連載
「キネマ51」:第45回上映作品は「ラッキー」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第45回の上映作はハリー・ディーン・スタントン主演の「ラッキー」。90歳の気難しい現実主義者の老人が,人生の終盤で悟る“死とは何か”。「ワイルド・アット・ハート」「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最後の7日間」「ツイン・ピークス The Return」でスタントンを起用したデヴィット・リンチも友人役で出演している。春の大作が並ぶ中,支配人があえて本作を選んだ理由とは?
「ラッキー」公式サイト
「パリ、テキサス」「ツイン・ピークス」からつながった,世界と生き様
支配人は,今回の上映作「ラッキー」が,かなり気になっていたそうですね。この映画は,ラッキーという90歳の偏屈な老人が,小さな街で日々同じことを繰り返す生活の中,自分に死が近付いていることに気付く……というものです。今回はなぜ,この作品をチョイスしたんですか?
須田:
ラッキーの主演で,これが遺作になったハリー・ディーン・スタントンは,僕のフェイバリットムービーである「パリ、テキサス」の主役,トラヴィスを演じていたんですよ。亡くなったという話は聞いていて,遺作は「ツイン・ピークス The Return」だと思っていたんですけど,こっちだったということで。
もともとスタントンは「ツイン・ピークス ローラ・パーマー最後の7日間」に重要な役で出ていて,The Returnでは重要そうで重要じゃない,でもめちゃくちゃ出番は多いっていう役だったんですよね。ラッキーはそこからスタントン自身が抜け出てきたような作品でしたね。もともとデヴィット・リンチとは仲が良かったそうですし。
大坪:
リンチも今作には役者として出演していますね。ラッキーの友人役として。
須田:
そういう関係があるのもあってThe Returnから続けて見るような作品でしたね。スタントンの生き様を映画化したような。半分実話であるかのような。
大坪:
ドキュメンタリー感はありますよね。アメリカの中西部にこういうおじいさんがいました,というお話というか。でもどこか,おとぎ話のようでもあり。
須田:
映画としても一定のリズムで進むじゃないですか。ミニマルとも違うんだけど,何の動きもない映画で(笑)。
そんな中に哲学的なキーワードが出てきて,実存主義を地でいっているような。“人生”とか“生きる”ということを平坦に撮っている気がしますね。スタントンをはじめとした役者の顔にそれが集約されているし,出てくる同じ年代の役者さんが,みんないい顔をしている。
大坪:
映像作品で,ここまでおじいちゃん達の顔ばかりをまじまじと見ることはないですよね(笑)。それだけに,そのシワに年輪みたいなものを感じるというか。今の若い人しか出ないドラマではあり得ない情報が,それぞれの顔に詰まっていて。
須田:
ホントですよ! その表情と存在感で見せられる感じ,名優ならではですよね。日本だと原田芳雄さんも遺作が主演作品なんですよね(「大鹿村騒動記」)。なんだかそれも見たくなったなー。
大坪:
スタントンやリンチに関する脚本は,最初から当て書きだったみたいですね。スタントンが作中で語る戦争体験や子供の頃の話なんかは,本人の体験談がベースだそうです。
須田:
あ〜,そうなのか。戦争の話といえば,太平洋戦争の沖縄戦のエピソードが出てきたときにはドキッとさせられましたね,日本人としては。
こういうのって,なかなか普段の生活では気付かないけど,2017年に経験者達が太平洋戦争の話をしてる風景って,おそらく日本でもあるんでしょうね……。
大坪:
ですね……。
ちなみにこの作品はスタントンの遺作であり,しかも映画のテーマは“死”。何かを予見していたかのようなテーマ設定ですよね。こちらとしては,「おじいちゃんをそんな暑いところに連れて行って,長回しで撮っちゃだめだ!」と心配にもなったのですが。
須田:
出演者もスタッフも,タイミング的に最後になるかもしれないというのは頭の中にあったのかもしれないですね。シーン自体もめちゃくちゃ少ないですし。
そう考えると,「まだ元気なうちに撮ろう」という監督の気持ちとか,いろんなものが短い中に詰め込まれた作品ですよね。あとエンディングの曲を聴いてびっくりしたんです。「レポマン,パリ,テキサス」と関わった作品が詞の中に出てくるのも良くて,ずいぶん格好いいカントリーだなと思っていたら,スタントン本人が歌っているんですよね。
いや〜とにかく,90分くらいの作品だけど,スタントンの人生が詰まった作品です。
支配人のフェイバリットムービー,「パリ、テキサス」
大坪:
ところで,支配人はパリ、テキサスをいつ頃ご覧になったんですか?
