レビュー
ゾンビ映画の主人公になりきれるCo-op主体のFPS
Left 4 Dead 日本語版
» Valveの最新作「Left 4 Dead」は,Co-opモードを中心とするFPS。4人のプレイヤーが協力し,ゾンビで溢れた町から必死の脱出劇を繰り広げるというハイテンションな内容が,現在,欧米を中心に高い評価を獲得しているタイトル。そんなLeft 4 Deadを,いつかゾンビ映画に出演してゾンビの大群と渡り合ってみたいと思っていた虎武須(Kobs)氏がレビューする。
オンラインFPSの雄,Valveが放つ
Co-opメインのゲームとは?
我々の知るゾンビ像とは,1968年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(原題,Night of the Living Dead)」によって形づけられたものである。公開当時,この作品の評価は芳しくなかったが,1978年に発表された続編,「ゾンビ」(原題,Dawn of the dead)の大ヒットによって,世間にゾンビが浸透していったのだ。
そこで描かれる生ける死者達の姿は,非常に緩慢に動き回り,銃で頭を撃てばあっさり倒れてしまうというもの。ところが,倒しても倒しても増え続け,ゆっくりと,だが確実にこちらを追い詰めてくる。これが,観る者の首を真綿でじわじわと締めるような心理状態へと導くのである。若い読者には想像できないかもしれないが,ロメロ監督の映画以前,ゾンビは一般に知られた存在ではなかったのだ。
ズーからパッケージ版が発売中の「Left 4 Dead 日本語版」は,Valveが制作したオンラインCo-opをメインとしたFPS。仲間と協力し,ゾンビだらけになってしまった町からの脱出を図るのだ |
かくしてゾンビはホラー映画に欠かせない,メジャーなモンスターとしての地位を獲得し,その後,さまざまな作品に登場することになったのだが,それらはいずれも,多かれ少なかれロメロの生み出したゾンビ像を踏襲したものだった。
これを覆したのが1986年公開のユーモラスなゾンビ映画,「バタリアン」(原題,Return of the Living Dead)で,筆者の知る限りでは初めて“走るゾンビ”が登場した作品だ。また,2005年の「ドーン・オブ・ザ・デッド」は「ゾンビ」のリメイク作品でありながら,緩慢どころかアスリート並みに足が速く,やる気満点でイキのいいゾンビが街に溢れかえり,人々に襲いかかるというものだった。
さてこのたび発売された「Left 4 Dead」(以下L4D)は,まさにドーン・オブ・ザ・デッドや,「28日後…」の世界。走るわ走るわ,まるで運動会の徒競走である。舞台となるのはアメリカのどこにでもありそうな街。正体不明のウイルスが蔓延し,ゾンビ化した人々が溢れかえるという地獄の様相を呈している。
ちなみに,L4Dでは生身の人間を「生存者」(サバイバー),ゾンビ化した人々を「感染者」(インフェクテッド)と呼んでいる。したがって,感染した生身の人間をゾンビと呼ぶのは厳密には正確でないが,ゲーム中でも感染者と呼んだりゾンビと呼んだりで,そのあたりは曖昧である。そもそもタイトルにDeadと書かれてるので,感染したらまず死が訪れ,その後ゾンビ化するというパターンなのだろうか? まあ,そのへんの理性的な説明が全然ないのも不気味な雰囲気を醸し出すのに一役買っているが,それはともかく,この感染者の中には,特殊な能力を持った者や,上半身の筋肉だけが異常に肥大化し,手がつけられないほど強力なボスゾンビと化した者もいる。
感染者が暗くて地味な服装なのに対し,生存者は服装は明るめ。乱戦でも見失うことはない |
オープニングムービーから。ゲーム中もこんな感じで,四方八方からゾンビが襲ってくる |
高いところにいても,まったく安心できない。ヤツらは壁でもフェンスでもどんどん登ってくるのだ |
こんなのが大挙して襲ってくるのだからたまらない。お食事中の人がいらっしゃったらすいません |
L4Dの開発経緯は,11月21日のファーストインプレッションに詳しいので,そちらも併せてご覧いただきたいが,一人のプレイヤーとしては,Counter-StrikeシリーズやHalf-Lifeシリーズといった,超人気シリーズでお馴染みのValveが制作するFPSということで,期待をせずにはいられない。ベースとなるのはもちろん,定評のある「Source Engine」。
日本においては日本語PC版のパッケージが11月21日にズーから発売され,2009年1月にエレクトロニック・アーツからXbox 360版が発売されることになっている。もちろんPC版は,Valveが誇るデジタル配信システム「Steam」を通して購入しても,文字設定を日本語にすることで日本語プレイが可能になる。ちなみにズー版パッケージでもSteamで製品をアクティベートする必要があり,ゲーム起動やアップデートもSteamの管理になる。また,ゲームのグラフィックスやマウス/キーボード設定をサーバ側に保存するSteamの新システム,「Steam Cloud」に対応した最初の製品でもある。
さまざまな要素を持つ,新しいゲーム感覚
さてL4Dの舞台となるのはウイルスへの一次感染から二週間後の,すでにほとんど生存者がいなくなってしまった街だ。生存者は,ベトナムから帰還した退役軍人のビル,マッチョでタトゥーが特徴的なバイカーのフランシス,サラリーマン風のルイス,紅一点の学生ゾーイである。いずれも人物の背景が見え隠れするような魅力的なキャラクターで,いかにもゾンビ映画に出てきそうな雰囲気がたまらない。ともあれ,この生存者4人で,協力してゾンビ地獄と化した街から脱出しなければならないのだ。
クレッシェンドイベントでの猛ラッシュ。これをしのがなくては,セーフハウスに入れてもらえない |
感染者は緩慢な動きで,ありとあらゆる場所を徘徊している。地べたに座り込むもの,壁に頭をもたせて動かないもの,ヨロヨロと歩きまわるもの,ゲロを吐くもの,中には感染者同士でケンカしていることもある。通常は普通のゾンビ(という言い方もおかしいが……)のようにゆっくりと,不規則に徘徊している。実はこの不規則というのが重要で,例えばゾンビ映画を注意深く見ると,ほとんどの場合,徘徊しつつも一方向に歩いていたり,エサに向かって規則的に動いてたりしており,案外不自然なものだ。その点L4Dでは,生存者に気づくまでの感染者達は,本当に目的もなく行動しており,それがまた不気味なリアリティを生み出している。
直線的に来る,建物の上から落ちてくる,フェンスをよじ登って来る,壁をぶち破って来る,四方八方から襲いかかってくるその数たるや,1体,2体と数えられるものではない。猛スピードで襲いかかるゾンビ達やそれに混じるボスゾンビを相手に,とにかく無我夢中で倒しまくらなければならないのだ。
むろん生存者一人で太刀打ちできるはずもなく,ここでL4DでフォーカスしているCo-opが生きてくるというわけだ。
「そんなの関係ねー,俺一人でゾンビの群れなんぞ殲滅しちゃるわい」という向きもいるかもしれないが,はっきりいってそれは無理な相談。仮にほかの三人が死亡して,彼らを復活させるまでの間,なんとか持ちこたえる程度なら可能だとしても,特殊能力を持つゾンビがそれを許さないのである。
例えば「スモーカー」の長い舌にからめ取られ引きずられた場合,ほかの誰かに助けてもらう必要があるし,すさまじい跳躍力で飛び跳ねる「ハンター」に馬乗りになられた場合も,自力では逃げ出せない。さらにいえば,ゾンビにバシバシ殴られている間は走れないし,ヘルスがなくなってしまうと戦闘不能(ダウン状態)に陥ってしまう。このときは,倒れたままハンドガンでの応酬は可能ではあるが,自力で立ち上がることはできない。つまり,このゲームで孤立することは死に直結するのである。
高い場所から落ちそうになったら,ほかの人に助けてもらおう。もちろん落ちれば即死である |
生存者の能力に違いはないが,なかなかいいです,この形。筆者の好み。何がって…そりゃ… |
ロード画面は映画のポスターをイメージしたもの。キャストとしてプレイヤーの名前が記される |
スモーカーの舌に絡めとられた瞬間。今ならまだ弾丸を撃ち込んで脱出できる可能性がある |
Co-opに特化したL4Dならではの点はほかにもたくさんある。高い場所から落ちそうになった場合も,仲間がいれば引き上げられてもらえるかもしれないし,最悪,死亡してしまった場合,マップのどこかにある小部屋に閉じ込められた状態で復活するのだが,この小部屋から自力では脱出はできず,誰かが外からドアを開け,解放されることによってゲームに復帰できる仕組みになっている。
さらに,ダウン状態の仲間の蘇生や治療キットでの回復も,数秒間はその作業に拘束されるわけで,仲間の援護が必要になってくる。とにもかくにも,ゾンビ地獄から抜け出すのは,仲間との協力なくしては達成できないことだ。
L4Dはシングルプレイもマルチプレイも基本的に変わりがなく,建物内の壁の配置に若干違う部分がある程度だろうか。どちらもキャンペーンが基本であり,4人の生存者でCo-opをすることが常となる。シングルとマルチのキャンペーンは,自分以外の生存者がNPCとなるか,ほかのプレイヤーが操作するかという違いに過ぎないので,まずキャンペーンについて,シングル,マルチを区別せずに解説していこう。
L4DのBGMは非常に効果的で,最近の映画でやると「クサい」と思われるような過剰な音響演出も,L4Dでは恐怖感を煽りつつイベントを知らせるという良い方向に作用している。
映画撮影セットにせよなんにせよ,マップには地方都市,郊外の田舎町,空港,田園地域などが用意されている。それぞれのキャンペーンは独立した映画ということになっているため,相互に直接のつながりはなく,どれからプレイを始めてもかまわない。まぁオープニングムービーからの続きという意味で「NO MERCY」からプレイするのが良い流れだろうが。
キャンペーンは五つのステージで構成されており,例えばNO MERCYでは,オープニングムービーでからくも逃げ延びたアパートの屋上から始まり,地下鉄ステージ,下水ステージ,病院ステージを駆け抜け,最終的に病院の屋上でヘリによる救出を待つという流れになる。いずれのキャンペーンも夜間の逃避行ということで,全体的に画面は暗い。照明のない建物の部屋は本当に真っ暗で,武器に取り付けられたフラッシュライトがなければ何も見えない。言うまでもなくフラッシュライトを向けたら,いきなりゾンビがいたときのドッキリ感もかなりのものだ。
それぞれのステージは基本的に一本道で,終点となる「セーフハウス」を目指して感染者の溢れかえる往来を突き進むことになる。いずれのキャンペーンも最終ステージで無線による救援要請を行い,その準備が完了するまで感染者達の猛ラッシュを耐え切るという感じになっている。
ブーマーはゲロ(胆汁らしい)で生存者の視界を奪う。この顔がいきなり横から出てきたときのドッキリといったら,もう |
ゲロをかけられると,こんな感じで視界が極端に悪くなる。しかもこのゲロめがけて感染者が集まってくるのだ! |
強敵,ウィッチ! 彼女の啜り泣く声が聞こえたら要注意。ライトを消し,距離を保てば大丈夫だ |
ハンターに馬乗りになられると,自力では逃げられない。殴ってどかすか,撃ち殺すしかないのだ |
また各ステージを盛り上げるための「クレッシェンドイベント」と呼ばれるイベントも用意されていて,これはエレベーターのボタンを押したり,無線機からの呼びかけに応答したりなど,進行上必要な特定の動作をした場合に発生するラッシュだ。警告メッセージが表示されたかと思うと,通常のラッシュとは比較にならないほど凄まじい数のゾンビが襲ってくるのだ。このイベントはマップの終盤近くに設置されている場合が多く,全滅の憂き目に遭いやすいのもこのときだ。通常の感染者はもちろん,特殊能力を持ったヤツらも多く出現し,手強いゾンビであるタンクまでしばしば登場する。4人のプレイヤーが十分に連携しなければ,とても切り抜けられないだろう。
息もつかせぬゲーム展開
パニックの楽しさを堪能しよう
ここで本作のミソでもある,「AI Director」にも触れておこう。日本語に訳せば「AI映画監督」。要するにL4Dという映画をいかに面白いものに仕立てるかをAIが監督しているというわけだ。
火炎瓶を投げつければ,火のついた感染者は倒れるまで燃え続ける。タンクも例外でないので,かなり有効だ |
このAIが実によくできていて,プレイヤーの腕を見きわめ,ゲームの進行状況などから判断し,自動的にゾンビの量を調整したり,ラッシュを起こしたり,あるいはボスゾンビをダイナミックに発生させたりするのだ。
つまり,同じステージを何度やっても,そのたびに内容が変わり,飽きが来ないのである。この角を曲がるとタンクが襲ってくるはずだから……とか,この小部屋のドアを開けるとウイッチがいるはずとか,あるいは,あの部屋にたどり着けば武器が手に入るとか,そういう覚えゲー的要素は一切ナシ。ただし。クレッシェンドイベントは必ず発生することになっている。
