連載
「キネマ51」:第7回上映作品は「ホーリー・モーターズ」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第7回の上映作品は,支配人も強い思い入れを持つというフランスの監督,レオス・カラックスによる13年ぶりの長編作「ホーリー・モーターズ」だ。果たして,この映画から思い起こされるゲームなど,本当にあるんだろうか?
「ホーリー・モーターズ」公式サイト
寂しいライバルの引退
部長,まずは話しておかないといけないことがありますね。
関根:
今回で約2か月ぶりの掲載となったこの連載が,ついに今後は週刊化するという,あの話ですか?
須田:
違います。でもね,それはおいおい……。
実はですね,僕達の劇場のライバルでもあった銀座シネパトス[1]が,歴史の幕を閉じてしまったんですよ。
関根:
あー,そうなんですよね。
須田:
部長はなんかありますか,シネパトスの思い出。
関根:
僕は昔,あの劇場の隣のビルで働いていたんですよ。なので,20代前半のある時期を思い出しますね。
須田:
そうなんですね。
そういえば部長はもともと,ヘラルダー[2]でしたもんね。
関根:
なんですか,ヘラルダーって。
須田:
ハイランダー[3]みたいでかっこいいじゃないですか。
関根:
なんかちょっと地味なメタルヒーロー[4]みたいで,イヤだなぁ。
それはともかく,ちょっと話はずれますが,映画公開の流れってご存じですか?
須田:
ええ,一通りは。
関根:
まずは,映画館での興行,そして,次にTV放映とDVDなどのソフト販売というものです。
須田:
いわゆる2次使用までを含めたやつですね。
関根:
はい。で,かつてのバブル期には,Vシネマ[5]といったビデオオンリーでのリリースでも,やっていけたんですが,徐々に厳しくなってきたんです。そこで,活躍してくれたのがシネパトスだったんなんですよ。
須田:
というと?
関根:
ビデオの問屋さん,販売店さんがソフトを買おうというときに,何を気にするかといえば,ヒットしたかどうか,有名俳優が出演しているかどうかなどがあるんですが,さらに大事な要素として“劇場公開作品”という冠がついているかどうかがあるんですね。
須田:
ほうほう,なるほど。
そこで,レンタルの稼働率は良さそうだけど,興行的にはなかなか難しいという作品は,2週間だけの劇場公開というのをやるんです。そこで,箔をつけるんですね。そういったときに選ばれる映画館というのが,銀座シネパトスだったんですよ。
須田:
なるほど,そういう役割も担っていたんですね。
関根:
僕の周りの宣伝マンも,相当シネパトスにはお世話になったと思いますよ。
須田:
最近だとシネリーブル池袋で,いろいろなアニメ映画が上映されていますが,それもそういった流れなんですかね。
関根:
そうかもしれませんね。ソフト販売予定の作品を事前に劇場で上映して盛り上げるという意味では,同じ流れなのかもしれません。
須田:
それだけではなく,特集上映だったり,二番館[6]としての機能も果たしていたわけですから,シネパトスには「お疲れ様でした」と言いたいですね。
関根:
ですね。ただ,なんといいますか,シネパトスって劇場の向かい側が,いわゆる成人向け玩具店というなかなかアレな環境でもありまして,ちょっとデートには使いづらい場所だったんですよねぇ。そうするとおのずと上映作品も選ばれるといいますか。
須田:
ここが銀座かっていう最高のロケーションでしたね,謎のスポットというか,道の下に映画館があるっていう,映画館としてはなかなか無い場所でしたよね。
それこそ山口雄大監督の「極道兵器」[7]も,シネパトスで上映していましたよ。その舞台挨拶に呼んでいただいて……。最初で最後だったんですけど,
関根:
えー,あそこで舞台挨拶をされたんですか?
須田:
はい,去年ですね。遂に聖地に足を踏み入れたなと思いました。
関根:
おー。僕,あの映画館で,好きだったポイントがあって。
須田:
ほう?
関根:
あそこは,銀座の晴海通りという大きな道の地下通路にある映画館なんですが,地下通路沿いに全面ガラスのドアがあって,それが映画館の入り口になっているんです。
須田:
そうでしたそうでした。
関根:
その全面ガラス越しに受付カウンターがあるんですが,そこに,制服の女性が座っているのが真横から見えるんですよ。
須田:
はい?
関根:
つまりですね,普段,受付嬢っていうのは,正面からしか見えないものじゃないですか。それが,まるでアリの巣の断面図を見るかのように,真横から見られるなんて! なんてことを思いながら,いつも楽しんでいました。
須田:
なるほどー……。相変わらずの部長の趣味トークでまとまっちゃいましたが,そんな僕らのシネパトスが閉館ということで,ちょっとお話ししたいなと思いました。
4Gamer:
まあ,閉館は3月末のことだったんで,ちょっと前なんですけどね。
支配人が青春を疾走する!
須田:
じゃあ,「ホーリー・モーターズ」の話題に移りますか。
関根:
ですね。
須田:
“僕ら”つながりでいうと,僕らのカラックスですよ。
関根:
僕らの……ですか?
