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Logicool Gのまったく新しいゲーマー向けキースイッチ「Romer-G」はいかにして誕生したのか。開発担当者に聞く
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印刷2015/05/15 00:00

インタビュー

Logicool Gのまったく新しいゲーマー向けキースイッチ「Romer-G」はいかにして誕生したのか。開発担当者に聞く

 Logitechの日本法人であるロジクールから2014年12月に国内発売となったゲーマー向けキーボード「G910 Orion Spark RGB mechanical gaming keyboard」(国内製品名:G910 RGB Mechanical Gaming Keyboard,以下 G910)で採用される,まったく新しいキースイッチ「Romer-G」は,日本のオムロン スイッチアンドデバイスが製造を担当している。


今回は鳥取県にあるオムロン スイッチアンドデバイス 倉吉事業所で話を聞いた
画像集 No.002のサムネイル画像 / Logicool Gのまったく新しいゲーマー向けキースイッチ「Romer-G」はいかにして誕生したのか。開発担当者に聞く
 そんなRomer-Gがどのように製造されているかは,4月18日掲載の工場レポート記事で細かくお伝えしたが,そのとき4Gamerでは,Romer-Gの企画から設計・開発,そして製造に携わるキーパーソン3名,オムロン スイッチアンドデバイスの井澤一平氏と,LogitechのVincent Tucker(ヴィンセント・タッカー)氏およびPeter Mah(ピーター・マー)氏に話を聞くこともできた。今回は,その内容をまとめてお伝えしたい。

左から順にVincent Tucker氏,Peter Mah氏,井澤一平氏
画像集 No.003のサムネイル画像 / Logicool Gのまったく新しいゲーマー向けキースイッチ「Romer-G」はいかにして誕生したのか。開発担当者に聞く


なぜCherry MXのZF Electronicsではなく

オムロン スイッチアンドデバイスと組んだのか


4Gamer:
 よろしくお願いします。まず,Romer-G以前のお話として,Logitech/ロジクールは,「G710+ Mechanical Gaming Keyboard」(以下,G710+)で初めてメカニカルスイッチをゲーマー向けキーボードに採用しましたが,それまで徹底してメンブレンを採用してきた御社が,メカニカルを採用した経緯を教えていただけますか。

G910の企画を指揮したVincent Tucker氏(Director, Gaming Business Group, Logitech)
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Vincent Tucker氏:
 メンブレンを採用していたのは,市場が,主にコストの面から,メンブレンを求めていたからです。しかし,3〜4年前から,ゲーマーの間では,コストがかかってもメカニカルのほうがいいという声が大きくなってきました。それで,メカニカルキースイッチを採用した経緯があります。

4Gamer:
 そのときに採用されたのは,ZF Electronicsの「Cherry MX Brown」スイッチと,ゴムの輪による衝撃吸収用ダンパーでした。この意図は何だったのでしょうか。

Vincent Tucker氏:
 私達の調査によると,Cherry MX Brownは,全世界市場で最も受け入れられていたCherry MXスイッチでした。なのでこれを採用したわけですが,メカニカルキースイッチにはご存じのとおり,動作音が大きいという欠点がありました。それで,それを抑える目的でダンパーを入れたというわけです。

4Gamer:
 そうしてG710+は「静かなメカニカルキースイッチ採用キーボード」として評価を受け,後追いするようなメーカーも出てきましたよね。そこからどのようにして「新規にキースイッチを採用しよう」という話になったのでしょうか。

開発部隊に所属し,Logitech/ロジクール側でRomer-Gの開発を担当したPeter Mah氏(Sr. Program Manager,Logitech Far East)
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Peter Mah氏:
 Cherry MXは素晴らしいスイッチですが,誕生したのは25年前のことで,当然のことながら,当初,ゲーム用途などは考えられてもいませんでした(関連記事)。もちろん,いまお話したとおり,Cherry MX Brownなどは,ゲーマーから高い支持を集めていますけれども,私達は,(もともとゲーム用途が想定されていなかったスイッチではなく,ゲームのために)より素早く操作できるものが必要だと考えた次第です。

4Gamer:
 そのお話だと,ZF Electronicsに話をするというのが自然な流れだという気もするのですが,「より素早く操作できるキースイッチ」の開発にあたって,オムロン スイッチアンドデバイスを選んだ理由は何なのでしょうか。