実際にプレイしていると,AI Directorの恩恵はあまり感じないくらいに自然に作用していると思う。オンラインでは,この人ヘタだな〜とか,この人は頼もしいな〜とか思うことは普通にあるが,どんな場合でもいつの間にか白熱したゲーム展開になっているというのは,なかなか凄いことだろう。
ちなみに,プレイヤーの設定する4段階の難度は,ボスゾンビの体力や,ゾンビの攻撃の強さなどに影響する。EasyやNormalなら感染者に袋叩きにされても生き延びられるが,Expertに設定すれば数発殴られただけで戦闘不能に陥ってしまう。
Co-opとは別の楽しみ方として,対戦モードも用意されている。このモードは,生存者4人と感染者4人の最高8人で楽しめるチーム対抗戦だ。
生存者側は通常どおり,感染者の大群をなぎ倒しながらセーフルームを目指せばいい。感染者チームはボスゾンビになって,生存者の行く手を阻むのが使命だ。とはいえ,キャンペーンのゾンビ側をプレイするという感覚なので,特殊能力は連発できないうえ,あっと言う間に倒されてしまう。とくにブーマーは見つかった瞬間に倒されるのがオチなので,いかに生存者にこっそり接近し,破裂したときに胆汁をぶっかけられるかが勝負だ。ハンターやスモーカーも,生存者からすれば嫌らしい敵なのだが,プレイしてみると案外あっけなく殺される。
生存者チームと比較すると,総じて感染者チームのほうが難度は高く,仲間同士でいかに連携して生存者チームのヘルスを削り,回復の機会を与えないか,というところが肝となる。単体では大して生存者の脅威にもならないのだ。
このあたりのプレイ感覚もCo-opに注力しているL4Dならではといったところで,頭を使ったかなり熱い対戦となるのは間違いない。さらにお楽しみとして,たまにタンクにもなれてしまう。タンクになれるプレイヤーはAI Directorによって自動的に選出され,仮にほかのボスゾンビを操作中でも,タンクとして新たに出現することになる。いくら攻撃力の高いタンクとはいえ,生存者もそう簡単にやられてはくれないのだが,超強力パンチで相手がビルの谷間へ吹っ飛んでいったときなどはもう,最高の快感である。ああ,ゾンビでよかった。
ゾンビ二景。こちらはなかなかステキな舌を持つスモーカー。こいつがびょ〜んと伸びるわけ |
こ,こちら,いくらなんでも怖すぎ。たいていのゾンビは灰色の目だが,黒目のあるやつもいる |
この次に戦闘不能になると死亡し,ヘルスも残り少ないという状態になると,画面がモノトーンに |
ゾンビはパイプ爆弾の光と音に吸い寄せられるように集まる。20〜30体まとめて葬ることも可能 |
うまく救援の到着まで持ちこたえられれば,軍の装甲車でゾンビ地獄から脱出できるのだ |
このメッセージが出たらチャンス到来! 憎き生存者どもをブチのめしてやるぜー! |
個人的に,オンラインで楽しむFPSを作ることにかけて,Valveの右に出るメーカーはないと思う。今回も,これまでオンラインFPSでは地味な存在だったCo-opというジャンルをここまで面白いゲームに仕立てあげた彼らには,ただ敬服するばかりだ。Co-opならではの新しいゲーム感覚もすばらしいが,それにも増してこのゲームの最大の面白味は,パニックに陥ることの楽しさだ。キャンペーンをプレイするのは,おおむね1時間前後だが,その間は息をつく間もないくらいの緊張の連続であり,頭を真っ白にしてただ猛進あるのみだ。
この感覚は遊園地のジェットコースターに似ているかもしれない。リプレイ性が高いどころの話ではなく,中毒性すらあるのだ。このゲームはやばい,面白すぎる。あまりに熱中してプレイしたせいで,レビューの入稿が遅れてしまったくらいだ。間違いなく今年後半で一番お勧めできるFPSであり,しばらくはこの人気が続くことになるだろう。もっとも,ホラーが苦手な人は覚悟が必要だけど。
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Left 4 Dead 日本語版
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