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ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク
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印刷2013/12/05 00:00

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ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 2013年12月2日,Autodeskの日本法人であるオートデスクは都内で「Autodesk 3December 2013」と題する同社製品の関係者向けイベントを開催した。イベントで開催されたテクニカルセッションの中から,本稿では「PS4ローンチタイトル『KNACK(ナック)』におけるアートワーク制作事例」と題されたセッションの概要を紹介してみたい。
 ご存じのとおり,KNACKはPlayStation 4(以降,PS4)のローンチタイトルの一つで,日本では来年2月に発売されるPS4本体に無料のダウンロードチケットが付属することが決まっている。セッションでは,そんなKnackでのアートワークの内情が明かされた。


多数のパーツでPS4のパワーを表現するKNACK


 Sony Computer Entertainment Worldwide Studios JAPAN スタジオでKNACKのアートワークを担当した3名のアーティストが本セッションを担当していた。講演をしたのは,SCE WWS JAPAN スタジオ インターナルデベロップメント部ビジュアルアートグループ アートディレクター山口由晃氏,同アーティスト土屋武人氏,同テクニカルアーティスト飯田裕介氏だ。
 ご存じの読者も多いかもしれないが,山口由晃氏は,PlayStation Vitaのタイトル「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」でアートディレクターを務めたことでも知られる人物だ。

右からSony Computer Entertainment JAPAN スタジオ インターナルデベロップメント部ビジュアルアートグループ アートディレクター山口由晃氏,アーティスト土屋武人氏,テクニカルアーティスト飯田裕介氏
画像集#025のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 「GRAVITY DAZEが終わってからこのプロジェクトにアサインされたが,その時点で(リリースまでに)1年ちょっとしか残っていないなかった」という山口氏。遅れが許されないローンチタイトルだけに,タイトなスケジュールの中でいかにしてKNACKが作られたのかというのが本セッションのテーマだ。

 KNACKについては,PS4発表時から繰り返しムービーなどで紹介されているので,ご存じの読者も多いだろう。山口氏はKNACKについて「ゲームとしては古典的な1本道のロールプレイ」と説明し,そのうえで「PS4で最新の技術を使って古典的なゲームを再現してみたらどうだろう」という発想のもとで作られたタイトルがKNACKなのだという。
 実際,先行してPS4が発売されている北米では“少し古い感じ”的な評を見かけていたのだが,それは実は制作者側の意図だったということだろう。

 また,KNACKでは温かみを感じさせる世界観を表現すると同時に,「次世代を感じる表現がKNACKのアート・デザインに課せられた」(山口氏)そうだ。PS4のローンチタイトルだけに次世代機のパワーを感じるタイトルである必要があるというわけだろう。

山口氏が示したKNACKの三つのコンセプト。PIXAR風のキャラクターによる温かい世界観と同時に,次世代機らしさを感じるデザインが要求されたそうだ
画像集#001のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 セッションは大きくキャラクター,BG(バックグラウンド),モーションという三つのテーマに分けられ,それぞれのキーポイントを担当したアーティストが語る形式で行われた。本稿ではゲームの見た目を左右するキャラクターや背景について,その概要を紹介していきたい。

 キャラクターを担当したのは土屋武人氏だ。KNACKのキャラクターといえばデモムービーでも強烈な印象を残すのが,主人公のナック(KNACK)だろう。多数のパーツの寄せ集めのようなモンスターで,大暴れしている様子が印象に残っている読者は多いはずだ。

 ナックはパーツを集めると大きくなり,攻撃力も増すというキャラクターで,土屋氏によるとパーツ数は最小60個から最大5000個になるという。「多数のパーツのディティール感でPS4のパワーを見せつけよう」(土屋氏)というデザインの意図があり,多数のパーツのアクション……例えばパーツが吹き飛ぶとかパーツで敵を攻撃するといったアクションをもとにしてゲームを構築していったと語っていた。

ナックを構成するパーツは最大5000個にもなる。そのパーツのディティールを描き出すことでPS4のパワーをプレイヤーに見せ付けると同時に,パーツのアクションの面白さがゲームの重要な要素になっている
画像集#002のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク
ナックのパーツ数は大きくになるに連れて増えていく。SからLLまで4段階の大きさ(基本モデル)が設定されており,スライドのように70個から最大5000個のパーツでできている
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基本モデルのS,M,L,LLそれぞれのディティールはこんな感じ
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 ナックの見た目はまさにモンスターで,一般的なゲームであれば敵キャラになりそうな雰囲気だ。デザイン上の難点もまさにそこで,「モンスターで主人公を作るという点が苦労したところで,6か月くらいデザインワークをやっていまの形になった」と土屋氏は語っていた。

 また,パーツで作られたキャラクターをデザインするにあたって問題になったのは,単にパーツを並べただけでは「ドット絵のように見えてしまう」(土屋氏)ため,例えばパーツの隙間を空けて,裏側のパーツを見せるようにしたり,パーツの並び方を工夫して表情のあるキャラクターに仕上げたという。

ナックの細部はさまざまなパーツの並びで構成されている。輪や螺旋といった基本的なパーツの並びを組み合わせることで,単調にならず,面白い見た目に仕上げているというわけだ
画像集#008のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 見た目からも分かると思うが,ナックのモデリングは少し特殊だ。土屋氏によると「ナックのモデルはトランスフォーム情報だけを出力していて,パーツのメッシュは別に持っている」という。トランスフォームとパーツのメッシュを組み合わせてナックのモデルになるわけだ。そういう特殊なモデリングだけに,内製ツールを活用したという。

モデリングに利用したツールが持つ便利な機能。カーブに沿ってパーツを自動で並べてくれるなど,ナックを作るのに便利な機能をカスタマイズで作り込んだという
画像集#009のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 ナックは先に紹介されたように,プレイヤーが集めたパーツに応じて大きさを変える。これは先の4段階の大きさ(S,M,L,LL)を基本のモデル……これをシュリンクモデルと呼んでいるそうだが……にして,それにパーツをくっつけて成長していくような手法が使われているようだ。
 成長に応じてパーツがボディ各部に均等にくっつていくようにし,さらにプライオリティのリストを作成して,くっつくパーツの順番を決めていると説明していた。

シュリンクモデルの成長の例。緑色のパーツがシュリンクモデルのパーツで,それに青いパーツがくっついて大きくなっていく
画像集#010のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 というような仕組みなので,くっつくパーツを変えることでナックにはさまざまなバリエーションが作れるのも特徴だ。氷や木のパーツが付いたナックや,協力プレイ用のロボットっぽいナックなど,シュリンクモデルの数は35種類が用意されているという。

パーツを変えることでバリエーションが増やせるのもナックの特徴だ。35種類のシュリンクモデルが用意されているという
画像集#011のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 一方,人型のキャラクターに関しては,先にスライドにあったようにピクサー風の温かみのあるキャラクターを目指したというが,同時に「リアルな演技をさせたい」(土屋氏)という目標もあり,リアルとデフォルメのバランスに気を使ったと語っていた。基本的にはデフォルメされたキャラだが,なかなか演技と雰囲気が合わず苦労したそうだ。

 最終的なキャラクターは「表情に重要な眼と口は人間に近いリアルな感じにした一方,例えば髪や耳はデフォルメしている」(土屋氏)というバランスに仕上がったという。

最終的な人物キャラクターのデザイン。リアルな表情に重要な目や口はリアルにする一方で,髪や耳はデフォルメするという具合に,リアルとデフォルメのバランスをとってリアルな演技にあったキャラクターに仕上げたという
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肌を描くスキンシェーダは柔らかいスペキュラーを入れるなどして温かみを出している。一方,目は変形させて適切なハイライトが入るように調節し,さらに輪郭が際立つよう影を落とすなどの工夫を行ったとのことだ
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 こうしてデザインしたキャラクターも,PS4の実機で表示すると違和感があるなど,なかなかうまくいかなかったと土屋氏は語っていた。土屋氏らは,うまくいかない原因を究明して細かく手を入れていったという。また,キャラクターがアップになったときにもクオリティを維持するために,テクスチャにディティールマップを使う,テッセレーションを利用するといった次世代機ならではの工夫も盛り込んだと説明していた。

ライティングのせいで実機では違和感があって調節した例がこれ。左側には違和感があり,ライティングを工夫することで解決したという。例えば上段はキャラクターが別人に見えるというもので,上からのライティング加えて影を落として違和感をなくすという具合だ
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近接時のクオリティを維持するためにテクスチャにディティールマップを利用している。左側がそれで,これはかなり効果があると土屋氏は語っていた
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 というわけで,KNACKのキャラクターは見た目にはシンプルだが,かなり作り込んであるようだ。どういう表情を見せるのか,実機でのプレイが楽しみである。


時間と労力がが必要だった背景のアート・デザイン


 続いて山口氏から背景のアート・デザインについて語られた。KNACKの世界は通用のゲームと同様にコンセプトアートで大枠が決定されたが,各シーンには「時間単位で厳しく設計されたレベルデザインがあった」(山口氏)そうだ。

 デザイナーはレベルデザインからシーンの背景をデザインしていくわけだが,アーティストがレベルデザインにコメられた意図を読み取るのが難しく,トラブルが発生したという。そこでKNACKでは,レベルデザインと背景のデザインの間に新たな工程を一つ設けたとしている。

背景の制作にあたっては,レベルデザインからすぐにバックグラウンドをデザインするのではなく,ディティールアート&イメージボードと名づけた工程を一つ加えて,作業の効率化を計ったという
画像集#016のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 スライドに示された「ディティールアート&イメージボード」という工程がそれで,ここでは「レベルデザインにない絵の要素をポリゴンスケッチのような形で作っていく」(山口氏)というものだ。ディティールアートの段階で背景が絵として成立しているかなどをチェックし,そのうえで背景の設計に移るというわけだ。

KNACKのレベルデザインはかなり厳しく設計されていたという。この段階はゲーム設計なのでアートの要素は盛り込まれていない
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レベルデザインから背景を造り,それがアートとして成立しているかをディティールアート&イメージボードという工程で細かくチェックしていったという
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ディティールアートから詳細なディティールを作り,背景の設計を完成させる
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 背景のディティールに関しては「時間の余裕がなかったので,次世代のメモリやポリゴン数を活用しようという目標を設定した」と山口氏は説明していた。技術的に工夫をこらすのではなく,PS4のパワーを活用してディティールを作り込むというわけである。

 例えば,KNACKの背景で重要な要素になっている岩はZbrushとMayaを組み合わせて作ったそうで,山口氏はその工程を詳細に説明していた。結果的に背景に関しては「作業工程は手が込んでいて時間もかかった」とのこと。そこで山口氏が結論したのは「PS4のクオリティを出すには,ただ努力するという結果になった。それが(KNACKのBGに)表れている」。KNACKで取った手法は時間と労力がかかるのでデザイナーにおすすめできず,もっと楽な方法を開発することが今後の課題だろうと山口氏はまとめていた。

完成した背景。KNACKではPS4のクオリティを実現するために,手間と労力が非常にかけたと山口氏は語っていた
画像集#021のサムネイル/ローンチタイトルの重い使命を負った「KNACK」はいかにして作られたのか? アーティストが語るKNACKのデザインワーク

 背景では事前計算を用いるグローバルイルミネーションも利用しているという。山口氏によると,グリッドマップという手法を使っているとのことで,おそらくは,背景をグリッドに分割し,グリッドごとの反射を事前計算したデータを利用してグローバルイルミネーションを実現しているようだ。

KNACKではグローバルイルミネーションも使用されている
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 続いて山口氏は,大量のアセットが必要なKNACKで重要になったというアウトソーシングの活用に話を進めていた。海外では「アウトソーシング先との間に入る仕事を専門にしている会社が成立しているほど」(山口氏)アウトソーシングの活用が進んでいるそうで,日本においてもアウトソーシングの活用が重要になってくるだろうと語る。先の話にあったように,高いクオリティが求められるPS4のゲームタイトルではとくにそうかもしれない。

 KNACKの制作は最終的に400人月という,かなりの人月が割かれており,最終的に5社アウトソーシング先を選定してフルに活用して制作が行われたそうだ。山口氏はアウトソーシング先とのやりとりに関するノウハウの一端も明かしていたが,やや細かな話になるので本稿では割愛したい。

5社のアウトソーシング先を活用し400人月という作業量を経てKNACKの活用も重要になりそうだ
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 というわけで,日本ではKNACKは無料で手に入るゲームに設定されているものの,キャラクターや背景,さらにはモーションにも多くの手をかけ,PS4のクオリティを誇示するタイトルに仕上がっているいるようだ。ピクサーっぽいキャラから軽い子供向けゲームをイメージしてしまうかもしれないが,講演で説明されていたように,キャラクターや背景の作り込みはPS4ならではということなので,PS4を予約した方は,そのへんに注意しつつ遊んでみるといいのではないだろうか。

「KNACK」公式サイト

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