インタビュー
あの“ゲームの神様”遠藤雅伸氏がMMORPGに言いたい放題。「ドルアーガの塔」からケータイゲームまで,存分にどうぞ
現在,遠藤氏が力を入れて取り組んでいる
ケータイゲームやブラウザゲームのよさとは
4Gamer:
先ほど,ケータイゲームやブラウザゲームの話が出ましたが,遠藤さんはこの分野についてどう考えているんですか? というか,今の本業ですけど。
ゲーム人口が減ってるという統計を出す人は,ケータイやブラウザで遊んでいる人達が格段に増えていて,実はゲーム人口自体は増えているという事実を捉えていない気がします。
例えば,ケータイでRPGを遊んでいる人と,コンシューマ機でRPGを遊んでいる人の1日あたりの平均プレイ時間は,ケータイで遊んでいる人のほうが長いんですよね。
4Gamer:
PCで遊ぶことを考えると,PCの前に座って,PCの電源を入れて,モニタの電源を入れて,スタートメニューからプログラムを起動して,ログインして……。こういう手間がかかるのをどうにかしないと,PCゲームに先はないんじゃないかという気がしています。
遠藤氏:
ブラウザゲームも手軽ですよね。インストールしたり,パッチをあてたりする手間がかかりませんから。ところが,それがないとPCゲームとはいえない,なんていう人すらいるんですよね。
4Gamer:
手軽であることをよしとしないんでしょうか。では,ケータイでゲームを遊んでいるのは,どのような人達ですか?
遠藤氏:
ケータイゲームのプレイヤーで多いのが主婦層です。
4Gamer:
昔からゲーマーとして割と有名な。
遠藤氏:
わざわざ電源を入れて,時間をかけてコツコツと進めていくというよりは,ケータイでちょこちょことパズルゲームを遊んだりする人がすごく多いんですね。僕自身,ケータイは新しいメディアとして面白いと思っています。ケータイだからこそできる新しいことが,すごくたくさんあるんですよ。
僕が作っているということは知られていないゲームで,評価されているコンテンツはいろいろあります。自分が作ったものだから売れるというのは,もう結構なので。
4Gamer:
例えばどんなゲームがあるんですか?
“脳トレ”ブームが来る前に「右脳パラダイス」というのを作って,これが相当売れました。元はといえば,僕自身,知能検査好きということで企画したものなんですよ。例えば「テトリス」は,プラパズルをやっていて,最後にハマらないピースが残ったとき,そこまでのことはよしとして,どんどん継ぎ足して続けられたらいいんじゃないかという考え方から生まれたわけですよね。そのように,ただ延々と知能検査を続けられたら面白いんじゃないかという発想です。
それから,単なる射的ゲームなんですが,「占いバキューン」というのもあります。毎日1回ゲームをすると,占いが表示されるだけなんですが,女の子のあいだでめちゃめちゃ人気になって。
4Gamer:
あぁ……私自身いつも思うんですけど,ケータイで一生懸命遊ぶ必然性は感じられないんですよ。「そんなに一生懸命やるのはイヤ」みたいな。例えば,「コラムス」みたいなゲームがあったとして,3個じゃなくて2個で消えてほしいんです。
遠藤氏:
二つで消えるゲーム,いいと思います。僕が作ったゲームで「うさるさん。くるっとパズル」というのがあるんですが,これは,2×2に並んだ四つのキャラが落ちてくる落ちモノ系パズルです。このゲームでは,同じキャラが四つ四角に並ぶと,画面内の同じ種類のキャラがいっせいに消える仕組みになっています。そのため,連鎖がどんどん発生するわけです。
4Gamer:
そうそう,それくらいがいいと思います。
遠藤氏:
連鎖が次々に起こる点が,女性のゲーマーにウケたようです。自分で仕込んで発生させた連鎖でなくても,そんなことは関係なくて,「これすごくない?」と(笑)。