須田:
ええ。いやぁ,それにしても何年待たされたことか。
関根:
長編でいうと「ポーラX」以来,13年ぶりですって。
須田:
カラックス映画というと,僕らの中に刷り込まれているのは,いわゆる青春の疾走映画とでも言いましょうか。その彼が,どういった新作を作ってくれるのか? っていう興味が,まずありました。
関根:
しかし,あらためてカラックスのフィルモグラフィーを見ると,撮ってないですね。
須田:
撮ってないですね。今作と短編入れて6本か。えー,「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」「ポンヌフの恋人」が,初期の,俗に言う“アレックス3部作”[8]。
関根:
よくカラックス作品は,この3部作しか観てないなんていう人がいますけど,ホーリー・モーターズ以前の段階であれば,この3本で,ほぼ全部みたいなもんですよ。
須田:
本当だ。じゃあ今度からは,カラックス作品は半分以上観てるって言ってもいいんですね。
関根:
そうですね(笑)。
須田:
そして,今回,主人公を演じるのが,ドニ・ラヴァン[9]。“アレックス3部作”の主演俳優ですよ。
関根:
符号ですね。支配人は,その3作はリアルタイムでしょうから,思うことが多いんじゃないかと。
須田:
そうなんですよ。青春ですよ。当時,ネオ・ヌーベルバーグの3旗手(カラックス,ジャン=ジャック・べネックス,リュック・ベッソン)[10]なんて言われていて,「どうなんだ? この野郎」みたいな気分で観に行って。
関根:
なんでビートたけしさんなんですか。
須田:
まあそんな感じで観に行ったんですけど,すごく刺激的で。
関根:
10代の須田剛一にとっては衝撃だったんでしょうね。
須田:
ですね。で,その時に若者だった主人公役のドニ・ラヴァンが,今,また自分の目の前に現われた。まるで,10代から続くカラックス映画への答え探しを続けているような,そんな不思議な体験のできる映画でした。
関根:
一人の映画監督が1984年から映画を撮り続けて約30年。再びデビュー作と同じ俳優を使って新作を撮ったなんて,それだけでワクワクします。
須田:
定点観測ですよね。カラックス監督と,そして,それを目撃し続けた自分の。
関根:
なるほど。しかし,そういう意味でいうと,作品の内容は,まさに定点というか,瞬間を切り取ったようなものでしたね。
須田:
感じたのが,さまざまな映画のモチーフが散りばめられているということなんです。若い頃の作品を見ていた自分の感覚としては,他者から影響を受けて映画を撮るタイプの人じゃないと思っていたんですよ。衝動的に,確固たるイメージで物語を作っていくタイプの人だと思っていたので,その点に凄くびっくりしました。
カラックス監督作,初心者には,やはりハードルは高いのか?
関根:
カラックスが影響を受けた作品のなかに,「ゴジラ」があったのもちょっとビックリしましたね。
須田:
劇中で突然ゴジラのテーマが流れて,僕なんかはやっぱり,佐竹[11]どこだ? って探しちゃいましたよ。
関根:
一応,普通に突っ込むと,映画館でそう思ったのは,支配人だけだと思います。
須田:
なので,TeTさんにも観てほしいですね。
関根:
相変わらず,聞き流し力はさすがですね……。
4Gamer:
でも,僕はカラックス作品を見たことがないんですよね。なんだか難解そうですし……。
関根:
確かにストーリーは難解ですね。今回もざっくり言うと,ある男が映画館に行く夢を見る。映画が始まる。そこからその映画に場面が切り替わる。お金持ちが,長いリムジンに乗って出勤する。出勤途中で運転手から,今日の一件目のアポですと,資料を受け取る。しばらくして車から降りると,なぜか老婆の格好になっていて,道で物乞いを始める。
4Gamer:
は,はあ。
関根:
車に戻ってくると,次のアポですと言われ,服を脱ぎ始め,レザースーツに着替えて,モーションキャプチャー俳優へと変身する。ここで観客はようやく,どうやら俳優なんだなと思うことになるんです。
4Gamer:
それまではさっぱり分からないままなんですね。
関根:
そう。でもそこから徐々にリアルな話が増えてきて,ついには,彼が殺されてしまう。でも,淡々と生き返って次のアポに向かう。もはや俳優としての仕事の模様なのか,それとも現実の世界として描かれていることなのかが分からなくなってくる。
で,今日最後の仕事だと言われた場所が,とても衝撃的だった……と。
4Gamer:
め,めんどくさ。
須田:
全然ざっくりと説明できていないじゃないですか。
関根:
いやはや,難しいです。
須田:
でも,単なる映像として観れば楽しめますよ。僕がこの映画を観て思い出したのは,「みんな〜やってるか!」(1995)[12]です。バイオレンス作が続いた北野映画の中で,その流れを意図的に壊した作品が,あれだったと思うんですよ。
関根:
何か共通点が感じられたとか?
