インタビュー
あの“ゲームの神様”遠藤雅伸氏がMMORPGに言いたい放題。「ドルアーガの塔」からケータイゲームまで,存分にどうぞ
どこからがゲームなのか?
そういえばこのあいだ,「ゲームの本質とは何ですか?」と質問されたので,「インタラクティブな要素があって満足感が得られるもの」は,全部ゲームだと思っていると答えました。
例えば,アバターを用いたコミュニケーションだって,インタラクティブで,満足感が得られるものだからゲームです。自分が何かをしたことによって何かが起き,そのことで満足感が得られるということが一番大事だと思うんですよ。
4Gamer:
具体的には,どのへんからがゲームだと思いますか?
遠藤氏:
最近,これもゲームなんじゃないかと思えるものがどんどん増えているんです。分かりやすいところだと,「Google Earth」はゲームだと思っています。
4Gamer:
なるほど。
あのソフトに初めて触れた人が何をやるかというと,まず自分の家を探しますよね。請け負ったわけでもないのに,誰もが必ずクリアするクエストみたいなものです。そして,自分の家を見つけると満足感が得られて,僕にとってはすごくゲームなんですよ。
そのあとは,その人にとって思い入れの深い,学校とか旅行先とかを探したり。さらには,自由の女神やナイアガラの滝などを見に行ったりしますよね。結構難度が高くて面白いのが,ナスカの地上絵を見つけることなんですよ。
4Gamer:
難度……(笑)。
遠藤氏:
そのほかの例としては,誰かが何かを作って,それをほかの人が評価するタイプのものも,面白いと思います。
4Gamer:
ニコニコ動画とか。
遠藤氏:
ニコ動もその一つですね。ニコ動のすばらしいところは,コンテンツへの関わり方がピラミッド構造になっていることだと思っているんです。
4Gamer:
ピラミッド構造ですか。
遠藤氏:
出だしはまず「見る」ことで,それに対するハードルはすごく低いし,そうしている人はすごく多い。最初は弾幕とかうっとうしいんですけど,そのうちあれがないとつまらなくなってきちゃう。
4Gamer:
僕は弾幕はなくてもいいかなあ。
遠藤氏:
次の段階は,今流行っているのはどんな動画か,ランキングに入っている動画をクリックして眺めること。そしてその次に来るのが,自分でも何か書きたいなと思ってコメントを書き込むことなんですよ。
この段階に入るのは,動画にコメントが付いていないと我慢できなくなってからですね。コメントを隠しているうちは,この段階とはいえません。
4Gamer:
ということは,どうやら僕は初級ですね。
最初は合いの手みたいな感じでおそるおそるコメントするんですが,やがてその動画の核心を突くコメントを付けたくなってくるんですよね。さらに,コメントを出すタイミングにも,ネタ的な面白さを込めたくなってきたりとかね。
ここまでが中級者で,次に訪れる上級者への転換点が,自分でムービーをアップすることですね。そして動画をアップしているうちに,どんどん工夫を凝らしたくなってきて,それに対するコメントにも期待したくなるんですね。ここまで来ると,すっかり上級者です。
4Gamer:
なるほど,いわれてみれば確かに立派なゲームです。
遠藤氏:
ゲームという言葉の捉え方次第なんですが,最終的には「いいじゃん,面白ければ」っていうところにたどり着くと思うんですよね。
遠藤氏曰く「まともなMMORPGを作ってみたい」
大切なのは喜んでお金を払い,満足できる仕組み
4Gamer:
ではそういう考えを基に,今後まったく新しいものを作るとしたら,どんなものを作りたいと思いますか?