須田:
20代の前半だったと思うんですけど,最初に話題になったときからしばらく経ってからでしたね。「ベルリン・天使の詩」を見てヴィム・ヴェンダース監督が好きになって,彼の作品を追っていくうちにたどり着いたんです。最初はただびっくりして。ベルリン・天使の詩は,ちゃんと面白いじゃないですか。
大坪:
日本にミニシアターブームを起こした作品の一つですし。
須田:
それと比べたら,パリ、テキサスって,最初は何を描いているのか分からないというか……。ただ,主人公のトラヴィスが放浪していくことが,いろんなことに結実していく過程が,人生というか,人が生きていく様そのものに見えてきたんです。
トラヴィスは子供,そして昔の妻に会いに行くんですが,僕は父親がいないままに育ってきたので,父親に対する思い出とかはないんです。でもひょっとしたら,トラヴィスの姿に父親像みたいなものを感じたのかもしれないです。だから息子のハンターが途中から自分に見えてきて。そういう部分で特別な映画なんですね,感情の入り方が。
大坪:
やっぱり“家族”というものがつながると,自分の中で特別な映画になりますよね。
須田:
本当にそうなんですよ。家族を作った今見ると,また違う感じ方をするのかもしれない。10年ぐらい見てないから,久々に見ようかな……。
Blu-rayは2枚ぐらい持ってるはずなんです。「ヴィム・ヴェンダースBOXセット」みたいなのが出るたびに買っちゃうんで(笑)。
大坪:
自分も今回,ラッキーを見る前に,初めてパリ、テキサスを見たんですが,自然の光景がいいですよね。舞台は今回のラッキーとつながっている感じがしますし。
須田:
パリ、テキサスとツイン・ピークスにも,どこかつながっている感がありましたね。どことも知れない荒野の街で,「銀行強盗もしない,飛行機から飛び降りもしない,人助けもしない。『人生の終わり』にファンファーレは鳴り響かない」(映画のキャッチコピー)。
……本当,そうですよね。死ぬ間際だからって感動的なことが起こるわけじゃない。20代の頃に見ていたヨーロッパ映画なんかも,とくに何も起こらないですからね(笑)。
大坪:
そういう意味で,こちらが試される映画ではありました。
須田:
最近,刺激が強すぎるものというか,即物的な映画に慣れすぎていたんですけど,こういうエンディングも最高だなって思いましたね。これを持ってくるアップリンクを褒めたいです!
主人公が「トラヴィス」のゲームといえば……
さて今回も映画にちなんだゲームを紹介したいんですけど……やっぱりハリー・ディーン・スタントン=トラヴィスだけに「NO MORE HEROES」になりますかね。
須田:
何度目だ? って言われそうですけど(笑)。
大坪:
まあ今回は仕方ないです!
支配人にとって,トラヴィスという名前は主人公に付けたい名前だったんですか?
須田:
スタントンが好きだってのもあるんですけど,NO MORE HEROESの前に一度,「Killer7」でトラヴィス・ベルというキャラクターを出しているんですよ。でも,実際に名付けてみると,「これは主役の名前だよな」ってあらためて思って,NO MORE HEROESで使ってみた感じですね。
ゲームのトラヴィスはスタントンと全然違いますけど,スタントン本人のイメージはトラヴィスの親父で描きました。
大坪:
それを確認するためにも,いまあらためて,NO MORE HEROESを……。
須田:
今年はスピンオフの「Travis Strikes Again: No More Heroes」を出しますんで,まだ遊んだことのない人は予習のためにやっておいてください!
大坪:
ところで,現時点でTravis Strikes Againの開発状況はどのくらいなんですか?
須田:
開発度は30%,鋭意制作中って感じですね。今回は正式な続編というよりはスピンオフって感じで,ゲームの規模もインディーサイズという感じなんですよね。だからこそ挑戦していく作品にしたいなと。王道とは違う実験的な……RINGS実験リーグみたいなゲームですね(きっぱり)。
大坪:
西 良典先生も出てくるみたいな……理解できる層を狭めすぎです!
須田:
まあとにかく,作る側が遊びまくってます! スタッフが楽しく作るのが一番なので。大きいゲームだと肩に力を入れるのも大事なことはあるんですけど,そこはNO MORE HEROESなんで,力を抜いたほうが面白いものにできるだろうと。
この春からどんどん情報も出せるはずなので,楽しみにしてください!
「ラッキー」公式サイト
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Travis Strikes Again: No More Heroes
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NO MORE HEROES
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NO MORE HEROES 英雄たちの楽園
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NO MORE HEROES RED ZONE Edition
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