Peter Mah氏:
 その答えは単純で,オムロン スイッチアンドデバイスはこれまでも,Logitech/ロジクールのマウスに――ゲーマー向けモデルだけでなく,そうでないモデルに対しても――素晴らしいマイクロスイッチを供給してくれている,長年のパートナーだったからです。
 既存の概念に囚われない,新しいキースイッチをともに開発していくにあたって,オムロン スイッチアンドデバイスをパートナーに選ぶのは必然でした。

4Gamer:
 インタビューにあたって気になることがあったので少し調べたのですが,オムロン スイッチアンドデバイスさんは,以前,メカニカルキーボード用のスイッチを手がけていたことがありますよね。

Romer-Gスイッチの開発を指揮した井澤一平氏(オムロンスイッチアンドデバイス,技術統括部主事)
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井澤一平氏:
 20年ほど前にやっていたことはあります。そのキーボードスイッチの製造が終わったのは1998年ごろでした。

4Gamer:
 念のため確認ですが,その頃に培った技術の蓄積が,Romer-Gの開発や量産には生かされていたりするのでしょうか。

井澤一平氏:
 「まったく参考にならなかった」わけではありません。ただ,そもそもRomer-Gは特殊なスイッチですから,経験が大いに役立った,というほどではないですね。Logitech/ロジクールさんと協力して1から開発をスタートしたとお話したほうが適切だと思います。

1998年頃までオムロン スイッチアンドデバイスが手がけていたキースイッチ。軸の形状になんとなくRomer-Gの面影が感じられる気がしたのだが,Romer-Gにつながるものはそれほどなかったという。ちなみに左の写真における左のスイッチにはLEDが埋め込まれている
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4Gamer:
 もう1つ,なぜこのタイミングで,Logitech/ロジクールさん以外からも,わらわらとオリジナルスイッチが出てきたのか,というのも,外から見ていると気になるポイントです。Razerは“Cherry MX互換”の「Razer Mechanical Switch」を採用し,SteelSeriesは,まだ最終製品が出ていませんが,少なくともコンセプトはRomer-Gと似た「QS1」スイッチを発表しました。
 お聞きしたいのは,なぜ今なのか,ということです。調べた限り,Cherry MXの特許自体はかなり昔に失効しているようなので,「特許が切れたから」というわけではないようなのですが……。

Mah氏が持ち込んでくれた「Romer-Gの大型模型」。Logitech特製だそうだ
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井澤一平氏:
 他社の動向にコメントできる立場ではありませんが,ご指摘のとおり,Cherry MXの特許は失効しているので,この点には何ら問題ありません。
 ただ,(Razer Mechanical Switchを製造している)KaiHua Electronicsは,中国市場で(“Cherry MX互換スイッチ”の)実用新案を取得しているので,もしCherry MX風のスイッチを開発したとなると,中国市場で使いたくても使えないという可能性はありますね。もちろん,コンセプトが異なるRomer-Gにはまったく影響ありませんが。
 そもそも,弊社が製品を開発するときには,当然,他社の特許などを調査し,抵触していないことを確認しています。

4Gamer:
 技術的,法律的には,一斉に出てくることになった理由はないということですね。となると,ゲーマー向けキーボードの市場が,オリジナルキースイッチを投入してもビジネスになるほど大きくなった,ということでしょうか。

井澤一平氏:
 というよりも,(Cherry MX搭載モデルで)市場が飽和していて,事態の打開のために,新しいキースイッチが必要だったのではないかと思いますね。


Romer-Gの開発は2012年にスタート

基本構造は2013年秋に固まる


4Gamer:
 開発の経緯に続いては,どんなスケジュールで開発が進んでいったのかをお聞きしたいと思います。
 Romer-Gの開発はいつごろからスタートしたのでしょうか。

Peter Mah氏:
 開発が始まったのは2012年ですね。次のキーボード製品のためにLogitech内部で新しいキースイッチに関するアイデアを煮詰めて,2012年8月,我々はそのアイデアをオムロン スイッチアンドデバイスさんのところへ持って行くことにしました。

