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[TGS 2008#014]TGS Forum 2008,カジュアルゲームとコミュニティの密接な関係
MMORPGによる大砲巨艦主義からカジュアルゲームへのシフトは,長年議論されているところではあるが,成功例はあまり多くない。しかし例外的な大成功例のハンゲームをはじめ,最近ではカジュアルゲームで成功を収めつつある事業も出てきはじめている。
そんななかから,今回はNHN Japan代表取締役森川亮氏,スマイルラボ代表取締役伊藤隆博氏,ショックウェーブエンターテインメントメディア部マネージャー オンラインゲームプロデューサー岡山博紀氏が順に登壇し,各社のカジュアルゲームへの取り組みを語った。
NHN Japanはコミュニティが第一
元々NHN Japanは,韓国NHN(検索やコミュニティなどで有力な韓国企業)の日本版として設立されたため,とくにゲームビジネスを立ち上げようとして現在の形になったわけではないという。日本では,見知らぬ人とコミュニケーションを取るのを嫌がる人が多く,コミュニティを形成しづらいという状況が見えてきた。そこでコミュニケーションを取るきっかけとして立ち上げられたのがゲーム事業なのだという。事業の根幹はコミュニティにある。
MMORPGなど世界観が明確なゲームだと感情移入がしやすいのだが,カジュアルゲームではそれが乏しいということで,重視されているのがアバターだ。NHN Japanでは,ゲーム自体もコミュニティを形成するためのコンテンツの一つという位置付けで,アバターを使ったコミュニティを中心にカジュアルゲームを展開している。モットーは「楽しく,手軽に」である。
そういったカジュアルゲームやアバターで,どのようにビジネスを展開していくかという点については,ユーザーが他人からどのように見られたいと思っているかが重要になってくるという。例えば,ハンゲームはコミュニティが中心となっていることと,日本人のゲーム特性などからして,「争うのではなく,仲よくなるためのツール」と位置づけられているので,アバターアイテムも可愛い系であったりカッコイイ系,ウケ狙いといったものの需要があるだろう。
一方,ルールを明確にした競技やギャンブルなど,争うことを目的とした場合には,アバターアイテムは強さを誇示できるようなものを投入すべきなど,それぞれのシーンに適したものを提供することが重要だという。お金なんか使うもんかと決めてゲームをやっている人も,周りに着飾った人がたくさんいると恥ずかしくなってアバターアイテムを買うようになるのだそうだ。
全体にカジュアルゲームをどうこうというより,アバターとコミュニティの展開を主体としていることが分かる。ゲーム部分を重視したゲーマー向けの展開では,非カジュアルともいえる大型タイトルを提供しているが,これはこれで強化していくという。自社運営の強化や自社開発,共同開発も進めているほか,ハンゲームで簡単に展開できるようなライブラリを公開して,他社で簡単にオンラインゲームを開発できるような環境も提供する予定があるという。
話を戻すと,NHN Japanにおけるカジュアルゲームは,コミュニティを強化するためのツールといえそうだ。
Nicotto Townはあくまで可愛いアバターにこだわる
Nicotto Townは,すべてFlashで作られており,動きはもっさりしているものの,重ね着をして歩かせるといった表現を実現している。重ね着などを綺麗にするには,3Dより2Dが適しているとのこと。要求仕様が膨れ上がってデザイナーが泣きそうになったとかいうキャラクターは,50レイヤーから100レイヤーで実現されているという。
アバターが歩き回る仮想の街,そこから接続されるミニゲーム,そしてユーザーBlog,こういった要素でNicotto Townは構成されている。
このNicotto Townにおけるゲームは,現状ではゲーム内通貨を得るための手段の一つという位置付けだ。現状では,カードゲームなどシングルプレイの簡単なゲームがいくつか配置されているのみとなっている。
基本的に,コミュニケーションを取ってもらうことを最重視したものなので,ミニゲームを熱心に遊ばれるのは,開発者の意図から離れているのだが,1日8時間ほどのβテスト期間中に「今日は7ならべを400回やりました」とかいう人が出てきて困ったのだそうだ。ゲーム自体がそう面白いわけではない。アバターアイテムがほしいため,ゲーム内のコインを稼ぐのにゲームばかりに集中してしまい,コミュニケーションが取られないという悪循環に陥っている人がいたわけだ。そのため,昼間はゲームのレートを下げるなどで,街でコミュニケーション(素敵ボタンを押してもらえるとポイントが溜まる),夜はゲーム,夜中(サービス時間外)はBlogでポイントを稼ぐといったサイクルを構築している。そう,Blogを書くとポイントがもらえるのである。
こうしてコミュニティ,ゲーム,Blogのすべてを回す工夫をしている。βテスト時にはBlogを書く人は70%程度だったということだが,現在は100%の人がBlogを書いているとのこと。毎週テーマを与えて,そのテーマのBlogを書くとアバターアイテムがもらえるといった仕掛けがうまく作用しているようだ。
さて,Nicotto Townがそれまでのバーチャルワールドなどとどこが違うのかという問いに対しては,
3Dではない
Flashでできている
ゲームはバイト感覚でゲーム内コインを稼ぐもの
アバターの動作にこだわらず,移動は歩かずジャンプでいける
などが挙がっていたが,どれもほかのバーチャルワールドで見られる特徴と大差ないようにも思われる。やはり,キャラクターなどへのこだわりが特徴と見るべきだろう。
