連載
「キネマ51」:第19回上映作品は「鑑定士と顔のない依頼人」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第19回の上映作品は,「ニュー・シネマ・パラダイス」の監督が挑んだ大人の極上ミステリー「鑑定士と顔のない依頼人」。
「鑑定士と顔のない依頼人」公式サイト
須田:
あけましておめでとうございます。
関根:
あけましておめでとうございます。
今年もキネマ51,よろしくお願いいたします。
須田:
いやぁ,しかし昨年末の紅白,凄かったですね。
関根:
あぁ,凄かったですね。
あんなにジャニーズが出るとは思いませんでしたよ。
須田:
ですねぇ……。あと,「あまちゃん」ね。
あれも凄かったね。
関根:
あまちゃんね……。良かったですね。
須田:
サカナクションも,まさかあんなパフォーマンスを見せてくれるとは……。
関根:
支配人,見てないでしょ。
須田:
あ,ばれましたか。実は大晦日は「Dynamite!!」を見ていたんで。
4Gamer:
Dynamite!!は2010年が最後でしたが……。
須田:
……ということで,それぞれの年末年始をお過ごしになったかと思いますが。
関根:
2014年になっても,何一つ変わらない支配人に安心したような,また不安になるような,そんな感じです。
全ての道はローマに通ず
須田:
実は年末,ローマに行ってたんです。
関根:
ご旅行ですか?
須田:
いや,仕事だったんですけど,一瞬だけ観光もできまして。びっくりしましたよ,ローマ。
関根:
びっくりっていう感想も不思議ですが。
須田:
とにかく,街のそこら中に遺跡があるんですよ。
アテンダントの方と一緒だったんですけど,「あ,これ紀元前の壁です」「これは紀元前の塀です」「これは紀元前の〜」って街中が紀元前だらけで。
街中が紀元前って,そう考えると凄いですね。
須田:
で,今回紹介する「鑑定士と顔のない依頼人」という映画は,ローマも含めたイタリアの長い歴史を楽しむこともできる極上ミステリーといった感じでいいですかね。
関根:
お,ローマ帰りだけにちょっとダンディな決め顔。僕に見せても何の意味もないですけどね。
須田:
ダンディといえば,僕,今回の映画を観るために,初めて日比谷にある映画館TOHOシネマズシャンテ[1]に行ってきたんですよ。僕ら,新宿派新宿系新宿野郎だったから,日比谷ってアウェイ感があったんです。
関根:
そんなに新宿好きでしたっけ?
須田:
……で,シャンテに行ったら,紳士淑女な雰囲気の方々が大勢いらっしゃって。
4Gamer:
さすが大人の街ですね。
須田:
本当に多かったんですよ。年齢層も高くて。だから,チェーンジャラジャラ付けてジーンズ履いてるのなんて僕ぐらいで,「ジャラジャラ,俺だけじゃねえか!」なんて思いながら。
関根:
なんでわざわざ心の叫びを悪そうに言うのかよく分かりませんけども。
須田:
シャンテという映画館,そしてこのお客さんの雰囲気,それも含めてこの映画だなぁと。そう感じましたね。
ネタバレ禁止はもどかしい
4Gamer:
映画自体はいかがでしたか?
須田:
僕は,素敵な映画だと思いました。実は,けっこう早い段階からオチは分かっちゃったんですよね。
関根:
確かに分かるんですけど,この作品のキモはオチの本筋じゃないところにあると思うんです。
須田:
あーそっかそっか,なるほどね。
関根:
この映画,世界的に認めらた初老の骨董品鑑定士と,決して姿を見せることのない依頼人の女性との,不思議な恋の物語が中心なんです。でもポイントは,鑑定士……が,たぶん60代ぐらいの設定だと思うんですが依頼人の女性にぐいぐい引かれていく姿なんですよね。まさに童貞というか。
須田:
最強童貞ですよ。
関根:
ある程度の年齢になってからキャバクラにはまるとたいへんなことになる,なんてよく言われてるじゃないですか。まさにそういうことですよね。
須田:
それの最高峰ですよ。
関根:
トルナトーレ監督は,1956年生まれだから57歳ですか。50代のイタリアの映画監督なんてね,そりゃあブイブイ言わせてきたでしょう。そういうことをやってきた人が,堅物の童貞のおっさんの映画を撮る。一体,どういう気持ちだったのかなと。
須田:
しかもこの人,オタクっちゃぁオタクじゃないですか。骨董品の鑑定というマニアックな世界で認められたオタクの最高峰みたいな人の話ですよ。
関根:
絵画の中に描かれている女性しか愛することができない,要は2次元の女性しか興味がないという60代の男ですから。
須田:
そんな彼が,顔を見せてくれずに声だけでしかやりとりできない生身の女性を好きになっていく。しかも,女性を好きになったことがないから攻略法もわからない。そこで,若い知人男性のアドバイスを受けながらアプローチをしていく。
関根:
あれ? これ,ちょっとした電車男ですよね。
須田:
確かに。
関根:
この作品,初老鑑定士が初めて女性の素晴らしさを知る映画ですよね。シャンテでこの映画を上映するというのは,回春効果があるんではないかなと。
須田:
そこですか(笑)。
関根:
はい,高齢のご夫婦がたくさん観にいらっしゃっていると思うんですけど,そういったご夫婦にちょっとした刺激を与えるような内容になっていると思うので,とても良いのではないかな,と。
須田:
エッチなシーンもありますしね。若い女性に夢中になってもろくなことがない,やっぱり横にいる私がいいでしょ,みたいなね。
関根:
そうそうそうそう。
須田:
でもそんな映画を,4Gamerの読者の方にはどうやって観てもらえばいいのかな(笑)。
4Gamer:
う〜ん。読者はともかく自分自身への戒めのためにも,観ておきたいと思いました。はい。
須田:
極めるのもいいけど,行き過ぎには注意してくださいよ!
4Gamer:
は,はい。不確かな情報を元にわずか1時間程度のライブを見るべく,元日の7:00から渋谷で並んだりしてたらダメですよね……。2次元ではないですが。
関根:
って,この流れじゃあ,読者の皆さんには観に行ってもらえないですよ!
須田:
ところで,この映画の紹介はネタバレを禁止したほうがいいんですかね。
関根:
そうだと思いますよ。だから核心に迫りたいけど,ずっーとあいまいなトークを続けてきたんです。
4Gamer:
これまで以上に,やたらとぼんやりとした感じですよね……。
関根:
いやぁ,それにしても伏線で出てくる,あの機械人形のギミックも良かったですよね!
須田:
しゃれてましたね。
あれを見せたらああなるよって分かってたんでしょうね,彼は。
関根:
そうそう,あれの使い方がね。
須田:
あれは凄いですよ。だって,あれを予想して最初から仕掛けていたわけですからね。
関根:
あれがね,きっかけなわけで。
4Gamer:
ぼんやりにも程がありますよ。
長州のインタビュー[2]じゃないんですから。
須田:
あれはだからさぁ。あれだろオマエ。なぁ金沢ぁ。って(笑)。
4Gamer:
若干,小力が……。
関根:
話を戻しますが,脇役目線でのストーリーも観てみたいですよね。
須田:
たぶん,もう一本映画を作れるぐらい厚みのある設定ですよね。
関根:
もし,ハリウッドで同じ企画を進めたら,主人公は彼ではなくなるような気がします。
須田:
まさに,えーっと,あれですよ。あの映画。
関根:
はいはい,あの映画ね。
4Gamer:
今の“あれ”は,加齢に起因する“あれ”ですよね。
須田:
もの忘れのほう(笑)。