須田:
いろんな映像モチーフ,イメージの集合体を,脳内リミックスで紡いでいく感じとでもいうんでしょうか。カラックスは13年をかけて,いろんなイメージを増幅させてきたと思うんですよね。で,それこそ何本分もの映画のイメージが脳内にあって,それを一つの物語に詰め込んだ感じですかね。映画監督がそこに突き進んでいく思いみたいな部分に,みんな〜やってるか! と同じ臭いを感じたんです。でも,さすがにインテリジェンス溢れるカラックス,綿密にまとめてきたなと。
関根:
なんというんでしょうか,組曲とでも表現したらいいんですかね。
須田:
そう,組曲,いやぁ,部長,おしゃれだなぁ。組曲ですよ。23区[13]ですよ。
関根:
おしゃれだけに無理やりつなげましたね。
意外なゲームが登場
関根:
ところで,劇中のモーションキャプチャー俳優,すごかったですね。あの話だけでも,ここで取り上げるのに価値があると思いますよ。
須田:
これ,フランスですよね。だからたぶん,Ubisoftの新作ゲームですね。おそらく……「アサシンクリード7」あたりの話じゃないかと思いますね。
関根:
7ぐらいになると,あんなセクシー女優が登場するんですか?
須田:
絶対に出てきますよ。
関根:
いつもどおり言い切っちゃいましたね。しかし今回,この女優さんを含めてフランス美女のオンパレードでしたね。目の保養になりました。
須田:
どこのおっさんですか,まったく。僕は,カイリー・ミノーグ[14]が出ていたのが嬉しかったですね。彼女,僕と同い年なんですよ。
関根:
そうなんですか。
須田:
僕の生まれた年は,「桑田,清原,カイリー・ミノーグ」っていってね。親に比較されるのは,だいたいこの3人なんですよ。「彼らはあんなに頑張っているのに,なんだい剛一,お前は!」なんてね。だから彼女が頑張っているのを見ると,僕も頑張らないと,なんて。
関根:
その話,長くなりそうですか?
須田:
いや,もう終わりです。
関根:
では,この映画と一緒に遊んでみたいゲームは?
須田:
もう,そこにいっちゃうのね。
関根:
まさかの,ノー・アイデア?
須田:
いやいや,ちゃんとありますよ。えーっと……いろいろなイメージがぎっしり詰まったオムニバス的な作品世界を感じさせるから。
関根:
「バイトヘル2000」とか。
須田:
ちょっと待ってください……。まさしくバイトヘルですよ。
関根:
この映画に出てくる仕事も,地獄の作業ですよね。
須田:
そうですよ,1日に9件も仕事してるんですよ。
4Gamer:
不条理な労働を強いられる映画っていうことですよね。
須田:
そういうことです。いやぁ,ドンピシャのゲームがありましたね,部長。
4Gamer:
そういえば,プロデューサーの名前もフランスっぽいですし。
須田:
ピエール瀧! そうだ,凄い! 実は,ピエール瀧氏も同い年なんですよ。
関根:
そうなんですか?
須田:
僕の年は,よく「桑田,清原,瀧,卓球」[15]って言われていましてね……。
関根:
……カイリー消えちゃってますけど。
「桑田と清原は野球で頑張って,瀧と卓球はテクノで頑張っているっていうのに,お前は何をやってんだ」ってね。「いやいや,母さん,僕は大器晩成型だよ,ジャンボ鶴田[16]だよ」って,いつも言い返してきたんですよ。
4Gamer:
でも須田さん,ジャンボだったら最初から強いんですよ。かつて「週刊プロレス」も,「早熟なのに大器晩成」と評していたぐらいですし。
須田:
まあ……若い頃から強かったけど,地味でしたからね。田上選手とか,ジャン鶴とか。だからね。
4Gamer:
大きな体と底抜けのスタミナ,確かなレスリング技術などを合わせ持ちながら,どことなくのんびりした感じに見えちゃいがちでしたからね。ジャンボの怖さや底力を引き出すようなライバルに,なかなか恵まれなかったというのも大きいでしょうし。
関根:
仕方が無いので乗っかりますけど,瀧と卓球をレスラーに例えるとどのあたりなんですか?
須田:
二人をですか?
邪道・外道[17]じゃないですかね。
4Gamer:
強いて言うなら,瀧が外道ですかね。
須田:
ですね,口が立ちますし,何でもできますし。
ホントね,今回は同い年の話がいっぱいできましたね。映画の中で頑張っているカイリーも同い年で,
関根:
あっ,復活した!
須田:
その親和性のあるゲームを作ったのがまた,同い年のピエール瀧というね。今回は,僕にとっての同世代感がハンパなかったですね。確かドニ・ラヴァンも同い年だったような気がしました。
関根:
全然違うでしょ,間違いなく。
須田:
(プロフィールを見ながら)あー,ちょっと部長,衝撃的な事実が分かりました!
関根:
なんですか?
須田:
カイリー・ミノーグ,いままでずっとタメだと思ってたら,一つ年下でした。
関根:
そうですか。じゃ,今回はこれでお開きということで。
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