レビュー
プロゲーマーsako氏お墨付きのアーケードスティック。そのプレイフィールと内部構造をチェック
ファイティングエッジ
本稿では以下,PlayStation 3版とXbox 360をとくに区別することなく「ファイティングエッジ」と呼んでいくが,今回は,4月28日掲載の速報インプレッション記事ではお伝えしきれなかった内部構造や,実際のプレイフィールを中心に,レビューをお伝えしていく。購入を迷っている読者はその検討材料として,1次予約済みで,現物が届くのを楽しみにしている人はワクワクしながら一読いただければ幸いだ。
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「ファイティングエッジ」公式サイト
ファイティングエッジの気になる内部構造をチェック
まずは,気になっている人も多いと思われる内部構造から紹介していこう。本製品は底面側からも天面側からも分解可能だが,天面側から分解したほうがやりやすい。具体的な手順は下に写真で示したとおりだが,分解にあたって必要な工具は,4mm径の六角レンチだけだ(※実際にレバーを交換したりする場合にはプラスドライバーも必要)。
なお分解は保証外の行為となるので,仮に分解に失敗した結果,ファイティングエッジが故障したとしても,メーカー保証は一切受けられないので,この点はくれぐれも注意してほしい。
●天板の取り外し
六角レンチを使って合計6本のネジを外す。どうしても底面側から分解したいときはプラスドライバーが必要となるほか,天地逆転した状態での作業となるため,レバーを保護する必要も生じる |
天板を持ち上げると,アクリル板と化粧用塩ビ板,アルミ板の3層構造になっていることが分かる。化粧用塩ビ板の上にほこりが入ると見た目が悪くなるので気を付けよう |
レバー用の土台には,三和電子製レバーの平鉄板タイプと,セイミツ工業製のSSベースタイプに対応したネジ穴がそれぞれ用意されている |
ボタンの配線は色分けされているので,下のリストを参考にすれば差し間違えを防げる。メンテナンスを行うとき参考にしてほしい |
●レバーユニット「隼(HAYABUSA)」
分解が終わったところで,次はレバーユニット「隼(HAYABUSA)」(以下,隼)をチェックしてみよう。
●ボタンユニット「玄(KURO)」
続いて,ボタンユニット「玄(KURO)」(以下,玄)を見ていく。
●底面側からも分解してみた
参考までに,底面側から分解を試みたところも以下のとおりお届けしてみたい。
独自設計のレバーとボタン,実際の操作感を確かめる
ここからは実際のプレイフィールを述べていくことにしよう。
外観の特徴などはファーストインプレッション記事を参考にしてもらえればと思うが,そのサイズは約475(W)×約285(D)×約115(H)mm(※レバー含む),重量は3.5kgと,一般的なアーケードスティック製品と比べて大きく重い。また,ボタン配置は,多くのアーケードスティックで採用されている「VEWLIX」準拠ではなく,1990年代中頃に一世を風靡したセガのアーケード筐体「アストロシティ」や「ブラストシティ」,現行製品ならバンダイナムコゲームズのアーケード筐体「ノアールキャビネット」にほぼ準拠したものとなる。このあたりが操作性にどういった違いをもたらしているかは,ぜひチェックしなければならない。
また,言うまでもないことだが,HORI独自開発のレバーユニットたる隼と,ボタンユニットたる玄の操作感も確認する必要がある。
今回は,以上のポイントを中心にインプレッションをお届けしたい。
というわけで,まずは机置きや膝置きといった設置環境の向き不向きから述べたいと思うが,そこで最初に注目すべきポイントは,本体底面に大きな滑り止めマットが2枚貼り付けられている点だ。
この滑り止めマットと本体重量のおかげで,机の上に置いたときの安定感は抜群と言っていい。かなり力を込めてレバー操作を行っても微動だにしないほどだ。ただし,本体が大きいこともあって,レバー&ボタン部と本体手前の傾斜との間に広いスペースが生まれ,ここに手首を擦ってしまいやすいという問題はある。
幸い,この「広いスペース」には「キーボード用」として販売されているパームレストなどを置く余裕が十分にある。手首の擦れが気になるなら,そういった対策を考えてもいいだろう。もちろん,見た目とのトレードオフにはなるが。
膝の上に置いて使うときも、滑り止めマットの存在は有効に働く。布に対しても滑らない材質なので,衣服の上に置いた場合でも安定するのだ。また標準的なアーケードスティック製品のように「底板が冷たい」「ゴム足が太ももを圧迫して痛い」といったこともない。
気になる点としては,一般的なアーケードスティックと比べて1kg近く重いためか,長い間プレイしていると足が痺れやすいことが挙げられるかもしれない。
なお上でアストロシティやブラストシティ,ノアールキャビネットに近いと述べたボタン配置だが,より正確を期すなら「ノアール配置」に近いという表現をすべきだろう。ボタン配置だけなら3つの筐体に違いはない一方,ノアール配置のほうがレバーとボタン間の距離が離れており,ファイティングエッジはそんなノアール配置を採用しているのだ。
VIEWLIX筐体のボタン配置(以下,VIEWLIX配置)だと左端のボタンだけが少し手前側に寄り,残りは横一直線に並ぶのに対し,ファイティングエッジで採用されるノアール配置の場合には,左から2番めのボタンを一番奥側とする扇状配列になっているというのが違いとなる。
ボタンレイアウトによる操作性の違いはそれほど大きくなく,正直なところ「好みの問題」といったところなのだが,当たり前のことを述べるなら,普段からノアール配置を好む人にうってつけである一方,普段,VIEWLIX筐体でプレイしている人からすると,最初は戸惑う可能性もあるだろう。
また,あえて言うなら,ノアール配置のほうが左端のボタンから右端のボタンまでの距離が短いため,端と端のボタンを使うような操作においては,ノアール配置のほうが若干有利……かもしれない。
ストロークが短いと聞くと,「レバーを離してニュートラルへ戻す際に“レバーが跳ねて”しまい,逆方向に誤入力されるのではないか」と危惧するプレイヤーも多いと思うが,本製品はその辺りにも徹底的な調整がなされており,そういった現象はまったくと言っていいほど起こらなかった。
レバーの固さは,(先のインタビュー記事でsako氏が述べていたように)三和電子製レバーとセイミツ工業製のレバーの中間といった印象だ。「緩めな三和レバーのバネをぎゅっと引き締めたような操作感」とでも言おうか。確かなクリック感がありながら,かつ邪魔にはならないというバランスが非常に心地よい。
試しに,細かなレバー操作を要する「鉄拳6」(PlayStaion 3 / Xbox 360)の高難度テクニック――ステステ※1,山ステ※2,挑発ジェッパ※3などを――を試してみたが,レバーが原因となる誤入力はほとんど起こらなかった。無駄な力を込めずとも入力できるため,逆に自分自身のミスを把握しやすいというのは,ファイティングエッジが持つ大きな利点となるだろう。
※1 ステステ……「風神ステップキャンセルダッシュ〜風神ステップ」の略語。{}×nと入力することにより,連続で風神ステップを行う。ちなみに「ストリートファイター X 鉄拳」の一八やクロでも,同様のテクニックが可能だ。
※2 山ステ……「バックステップキャンセルしゃがみ途中〜バックステップ」の俗称である「山田ステップ」の略語。{}×nの入力で,連続でのバックステップを行う。
※3 挑発ジェッパ……ブライアンの挑発(LP+LK+RK)からジェットアッパー(RP)につなげるテクニックの略称。挑発がヒットした瞬間にジェットアッパーを出すことで,連続ヒットとなる。
次に玄という名の与えられたボタンユニットだが,前述のとおり,同じφ30仕様のボタンではあるものの,こちらは前回の記事でも述べたように,同じφ30のボタンではあっても,三和電子製のボタンと比較するとボタン面が広くとられているのが大きな違いとなる。スイッチ部分のストロークは三和電子製ボタンと同程度だが,スイッチは玄のほうが若干固めになっていて,押したときのクリック感も玄のほうがはっきりしている。とはいっても,重かったり反応しにくかったりということはなく,「軽めだがフィードバックはきちんとある」という印象だ。
ちなみに隼と同様,玄でも,「ボタンを離したとき,跳ねて2度入力されてしまう」といったような誤操作はまったく見られなかった。また,スイッチが若干固めであるために,「ボタン上に指を配置しておいたとき,軽く力を加えたせいで誤入力されてしまう」という現象もまず起こらない。戻りが早く,また戻り方も安定しているため,ある程度の重さがあるとはいえ,高速連射も問題なくできると感じた。
細やかなボタン操作をチェックするため,「ソウルキャリバーV」(PlayStation 3 / Xbox 360)のジャスト入力技――αパトロクロスの「アラダマ・ツウィスター(ファスト)」(しゃがみ中aB)※4,ナイトメアの「クイックハームフルスラッシャー(ファスト)」(agA)※4など――を試してみたが,普段のプレイ環境よりも成功率が上がったように感じられた。隼と同じく,押下タイミングのフィードバックを得やすいので,入力リズムの調整を厳密に行っていける印象だ。
※4……どちらもボタンの入力猶予が1フレーム(約16ms)という高難度技。なおコマンド表記は小文字がスライド入力を示している。「aB」ならばAボタンを短く押した後,続けてBボタンを押すことを意味する。
レバーやボタンを操作したときの動作音が気になるという人もいると思うが,結論から先に述べると,一般的な三和電子製レバーやセイミツ工業製レバーと変わらない印象だ。そもそも,隼も玄も,sako氏の意見を基に,操作性を最優先してチューンされた部品なので,静音性は考慮されていないとしてもやむなしといったところだろう。
なお,実際の動作音は,速報インプレッションに掲載したビデオを下に再掲するので,参考にしてほしい。
現状ではほぼ「コパン辻式」専用(?)の「ボタンアサイン機能」
最後にハードウェア上で主要8ボタンのキーアサインを自在に変更できる「ボタンアサイン機能」についてだが,インタビューでHORIの浅葉氏が「sakoさんのために入れたといっても過言ではない」と語ったように,現状では「スーパーストリートファイターIV」(PlayStation 3 / Xbox 360 / PC)のコパン辻式※5入力に特化した機能と考えてよさそうだ。
※5 コパン辻式……ストリートファイターIVシリーズなどで用いられる特殊入力方法。弱パンチ(コパン)と[SELECT(BACK)]ボタン(アーケード版のスタートボタンに相当する)を,1フレーム(約16ms)ズラして押すことで,弱パンチを使ったコンボの入力難度を大幅に下げるテクニック。
メインの6ボタンを右側にアサインし,もともとの[□]の位置に[SELECT]を割り当てるなどすれば,それほど手が大きくないプレイヤーでも親指と人差し指でのズラし押しが可能になる。入力猶予が0フレームの,いわゆる弱P系ビタ繋ぎ――「いぶきの弱旋→遠距離立ち弱P」や「ローズの近距離立ち中K→しゃがみ弱P」など――を試してみたが,結果は上々だった。
さまざまな格闘ゲームのテクニックと照らし合わせて考えてみたのだが,正直なところコパン辻式以外の活用方法は思い当たらなかった。
とはいえ今後の対戦格闘ゲームにおいて,この機能を活用できるテクニックが生まれてくる可能性は十分に考えられる。また[L3]と[R3]の割り当ても可能――従来のアーケードスティック製品は,この2ボタンが付いていないものがほとんど――なことから,格闘ゲーム以外のタイトルをファイティングエッジで遊ぶ際に役立つ可能性はあるだろう。
格闘ゲーマーであれば一度は実際に触るべき逸品
元々アーケードを主戦場としてきた格闘ゲーマーの筆者からすれば,ゲームセンターごとに操作感が異なるのは当たり前である。むしろ「異なる状態のインタフェースに,どれだけ短い時間で対応できるか」というのは,1つの武器になるとさえ,筆者は考えている。HORIオリジナルのレバーとボタンをテストするにあたっても,筆者は同じ心構えで臨んだのだが,結果として,ファイティングエッジへのアジャストは,自分でも驚くほど早く済ませることができた。
これはなぜか。おそらく,隼と玄が持つ,過度なクリック感というか,レスポンスによるものではないかと思う。つまり,インタフェースに慣れる速度を決定づけるのは,インタフェースからの適切かつ安定的なレスポンスなのだ。それに気づけただけでも,隼と玄に対する筆者の評価はかなり高い。
こちらの操作に対してとにかく素直に反応してくれることもあり,荒い入力の把握や矯正にも役に立ってくれそうで,sako氏並のテクニックを獲得する……のは難しいかもしれないが,レバーやボタンの操作技術を磨くときに心強い味方となってくれることは間違いない。
個人的には,愛用しているスティックのパーツを,今からすべて隼と玄に換装してしまいたいぐらいで,HORIにはぜひパーツの個別販売を検討してもらいたいと思うほどだ。
またレバー&ボタンユニットや,ボタン割り当て機能などの影に隠れがちではあるが,筐体そのもののメンテナンス性の高さも見逃せない。仮に隼や玄の操作感が好みに合わず,三和電子製やセイミツ工業製のレバーやボタンへ換装したいと考えた場合でも,自己責任を覚悟すれば,簡単にカスタマイズできるのは特筆すべきだろう。ボタンやレバーの換装は楽に行え,自分好みにカスタマイズするのも難しくない。そういう意味でも,購入して損をすることは少ないのではなかろうか。そのとき外した隼と玄は,ぜひ筆者に譲ってもらいたいと,半分以上本気で述べつつ,本稿を締めくくりたい。
「ファイティングエッジ」公式サイト
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ファイティングエッジ,リアルアーケードPro.
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