関根:
あ! 思い出したんですけど,それこそネタバレでした。
須田:
本来だったら悪役というヒントぐらいなら,言ってもいいかなと思いますね。
関根:
そうですね,それぐらいインパクトのある設定の男ですからね,主人公自体が。
須田:
ある種の天才じゃないですか。絵画に命を捧げて生きてきて,誰かに迷惑をかけるような人生も送っていない。富も名声もあり,周りからの信頼も厚い。ただ一点,絵画に描かれた女性しか愛することができなかった。それだけなんですよね。
関根:
その一点が,大きなドラマを生み出していく。同じ2次元好きでも,イタリアの名監督が描くとこんなに優雅な作品になるんだとびっくりしましたね。
おそらく続編が作られることはないでしょうけど,観てみたいですね。
須田:
想像すると面白いですよね。主人公の鑑定士と依頼人である彼女のその後がどうなったのか,興味ありますよ,凄く。
関根:
劇中の「贋作の中にも,必ず1点の真実がある」というセリフ。これから観る人はこのキーワードを思い出しながら映画に向かうと,何が贋作でどこが真実か,この映画全体の中から見つけ出すことができるかもしれません。
須田:
そんな話をしていたら,ちょっともう一回観たくなりましたよ。
関根:
リピーター割引があるらしいですよ。一回観た人もチケットの半券を持っていけば1000円になるんです(※一部劇場のみ)。
須田:
なんてお得なんでしょう。
4Gamer:
続編を匂わせるような終わり方なんですか?
関根:
いや,物語は完全に完結しているんですけど,登場人物達の人生はそこで終わったわけではないので。
須田:
その人生の続きを観たいと思わせるような結末なんですよ。
4Gamer:
なるほど,ちょっと観たくなりました。
ゲームは意外なサブストーリーとともに
関根:
あー,良かった。これで心置きなくゲームの紹介ができますね。じゃあゲームのほうは,支配人。
須田:
もう決まってますよ。えーっと。
関根:
あ,分かった,あれですね。
須田:
え,なんで分かったんですか。あれです。
関根:
そうですよね,やっぱあれですよね。
4Gamer:
もう,“あれ”はいいんで,進めていただけませんか。
須田:
すいませんでしたー。この映画のサブストーリーと親和性のあるゲームを選んでみました。
関根:
ほうほう。
これです。「ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ」。機械仕掛けの人形を動かして育成していくゲームなんですよ。
関根:
それ,いつ頃のゲームなんですか?
4Gamer:
1994年にスーパーファミコン用に発売された作品です。ジャンルは“コミュニケーションアドベンチャー”。
須田:
続編はNINTENDO64で出たんですよね。「ワンダープロジェクトJ2 コルロの森のジョゼット」というタイトルで。こっちも面白かったなぁ。
関根:
ちなみに映画の中では,オートマタ(機械人形)のエピソードが,重要な鍵を握るサブストーリーなんですよね。
監督のトルナトーレはインタビューで,「オートマタは,ストーリー展開の寓意としての役割を果たしているかもしれない。単純な筋書きで,話も普通の時間軸通りに進むが,複雑さを内包している。ちょうど,オートマタが複雑な歯車で動くように。両方ともある部分ではとても単純だが,ある部分ではとても複雑なんだ」と言っているんですよ。
須田:
さすが作った人ですね。映画のことを見事に表現した言葉だと思います。
関根:
このゲームは,機械人形とコミュニケーションをとることによって成長させていき,人と機械人形の橋渡しをするなんてストーリーということなので……。うん,確かに機械人形の役割はこの映画と近いような気がします。
こんなゲームがあったなんて知らなかったです。ちょっとやってみたくなりました。
須田:
オススメですね。
関根:
てっきり超売れてる「なんとか教授」の謎解きゲームを紹介されるかと思っていたから,ひねりが効いていましたね。
須田:
ま,まあねぇ……。そりゃあねぇ……。
関根:
ま,まさか本当は?
須田:
こ,今年もよろしくお願いいたします!
関根:
今年もこんな感じかー。
「鑑定士と顔のない依頼人」公式サイト
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