遠藤氏:
まともなMMORPGを作ってみたいな。最近とくにそう思っています。僕が作るなら,3〜5年前のPCやケータイで遊べて,動作スペックの中に「グラフィックスカードは○○以上」と書かれていないものがいいな。環境マッピングとかマルチレイヤーとかは要りません。プレイしている最中はそんなところ見やしませんから。スクリーンショットがきれいなだけで客を呼ぶつもりはありませんね。
それと,あんなに移動しなければならないようなものも嫌です。本当に時間の無駄ですからね。
4Gamer:
軽くて,走り回らなくて済むようなMMORPGですか。そういうゲーム,遊んでみたいなあ。
遠藤氏:
いや,ゲーム性はあんまりなくてもいいと思うんですよ。PCがある環境で,キーボードを使って遊ぶゲームは,ほとんどがコミュニケーションゲームですから。
4Gamer:
チャットゲーですね。
遠藤氏:
そう,チャットゲーでいいと思うんですよ。チャットがゲームなのかというと,そうだと思うんです。僕は「ハビタット」が日本に来たとき,どっぷりハマりましたからね。多分,オンラインゲームの本質はそこにあるんだろうなと今も思っています。
4Gamer:
ハビタットは僕も遊んでいました。懐かしいですね。
あれは,共通の何かのもとに集まった人達のコミュニケーションツールですよね。MMORPGはそれに対して若干,方向性が与えられているに過ぎなくて。
僕はハビタットをやってる頃,月に10万円ぐらいつぎ込んでいました。そういう,ハビタットなどのサービスを通じて,オンラインゲームの本質を理解したつもりでいるので,そのあとに出てきたゲームは,その本質に難しい要素がどんどん追加されることで,遊ぶのがなんだか面倒なものになってしまっている気がします。
4Gamer:
なるほど,先ほどもおっしゃっていましたが,MMORPGを遊んだことのない人にとって,ハードルの高いものになっていますよね。
遠藤氏:
だから僕は,オンラインゲームにおける会話自体が面倒であるという問題に,踏み込まなくちゃいけないと思っているんですよ。
4Gamer:
個人的には,つかず離れずくらいの距離が望ましいなあ。
遠藤氏:
うるせえな,このやろうと思ったときや,今日はそろそろ遊ぶのをやめようと思ったとき,トイレに行きたいなとか思ったときに,「じゃあまたね」っていってスパっと別れられて,「なんだよアイツ,付き合い悪いな」とか思われないようなシステムにしたいと思いますね。
4Gamer:
日本人と違って外国の人はクールで,「それじゃ」と言い残してあっさりと去っていきますよね。
遠藤氏:
日本人は,「自分が抜けちゃ悪いかな」と,ズルズル引きずりがちというか。自分が抜けたあと何かがあるかもしれないと思うと,抜けづらくなっちゃうんですよね。
それこそ僕のゲームでは,高橋名人にお願いして,1時間プレイすると名人が登場して「ゲームは1日1時間!」とメッセージを送ってもらうようにしたいなあ。すると,自動的にログアウトされて,次の日になるまでログインできなくなるとかね。
4Gamer:
プレイヤーが「ヤバい,あと3分だ」なんてドキドキしたり。
遠藤氏:
そうするとね,きっと別アカとか作って続けてプレイされちゃうんだろうな。
4Gamer:
そこでアカウントを販売するとか。
遠藤氏:
それはきっと,みんなが喜んでお金を払って,満足するでしょうね。
4Gamer:
ある意味,みんながハッピー。これまで10年近くかけて,なんとなく積み重ねてきたものだけでやっているからか,そんなふうにみんながハッピーになれるビジネスが,オンラインゲームには割と少ない気がするんですよね。
おそらく,参考にできるものがないということが辛いところなのかもしれませんね。ここで良い例として挙げられるのが,「マジック:ザ・ギャザリング」というカードゲームです。このゲームの場合,ゲームバランスの面で問題のあるカードがあるとき,時間がある程度経過すると,それをなかったことにできる「禁止カード」のシステムが用意されています。
また公式トーナメントでは,1年以内に発行されたカード以外は使用不可というルールになっていて,ゲームバランスが崩壊しないよう,常にいろんなものを排除しながら運営されているんですね。MMORPGでは,この排除の仕方が難しいと思います。
4Gamer:
なるほど,マジック:ザ・ギャザリングには個人的にかなりハマっていたので,よく分かります。
遠藤氏:
先ほどからいっているように,大切なのは,喜んでお金を払い,そのことにより満足してもらえるような仕組みを用意することだと思います。僕がMMORPGを作るなら,お金を支払った人が,それに見合うメリットを享受できるシステムを用意しますね。
4Gamer:
というと,例えばどんなものですか?
遠藤氏:
お金を支払っている人のキャラには,そのことが分かるマークを付けるとかね。その一方,無料で遊んでいる人には「無料で遊んでいますマーク」を付けるわけです。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
そして,「実は料金を支払っているけど,無料で遊んでいるように見せかけられるマーク」みたいなものも用意します。実は,これが一番大事じゃないかと思っているんです。
無料で遊んでいた人が一度でもお金を支払ったとなると,周りから「転んだ」とかいわれてしまうんじゃないでしょうか。そこで,料金を支払った人に「俺は無料で遊んでいる」と言い張らせてあげるシステムって大事だと思うんです。まあ,どうやって実現させるかは考えなければいけませんけどね。
遠藤氏の提案で作られたアイテムとは?
