レビュー
主力シリーズの最新モデルが採用する「伝統に背を向けた新デザイン」は吉と出たか?
Logicool G G502 Proteus Core Tunable Gaming Mouse
Logitech/ロジクールのゲーマー向けマウスにおける“5系”は,保守本流として,これまで,始祖ともいえる「MX510 Performance Optical Mouse」(以下,MX510)の,丸みを帯びた形状をかなり忠実に守ってきた。従来製品「G500s Laser Gaming Mouse」でもそうだったわけだが,G502はそれと比べると,ずいぶんと思い切った形状変更になった。
“5系”に慣れ親しんできた人ほど,今回のG502はどうなのかと気になっていると思うが,果たしてG502は,従来からのファンを満足させつつ,新しいファンを獲得できるような製品に仕上がっているのか。今回はその点をチェックしていきたい。
G500sと似た部分はあるものの
新デザインらしさのほうが強いG502
Logicool Gのラインナップでいうと,2013年9月に国内発売された「G602 Wireless Gaming Mouse」(以下,G602)と同じ「Gxx2」系となる,今回のG502。確かにG602と似たコンセプトだと思う読者も多いだろうが,ロジクールに確認したところ,今後市場投入予定の製品も含め,Gxx2系ではG602で採用したデザインコンセプトのほうで統一していくという。その意味では,G502のデザインも,将来的には見慣れたものになっていくかもしれない。
iPhone用ゲームコントローラ兼バッテリーの「PowerShell Controller+Battery」が日本で発表されたとき,ロジクールは「極東アジア地域では『G+数字』型番が浸透しているため」として,国内製品名に「G550」の型番を入れていたのを憶えている人も多いだろう(関連記事)。これとは逆に,欧米では型番よりも製品名のほうが受けがよく,それゆえ,海外製品名は長くなっているそうである。
……と,いきなり余談から入ってしまったが,下に示したのがG502の主なスペックだ。
- 基本仕様:光学センサー搭載ワイヤードタイプ
- ボタン数:12(左右メインボタン,チルト&センタークリック機能付きスクロールホイール,ホイール手前×2,左メインボタン脇×2,左サイド×3)
- トラッキング速度:300IPS(≒7.62m/s)
- 最大加速度:40G
- 画像処理能力:未公開
- フレームレート:未公開
- DPI設定:200〜12000 DPI(50DPI刻み)
- ポーリングレート:125/250/500/1000Hz
- データ転送フォーマット:16bit
- 実測本体サイズ:約75(W)×132(D)×40(H)mm
- 実測重量:約168g(※ケーブル含む),約124g(※ケーブル抜き)
- ケーブル長:約1.9m
- マウスソール:動摩擦係数 −μ(K)0.1,静止摩擦係数 −μ(S)0.15
- 製品保証:3年間
従来製品であるG500sだと,サイズは73.4(W)×129.2(D)×44(H)mmで,ケーブル込みの重量が約170g,ケーブルを取り外したときの重量が約120gだったので,縦横は大きくなった一方で背は少し低くなり,ケーブル抜きの重量は,もともと重量級のG500sからさらに少し重くなったことになる。
左メインボタンは凹み,右メインボタンは膨らむという,珍しいデザインだ。セパレートタイプだからこそできるアイデアといったところ |
左右メインボタンはつや消し加工済み。多少の手汗があっても汚れは目立ちにくい。スクロールホイールはプラスチック感満載(?)だ |
スクロールホイールの横幅は実測約6.7mm。ホイール部分は約2.5mmごとに比較的大きめの凹凸が設けられているのだが,ラバーコーティングなどの滑り止め加工はされておらず,プラスチック剥き出しといった趣なので,やや馴染みにくい。
スクロールホイールのすぐ手前にあるボタンは,G500sと変わらず,カチカチとしたノッチ感が得られるスクロールと,回転させたときの抵抗感がなくなるスクロールを切り替えるハードウェアスイッチだ。後者をゲーム用途で使うことはまずないだろう。
なお,変わっていないという点では,左右チルトが用意されているのも従来製品と同じである。
側面のコーティングは,いま紹介した左側が本体後方左右中央くらいまで,右側は薬指や小指を置く場所がそれぞれラバー加工されている,指先がきそうな部分にはエンボス加工された多数の三角形があって,さも滑り止めとして機能しそうなのだが,正直,滑り止めの効果はあまり感じなかった。
意外と持ち方を選ぶ形状
どの持ち方でも重さがネックに
持ちやすさもチェックしておこう。
大きめで重量感のあるマウスは一般に,「かぶせ持ち」との相性がいいのだが,実際に握ってみると,G502の場合は,前段で述べた「微妙に歪んだ右側面」のために小指の配置場所を安定させづらく,意外と適していない。
その代わり,指を立てて持つ「つまみ持ち」や「つかみ持ち」,かぶせ持ちをベースとした筆者独自の持ち方「BRZRK持ち」だと,指先を右側面とフィットさせやすく,総じて扱いやすい印象を受けた。
