インタビュー
「ARPUよりもコミュニティの活性化を」――「AION」「リネージュ2」のビジネスモデル変更に関して,NCJのキーマン2人にインタビュー
ゲージシステムの詳細については,「こちら」の発表会レポートに詳しいが,従来の「月額課金制」と「基本プレイ無料+アイテム課金制」の双方のメリットを取り入れつつ,デメリットを極力なくすことを狙いとした新ビジネスモデルだ。その結果,「課金後の残りのプレイ日数と引き換えに,有料アイテムを入手できる」という,一風変わったシステムが登場することになった。
合理的ではあるが,ちょっと変わっている新課金モデル「ゲージ」について,発表会の終了直後に行なった同社へのインタビューをお届けしよう。先に掲載した発表会レポートとあわせてご覧いただきたい。
■関連記事
エヌ・シー・ジャパン Game Unit / Game Business Department ヘッドマネージャー 申 敏秀(シン ミンス)氏(左)と,同社Game Unit シニアマネージャー 朴 宰勲(パク ジェフン)氏(右) |
「The Tower of AION」公式サイト
「リネージュ2 〜Goddess of Destruction〜」公式サイト
「月額課金制」と「基本無料+アイテム課金制」の
メリットを備えた,新課金モデル「ゲージ」
4Gamer:
今回発表された新課金モデル「ゲージ」は,オンラインゲームのものとしては,かなり独特なビジネスモデルですね。
パク氏:
従来のビジネスモデルでは,ライト層/コア層の双方を満足させることはできないと以前から考えており,今回新たな課金モデルを導入することにしました。確かに独特ですが,実際に利用していただければ,とても合理的なシステムだと思っていただけると考えています。
4Gamer:
欧米版のAIONとリネージュ2は,基本プレイ無料+アイテム課金制,いわゆる“Free-to-Play”に完全移行しています。日本でこれをそのまま採用することも考えられたと思うのですが。
「リネージュ2」 |
パク氏:
そのあたりは,現地のパブリッシャの判断に寄るところが大きいのですが,少なくともエヌ・シー・ジャパンという会社では,日本のプレイヤーのためにどうするのがベストなのかを考えた結果,新課金モデル「ゲージ」を採用することにしました。
4Gamer:
発表会でもおっしゃっていましたが,従来のビジネスモデルでは,ライト層とコア層のニーズを同時に満たすことは,なかなか難しいですよね。
パク氏:
ええ。どちらか片方のニーズだけを満足させるのなら,それほど難しくないのですが。たとえば従来の月額料金を値下げすれば,コアプレイヤーは満足するでしょう。ですが,仮にリアルの事情で数日間ログインできなかったりすると,「課金期間が無駄になる」という根本的な問題が発生します。
4Gamer:
社会人ゲーマーなら誰もが体験していることだと思いますが,そこに関しては「仕方がない」と割り切るしかなかったのが,これまでの常識でした。
シン氏:
これからはそういった場合,どうせ数日間ログインできないのなら,ゲージ決済アイテムを入手して,プレイ内容をもっと「濃く」しよう,ということも可能になります。
もちろん,ゲージ決済アイテムの入手は強制ではありません。プレイスタイルの幅を広げ,プレイヤーが自分にあったものを選べるようにすることが大切なのです。
4Gamer:
確かに合理的な課金モデルかもしれませんが,プレイヤーに対し,その特徴を分かりやすく伝えるのが少々難しいのではないか,という印象もあります。
それはあるかもしれません。30日分/90日分の「空のゲージ」を購入する,あるいは「スタンプカード」を購入し,毎日自動的にスタンプが押されていく……とイメージしてもらうと,分かりやすいかもしれません。
4Gamer:
システムが分かりにくく感じた理由の一つとして,ゲージ決済アイテムや,ゲージを貯めることによって得られる特典の,具体的なラインナップが発表されなかったことが挙げられるかと思います。これが発表されると,また印象も変わってくると思うのですが。
シン氏:
そこに関しては,新課金モデル「ゲージ」の鍵を握る部分なので,実施直前まで調整することになりそうです。
心配されるお客様もいると思いますので,方向性をお伝えしますと,現在カイモで販売しているアイテムに関しては,新課金モデルでも一通り入手可能です。また,その際の価格レートも,従来比で若干割安になります。
4Gamer:
なるほど。これまでの「AION」「リネージュ2」は,たとえば有料アイテムを購入せず,月額課金のみでプレイしている人でも,十分楽しめるバランスでした。今回の新課金モデル「ゲージ」の導入によって,ゲージアイテムを手に入れないと“普通にプレイ”することが難しくなる……ということにはなりませんか?
パク氏:
その心配はまったくありません。ゲージ決済アイテムを入手しなくても,今までと同様の感覚で遊べますので,ご安心ください。
4Gamer:
ゲージ決済アイテムをめいっぱい入手できる,重課金者が絶対的な強さを得られるといった懸念についてはどうでしょう。
パク氏:
その点もご安心ください。ゲージ決済アイテムのバランス設定は,従来のハイブリッド課金の頃と同様に行なっていきますので。
4Gamer:
エヌ・シー・ジャパンは2009年3月に,月額課金制だった「リネージュ」のビジネスモデルを,基本プレイ無料+アイテム課金制に変更しましたよね。当時のリネージュでは,どういった変化があったのでしょうか。
パク氏:
リニューアルによってプレイヤーの人数が増え,コミュニティが活性化し,全体として見ると大きくプラスに貢献しました。ですが,サービス開始当初から熱心に遊ばれているような方の中には,ビジネスモデルの変更に抵抗を感じる方もおり,そこは反省すべき点として受け止めています。
今回,AIONとリネージュ2の新ビジネスモデルを検討する際には,当時の経験を踏まえ,既存プレイヤーの方にも十分配慮しつつ,詳細を決定していきます。
4Gamer:
分かりました。それでは続いて,ゲージを15単位で貯めた際に得られる特典としては,どういったものを検討していますか。
ゲージの特典は,2つのパターンに大きく分けられます。15/45/75ゲージは,課金者にとって“折り返し地点”です。残りのプレイ日数を楽しく遊ぶためのサポート,というのが基本コンセプトですね。ラインナップとしては,たとえば「各種GMバフセット」や「取得経験値&ドロップ率2倍」といったものを検討しています。
4Gamer:
15/45/75ゲージが“折り返し地点”ということは,30/60/90ゲージは“ゴール”といったところでしょうか。
シン氏:
その通りです。AIONだと,たとえば“ミスリル勲章”のセット,リネージュ2だと“巨人のエナジー”のセットなどを検討していますが,まだ確定ではありません。ちなみに,これらのラインナップは適宜変化させる予定です。
パク氏:
ゲージ特典の中には,従来のビジネスモデルでいうところの有料アイテムに相当するものも含まれています。新課金モデルではプレイヤーの全員が,少なくとも15日おきにそういうアイテムを受け取れるわけですね。
4Gamer:
見方を変えると,ゲージアイテムを入手せずに残りプレイ日数が尽きた場合,基本的に30あるいは90のゲージが貯まりきっている状態なわけで,いずれ再開する際には,もれなくゲージ特典がもらえるということですよね。
シン氏:
はい。オンラインゲーム運営各社が,いわゆる“復帰キャンペーン”を行なっていますが,今回のゲージシステムでは,それが常時行なわれるようなものです。
月額課金制クオリティのMMORPGをより多くのプレイヤーに
4Gamer:
月額料金が割安になり,定期的にご褒美がもらえ,しかも復帰キャンペーンが常時開催されている状態と,良い話ばかりではどこか不安になりますよね。デメリットになり得ると考えている部分はないのでしょうか?
パク氏:
デメリットというわけではないですが,この前例のないビジネスモデルをどうやって浸透をさせるかが,今後の最大の課題になるでしょうね。今後はAIONやリネージュ2というタイトルを,より多くの人に知ってもらうのと同時に,“ビジネスモデルを認知させていく”ための努力も必要になってくるでしょう。
4Gamer:
実際のところ,今回のリニューアルでARPU(ユーザー一人あたりの平均売上金額)はどのように変わると予測していますか。
パク氏:
おそらく低くなるでしょうね。他社さんが展開されている基本プレイ無料+アイテム課金制のMMORPGと比較しても,低い部類に着地すると思います。
運営会社としては,いかにARPUを高めるかという考え方も重要ですが,今回の新課金モデルに関しては,それよりもプレイヤーの母数を増やすことを優先すべきと判断しました。
4Gamer:
それは思い切った決断ですね。
パク氏:
ハードルが引き下げられることで,多くの人が遊んでくれるようになり,コミュニティが活性化し,トータルの収益も上昇するというのが理想です。たとえARPUは下がっても,長期的に見れば良い方向に向かうはずだと確信しています。
4Gamer:
やっぱりオンラインゲーム,とくにMMORPGは,ゲームシステムの良し悪し以前の問題で,人が集まらないことには勝負さえできませんからね。
シン氏:
ええ。新しいプレイヤーが継続的に参加してくれないことには,ゲーム内のコミュニティが膠着し,飽きにつながってしまいます。今回のリニューアルには,この問題を打破したいという強い思いを込めています。
4Gamer:
かつてリネージュがビジネスモデルを変更したとき,その4か月後にAIONの正式サービスが始まり,ある意味で,御社のMMORPGの世代交代が行なわれました。今回のリニューアルを知ったときに,思わず「そろそろ次の世代交代?」と期待してしまったのですが。
パク氏:
今回の新ビジネスモデルは,AIONとリネージュ2の現状を考慮したうえで,いかに盛り上げるかを検討した結果,採用したものです。
弊社がほかに運営しているタイトル,たとえばリネージュや「ギルドウォーズ」などには,ゲージモデルは適用されていません。同様に,将来的にサービスするタイトルに関して,ゲージモデルを導入するべきかどうかは別の話……というより,まったくの未定です。
つまり,いずれエヌ・シー・ジャパンが運営するだろう「Blade&Soul―ブレイドアンドソウル―」に,新課金モデル「ゲージ」が採用されるとは限らないわけですね。
パク氏:
Blade&Soulに関しては,現在エヌ・シー・ジャパンから情報を発表できる段階ではありません。期待されている方が大勢いらっしゃるのは承知しておりますが,ご了承ください。
4Gamer:
わかりました。では,10月中旬から下旬にかけて行なわれていた,無料キャンペーンの反響はいかがでしたか。
パク氏:
期待を上回る反響がありました。とくにAIONでは,キャンペーンと同時期に大型アップデート「Episode 3.5 第五龍帝の最期」を行ったこともあり,同時接続者数が従来比で10〜15%近く上昇しています。復帰プレイヤーより,新規プレイヤーが多かったのが印象的です。
4Gamer:
それはすごい……。そういった反響の大きさは,両タイトルのポテンシャルの高さだけでなく,従来の課金モデルのハードルの高さも,あらためて浮き彫りにしてみせたのかもしれませんね。
パク氏:
まったくその通りです。先日の無料キャンペーンを通じて,今回のビジネスモデルの変更に対する,大きな手ごたえが得られました。
4Gamer:
公式サイトのリニューアルに関するトラブルで,不安を抱いたプレイヤーも少なくないと思いますが,ビジネスモデルの変更を機に,両タイトルの印象が大きく変わりそうですね。
パク氏:
公式サイトのリニューアルに関するトラブルについては,お客様に多大なご迷惑をお掛けしてしまい,誠に申し訳ありませんでした。この場を借りて,あらためてお詫びさせてください。
現在,各タイトルは問題なく遊べる状況です。ブログサポート等の作業は終わっており,その他の改善作業を引き続き行っております。今しばらくお待ちいただけると幸いです。
4Gamer:
それでは最後に,新ビジネスモデルの導入について,意気込みなどをお聞かせください。
パク氏:
AIONとリネージュ2の両タイトルは,完成度の高いMMORPGですが,月額課金制というハードルの高さによって,プレイしていただく機会を増やせずにいました。それが11月20日以降,AIONならレベル50まで,リネージュ2ならレベル84まで無料でプレイ可能になります。無料のプレイ範囲だけを見ても,これまでのオンラインゲームの常識では考えられないボリュームとなっています。
ぜひこの機会に両タイトルを遊んで,現在熱心に遊んでいるプレイヤーたちと直接触れ合ってみてください。それはきっと,オンラインゲームとしてとても素敵な体験になると,私達は信じています。
4Gamer:
ありがとうございました。
「The Tower of AION」公式サイト
「リネージュ2 〜Goddess of Destruction〜」公式サイト
- 関連タイトル:
The Tower of AION
- 関連タイトル:
リネージュ2
- この記事のURL:
The Tower of AION(TM) is a trademark of NCSOFT Corporation.
Copyright (C) 2009 NCSOFT Corporation.
NC Japan K.K. was granted by NCSOFT Corporation the right to publish, distribute and transmit The Tower of AION(TM) in Japan. All rights reserved.
Lineage(R) II and Lineage II Epic tale of Aden (TM) are registered trademarks of NCSOFT Corporation. Copyright (C) NCSOFT Corporation. NC Japan K.K. was granted by NCSOFT Corporation the right to publish, distribute and transmit Lineage(R) II in Japan. All rights reserved.