「プレイする人の身になって作ってほしい」(遠藤氏)
とはいえ実は,僕自身はMMORPG版ドルアーガの塔でかなりの料金を支払っちゃっているんですが。
4Gamer:
ダメじゃないですか(笑)。
遠藤氏:
ゲームを始めた頃は,絶対に支払わないという気持ちでプレイしていたんですが,移動が面倒くさいので,移動アイテムが発売されたとき,「もう,これを買って移動しよう」と。そのうち,レベルが上がりにくくなってきたので,獲得経験値が増加するアイテムを買うようになりました。
4Gamer:
移動と経験値アップの誘惑に耐え切れなかったと(笑)。
遠藤氏:
そうなんですよね。僕は,土日のうち1日くらいしかプレイできません。最初の頃,1日券がなかったので,そりゃあもう必死に説得して出してもらいました。もともと3日券はあったんですが,500円で3日なんですよね。「三日はプレイできないから,500円は高い」と。
4Gamer:
そもそも3日券というのは,社会人をまったく念頭に置いていませんよね。
遠藤氏:
そうそう,休みが二日あったとしても,ゲームに費やせるのはせいぜい1日です。だから,1日ずつ切り分けさせてくれればいいのにといったんです。すると,「1日券2枚で500円というのはどうでしょう」というので,「全然OKだよ」と。
4Gamer:
ドルアーガの塔の1日券はそういう経緯で生まれたんですね。
遠藤氏:
週末に1日ずつ,2週にわたって遊んだ場合,3日券だと1000円かかるのが,これなら500円で済むわけですよね。このほうが社会人に合っていますよ。
そのあと,とりあえずレベルを上げておきたいけど,1日中プレイするのも辛いから,3時間でいいので「もっとグッと来るヤツを出してくれない?」と。そうしたら,「チートポーション」というアイテムが登場しました。これは,3時間だけ効果が継続するんですが,ログアウトしている時間はカウントしない方式です。
4Gamer:
なるほど,分かるなあ。
遠藤氏:
「250円相当の1日券に対して500円で3時間というのは高くありませんか?」と聞かれたので,「全然高くない」と。僕が使うから入れてとお願いしました。実際,売れているようです。
4Gamer:
ええ,そうでしょうね。
レベルキャップが解放されたりすると,誰よりも上を行きたいという人は買うんでしょうね。ちなみに,獲得経験値が通常の1.5倍になるアイテムが500円なんですが,2倍になるアイテムは5000円くらいするんですよ。
その価格を聞いたときは,「さすがにそれはどうなのか」と伝えたんですが,ゲームバランスが崩れるので,何らかの形で制限させてくださいといわれまして。でも,それでも使う人はいるんですよね。個人的にはあり得ないと思うんですが,使える時間を最大限効率よく使うために,そこにお金を支払う人はいるわけです。
4Gamer:
気持ちは分かるような気がします。
遠藤氏:
そういう人達にとってもデスペナルティはありがたくないので,軽減したいなあ。例えば,持っているお金が全部なくなるのはいいんですよ。預けておけばいいわけだから。何らかの手間をかければ,それが軽減できるということならばいいんです。
4Gamer:
問答無用ですからね。
遠藤氏:
それだと嫌になっちゃいますよね。この前死んじゃったとき,仕方がないからデスペナルティ軽減アイテムを買おうと思ったんです。でも,「アイテムを使いますか?」というダイアログが表示された段階では,すでに肝心のアイテムが購入できないんですよ。
デスペナルティを軽減したいから今買いたいのに,それができない。分かってないなあと。人がお金を使いたくなる瞬間を理解しないで作っているんですよね。こんなところで売上げを損失している。自分でプレイしていないからだと思うんですよ。
4Gamer:
そういうゲームは多いと思います。
多過ぎますよね。作っている側の驕りなのかもしれません。本当は,自分でプレイしながら調整すべきなんです。ゲームの難度についても,自分達の方がプレイヤーよりもスキルが高いことを理解して,その分を差し引いてヌルく調整する必要がありますよね。
一生懸命に作ったから見せたくないという気持ちが,作り手の中に働くわけです。半年かけて作ったものが,世に出ると1時間でクリアされるとなるとちょっと残念な気がして。だったら難度を高くしてクリアに10時間くらいかかるようにしたくなっちゃう。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
かといって,半年かけて作ったコンテンツが10時間のプレイに耐えられるかというと,最近はそうじゃないものが多いので,1時間でクリアできるくらいでいいんじゃないかと。
4Gamer:
映画なんか2時間で終わるわけですからね。
遠藤氏:
しかも10時間というのは,プレイヤーに努力を強いる10時間ですから。映画の場合,眠らないという努力だけですからね。
ゲームを調整するのはやっぱり難しいものですよ。今のゲームを見ると,自分の作品が世間から叩かれたり,生き残るために,その評価に対処したりという経験のない人達が,自己満足的に作り上げてしまっているのが分かりますよね。
2500円で2時間楽しめるDVDに
6800円で100時間楽しめるゲームが負けた
4Gamer:
遠藤さんのようなクリエイターって,最近はほとんど見かけませんね。
遠藤氏:
面白いものを作りたいという人は,すでにゲーム業界にはいないのかもしれませんよ。だって,Web 2.0的なもののほうが面白いから。
4Gamer:
遠藤さん然り,宮本茂さん然り,ゲームクリエイターと呼ばれる皆さんは,失礼ですが,年齢がだいぶ上の人が多いじゃないですか。なぜその下の世代にいないのかなと。最近,イキのいい人はいますか?
いますよ,表に出てこないだけで。
今,ゲームというものの存在意義が,五月人形やひな人形みたいなものになっていると思うんです。つまり,子供が生まれると決まって五月人形やひな人形を買うように,今は子供が幼稚園くらいになるとニンテンドーDSを買い与えている。
そんな子供達の中には,将来ゲームを作りたいと思っている子もたくさんいるんですが,やがて大きくなったとき,ゲームを選ばなくなる子が結構いるんじゃないかと思います。
4Gamer:
なるほど,ひな人形ですか。
遠藤氏:
結局,ゲームが市民権を得たということなんですよね。クリエイターというのはどの時代にもいると思いますが,新しいものを作ろうとするとき,どこに向かうかという問題なんでしょう。
また,ゲーム開発に要求される技術レベルが急速に高くなっていることも,それを選ばなくなる大きな要因だと思います。ある程度以上勉強ができないと,どうしようもありませんから。
4Gamer:
若い世代の人々にとってゲームの存在が特別なものでなくなったため,その中からそこに向かう人が減ってしまう可能性があると。そう聞くと,ちょっと心配になります。
遠藤氏:
今,10代後半から20代のはじめくらいまでの人達は,3Dが当たり前の世代なんですよね。その彼らが,なんで今までなかったんだろうという新しいものを見つけて,それで勝負してくるようになったら,すごいものができると思いますね。
4Gamer:
遠藤さん以降のゲームクリエイターで,印象に残っている人はいますか?
遠藤氏:
例えば,飯野賢治とかは良いセンスを持っていたと思うんです。「インタラクティブムービー」という手法は当時新しかったし。彼には,宮本さんや僕と同じ土俵で戦っていては勝てないということが分かっていたから,最初から力一杯の変化球を投げてきたんですね。
一方で,小島監督の作り方は王道です。ハードウェアの性能を最大限引き出して作るという手法。あれはあれでいいと思うんですよ。でも,性能を最大限引き出すよりは,知恵を使って,性能の限界よりも少し下のところで,制作費が安く済むように作る作家っていうのも出てくるとは思いますよ。
4Gamer:
そうですよね。そうじゃないと会社がもたない。
遠藤氏:
今,面白いものを作っているヤツはきっと,ケータイゲームとかブラウザゲーム,勝手アプリみたいな分野に取り組んでいると思います。そういうもののほうが作るのが簡単だし,一人でできますしね。
4Gamer:
ゲームの市民権かぁ……。それってきっと,プレイステーションがもたらしたものですよね。リビングルームに置かれていて違和感のないものというイメージを確立しましたから。
プレイステーション2でDVDが観られるようにしたのもすばらしかったね。DVDはプレステ2の登場で一気に普及したわけで。だけど,大きくなったDVDの市場が何をつぶしたかといえば,ゲーム市場なんですよ。
2500円のDVDは2時間楽しめます。それに対して6800円のゲームは100時間楽しめます。だけど,「100時間じゃなくてもいいか」ということで,人は2500円のDVDを選んだわけです。100時間楽しめるゲームが選ばれなかったのはなぜか,あのときよく勉強するべきでしたよね。
4Gamer:
先ほど触れた映画の場合,劇場に足を運んで映画を観て帰りに食事をしたりします。下手すれば1万円近くかかる,時間にするとたった数時間ほどの娯楽に,なんでゲームが負けるのかと思います。
遠藤氏:
映画については,別の要因が働くと思うんです。僕は最近,「コンテンツはコミュニケーションに勝てないんじゃないか」と考えています。つまり,人は潜在的に,コミュニケーションに対する欲求を持っているんじゃないかと。
なぜゲームが映画に勝てないかといえば,1万円近くかけて映画を観に行っている人は,一緒に観に行く人とのコミュニケーションをとるために,映画というコンテンツを用いている部分があるからだと思います。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
だからゲームにおいても,コンテンツの持っている,コミュニケーションを円滑化させるという役割が,もっとはっきりと見えちゃってもいいんじゃないかと思うんですよね。
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