レビュー
リアリティを追求しつつ,遊びやすさも考えられたミリタリーFPS
OPERATION FLASHPOINT:DRAGON RISING 日本語マニュアル付英語版
» 2001年にリリースされた「オペレーション フラッシュポイント」は,それまでのFPSにあった「スーパーヒーローが一人で敵組織を粉砕する」というランボーチックなゲーム性を排し,「リアルすぎる戦場」の再現に全力をあげた異色作だった。そんなオペフラの続編となるPC版「OPERATION FLASHPOINT:DRAGON RISING 日本語マニュアル付英語版」が2009年10月にイーフロンティアからリリースされた。前作では迫り来る敵戦車に手も足も出ず,矢折れ刀尽き,半死半生になってやっとミッションをクリアするのが楽しくてしょうがなかったという,ライターの虎武須(Kobs)氏が挑む。
2001年に発表された,「Operation Flashpoint : Cold War Crisis」(邦題,オペレーション フラッシュポイント。以下OFP)は衝撃的な作品だった。それまでほとんど知られていなかったチェコのデベロッパ,Bohemia Interactive Studioが開発したそのゲームは,自分が一人で戦うのではなく,分隊を指揮しながら戦術的に正しい行動を取っていくことが重要であり,また,被弾した部位によっては1発で死んでしまう高い緊張感も併せ持っており,それまでにプレイしたどのFPSとも肌ざわりが異なる作品だった。「これこそ戦場だ」と言わんばかりに力がこもったタイトルだったのだ。
「プレイヤーを選ぶニッチなゲーム」という第一印象を受けたが,熱烈なファンコミュニティができたこともあってか,ヨーロッパとアメリカ,さらに日本でも異例のヒットを記録している。個人的にも強い印象が残っており,忘れられない作品の一つである。
そののち,経緯は明らかにされていないが,デベロッパのBohemiaとパブリッシャのCodemastersは袂を分かち,それぞれがOFPの後継となる作品を制作することになる。Bohemiaは2006年,「Armed Assault」(ArmA)を発表し,さらに2009年には「ArmA2」をリリースした。
ところが,ArmAシリーズは300m先の敵兵にヘッドショットされたり,敵の索敵能力がやたら優れていたりなど,「シビアな戦場」を必要以上に誇張しているところがあり,ゲームとして一般に受け入れられづらい部分を持っていた。
さらには,システム的な不具合が散見(これは,Bohemiaの習い性ともいえる部分で,熱烈なファンはあまり気にしていないはず)されることもあり,それほど大きなヒットには至らなかった。
自然,「もう一つのOFP」であるCodemastersの作品にファンの期待が集まっていたが,2009年10月6日,北米でPC,PlayStation 3,およびXbox 360版がついに発売。続いて日本でも10月23日に,イーフロンティアからPC版の「OPERATION FLASHPOINT:DRAGON RISING 日本語マニュアル付英語版」(以下,Dragon Rising)がリリースされた。
なお日本では,Codemastersの日本法人であるコードマスターズから,PlayStation 3およびXbox 360用として完全日本語版の発売も予定されている。発売は2010年1月14日で,こちらは音声の吹き替えも行われるという期待のタイトルだ。
今回は,すでに発売されているPC向け英語版を中心に話を進めていきたい。
Dragon Risingのシングルプレイにおける敵は,中国人民解放軍だ。前作OFPとのストーリー的な関連はとくになく,前作で敵役を受けもったソビエト連邦(現ロシア)軍を,今度は助けるという話になっている(もっとも,ゲーム中にロシア軍はいっさい出てこない)。まずは,ここで大まかなストーリーを紹介しておこう。
日本のすぐ北に位置する架空の島,ロシア領スキラ島。豊富な天然資源を持っているため,600年もの間,中国,ロシア,日本の三か国が島の領有権をめぐって争ってきた。近代では旧ソ連の領土になっていたスキラ島だが,冷戦の終了とともにロシアは西側諸国に地下資源開発の協力を求める。
これに敏感に反応したのが中国だった。中国も一時期,莫大な資金を投じて島の周辺地域の開発に乗り出していたが,世界経済が悪化したため開発を中断せざるを得なくなる。
このままでは貴重な地下資源がロシアおよび西側諸国の手に落ちると憂慮した中国は,実力をもって島を占有したのである。中露国境地帯の緊張も高まり,島に派遣する軍隊を捻出できないロシアが頼ったのは,日本に大規模な兵力を駐留させているアメリカだった。
……とまぁこんな感じの背景により,アメリカ軍海兵隊の一員となったプレイヤーは,ロシアの窮地を救うべくスキラ島に赴くわけである。
レースゲーム以外で初めて使用された「EGOエンジン」の実力やいかに?
