連載
「キネマ51」:第31回上映作品は「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第31回の上映作品は,完結して半年以上経ってもなお,支配人の熱を冷めさせない「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」。
「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」公式サイト
いやぁ……。ぶっ通しで見ちゃいましたね。
関根:
ええ……。
須田:
部長もぶっ通しですか?
関根:
もちろんです。で,細かいところが気になるのが僕の悪いクセで,結局「逆シャア」[1]も見直しちゃいました。
須田:
それはそれはご苦労様です。でも,まあなんせ僕らのユニコーンですから。ガンダムは凄く詳しいってわけじゃないんですけど,やっぱり好きですよね,僕達は。
関根:
TeTさんは詳しそうですよね。
4Gamer:
いや,全然詳しくないですよ。ユニコーンは「真・ガンダム無双」(PlayStation 3 / PlayStation Vita)の知識しかありません。
須田:
さすがゲーマー。とはいえ僕らもね,しょせんはにわかですよ。
関根:
えー!? そこまで卑屈にならなくてもいいじゃないですか。
須田:
一応,世代としては機動戦士ガンダム(通称ファースト)の放送当時から観てはいるんですよね。ちょうど僕が小学校6年の時ですよ。残念ながら長野という土地は民放が2局しかなくて,ファーストはリアルタイムで放送されなかったんです。
ただ情報はね,「アニメージュ」[2],「ジ・アニメ」[3],「OUT」[4],「ファンロード」[5]あたりの雑誌は買ってましたから,どえらいのが「ダイターン3」のあとに始まる! ってんでアガってたんですよ。でも,一切観ることが出来ず(笑)。
関根:
出鼻を挫かれましたね,完全に。でも,各アニメ雑誌ではどんどん盛り上がってましたよね。
須田:
そう,凄いんだぞっていうのが伝わってくるんですよ。その当時,オタクの兄貴分みたいな栗田書店(長野市)のお兄さんがいたんですよ。お兄さんが発注担当だったおかげで,その本屋はロマンアルバムのバックナンバーがそこそこそろっていたんです。それをいつもお小遣いで買ってて,それで仲良くなって。
関根:
ロマンアルバム! 懐かしい。名前は若干セクシーな響きですけど,アニメージュでおなじみの徳間書店が出しているアニメのムックで,大判でカラーの場面写真が豊富な設定資料集のようなものですよね。
須田:
ですです。だから当時の僕は,放送していないアニメをそれで補完していて。食い入るように読んでいたんです。でまぁ,近所のオタクが集まった10人いかないぐらいのコミュニティがあったんですよ,栗田書店のお兄さんが中心となって。
で,ある時,彼が東京から第1話のビデオを仕入れてきたからみんなで観ようってことになったんです。それで放送開始から半年後,ついにガンダムを観ることができたんですよ!
関根:
当時は,家庭用ビデオデッキなんてあんまり普及していない時代ですよね。
須田:
ないですよ。もうドキドキしながら観ました。Hなビデオを初めて観る高校生のような感じですよ。で,観たらすげー! って感じで。でもなんだか分からないんですよ,小学生には。
それが,忘れもしない第1話「ガンダム大地に立つ!!」の思い出ですね。あの衝撃から35年の思いがね,ユニコーンでね,全部結実された……というところから始めたいんですけど,どうでしょうか。
関根:
いいんじゃないんでしょうか(笑)。
支配人の言う「全部結実された」というのと同じだと思うんですけど,僕が言うとネガティブに聞こえてしまうかもしれませんが,「ユニコーンは最高の同人アニメだな」と思ったんですよ。
須田:
同人アニメですか。
関根:
そう。あのエピソードはこうなってくれたらいいなぁ,みんな幸せだったらいいなぁって想いを巡らせながら,ものすごく愛情のあるガンダムファンが書いた同人アニメ。その最高傑作だなって思ったんです。
須田:
なるほど。
関根:
とにかく原作の福井晴敏さんはガンダムが大好きで,“オレのガンダム”を書きたかったんだなって思ったんですよね。
オレのガンダム
須田:
今回のガンダムって富野さん[6]作品じゃないんですよね。
関根:
そうですね。
須田:
今まで富野さんが作ってきた宇宙世紀[7]にはアムロ,カミーユ,ジュドーという3人の歴代ニュータイプ[8]がいて,で,今回の主人公バナージ・リンクスが4代目ニュータイプを襲名披露するようなエピソードが出てきますよね。だから,富野さん以外が作った初めての正当なニュータイプ後継者なんですよね。
関根:
しかも,キャラクターデザイン原案が安彦さん[9]。
須田:
そうですよ,元祖ガンダムキャラデザイナー。言うなれば,福井さんがバナージですよね。富野さんから正式に継承者として任命されたようなものじゃないですか。僕の作った宇宙世紀をよろしくと。
これって凄いことですよね。数多くのガンダムのアニメーションがありますけど,ファースト,Z,ZZ,逆シャア以外はいわゆる外伝じゃないですか。
だけど今回はニュータイプを中心とした宇宙世紀史の本筋作品なんですよ。その重みを感じたと同時に,やっぱり俺,ガンダム好きなんだなってことを再認識したんです。
関根:
それはやっぱり熱いファン目線の作品に触れたからなんじゃないでしょうかね。
須田:
ファンの想いだけじゃなくて,アムロをスタートとした登場キャラクターみんなの想いも含めて描いたかのようなガンダムだった気がするんですよね。
一年戦争から続くアムロとシャアの戦いの,本当の意味の最終章だと感じたし,ニュータイプの力がどこまで行くのかということに対する答えも観ることができた気がしました。その他にも多くの答えが明確に出たっていうのがね,凄く良かったです。
関根:
支配人も熱くなってますけど,バナージも相当熱くて真っ直ぐな男ですよね。今までのニュータイプが,多くの迷いを経て人として成長していく男の子達だったのに対して,迷いを凌駕するくらいの強い想いを変えることがなかった。
須田:
そうだ,ミネバ様を守る。
関根:
そう,それだけ。その信念を変えなかった。
須田:
でも信念を変えなくても周りにちゃんと影響を与えたという意味で,きちんとニュータイプの進化した姿を示しましたよね。
宇宙世紀100年。たった100年という考え方もあるかもしれないですけど,宇宙世紀元年からつながるストーリーという意味でも一つの区切り,総括ですよね。
それぞれの萌ポイント
関根:
ちょっと名前が出てきちゃったんで言うんですけど,今回はなんといってもミネバ[10]ですよね。
須田:
ザビ家のお嬢様。
関根:
少し前にCSでファーストガンダムのソロモン攻略作戦あたりを観たんですよ。ミネバ様が丁度カプセルロケットに入れられてオギャーオギャーと泣きながらソロモンを脱出するシーンを。それもあって,あの赤ちゃんがこんなにまぁ立派になられてって。ちょっと涙ものでした。
須田:
ほんとですよ。
関根:
そのあとアクシズに利用されて。
須田:
そうそうハマーン様にね。数奇な運命ですよね。やっと20歳になったばかりというのに。
関根:
ザビ家直系唯一の生存者ですからね。で,僕はユニコーンを観てすっかりミネバ様にゾッコンになってしまいまして,いろいろと調べていたらなんか凄い漫画を見つけちゃったんですよ。「ガンダムエース」で「クロスボーンガンダム」を描いていらっしゃる長谷川裕一先生がですね,昔,「機動戦士VS伝説巨神 逆襲のギガンティス」という漫画を描いていらっしゃって。
これがなかなかなんですよ。ジュドーが木星に戻った時代,木星の裏側に巨大な人形が埋っている遺跡のような物をジオンの残党が隠していて。で,どういう訳かミネバ様がその人形とシンクロしちゃって動き始めたら,それがイデオンだったというお話なんですよ。
須田:
ウワサには聴いてましたが,なかなかしびれますねぇ。
関根:
ガンダム史の中に実にうまくイデオンのエピソードを盛り込んでいて。長谷川先生版ミネバ様もまた可愛いんですよ。最初に最高の同人アニメという言い方をしたと思うんですけど,これもまたファン目線として嬉しい要素がたくさん盛り込まれているんです。
須田:
そういうの,嬉しいですよね。ユニコーンに話を戻すと,モビルスーツの戦いもサンライズの最高峰のクオリティの高い作画で観ることが出来て。ジュアッグ[11]の戦闘シーンなんてアガりますよ。
関根:
ファーストからの流れを汲んで,ザクがお腹を蹴ったりとか名戦闘シーンをいくつか盛り込んでいますよね。シャアの生まれ変わりと言われているフル・フロンタルという男も「連邦の新しいモビルスーツの性能とやらを見せてもらおうか」なんてシャアのセリフを引用していたり,フル・フロンタルもちゃんと通常の3倍で迫ってくるとかね。
須田:
過去の戦闘シーンも最新アニメーションになっていたりして,とくに燃えたのはビク・ザムに突っ込むスレッガーのコアブースターが別カットで観られて,あれは凄かった。震えて,泣きました。
関根:
しかも,ちょっとスピード速かったですよね。
須田:
速かったですね。斜めから入っていった感じがグッときました。
関根:
あと,プルトゥエルブ。
4Gamer:
えっ,もうそんなにたくさんのプルが登場していたんですか。
須田:
最初,気付かなかったんですけどね。プルトゥエルブ……ああ,12番目かって。
関根:
それからカイですよね。
須田:
そう,カイ大活躍ですよ。効いてますよ。
そうそう,カイ[12]が主人公の漫画があるんですよ。それも面白いですよ。
関根:
へー。
須田:
トゥモローなんとかっていったかな? トゥモロー……ネバー……ダイ?
関根:
それ007でしょ。
須田:
「デイアフタートゥモロー」(正式名称「機動戦士Ζガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのレポートより―」)だ。外伝みたいなやつで。かっこいいですよ,カイは。
関根:
この際だから,この壮大な同人誌にさらに俺のガンダム要素を盛り込むとしたらどうでしょう。
須田:
オレコーンですね。
関根:
そうですオレコーンです。
須田:
そうですねぇ……。バナージがやられそうになったときに後ろからグワーッと来て,最新型のゼータIIが来るんですよ。それに乗っているのがカミーユ。Zガンダムの劇場版で彼,復活しているじゃないですか。ジュドーは木星に帰ってしまったから距離も遠いし,出てくることはないかなと思っているんですけども,バナージのピンチを聞きつけて,ZZZガンダムで馳せ参じるんです。
そして,僕の大好きな,ヤザン・ゲーブルが山猫ガンダム(通称:ワイルドキャッツ)で前線へカミーユと切り込む。
関根:
なるほど,ゼータIIとZZZ,出てきたらゾクゾクしますねぇ。
須田:
あれ,ヤザン,スルーしました?
関根:
僕は「ビグ・ザムが量産された暁」[13]を観たかったですね。
須田:
あー,観てみたいですね。
関根:
昔,どうしても観たくてセガサターンの「機動戦士ガンダム ギレンの野望」で,ビグ・ザム量産してみたんですよ。でも機動力があまりにもなくて,自陣の周りに動けなくなったビグ・ザムがただいるだけで。
4Gamer:
使えねーって(笑)。
須田:
移動が大変ってことなんですね。でも,何台ビグ・ザム作ってもね,スレッガーが弱点見つけちゃったから何機か突っ込んじゃえばね。
関根:
それ味方機を特攻させるってことですか,ひどい戦い方させますねぇ,支配人。
須田:
うーん……あっ,スレッガーっていったら,今回新作カットありましたねぇ。
関根:
またごまかした。まぁ,ありましたけども。
尽きることのないガンダム話
関根:
先ほど支配人がおっしゃったように,この作品は富野さんの作った宇宙世紀を継いだ正史じゃないですか。それを描くってやはり覚悟がいると思うんですよね。批判の声も予想されたでしょうし,そういった意味では本当によくまとめて頂いたなと思いましたね。
須田:
ガンダムっていうものが,ボクらの心を揺さぶり続けたわけじゃないですか。最初にガンダムを観たときはこんなことになるとは思ってませんでしたよ。30年以上ガンダムを見続けてるなんて,しかも新作を見てるなんて,一切思ってなかったですよ。まあ,当たり前ですけどね。
4Gamer:
当時は「いくつかあるロボットアニメの一つ」という感じでしたか?