4Gamer:
 当然,契約までには紆余曲折があると思いますが,共同開発が正式に始まったのはいつくらいなんですか。

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Peter Mah氏:
 2013年2月に,岡山(にあるオムロン スイッチアンドデバイス)の本社で契約を結んで,そこからですね。その後,協議を重ね,最初のサンプルが出てきたのがその年の7月です。
 で,それにあっさりとダメ出しして(笑)。

4Gamer:
 (笑)。まあ,最初のサンプルというのは得てしてそういうものですよね。

Peter Mah氏:
 ですね。それからは,(最初のサンプルをたたき台として)オムロン スイッチアンドデバイスさんと何度も何度もやりとりしました。それこそバックライトの光り方など,多くの「Romer-Gに必要な要素」を,この間に詰めていったわけです。

4Gamer:
 それがある程度の完成を見たのはいつくらいですか。

Romer-Gの製造ライン(※詳細は4月18日掲載の製造ラインレポート記事を参照のこと)
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Peter Mah氏:
 G910の原型になる,最初のキーボードを試作したのは,2014年の2月か3月くらいですね。そこからキーボードとしての追い込みをかけていって,満足のいくデキになったのは夏頃。キースイッチの量産には8月に入って,キーボードの量産は10月にスタートしました。

4Gamer:
 12月には国内発売でしたから,かなりの強行軍ですね。
 ……というか,東京ゲームショウ2014で発表されたときは,まだ量産に入っていなかった,と。

Peter Mah氏:
 そうなります。こんな風に,Romer-Gの開発には,長い時間と多くの困難がありましたが,個人的には,(十分な時間をかけることで)ゲーマーのための新しいキーボードの標準を作ることができたと思っています。

4Gamer:
 いまPeterさんから伺ったスケジュールとは別に,オムロン スイッチアンドデバイスさん側には,「量産ラインを立ち上げるために必要な条件」というものがありますよね。当然,設計が頻繁に変わってしまうようだと,量産ラインは作れないわけですし。
 見学させていただいた量産設備の構築に着手したのはいつごろなのでしょうか。

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井澤一平氏:
 スイッチの製造には,おおまかに「試作段階」「量産準備段階」という2つのステップがあります。試作段階のステップが終わるのは設計が固まったときです。そして量産準備段階は,「そこから(サンプルの)設計を変更してしまうと設備も変わってしまう」というタイミングになります。
 Romer-Gの場合,2013年10月に仕様や設計が固まって(=試作段階が終わって),量産準備段階に移行しました。

4Gamer:
 最初のサンプルから3か月! ずいぶん早いものなんですね。ただ,そのタイミングだと,Logitech/ロジクールさんの側では,G910の原型となるキーボードも誕生していないタイミングだと思うんですが,そういうものなんですか。

井澤一平氏:
 そうですね。2013年10月版サンプルの時点で,「スイッチの開閉機構が今後大きく変わるということはない」ということになり,これで量産しましょうという契約を取り交わしました。そこで量産準備段階へ移行したということになります。

4Gamer:
 Peterさんのお話からしても,当然のことながら,その後もたとえばバネの強さであるとか,押し心地といった微調整は入っていると思いますが,そういった微調整への対応は,量産ライン側で行っていったということですか。

井澤一平氏:
 はい。金型を少し調整したり曲げを変えたりといったことで対応しました。ただ,基本的な構造は(2013年10月のサンプルから)まったく変わっていないですね。7月のサンプルと比べてもそれほど大きくは変わっていません。

Romer-Gを構成する要素部品一式。試作段階でほぼ固まった仕様もあれば,量産準備段階への移行後に微調整が入ったところもある
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4Gamer:
 Logitech/ロジクールさんの側だと,2013年10月版サンプルまでは,内部で評価していって,「原型となるキーボード」ができたあたりで,契約プロチームに使ってもらったとか,そんな感じですか。

Vincent Tucker氏:
 ええ。序盤はもちろんLogitech/ロジクール社内で評価しましたが,その後は,プロゲーマーに実際に使ってもらいながら,Romer-Gの仕様を詰めていきました。

 まずは「League of Legends」の世界で著名なTeam SoloMidとCloud 9に,「試作段階のRomer-Gを採用したキーボード」を使って,評価してもらったんですが,実は,初期のRomer-Gって,アクチュエーションポイントが1.7mmあったんですよ。それが,早い段階で彼らから「もう少し短くして,素早く操作できるように」という要望が出て,それで0.2mm縮め,いまのRomer-Gの仕様である1.5mmに固まったりしています。

※Actuation Point,作動点。ここでは「キーを押し込んでいったとき,入力がオンになる深さ」のこと

4Gamer:
 以前,Logitech G/Logicool GのGM(ジェネラルマネージャー)であるUjesh Desai(ユージャッシュ・デサイ)さんにインタビューしたとき,彼は,Romer-Gの開発にあたって,「見た目だけG710+だけれども,スイッチはRomer-G」なキーボードを用意したという話をしていましたが(関連記事),そんな特別なキーボードが出てきたのも,そのタイミングですか。

Vincent Tucker氏:
 ですね。実戦でのテストを行うにあたって,(ほかの人に正体がバレないよう配慮しながら)彼らに使ってもらうということもやっています。

こちらはG710+。これに試作版Romer-Gを搭載したキーボードが10台だけ秘密裏に作られていた
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4Gamer:
 Romer-GバージョンのG710+ Mechanical Gaming Keyboardというのは,一度見てみたかったですが,ちなみにいくつ試作されたんですか。

Vincent Tucker氏:
 試合のための5台と,同じ数の予備機だけですね。

4Gamer:
 まさに幻の試作機ですねえ。
 ところで,オムロン スイッチアンドデバイスさんのほうでも,Romer-Gや,搭載キーボードの評価というのは行っているのですか。

井澤一平氏:
 さすがに,コスト面(の課題)もあり,キーボードとしての評価は行っていませんが,社内の開発メンバーを集め,キースイッチの評価を行うことはしていますね。
 ただ,我々はプロゲーマーではありませんから(笑),当然,限界もあります。基本的にはLogitech/ロジクールさんからの意見を頂戴して,それを踏まえて社内でディスカッションしながら調整していくという感じでした。


Logitech/ロジクールから出た

Romer-G「4つの条件」


4Gamer:
 そんな特殊なスイッチであるRomer-Gの開発,製造にあたって,Logitech/ロジクールさんからは,具体的にどんなリクエストがオムロン スイッチアンドデバイスさんにありましたか。

井澤一平氏:
 大きく4つです。まずは,キースイッチを光らせるライティング周り。そして長寿命,ショートトラベル,そして操作時の音の静かさですね。

4Gamer:
 すいません,ショートトラベルとは何ですか?

井澤一平氏:
 要するに,Cherry MXのストロークが4mmのところ,今回は3mmに,ということです。短くしましょうと。

4Gamer:
 把握できました。
 では,順に掘り下げたいと思うのですが,一番に挙げていただいたのがライティングだったのは,正直,意外な気もします。

従来型の「バックライトLED搭載型メカニカルキースイッチ」の例(※写真はG710+)。LEDはキースイッチの脇にちょこんと載るような格好になっている
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井澤一平氏:
 とにかく今回は,大前提として,「バックライト(の届き方)を均一に」という要望がありました。そういうご要望をいただいて,既存のバックライト搭載型キーボードを見てみると,確かに光が偏っているんですね。

4Gamer:
 どうしても,中心に軸があって,LEDはそこからズレたところに置くしかありませんでしたし。

井澤一平氏:
 Logitech/ロジクールさんは,「既存のスイッチでは文字面が光らない。これを何とかしてほしい」と仰っていたのですが,「確かにそのとおりだ」と私達のところで確認するところから開発はスタートしています。

Romer-G大型模型を使って,バックライトを光らせてみたところ。Romer-GでLEDはスイッチの中央部分に用意されている
画像集 No.015のサムネイル画像 / Logicool Gのまったく新しいゲーマー向けキースイッチ「Romer-G」はいかにして誕生したのか。開発担当者に聞く
 光を何とか,キースイッチの真ん中に持っていきたい。それを実現するためにはいろいろなアイデアがあって,たとえば「光を(中央にある軸の)周囲を回すようにすればいいのではないか」というものもあったのですが,どうしても(軸のある)中央部がうまく光ってくれないんですね。
 そこで「光を中央に置いて通す。しかも『中央付近に』ではなく,ど真ん中に通す」ことになったのですが,このとき(光を通すレンズの)周囲にスイッチをどう配置するかが最大の課題でした。「スイッチに一番使いたい真ん中」をレンズが使ってしまうわけですから,残るスペースは当然限られたものになります。狭いスペースにどうスイッチを配置するのか,いろいろ案を出しながら検討することになった次第です。

Vincent Tucker氏:
 いま井澤さんもおっしゃいましたが,Cherry MXスイッチを採用した競合他社の製品と比べてもらえば,違いはすぐに分かると思います。競合製品ではキーキャップの中心部分しかライトアップされず,四隅は暗くなったりするのですが,Romer-Gではキーキャップ全体がライトアップされるのです。
 これはRomer-Gにしかない特徴で,唯一無二の特徴となります。ここには,開発にあたって,とくに力を入れました。

G910を暗闇で光らせた例。キートップの明かりにムラがない
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Romer-Gのスイッチ部は,L字型金具を2つ組み合わせ,LEDと光学系を囲むような実装になっている
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4Gamer:
 その結果として採用されたのが――工場で見ましたが――Romer-Gで採用された,「L」字型の金具を2つ,「ロ」の字に組み合わせる方法だったわけですね。

井澤一平氏:
 そうです。もうこれしかないと。ただ,これを製造するのはなかなか難しいことで,アイデアを出しながら(製造の問題を)解決していきました。

4Gamer:
 限られたスペースにスイッチ機構を組み込みながら,なおかつ長寿命でもなければならないわけですよね。

井澤一平氏:
 そうですね,7000万回の寿命を達成したいということは(Logitech/ロジクールから)言われていましたから。

4Gamer:
 ちなみに「7000万回」という数字は,どこから出てきたものなのでしょう。

Peter Mah氏:
 先ほどもお話ししたとおり,Cherry MXが業界のデファクトスタンダードであることは誰もが認めるところですが,我々は,それよりもタフなスイッチを目指しました。オムロン スイッチアンドデバイスの技術力があれば,(5000万回のタイピングに耐えるとされる)Cherry MXよりも寿命の長いものが作れるであろうと考え,その実現をお願いした,という経緯があります。

4Gamer:
 オムロン スイッチアンドデバイスさんでは,当然,Romer-Gの開発にあたって,7000万回の押下試験を行っているわけですよね。

井澤一平氏:
 もちろんです。
 ちなみに,7000万回の耐久試験を行うとすると,1度の試行で2か月半から3か月かかってしまいます。つまり,(スイッチ機構の設計に)失敗すると,それだけでスケジュールは数か月遅れになってしまうんですね。
 7000万回の寿命を目指して,少しずつ改良していくのは難しい。ですので今回,Romer-Gの開発にあたっては,「寿命にいい」と考えられるものや要素を,設計の段階ですべて盛り込みました。


4Gamer:
 となると,実際にはもっと寿命が長いことも期待できそうですね。

井澤一平氏:
 そうですね。7000万回というのは,「弊社から出荷するすべての個体で,Logitech/ロジクールさんの品質基準を満たせる数字」ですから,(それより長い寿命も)十分に期待できるでしょう。

4Gamer:
 続いて,ストローク3mm,アクチュエーションポイント1.5mmというRomer-Gのスペックですが,実現するにあたって,どういうハードルを乗り越えることになりましたか。

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井澤一平氏:
 まず,ストロークが短くなるということは,アクチュエーションポイントの誤差を従来どおり認めていると,ストロークに対する相対的なバラツキが大きくなるということになります。なので,このバラツキを小さくしなければなりませんでした。
 あと,Romer-Gでは,Logitech/ロジクールさんから,「ソフトなクリック感」という要望があったんですね。それで,先ほども話に上がったとおり,Cherry MX Brownに操作感を近づけようという方針を立てたんですが,単純に「Cherry MX Brownスイッチのストロークを短くする」というか,荷重変化グラフを短くするだけでは,なかなかよい感触にならなかったんです。

4Gamer:
 スイッチのスペックによく掲載されている荷重カーブは,横軸が押し込み量,縦軸が荷重で,このカーブがキースイッチの感触を決めてるわけですが,Cherry MX Brownの荷重カーブを持ってきて,横軸だけ縮めても,似た感触にはならないということですね。

井澤一平氏:
 そうです。何か引っかかったような感じなるんですね。そこで,荷重の変化を調節するところでは,Logitech/ロジクールさんと多くのやり取りを行っています。

Peter Mah氏:
 そこはイテレーションですね。

※Iteration,反復。設計と試験,調査,改善といった一連の工程を短い周期で何度も繰り返しながらテストすること。

4Gamer:
 作業の間には,実際にCherry MX Brownを実際にバラして検証したり?

井澤一平氏:
 ええ。荷重カーブを調べるのにはどうしても(バラしての検証が)必要ですからね。あと,どういう材質を使っているか,といったことも確認しています。

4Gamer:
 Romer-Gでは,中央部のLEDと,短いストロークとアクチュエーションポイントを実現しつつ,細かく修正に修正を重ねながら,Cherry MX Brown風の打鍵感を目指したということですね。
 ストロークの話と長寿命がセットだったので,最後は音ですが,今回はどうやって静かさの実現を目指したのでしょうか。

井澤氏が持ってきてくれた透明なRomer-G
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井澤一平氏:
 G710+のときには,(Cherry MXの)軸にリングを入れていたわけですけれども,Romer-Gは少し違います。
 分かりやすいように透明のモデルを持ってきたのですが,ここにバネのようなものが出ています。これがダンパーの役割を持っていまして,ポンと当たったときのアタリを柔らかくしているんですね。この樹脂がしなることで,音を抑える効果も生んでいるわけです。

Peter Mah氏:
 こっちの大型モデルのほうが分かりやすいですよ(笑)。

井澤一平氏:
 あ,確かにそうですね(笑)。

読者にはこちらの大型カット模型のほうが分かりやすいだろう。キートップを押し下げたとき,下の台座の部分に当たる,樹脂性の突起(※矢印で示した)がバネとして機能し,作動音を抑えているわけだ
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4Gamer:
 4つの要望とその実現についてお話いただきましたが,もう1つ,Romer-Gの設計を困難にしていると同時に特徴でもあるのがその中央の光学レンズですよね。以前のお話だと,スイスのメーカーが手がけているとのことでしたが……。

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Vincent Tucker氏:
 その点ですが,実際にはオムロン スイッチアンドデバイスさんが光学系も設計しています。当初は,弊社内部の情報伝達に問題があって,そのように誤った情報をお知らせしてしまったようですね。

井澤一平氏:
 レンズの部分も弊社でやっています。弊社には光学を担当している部署もありますから,その部署の協力をもらって,Romer-Gのレンズを設計しました。

4Gamer:
 そうだったんですね。
 そのレンズですが,最終製品だと直方体の柱になっていますけれども,円柱にするとか,いろいろな選択肢があったのではないですか。

井澤一平氏:
 実はですね,丸いのもありまして(※と言って,開発途上版サンプルをいくつか取り出す)。このサンプルには導光部品が入っていないので分かりにくいかもしれませんが,最初のサンプルでは円柱だったんですよ。
 その後,ディスカッションを重ねていくなかで,「“丸”以外の形状もあるんじゃないか」ということになって,実際にコンピュータを使ったシミュレーションなどもやってみたりした結果,最終的に四角い形状で落ち着きました。

ずらりと並んだRomer-G。左が最終製品で,右に行くに従って初期サンプルに近づいていく。実際のレンズは入っていないが,それでも,最初期のモデルではレンズが円柱状になっていたのが分かる
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4Gamer:
 四角のほうが製造しやすいということですか?

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井澤一平氏:
 いえ,そうではありません。Logitech/ロジクールさんからは均一にキートップを照らしたいという要望がありました。私は(光学の)専門ではないので理論的なところは分からないのですが,丸だとどうしても光が中央に集まろうとしてしまう。その点,四角だと内部で反射が起きて光を拡散させることができるんですね。それで四角を選んだ次第です。

4Gamer:
 納得しました。いろいろ試されているんですね。

井澤一平氏:
 試作は繰り返しやっていまして,実際に試作品を作りながらディスカッションして,(押した)感触を変えたい,キートップの取り付け型を変えたいといった要望に対応していきました。

4Gamer:
 「キートップの取り付け型」?

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Peter Mah氏:
 Romer-Gは,キートップを4本の爪で固定する仕様になっていますよね。またご存じのとおり,Cherry MXでは1本で固定されています。
 世の中には,キートップを交換したいというゲーマーが多いのもこれまたご存じのとおりですが,1本で固定されたキートップと比べて,4本で固定されたほうが壊れにくいのです。スムーズに付け替えできて,しかも壊れにくい。Romer-Gの開発にあたっては,試作を重ねていく段階で,そういう要望もオムロン スイッチアンドデバイスさんに出しています。

4Gamer:
 そういった工夫もされていたのですね。


Romer-G自体はLogitech/ロジクールのブランド

設定された独占供給期間の終了後は……?


4Gamer:
 どこまで回答いただけるのか分かりませんが,今後のことも聞かせてください。Logitech/ロジクールとして,Romer-Gのここを改良したいというポイントはありますか。

画像集 No.027のサムネイル画像 / Logicool Gのまったく新しいゲーマー向けキースイッチ「Romer-G」はいかにして誕生したのか。開発担当者に聞く
Vincent Tucker氏:
 よくご存じだと思いますが(笑),私達は常に新しいことに取り組んでいますけれども,その詳細を語ることはできません。
 いつも,コミュニティやプロゲーマーの意見を聞き,パートナーとともに次のステップを考えています。Romer-Gうんぬんではなく,「ゲーマーの体験をよりよくするものを今後も出していきます」というのが私達の回答です。

4Gamer:
 きっとそういうお答えだと思っていたので(笑),気にしないでください。
 というわけで技術的な可能性を聞きたいと思うのですが,今回,Romer-GはCherry MX Brown風で浅いストロークとアクチュエーションポイントを実現しました。ここから想像するに,どんなフィーリングのRomer-Gも作れるような気がするのですが,その点はいかがでしょうか。

井澤一平氏:
 「どんなフィーリングも」というお話だと難しいですが,ここ(※と言って,下の写真において丸く囲んだ部分を指差しつつ)を変えれば,感触を弄ることはできます。

黄色い丸で囲んだ部分を調整することにより,Romer-Gはその押下感を調整できるという
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4Gamer:
 たとえばCherry MX Blackとか,Redとか,Blueとか……。

井澤一平氏:
 Blackは,バネ圧が違いますから,(実現しようとすると)バネの交換が必要になります。Blueもクリック音の要素がありますから,そのままではいかないでしょう。ただ,Redは(ちょっとしたカスタマイズで)同じような感じのものができると思います。

4Gamer:
 最後に,Romer-Gというキースイッチのお話ですが,これはLogitech/ロジクールさんとオムロン スイッチアンドデバイスさんの共同開発で,ブランド名はLogitech G/Logicool Gのもの,という理解でいいでしょうか。

Peter Mah氏:
 そのとおりです。

4Gamer:
 それを踏まえてオムロン スイッチアンドデバイスさんに質問ですが,マウスのスイッチだと,よく「Logitech G/Logicool Gの独占利用期間が設定され,数年後,他社も利用可能になる」ということがよくあります。今回のRomer-Gでも同じような感じなのですか。

井澤一平氏:
 そのとおりです。数年間は他社に供給できない契約になっています。

4Gamer:
 当然,それが具体的に何年なのか……は非公開ですよね?

Vincent Tucker氏:
 ご推察のとおりです(笑)

4Gamer:
 ですよね。ここまでありがとうございました。
 最後の質問は井澤さんにですが,オムロン スイッチアンドデバイスさんとして,ゲーマー向けデバイスの市場というのものは,どう捉えているのでしょうか。

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井澤一平氏:
 「スイッチで製品を選ぶ」ということは,(ゲーマー向けデバイス以外に)あまりないと思います。スイッチの個性を出せる市場ですから,私達としても魅力がありますね。
 弊社はオムロンの100%子会社として誕生後,2010年に社名変更と改組があって,それ以降,おかげさまでフットワークが軽くなりました。Logitech/ロジクールさんとの協業も,(それまでよりずっと)やりやすくなったので,今後も,いろいろなことができると思います。

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Logicool Gとオムロンによるオリジナルメカニカルキースイッチ「Romer-G」,その製造工程を鳥取でじっくり見てきた

ロジクールのG910製品情報ページ

オムロン スイッチアンドデバイス公式Webページ

  • 関連タイトル:

    Logitech G/Logicool G

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