以下,実際に持った写真を示しておくので,参考にしてほしい。
というわけで,4種の持ち方ではBRZRK持ちが最も負担がない。つまみ持ちとつかみ持ちがそれに続き,かぶせ持ちには適さない,という結果になった。
ただ,注意してほしいのは,筆者が日本人のなかでは手が大きい部類に入ることだ。手が小さめの人だと異なる印象を受ける可能性があるので,その点は頭に入れておいてほしい。
なお,ケーブル抜きで124gというのは,やはり重い。腕や手首にかかる負担を常に感じながらの操作になったことは付記しておこうと思う。
従来製品であるG500sとの比較でいうと,Logitech/ロジクールは同じようなシルエット,同じような握り心地になるよう苦心した跡は見られるものの,実際の印象は大きく異なる。サイドボタンの大きさはもちろんのこと,全体的にボタンの配置場所が変わったことが,この印象の大きな要因になっていると述べていいだろう。少なくとも,G500s以前の“5系”マウスを使っていた人が,G502に乗り換えて,何の違和感もなく使えるかというと,正直怪しい。
慣れればなんとかなるレベルではあるので,問題ないといえばそれまでだが,“5系”マウスの直系最新作らしい「買い換えていきなり使い始めたときの違和感のなさ」を求めると,裏切られたと思うかもしれない。
設定ツールは基本的に変わらずだが
新要素の使い勝手は非常によい
G502自体はWindowsのクラスドライバで動作する仕様だ。ただ,Logicool Gの従来製品と同様に,ボタンやセンサー周りの細かい設定を行うためには「Logicoolゲームソフトウェア」(海外では「Logitech Gaming Software」)を導入する必要がある。
Logicoolゲームソフトウェアの使い勝手は,基本的に従来同様。なので,いまLogicool Gのマウスを使っている人には馴染み深いと思われるが,これは「そうでない人には分かりにくい」というのと同義でもある。
最も分かりにくいのは,メインメニューに「オンボードメモリ」「自動ゲーム検出」という2つの選択肢があり,選択結果によって挙動が変わることと,その説明がヘルプファイルにすら満足に書かれていないことだ。
試行錯誤していけばそのうち気づけるので,一度分かれば問題ないのだが,初めてゲーマー向けマウスを買う人にこれを「慣れろ」というのは酷ではなかろうか。
「自動ゲーム検出」で同じアイコンをクリックした状態。複数のプロファイルを登録できるようになり,また,ボタンへの機能割り当てはドラッグ&ドロップで行えるようにもなる |
「自動ゲーム検出」では,「ポインタ設定」のメニューが独立しており,DPI設定やレポートレート設定をプロファイルごとに変えたり,ポインタの加速の有無を設定したりできる |
さて,そんなLogicoolゲームソフトウェアだが,G502では1つ,従来のLogicool Gマウスになかった機能が用意されている。それが,マウスパッドごとのキャリブレーション機能だ。他社製マウスの一部ではすでに採用されているものなので,目新しいものではないが,こちらは調整方法の説明も含め,非常に分かりやすい。Logicool Gのマウスパッドなら,プリセットが用意されているので選ぶだけ,それ以外のマウスパッドも画面の指示に従っていくだけでキャリブレーションを行えるので,これはぜひ試してみてほしいと思う。
キャリブレーションの効果は抜群
リフトオフディスタンスは極めて短い
G502のセンサー性能はどうか。まず,マウスパッド全14製品におけるリフトオフディスタンスをチェックしてみよう。
今回から,リフトオフディスタンスの検証では0.05mmから1mmまで,厚さの異なるステンレスプレートをいろいろ用意して,より正確な値を計測することにした。その結果が表だ。なお,テストにあたっては,Logicool Gのマウスパッドを使うときはLogicoolゲームソフトウェア上のプルダウンメニューから適切な選択肢を選択し,それ以外のマウスパッドではキャリブレーションを行っている。
テスト結果 | |
---|---|
ARTISAN 隼XSOFT(布系) | 1mm以上,1.05mm未満 |
ARTISAN 疾風SOFT(布系) | 1.15mm以上,1.2mm未満 |
ARTISAN 飛燕MID(布系) | 1mm以上,1.05mm未満 |
Logicool G440(プラスチック系) | 0.95mm以上,1mm未満 |
Logicool G240(布系) | 0.95mm以上,1mm未満 |
Razer Destructor 2(プラスチック系) | 0.85mm以上,0.9mm未満 |
Razer Goliathus Control Edition(布系) | 1mm以上,1.05mm未満 |
Razer Goliathus Speed Edition(布系) | 1mm以上,1.05mm未満 |
Razer Manticor(金属系) | 0.65mm以上,0.7mm未満 |
Razer Sphex(プラスチック系) | 0.95mm以上,1mm未満 |
SteelSeries 9HD(プラスチック系) | 1.15mm以上,1.2mm未満 |
SteelSeries QcK(布系) | 0.9mm以上,0.95mm未満 |