須田:
ええ。しかも当時,ガンダムをいくら好きだと言ってもね,周囲に仲間はほとんどいませんでしたし。ガンプラブームが来てやっとですよね。火がついて。
関根:
まあね,そもそも支配人の住んでたエリアでは放送してなかったですもんね。
須田:
あ,そうか。確かに(笑)。
関根:
よく言われることですけど,やっぱりガンダムが最初に衝撃を与えたのは量産型っていう概念だと思うんですよね。あ,兵器なんだっていうね。戦争アニメとしての設定が完璧だったんですよね。
須田:
ファーストガンダム時代に年表含めて出来上がっているんですよね。それが35年間もの間ファンを飽きさせない大きな力になっているんじゃないかと。
関根:
その設定がきちんとしているだけに,それに基づいて肉付けされた外伝的なエピソードも嘘に見えることなく,魅力的なんですよね。
須田:
さらにガンダムエースという雑誌によって,そのサイドストーリーがどんどん肉付けされてきていて,ほんとね,やばいですよ。僕にまたガンダムブーム来ちゃってますよ。
関根:
そこでまた,マイブームを世間のブームにしちゃう支配人パターン。今さらガンダムをブームとは言わないでしょ。
須田:
確かに。もうコンテンツというよりは一つの産業ですよね。
関根:
産業。アニメだけでなく,あらゆる工業製品やコンテンツにガンダムは存在するし,そしてもちろんゲームも数えきれないほど存在しますからね。
須田:
そう。だからガンダムのゲームについて語るにしても,どれか一つに絞るということはちょっと厳しい。なのでいくつか思いつくままにあげてみますかね。
関根:
なるほど。僕がけっこうやり込んだのはセガサターンで出ていた「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」ですかね。3部作の3Dシューティング。
須田:
面白かったですよね。実は今年の春,そのBLUE DESTINYも含まれる外伝シリーズのエピソードをまとめて,さらに新作も入れた「機動戦士ガンダム サイドストーリーズ」というPlayStation 3用のゲームが発売されたんですよ。
関根:
今まで出た外伝シリーズは確か6作でしたっけ。それと新作が楽しめるんですね。ちょっとチェックしてみます。あとは先ほども話に出ましたギレンの野望ですかね。僕はあのゲームでアッザムを大量に作ってアッザムリーダーを出しまくるのが好きでした。
須田:
部長,あいかわらずゆがんでますねぇ。あ,思い出しちゃった。
関根:
なんですか?
須田:
PlayStation用に出た「機動戦士Zガンダム」。ロックオンシステムがほんとに秀逸で,ニュータイプ並の反応速度がないと勝てないんですよ。
関根:
それ,そうとう厳しいじゃないですか。
須田:
でもやり込んでくると段々狙いが定まってくるんです。あれは凄く良かったですよ。自分がカミーユになった気分で。
関根:
恍惚の表情でゲームをクリアしている支配人の顔が眼に浮かびますね。そういえば,Zガンダムといえばやはりファミコンの「機動戦士Zガンダム・ホットスクランブル」も忘れられません。
須田:
いやぁ,ユニコーンをきっかけにいい時間を過ごさせて頂きましたね。
関根:
あ,あの遠藤雅伸さんの作られた。
須田:
なんと次回もガンダム作品をご紹介します!
関根:
いや,あの,ホット……。
須田:
ということで。
関根:
「水の星へ愛をこめて」がBGMの……。
須田:
また次回〜!
「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」公式サイト
- この記事のURL: