっているときは「こんな翻訳簡単じゃないか」とか思ってました。それで,日本語版になったゲームの文章を見てまったく納得がいかなかったんですよ,プレイヤーとして(笑)。
ところが実際は,色々な場所にあるタダの単語の羅列を寄せ集めて,一つの文章にしているため,もらった情報のどこに何があるのかまったく分からない状況でした。これを翻訳するというのは,私の想像を超えた作業でしたね。
4Gamer:
例えば「Holy」という単語があるとして,それがアイテム名なのかモンスター名なのかSkill名なのか,使われ方によって全然翻訳が変わっちゃいますもんね。
笹田氏:
ええ,それらを文章にしないといけないので……,そこはターバインにシステムの要望を出して文章をすっきりさせる努力をしています。
4Gamer:
なるほど,しかも英語から日本語になると単語の順番が変わったりしますしね。
■ある種の取っつきの良さを大事にしていきたい
4Gamer:
そういえばちょっと気になったんですが,LieVoのアカウントで,さくらの公式フォーラムに書けないというのはどうしてなんでしょう? 私も業界人の端くれとしてIDの連携が難しいことは理解できるんですが,同じタイトルのプレイヤーなのに同じサービスが受けられないのは,LieVoアカウントのプレイヤーには納得できないと思うんですよ。
笹田氏:
うう,キツい質問が……。そこは非常に悩んでいるところで,公式フォーラムをゲストみたいな形で書けるようにするかなどを内部で調整しています。今のシステムは,アカウント認証した人だけが書き込めるようになっているので,そうなるとLieVoのアカウントを勝手に確認するわけにもいかなくて。
4Gamer:
そうですよね。
笹田氏:
これは,なるべく早く対応するつもりです。
4Gamer:
対応はされるんですね。
笹田氏:
そのつもりです。例えば,LieVoの会員は認証なしで書けるようにするとか。逆にさくらのアカウントでは,LieVoのSNSには書けないなどもありますからね。
4Gamer:
なるほど,分かりました……というところで,「もう終わらせろ」というビームが各方面から飛んできているので,あと二つだけ質問させてください。
日本でのオリジナルの要素などは,実現できそうですか?
笹田氏:
翻訳において違いを出させてもらうくらいの要望は出せますが,許されている範囲の中でやっていくという形になります。
4Gamer:
さすがにゲームシステムなどに手を入れるのは難しそうですか?
笹田氏:
うーん,さすがにシステム的には多くは変えられないという感じですね。
4Gamer:
では例えば簡単なもの……例えば,オークションシステムに何かを追加する,みたいな。
笹田氏:
それくらいなら,要望を出せるかもしれません。その場合,実現できたら全世界で対応されることになります。例えば実際にDDOにおいて,ギルドやパーティを組むためのインタフェースの改善は日本側から出した要望で,全世界で実装されました。
4Gamer:
あぁ,確かに。同じターバインだし,LotROでも同じようになる可能性もありますね。
笹田氏:
そうですね。要望はうちもどんどん出していきます。そこで許可されれば対応されます。
4Gamer:
では,最後の質問を。DDOに引き続いて原作縛りが厳しいこの作品ですが,さくらインターネットのオンラインゲーム2作目として,日本のマーケットの中でどのような育て方をしたいと思っていますか?