ZOWIE G-TF Speed Version(布系) | 1.15mm以上,1.2mm未満 |
ZOWIE Swift(プラスチック系) | 0.9mm以上,0.95mm未満 |
新しい基準でテストを行っているので,筆者がこれまで行ってきたリフトオフディスタンス検証結果と直接の比較はできない。この点はくれぐれも注意してほしいが,端的に述べて,2mm未満どころか,最も長くても1.2mm未満なので,極めて良好なテスト結果が出たと述べていいだろう。光学センサー搭載マウスとは思えないほどのスコアだと述べていい。
ゲームを前にしたセンサーの操作感は,何の問題もない。というか,キャリブレーションの効果が非常に高いと評するべきだろうか。
あるマウスパッドに対してキャリブレーションを行うと,挙動に不安がなくなり,しかもリフトオフディスタンスが明らかに短くなる。面白いのは,その状態のG502を別のマウスパッドと組み合わせて使おうとするとまるで使い物にならなかったりすること。これまでのゲーマー向けマウスで用意されていたキャリブレーションとは,最適化のレベルが数段違う印象だ。
利用にあたっては最初にキャリブレーションすることを強く勧めたい。
一方,アングルスナップを有効化すると,補正がかなり効いているのも分かる。ここまで聞いていると,細かな操作が要求されるゲームでは意図しない動作になりかねないことを覚悟すべきだろう。ゲームプレイにおいては無効化が正解だ。
光学センサーはPixArt製カスタムモデルか
内部は全体的にコストがかかっている雰囲気
最後に分解である。G502の分解は少々難儀したというか,「底面部のマウスソールを剥がし,4本あるネジを取り外す」だけではダメで,微妙な力加減で押したりしなければならなかった。ともあれ,下に示したのが上面カバーを取り外した状態と,そこでメイン基板に寄ったところだ。
サイズの割に内部はけっこう狭く,それゆえ,ぎっしりと詰まった印象になっているのが見て取れる。
オムロン製スイッチの型番は定番の「D2FC-F-7N」だった。G500sの「D2FC-F-7N(20M)」とは少し異なるが,製品スペックとして「2000万回の押下に耐える」とされている点は変わらない |
上面カバー,メインボタンのスイッチを押下する部分には,G500sから引き続き,シリコンシートが貼られていた。筐体側の作りが相当に複雑なのも見て取れよう |
メイン基板からは,サイドボタンスイッチが搭載されたサブ基板,そしてセンサーユニットの搭載されたサブ基板へのフラットケーブルが伸びている。
光学センサーには「PMW3366DM-VWQU」と書かれているので,PixArt Imaging(旧Avago Technologies)製品なのは間違いない。同社の製品ページにPMW3366DMという型番のセンサーはリストアップされていないので,Logitech/ロジクール向けのオーダーメイドモデルだと思われる。
というわけで,「これだけ詰め込めばケーブル抜き124gという重量にもそりゃなるよなあ」といった印象だ。カスタムモデルと思われるセンサーに,定評あるメーカーのスイッチと,全体的にコストがかかっている印象を強く受けた。
※注意
マウスの分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
センサー周りの性能は素晴らしいが
総合的には「惜しい」G502
以上,G502を一言でまとめると,「非常に惜しい」ということになる。
“5系”のマウスは,これまでも新しいことをいろいろとやってきた。ゲーマー向けマウスとして初のレーザーセンサー採用,錘による重量調整機構などなど。それが今回は,歴史と伝統ある形状からの決別と,他社のゲーマー向けマウスとは次元の異なるキャリブレーション機能だったということになるのだろうが,ここでの評価は一勝一敗で,そこが「惜しい」のである。
一方で新デザインは,ぱっと挙げただけでも,滑り止めの弱さ,スクロールホイールのあまりよろしくない操作感,ある程度G500sに近づけてあるのは理解できるものの,実際にはやはり大きく異なる形状のため,いろいろと持ち方に制約があることなどが気になる。さらに重くなったのもマイナス要素で,全体的に微妙なポイントが多いというのが正直なところだ。
また,Logicoolゲームソフトウェアも,非常に分かりやすいキャリブレーション周りを実装するこのタイミングは,そのほかの分かりにくさにメスを入れるチャンスでもあると思うのだが,そこに手が入っていないことも気になった。
もちろん,そこは世界最大のマウスメーカーであるLogitech/ロジクール,基本的な完成度は非常に高いので,購入して後悔する人は多くないはずだ。ただ,6000〜8000円程度という激戦区の市場で,すでに十分な評価を得ている定番製品を差し置いて指名買いするほどの価値があるかというと,疑問は残るとまとめておきたい。
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ロジクールのG502製品情報ページ
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