Codemastersは,かなり早い段階からOFPの続編に,同社のレースゲームに使用されている「EGOエンジン」を使用すると発表していたが,当時,この発表に驚いた人も多かった。レースゲームとオープンフィールド型のFPSでは,ジャンルとしてあまりにもかけ離れているように思えたからだ。しかし,実際にEGOエンジンを初めてFPSに流用して制作されたDragon Risingは,見事なグラフィックスを実現しており,これは同エンジンの柔軟性と優秀さ,そしてCodemastersの技術力を評価すべきだろう。
ただ,EGOエンジンの特質なのかどうか不明だが,本作のFOV(Field of View=視野角)はやや狭いように感じる。これは映像に迫力を出し,遠方の標的を見やすいという利点を持つが,人によって3D酔いを起こしやすいところが難点だ。ズームレンズのメガネをかけて,そのまま走り回っているような感覚といえば分かりやすいだろうか? 事実,筆者はプレイ中,かなりの3D酔いに悩まされてしまった。
EGOエンジンによって描かれるゲーム画面は,必ずしも最新の技術をふんだんに使ったものではないが,ディテールは細かく,戦場の緊迫感を表現するには十分すぎるほどの描画がなされている。
なんといっても特筆すべきは自然描写で,針葉樹と草原の多いスキラ島の情景を美しく描写している。夕焼けの入り江などは思わず見とれてしまうほどの美しさだ。夜も真っ暗ではなく,ナイトビジョンを装着しなくてもある程度は見える。オープンエンドでこれだけの描写をするとなると,かなり重くなりそうな印象を受けるが,2世代前のグラフィックスカード(搭載GPUは,GeForce 8800 GTX)を使う筆者のPC環境でも,重さは感じなかった。状況に関わらず小気味のいい動きを見せ,3D描写に関してはまったくストレスは感じない。このあたりも,EGOエンジンの優秀さを物語ってといえるだろう。
Dragon Risingは前作同様,完全なオープンフィールド型FPSである。広大なスキラ島を思うままに移動し,自由な戦術を取ってミッションを達成することが可能になっている。また,人民解放軍の使う,ゲームではあまり見慣れない兵器/武器が数多く登場するのも新鮮だといえるかもしれない。
初代OFPでは,最大12名で構成される小隊を率いたが,Dragon Risingで操作するのは最大4名(ゲーム中,たまに増える場合もある)のチームで,この点はスケールダウンしている。
チームへ下命する方法もずいぶん変化しており,まずマウスで目標を指定しつつ,Qキー(デフォルトで。以下同じ)を押してクイックコマンドラジアルにアクセス。そこで目的の命令を選択するという方法だ。命令の選択には,普段は移動に使うキー(いわゆるWASDキー)を押すので,移動中に命令を下すことはできず,必ず立ち止まらなくてはならない。このやり方は視覚的に分かりやすい半面,率直にいうと少々やっかい。さらに命令の種類も少なく,例えば部下に敵の死体から銃を拾わせるといったことができなくなったのは残念だ。
兵士達は,モーションキャプチャーを駆使した自然で滑らかな動きを見せ,戦場の張りつめた空気を巧みに演出する。戦車はややのっぺりとした感じだが,レースゲーム用のエンジンを使っているだけに挙動はリアルで,FPSのビークルとしてはややシビアな操作を要求される。ヘリは飛ばしやすい印象は受けたが,慣れないせいもあってキー操作には問題があるように感じた。
銃弾は重力の影響や着弾までの時間も計算されるため,それらを見越しての射撃が必要となる。このあたり,やはり筋金入りのリアル系だ。AIの射撃精度は割と低めに抑えられているようで,こういったところでArmAシリーズとの差別化が図られているようだ。
致命的な部位に被弾すると即死するのは前作と同じだが,この点においても死ににくい措置が採られている。まず被弾すると出血が始まり,すべての行動が不能になり,画面では徐々に視界が奪われていく。