笹田氏:
原作縛りがあるといっても,それはうちにあるだけで,プレイヤーにはないわけですよね。そこは,映画や小説で知った人がその世界に入っていけるという意味で,他のゲームと比べて入りやすいと思います。
私のように数々のMMOを遊んできた人間は,聞いたことのないタイトルのMMOでも自分で情報を調べてプレイするかを判断したりできるじゃないですか。しかし多くのプレイヤーは,タイトル名だけではそのゲームをイメージすることができず,一歩踏み出すのが難しい。その点,本作はとっつきやすいと思います。
例えば,映画を全部見ていなくても,なんとなくイメージはあるじゃないですか。白髪のおじいちゃんとか,なんだかよく知らないけど小さい人が出てきたりとか(笑)。そこで実際にプレイしてみると,世界観は原作に近いイメージで作られているわけです。これまでMMOをやっていない人や,実際に今までPCを持っていなかった人で,本作のために買いましたというメールなどを見ると結構嬉しいです。やはり,ロード・オブ・ザ・リングというタイトルの魅力があるのかなと。そういう意味では幅広く遊んでいけるような仕込みを入れたいですね。例えば,街中で初心者のプレイヤーを助けてくれるGMがいてもいいんじゃないかなぁ,とか。
4Gamer:
なるほど。初心者プレイヤーに対しての具体的なアクションは何か教えていただけますか。
笹田氏:
そこはやはりLieVoさんから(笑)。
4Gamer:
聞き耳を立ててた佐々木さんに急に横パスが(笑)。どうですか,LieVoさん。
もちろん笹田さんとガンガン協力してがんばっていきますよ。LotROは良いコンテンツだと思います。テクモとして東京ゲームショウなどでの露出もできるでしょうし,LieVoとしても何か新しいサービスが出来ないかなということを今……。
4Gamer:
その「新しいサービス」というのは,先ほどプレスカンファレンスでお話しになっていた共同プロジェクトですか?
佐々木憲太郎氏:
ええ。まだはっきりとは話せませんが,LieVoとさくらで,強くて新しいうねりをオンラインゲーム市場の中で作っていくため,これまでコンシューマをやってきた経験を生かして,新しいサービスを作っていきたいと考えています。
4Gamer:
どのようなものか発表されるのを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
いよいよ本日5月11日にオープンβテストが開始されたLotRO。いわゆる“サーバー屋さん”のオンラインゲーム運営2本目というばかりでなく,サーバーの“色”を完全に分離するという,みなが考えつつもほとんど実行に移されなかった案を大胆に実施しているところも,なかなか目が離せない注目要素だ。
DDOと同じターバインとの連携ということで,さくらインターネット側にもいくぶんの余裕は見られ,アップデートは2週間〜1か月で日本でも対応されるとのこと。本家とのタイムラグが僅かになるのは,プレイヤーにとっては嬉しい話だ。
サーバーのテーマ分割については,インタビュー中にあるとおりで,色分けすることによって,逆に遊びやすい環境を提案するというのが目的だ。
確かに,ファンタジーMMO(に限らないだろうが)のプレイヤーにとって,重要視する部分は人それぞれ。同じサーバーの中であれやこれやを行うより,それらの要素を選択できるようにして,安心して遊べる環境を作るということなのだろう。
それにしても,いくつものバラバラになった単語が単に一覧で送られてきて,ゲーム内はそれらを組み合わせて文章にしている,というのは,初めて聞いた人も多いのではなかろうか。運営会社の口から語られたことはほとんどないが,海外のゲームを翻訳するにあたっての「最難関」として語られることが多い。よく日本語版で「あれどう見ても女キャラなのに男言葉だった」とか「モンスターに食べ物の名前付いてた」というのは,そこから引き起こされる問題なのだ。
確かに大変なのだが,だからといって社長自らが3日徹夜して仕上げるというのも珍しい事例だろう。それはすなわち,運営2作目になっても,社長の情熱が一向に衰えていないということだ。事業は情熱だけで成功するものではないが,笹田氏の熱意があるうちに,ぜひ「大きな成功」を勝ち取ってほしい,と願ってやまない。
また,LieVoとさくらインターネットによる共同プロジェクトとはどのようなものになるのか。こちらもとても気になるところ。今後のさらなる“情熱の開花”に期待したい。(Interview by Kazuhisa,Text by Nobu,photo by kiki)
−−2007年5月10日収録
- 関連タイトル:
The Lord of the Rings Online
- 関連タイトル:
ロード・オブ・ザ・リングス オンライン アングマールの影(パッケージ版)
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