ハンゲームの例と同じく,ここでもアバターアイテムを中心にした価値観のユーザーを抱えたコミュニティが重要となっている。10代の女の子をメインターゲットにしたというアバター作りが特徴ではあるものの,展開はさほど変わらない。ただ,カジュアルゲームの扱いはゲーム内コインを稼ぐものということで,より密接に結びついたものとなっている。
ショックウェーブの考えるカジュアルゲーム戦略
同社のコンテンツは大きく3種類に分けられるが,
Webブラウザゲーム
ダウンロードゲーム
オンラインゲーム
のいずれについても展開しており,これまでの2社と比べるとゲームの比重が非常に高いことが分かる。
岡山氏は,まず,これら3種のゲームについてのユーザーリーチ数を示す「魔法の線」を引いた。ユーザーを1/10にする線だそうだ。インターネット全体とゲームサイトの間には2本の線が引かれ,サイトを訪れるユーザー数は全体の1/100であるとする。そこからゲームをダウンロードしようとする人はさらに1/10,メンバー登録する人はその1/10,お金を払う人はさらに1/10というのが基本である。
母数を10万人と仮定して「ゲームを(無料で)プレイする人」のみに目を向けると,
Webブラウザゲーム 1000人
ダウンロードゲーム 100人
オンラインゲーム 10人
ということになる。ゲームの提供形態によって,触ってもらえる率がかなり変わってくるわけだ。
これをもとに,体験版をFlashで用意して全体のコンバージョン率を上げるなどの手法が示された。また,メンバー登録に抵抗を示す人が非常に多いという調査結果から,1回しか使えないアカウントを随時発行してゲームに接続するといった,お試しプレイを用意するのが有効だという。
ただ,こうしてユーザーが増えても課金ユーザーはあまり増えないそうで,ゲーム中の広告を導入するなどでB2CとB2Bのバランスを取っているとのこと。ユーザーの母数を増やすために,ゲームをBlogパーツ化して提供するなどの方策も行われている。
ショックウェーブのカジュアルゲームへの取り組みは,まさにカジュアルゲームそのものを扱っているので,一般的なゲームでも参考になる点は多そうだ。半面,コミュニティの弱さが同社の課題ということなので,やはりカジュアルゲームにとってコミュニティは重要なものではありそうだ。
カジュアルゲーム3社によるラウンドテーブル
各氏の発表が終わったあとには,モデレータを務めたnikkei TRENDY net副編集長の小向将弘氏からいくつか質問が投げられる形でのトークセッションが行われた。
NHN森川氏への韓国との違いはあるかという質問に対して,日本では,ゲームで仲よくなることに価値観が置かれているのだが,韓国のゲームでは争うとこが中心なのでコミュニティは成立しにくいのだという。これは遊び方が違うことに起因する問題で,生活自体の違いに根差していると見ているようだ。国が違えば,まったく同じものを持ってきてもフィットするとは限らない。このあたりは伊藤,岡山両氏も同様の考えで,ローカライズでは生活文化の違いをどう反映させるかが重要になるだろうということで,本題とはあまり関係がなさそうだが意見の一致を見ていた。
カジュアルゲームでもっとユーザーを獲得するにはという質問に対しては,「ゲームで仲よくするという価値観からいけば,ユーザー間の紹介による効果が高い」(森川氏),「まずは口コミされるレベルにまで引き上げるのが先決」(伊藤氏),「コミュニティで,YouTubeなどのように成果物がそのまま配布されるようになるのが理想」(岡山氏)といった意見が出された。
カジュアルゲームにとって,アバターやコミュニティについては,「男女間で差がある。女性は理想形のアバターを作り,男性は実年齢に近いアバターを作る傾向があったり,初期にもらえる500コインを女性はすぐに使いきるけど,男性はお金を貯めてスーツを買うまでずっと短パンでいたりして面白い」(伊藤氏),「コミュニティでは広告以外の収益は難しいが,アバターを入れるとお金を使いやすいツールとなる」(森川氏)などの意見が出た。
今回のセッションでは,カジュアルゲーム単体ではなく,コミュニティを補完するためのアバター,コミュニケーションのきっかけやアバターをサポートする用途でのカジュアルゲームのあり方が多く紹介された。単にカジュアルゲーム単体では,大規模なゲームに比べれば内容が薄く,ちょっと手が空いた時間にやるにしても日本では代替手段が多すぎる。日本でカジュアルゲームが成功するか否かは,コミュニティといかにうまく結びつけることができるかにかかっているように思われる。
MMORPGなどのヘビーなオンラインゲームとカジュアルゲームでは,明らかにユーザー層が異なる。オンラインゲームの市場を広げていくためには,カジュアルゲームへの進出が必須だというのはよく聞く話ではあるが,単にカジュアルゲームを置いて,ヘビーゲーマーに遊ばせてもあまり意味はない。ユーザー動向や,どの部分でビジネスに結びつけるかなどをちゃんと考えることが重要なのはいうまでもないだろう。今回のセッションでは,そのあたりのヒントがかなり多く示されていたように思う。
一時期,韓国ゲーム業界が一斉にカジュアルゲーム指向にシフトし,毎月量産されていた大型のMMORPGが減ってしまい,現時点を見ればゲーム市場自体が冷え込んでしまっている。コミュニティと直結しにくそうな韓国ではカジュアルゲームはあまり成功したとはいえない状態だ。ハンゲームを除けば,カジュアルゲームは日本ではいま一つ流行っていない。しかしコミュニティと親和性がよいなら,日本でのカジュアルゲームにはかなり希望が持てそうだということにもなる。要はやり方次第なのだろうか。
純然たるゲーマーにとっては,あまり関係ない分野ではあるが,オンラインゲームの裾野が広がることは,誰にとっても歓迎すべきことであることだけは間違いない。
- 関連タイトル:
ハンゲ
- 関連タイトル:
Nicotto Town -ニコッとタウン-
- 関連タイトル:
55Shock!
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