この状態で治療キットを使って止血すれば死亡を免れることが可能だ。チーム全員が自前の治療キットを持っているので応急処置には問題なく,さらに衛生兵の治療を受ければ腕や足といった部位の怪我も完全に治ってしまう。もっとも,交戦中に衛生兵を呼んでもなかなか来てくれないので,「あ〜早くしてくれないと死んじゃうよ〜」みたいなもどかしさが,なかなかリアルである。
いっぽうで,死体が早めに消えてしまうことには不満が残る。Dragon Risingではミッション開始時の装備を変更できない仕様になっているので,弾薬が尽きた場合や初期装備にない火器を使いたい場合など,弾薬庫でそれらを入手するか,敵の死体から奪い取るしかない。一番多いのが,対戦車ロケット砲が欲しい場合だが,残りの敵をやりすごしてロケット砲を持った死体に近付く頃には,すでに消えていることが多い。目の前で死体が消えたことも何度かあり,この時間はもうちょっと延ばしてほしかった。
リアル系とはいえ,遊びやすくなった新生OFP
Dragon Risingは難度設定が可能で,難度には「NORMAL」「EXPERIENCED」「HARDCORE」の3種類が用意されている。
NORMALでは,ミッションクリアのための経路を示すマーカーが表示され,HUDに発見した敵の方角が示され,チェックポイントではそれまでの負傷が完全に治癒し,さらには死んだはずの仲間も復活する。シングルプレイでは最大4人のチームで戦うので,あまり部下を失うとクリアがおぼつかなくなるというのは理解できるが,以上の措置はリアル系FPSにはそぐわないように思った。初代OFPでは,足を負傷して走れなくなり,手も負傷して照準を合わすこともままならないまま,命からがらミッションをクリアするのが楽しかったのだ。
そういった不自然さを回避したければ,EXPERIENCEDやHARDCOREといった,より難度が高いモードでプレイする必要があるわけだ。
少なくとも前作やArmAの経験者は,EXPERIENCED以上でプレイすることをお勧めしたい。EXPERIENCEDではHUD機能の一部が省かれ,マーカーやチェックポイントも減少,さらには死亡した兵士も復活しない。HARDCOREではHUD,マーカー,チェックポイント,兵士の復活,画面中央の照準もすべてなし(つまり死んだらミッションは最初からやりなおし)となっている。
各々の部下は自律的に行動するので,隊形や特別な行動を指示するとき以外は,さほど命令にこだわらなくとも,自然に動いてくれる。危険を察知すれば自動的にしゃがんだり,伏せの体勢を取り,発砲が禁止されていない限り,速やかに応戦する。
敵兵士の策敵能力も人間っぽい仕上がりで,敏感すぎてやる気が失せるというほどではない。
ほかのゲームにあるように,いつどこから敵が来るか分からないはずなのに,歩哨が常にこちらのいる方角を向いているというような状況もなく,背後からこっそり近付いてナイフで倒すことも可能だ。また敵味方ともに遮蔽物を積極的かつ有効に活用するので,自然な戦場の臨場感を醸し出している。
AIに「感情」がある点も特筆に値するだろう。攻撃しているときはいいが,銃弾の嵐の中で身動きができなくなり,命の危険を感じれば命令を無視することがある。場合によっては勝手に逃走までするのだ。敵味方とも,Dragon RisingのAI兵士は弾丸を恐れており,これがシリーズで初めて機関銃による制圧射撃が有効になった理由である。より戦術的なプレイができることは歓迎すべきポイントだ。
とはいえ,このAI兵士達は,ヘリやタンクといったビークル類の操作に関しては(ガンナーとしてならまだしも),あまり使い物にならないようだ。
例えば平坦な場所で戦車に乗り,20m先のポイントに移動するよう命令したとしても,あろうことかいきなり逆走して,あさっての方向に突進し,あげく海に落ちたりするのである。またヘリを操縦させれば,副次目標に行くよう指示しても勝手に帰投ポイントに向かってしまう。上記のAIが持つ感情が影響しているのかもしれないが,このへんについてはパッチなどによる早急な対応を望みたいほどだ。
キャンペーンは,チームによる歩兵ミッションのみで構成されており,積極的にタンクやヘリに乗るものもなく,内容は全体的にシンプルかつ淡白である。純粋な歩兵シミュレーターという雰囲気だ。明示はされないものの,内部的に決められている時間内に特定の成果を上げなければ終了となる場合が多く,どちらかというと,制作者の意図した行動を取らせようとする印象を受ける。ミッション開始前のムービーなどもまったくなく,エンディングもちょっとしたスクリプトムービーがあるのみで素っ気ない。ドラマ性は低めだ。
キャンペーンは11本のミッションで構成されており,クリアするのにけっこう時間がかかることを考えに入れても,ボリュームは少なめである。予約特典のコードや,「こちら」のミニゲームで高得点を獲得すると入手できるコードを入力することでアンロックされる,オリジナルのシングルミッションも用意されている。だがこれも,一部を除いて,ほとんどがキャンペーンのミッションとあまり変わらない内容で,わざわざ別に用意してコード入力まで求めるという意図はちょっと理解しにくい。
短めのキャンペーンは,マルチプラットフォーム展開する最近のタイトルの一般的傾向なので,仕方ないことかもしれない。
やらずに通り過ぎることは許されないマルチプレイ
いろいろと気になる点も指摘してしまったが,それらはいずれもシングルプレイに関する話であり,これがマルチプレイになると雰囲気がガラリと変わる。Dragon Risingのマルチプレイは,もはやオンラインサバイバルゲームといった雰囲気で,よくある至近距離での撃ち合いとは一味も二味も違う楽しさを持っている。さらにヘリや戦車といった大型兵器が使えるうえ,撃たれれば命はないという緊迫したプレイが体験できる。
ちなみにマルチプレイでは「COOPERATIVE」(一般的なCo-op,協力してミッションを遂行する),「ANNIHILATION」(チームデスマッチ),「INFILTRATION」(基地の攻防戦)の3種類が用意されている。
Co-opではキャンペーンのミッションをほかの3人と共同でプレイでき,シングルでキャンペーンを進めるよりもはるかに楽しいこと請け合いだ。クイックマッチが用意されているので,ゲームタイプを選ばず気軽に参加するのもいいし,サーバーをブラウズして目的に合ったゲームへに参加もできる。
これまで見てきたように,前作と比較して,Dragon Risingはずいぶん遊びやすくなったといえる。基本的に“リアル系FPS”と呼んで問題はないのだが,OFPやArmAとは少しばかり温度差がある。少なくとも難度NORMALでは,多少乱暴な行動をしてもクリアできる感じで,リアル系FPSに不慣れな人でも十分に楽しめるはずだ。
もっとも,いくらカジュアル化したとはいえ,スポーツ系FPSのような爽快感を求める人にはお勧めできない。基本的には200mほど先の豆粒みたいな敵を,よく狙って撃つゲームだ。それでいながら,OFPやArmAほどのドットシューティングとも言えない。なぜなら上述のとおり,敵味方ともAIの射撃がさほど精密ではないからだ。これはあまりに長距離から撃ち合うゲームデザインを避けるための措置とも考えられるが,筆者としてはこれぐらいのほうがより現実的だと感じた。
しかし,これでは物足りないというコアなファンも多いのか,Codemasters公式サイトのForumには,さっそく「Ulatimate AI Mod」なるものが用意されているので,ノーマルのAIでは我慢できない人は自己責任で試してみてもいいかもしれない。
前作との違いは,いずれもマルチプラットフォーム化に伴って幅広いファンに受け入れられるための措置と推測され,「リアルさ」と「コンシューマ機でも遊べるゲーム性」の妥協点を模索した結果だろう。やたらと難度の高いリアル系FPSを求めない,ArmAが合わないという人には歓迎すべき路線変更といえるが,古くからのファンは少々残念に思う部分もあるかもしれない。
しかし戦場の緊迫した雰囲気を味わえるという点で,間違いなくハードルは低くなっており,リアル系は初めてという人にはうってつけの作品だ。慣れてくれば難度を上げて楽しめばいい。前作の経験者には,EXPERIENCED以上の難度をプレイすることを前提にプレイをお勧めしたい。
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