僕は落ちモノ系パズルで,ブロックが一番上まで積みあがってゲームオーバーになるのが嫌なので,上までどんなに積み上がっても終わらない「ずっとうさるさんモード」というのを用意しました。ずっと続けていられて,揃うとものすごい勢いで連鎖が起こるんです。このモードはいつまで経っても終わらなくて,一時中断してあとで再開できるようになっています。ゲームオーバーにならないんだから,続けていれば誰だって何百万点という点が取れるんですが,遊んでいる人はそのスコアに大喜びなんですね。
4Gamer:
そういうゲームでいい気がするなあ。
遠藤氏:
そういう方向性を持ったゲームですが,きちんとていねいに作ってあるんですよ。ただ,このように作っていくと,既存のゲームとは全然違うものになるんですよね。コンシューマゲームのゲーム性と,ケータイゲームのゲーム性というのは全然違うものだし,ターゲットとするプレイヤーもまったく異なるわけです。
例えば,既存タイトルのダウングレードバージョンみたいなものを出したとしても,分かりやすいというだけで,それを遊びたいという人はその市場にほとんどいません。
4Gamer:
東京ゲームショウとかでケータイゲームのラインナップを見ると,“企業が片手間でやっている感”があって,割と悲しい気分になってしまうんですよね。
遠藤氏:
あれは東京ゲームショウだからそういうラインナップが出されるわけで,本当は,あそこにゲームを出さずに取り組んでいる企業がメインです。大きな企業が片手間という意識を持って取り組んでいるのは,仕方のないことだと思いますよ。だって,彼らの意識の中では,ケータイは今でも格下ですから。
4Gamer:
十億,二十億という予算をかけることがエラいことなんですかね。
遠藤氏:
それは,意識の差ですから仕方がありませんね。作っている人達がそう思ってやっているから,そういうものになってしまうわけで。ケータイの世界では,そういう人達が考えるものとはまったく異なるものが支持されているんですよ。
4Gamer:
僕自身,一時期ケータイのゲームを遊んでいたんですが,「もはやゲームじゃなくていいんだな」と思いましたね。
最近うちで開発したゲームに「空気読み。」というのがあるんですが,これは,「あるよね」というシチュエーションが線画で描かれて,その場面でどうすべきか選んでいくだけという内容です。あんまり評判がいいので,仕方なくDSiウェアで出したりしました。
4Gamer:
3800円のパッケージを売るとなると厳しいかもしれませんが,DSiウェアならいいんじゃないですか。
遠藤氏:
そうそう,ケータイゲームの文化は,パッケージを買う文化とはまったく異なるところにあるというのも,重要ですね。だって,ケータイゲームを遊んでいる女の子達は,パッケージゲームの専門店に行くことには抵抗を覚えると思うんですよ。
4Gamer:
そうかもしれませんね。ところで,“携帯”ということなら,PSPとかももっとどうにかなったのではないかと思うんですが。まあ個人的には,起動に時間がかかるのが難点なんですが。
遠藤氏:
PSPはこれからじゃないでしょうか。モンハンのおかげで,普及台数も一気に増えましたし。起動に時間がかかるというけど,僕は遊ぶソフトの本数だけPSP本体も買っていますよ。これなら,いつでも遊びたいゲームですぐに遊べますからね。
4Gamer:
それはおかしいですから(笑)。
遠藤氏自らギルドを結成
どんどんそれているので,最後に,テーマをMMORPG版ドルアーガの塔に戻して語っていただきたいと思います。
遠藤氏:
MMORPG版ドルアーガの塔には,僕が店主を務める「ボッタクル商店」というのがあるんですが,これがとても不思議な存在で,面白いんですよ。
4Gamer:
なんとなく想像がつきますが(笑),具体的にはどんなお店なんですか?
遠藤氏:
完全なギャグというか,ネタとして,とんでもない価格を設定した装備品を販売しているショップです。僕は常々,「ネタだから買うな」といっているのに,本当に買っている人がいるんですよね。以前,それを買った人と実際に会ったんですが,彼らは本当に喜んでいるんですよね。
4Gamer:
そりゃあ,喜ぶと思いますよ。
遠藤氏:
僕が「ただのデータなんだから,それに対してお金を支払うのは無駄だ」といっているのに買う心理はどういうものかと尋ねたところ,「ボーナスも出たことだし,自分へのご褒美として買いました」というんですよね。無駄なものにお金を使うことで得られるものがあるから,納得しているそうです。
確かに,ろくに使いもしないブランド物のバッグに数十万円,数百万円というお金をかける人もいるわけですから。
4Gamer:
遠藤さん自身がブランドみたいなものなんですから,その人達はきっと満足しているんでしょうね。
遠藤氏:
それならそれでいいんですけどね。
そうそう,それから,個人的にギルドを結成したりしました。
4Gamer:
ほう,遠藤さん自らギルドを作ったんですか。
遠藤氏:
キャラレベルが20になったあと,とあるオフ会で出会ったプレイヤーに,「『遠藤さんがギルドを作るまでどこにも入らない』といっているヤツがたくさんいるんです。作ってもらわないと困ります」とお願いされて。
ギルドを作るためにクリアしなければいけないクエストがあるんですが,難度が高いんですよ。それで,「クエストが大変だから」と答えたら,その場にいたレベル50くらいの連中が,「いくらでもお手伝いしますんで!!」と。彼らに手伝ってもらい,ギルドを作ったら,数時間で最大規模のギルドになったんですよ。
4Gamer:
ギルド名はなんと?
遠藤氏:
「神軍イルサカール」といいます。これは,中立の雷神「ラマン」の下にあり,神々の争いや,神と人間のいさかいを抑えにいくための軍隊なんです。ちなみにイルサカールというのは,ドルアーガの塔の世界の言葉で「神の槍」を意味します。
4Gamer:
そのギルドのメンバー数はどのくらいですか?
遠藤氏:
70人ほどです。このギルドにはちょっとしたルールがあって,「『とりあえず,サブキャラをギルドに入れておいた』というヤツは除名」「遠藤雅伸がギルドマスターを務めていると自慢したヤツは除名」といった具合です。
4Gamer:
ギルマス,厳しいですねえ(笑)。
遠藤氏:
僕は,このギルドに入ったからには,初心者を見つけたら1日つぶしてサポートしてあげるくらいじゃなければダメだよといっています。
ただ,運営側による公式ギルドなのかと勘違いしている人がいるのが残念なんですが。
4Gamer:
遠藤さんとしては,個人的に作ったギルドをどうしていくつもりなんですか?
遠藤氏:
いずれ,メンバー同士で自治できるようになれば,僕は脱退すると宣言しています。そうしたら新たにギルドを作って,そこが軌道に乗ったらまた脱退するつもりです。「遠藤雅伸がギルマスだったんだよね」といいながら,それぞれ自分達でやっていけばいい。
キャラレベルによって,組める組めないというのがあるので,最終的にギルドが増えたら,レベルごとに分割しなければならないと思っています。そのときのために,最初から抜けるつもりでいるという意思を明らかにしているんです。
4Gamer:
なるほど,そういう構想を持っているんですね。
遠藤氏:
そういえば一人,ギルドメンバーに中学生がいるんですが,彼が「皆さんと一緒にがんばります」みたいなことをいうと,周りの大人たちが「がんばらなくていいから,落ちて勉強しなさい」と言い聞かせようとしています(笑)。
4Gamer:
昔,似たような話をよく聞いたものです。
遠藤氏:
昔は,ゲームで遊んでいる子の親から電話がかかってきたりといったことがしょっちゅうありましたよ。
そういえばこのあいだ,ある人と出会ったとき,「遠藤さん,僕のことを覚えていますか?」と聞かれたんです。彼がいうには,「僕は中学生の頃,遠藤さんと電話で話をして,『遠藤さんみたいにゲームデザイナーになりたいから,すぐに学校を辞めてゲーム作りをしたい』と伝えたところ,ゲームを作るにはこういう勉強が必要だから,今はしっかり勉強しなさいといわれました。大人になってもゲームを作りたいという気持ちがあれば,いずれ作れるようになるからと。あれからしっかり勉強して,今はゲームを作る人になりました。あのとき電話で,遠藤さんと話をさせていただいたおかげです」って。
MMORPG版ドルアーガの塔で遠藤氏が目指すもの
先ほど,2週間に1度くらいのペースで企画会議が開かれているという話がありましたが,遠藤さん個人としては,MMORPG版ドルアーガの塔をどのようなゲームにしていきたいと思っているんですか?
遠藤氏:
僕が常々考えているのは,「MMORPGはこういうものなんだ」というところに凝り固まらないようにしながら作っていくということです。MMORPGの既成概念を打ち崩す方向性でがんばっていますよ。
MMORPGというもの自体,一部の熱狂的なファンが支払ってくれるプレイ料金で支えられているのかもしれません。でもそうではなく,広く薄く,消費税くらいの感覚で,プレイヤーみんながちょっとずつ支払ってくれることで全体として成り立つようにするにはどうすればいいか,考えています。
4Gamer:
そうなると,やはりユーザーベースの大きさが重要ですよね。これまでMMORPGを遊んだことのない人をどうやって取り込んでいくかというところでしょうか。
遠藤氏:
そうですね,僕としては,もっとライトなゲーマーに向けた“ドルアーガMMO”があってもいいなとは思いますね。
僕はいろいろ決めるのが嫌なので,決めることはもっと少ない方がいい。パラメータがあんなにあっても管理できませんし,何のパラメータだか分からないから,なくてもいいし,ポイントを割り振ってから後悔するのも嫌だから,割り振らなくても済む仕組みにしたらいいんです。ライトとはそういうことだと思います。とにかく後悔するのが嫌なので,いっそのこと職業を決めなくてもいいような気がしますね。
4Gamer:
もしこれらが実現したら,今とはずいぶん異なるゲームになりそうですね。
遠藤氏:
ガラリと変えるのは難しいにせよ,段階的にユルくできればいいと思いますね。ぜひ楽しみにしてください。
4Gamer:
これから,MMORPG版ドルアーガの塔がどう変わっていくか注目していきます。本日はありがとうございました。
“ゲームの神様”遠藤雅伸氏へのインタビュー,いかがだったろうか。
個人的な話で恐縮だが,今回,記事の執筆を担当した4Gamer編集部の(山)は,中学生の頃にむさぼり読んだ「こんにちはマイコン2」で,遠藤氏の名前を最初に知った。これは,あの「ゲームセンターあらし」の作者すがやみつる氏による学習漫画で,ゲームセンターあらしの主人公 石野あらし達が,PCの仕組みや,BASICの基礎を紹介するという内容。
その中に,あらし達が,当時遠藤氏が在籍していたナムコを訪れ,ゲームのアイデアを練ったり,プログラミングしたりする手法を遠藤氏からレクチャーしてもらうコーナーがあったのだ。
まさかその遠藤氏の話を直接聞く機会が得られようとは,想像すらしていなかっただけに,実に感慨深いものがあった。
さて今回,遠藤氏にさまざまな話を聞いて印象に残ったのは,遠藤氏のゲームの歴史そのものへの造詣の深さであった。そして,ゲームデザイン論を語る遠藤氏の洒脱な語り口は,これまで私が抱いてきた遠藤氏に対するイメージそのものであった。
遠藤氏の話は示唆に富んでおり,私自身くり返し目を通し,いろいろと考えてみたくなる。
MMORPGは長続きしなかったという遠藤氏だが,MMORPG版ドルアーガの塔はしっかりやり込んでおり,キャラをレベル1から育て上げているほか,料金も“自腹”で支払ってきたのだそうだ。
そんな遠藤氏が,これから本作にどのように手を入れ,私達に新たなMMORPG像を見せてくれるのか,楽しみにしたいと思う。
ちなみに,MMORPG版ドルアーガの塔では近日中に,プレイヤーへのアンケートで得票数の多かったリクエストを元にバランス調整が行われる予定。
また6月には,レベルキャップの開放や塔の拡張が行われるほか,さらに難解なエニグマが実装される予定となっている。
そして7月には,「ドルアーガの塔」ダンジョンとは異なる,大規模なダンジョンが新コンテンツとして登場する計画もあるそうだ。
4Gamerでは,MMORPG版ドルアーガの塔に関する新情報が入り次第お伝えするので,続報を楽しみにしてほしい。
- 関連タイトル:
ドルアーガの塔〜the Phantom of GILGAMESH〜
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