業界動向
Access Accepted第370回:2013年中に登場予定の,新たなゲームハード
「Call of Duty: Black Ops 2」「Halo 4」,そして「Assassin’s Creed III」など,人気シリーズ最新作が予想どおりの快進撃を飛ばした2012年だが,任天堂のWii Uなど,新しいハードウェアがリリースされたにも関わらず,北米のゲーム市場は20%以上も縮小してしまった。しかし,次々と新作ハードがリリースされる予定の2013年は,かなり面白いことになるかもしれない。
北米ゲーム業界は
苦難が予想される2013年を乗り越えられるか?
アメリカのリサーチ会社NPD Groupが発表したところによると,2012年の北米におけるゲームソフトおよびハードウェアの販売は,前年比で22%も落ち込んだという。2008年の214億ドルをピークに市場規模は下降線をたどり続け,2008年からの4年間で38%減の132億6000万ドルに縮小してしまった。
ただし,大きなシェアを占めるデジタル流通が統計に入っていなかったり,モバイルゲームやブラウザゲームなどが含まれていなかったりするため,単純にゲーム産業が衰退しているというわけではない。
細かく見ると,ハードウェアは前年比で27%減,ソフトウェアが同26%減,その他のアクセサリー(周辺機器など)が同14%減となっており,さらに,パッケージで販売された新作タイトル数は前年比で29%減少という厳しい状況になっている。「Call of Duty: Black Ops 2」や「Halo 4」のようなタイトルが健闘しているが,こうした縮小傾向を止めるには至らず,2012年11月に北米でリリースされた任天堂のWii Uも,今のところWiiの売れ行きには届いていない。
飛ぶ鳥を落とす勢いだったFacebookのソーシャルゲームやZyngaも失速し,あのAppleでさえ,iPhone 5などのセールスが伸び悩み,2012年9月に700ドルだった株価が,現在は500ドル付近にまで下落した。
以上のように,ともすれば暗い雰囲気が漂う北米のゲーム市場だが,その一方で2013年を楽観視する関係者も少なくない。その最大の理由が,近いうちに発表が行われるとされる次世代コンシューマ機の存在だ。もちろん,具体的な発売時期や形状,性能などは明らかにされていないものの,次世代機の存在は市場を牽引するだろうという予想もあるわけだ。
ちなみに,2013年以降のXbox 360独占タイトルは今のところ1つも発表されておらず,Microsoftと各サードパーティはすでに次世代機にフォーカスしていると考えることもできる。
一方のPlayStation 3については,2013年にも独占タイトルが存在するものの,かつてXbox 360に先を越されて北米市場で苦戦したという苦い経験があるため,こちらも早いうちに新型ハードを投入してくるという見方が強い。
2013年の注目は,ゲームが遊べる新たなハードウェア
すでにリリースされているWii Uを始め,もしMicrosoftとSony Computer Entertainmentが新機種を投入してくれば,それだけでも2013年はゲーム史に残るエキサイティングな1年になりそうだ。そして,さらに興味深いのが,これまでゲームハードとは関係なかったようなメーカーが,こぞって新たなハードをリリースする予定になっていることである。
新たなハードウェアは,ゲーム専用機というより「ゲームもできる」ハードウェアであり,例えば,OSとしてAndroidを採用することでサードパーティを無理やり揃えなくても,70万種類を超えるAndroid用ゲームが遊べることを確保するという方向性だ。サードパーティにとっても,多くの出費を伴わず,さまざまなゲームハードを確保できるのであれば,移植やサポートを積極的に行おうとするかもしれない。
また,既存のプラットフォームホルダーにとっての次世代機は,こうした新ハードを上回る性能や,魅力的なソフト,サービスを提供することが求められることになるだろう。いずれにしろ,2013年から数年間は「ゲームハード戦国時代」とも呼べる激戦が予想される。
以下,2013年内の発売が予定されている新ハードを簡単に紹介してみよう。
■Project SHIELD
NVIDIAが発表した「Project SHIELD」は,同社のTegra 4を搭載した携帯用のAndroidデバイスで,ゲームコントローラに,折りたたみ式でタッチ対応の5インチ液晶パネルを組み合わせたフォルムが特徴だ。NVIDIAが運営する「Tegra Zone」でゲームが購入できるほか,コミュニケーションツールとして利用することも可能だ。
最大の魅力は,PCで動いているゲームをストリーミングしてProject SHIELDでプレイしたり,HDMIやワイヤレスディスプレイ技術を介して外部ディスプレイ(テレビ)へ出力したりできること。話題の4Kテレビにも対応しているなど,セールスポイントは少なくない。
■OUYA
手のひらに乗るほど小さい「OUYA」は,デザインの良さと,99ドルという価格が特徴のAndroid搭載デバイスであり,開発者向けの出荷がすでに始まっている。
最大の特徴になるのが,すべてのゲームがFree-to-Playでリリースされることだ。プレイヤーは誰でも無料でゲームをダウンロードしてプレイすることが可能になっており,そこからどのように利益を得るかは,ゲームメーカー任せになっている。
この試みに対してすでにSquare Enix,Namco Bandai Games,Robotokiといったメーカーが参加を表明済みだ。
■Xi3 Piston
「Xi3 Piston」という名前に聞きおぼえはなくても,“Steam Box”と聞けばピンとくる人も多いだろう。超小型PCの製造・販売を行うXi3 TechnologiesがValveと提携し,2013年のリリースを目指して開発を進めているのがXi3 Pistonだ。
Xi3 PistonはLinuxベースのSteamを搭載しており,SteamのBig Pictureモードを利用して,家庭のテレビでゲームが楽しめる。Linuxに移植されていることが前提なので,Steamのすべてのゲームが対応しているわけではないが,「Team Fortress 2」や「Portal 2」といったValveの人気タイトルを筆頭に,多くのゲームがLinuxに対応しており,また,ほかのタイトルの移植作業も進められているので,発売時点でどれだけのタイトルが揃うかが気になるところ。人気タイトルを多数抱えるValveが進めるプロジェクトということで,とくにPCゲーマーにとって気になるハードだ。
■Atlas
「Guitar Hero」の制作で知られるチャールズ・フアン(Charles Huang)氏らが設立したメーカー,Green Throttle Gamesが開発を進めているのが「Atlas」だ。これは,携帯端末で動いているゲームをBluetooth経由で操作できるコントローラで,携帯端末をテレビにつなげば,大画面でのプレイも楽しめる。Android端末だけでなく,iPhoneにも対応する予定だ。
プレイできるのはAtlasに対応したゲームである必要はあるものの,これまでモバイルゲームを主力にゲームを開発してきたいくつかのメーカーが参加を表明しているので,パーティーゲームをカジュアルに楽しみたいという層にはアピールしそうだ。
■GameStick
PlayJamの「GameStick」は,現在,クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で開発資金を調達している段階だが,すでに予定の4倍以上の金額が集まっている。その特徴はサイズで,Androidを搭載したゲームハードはなんとUSBメモリスティックサイズ。これを,USBポート付きのテレビに接続すると,付属のワイヤレスコントローラを使ってゲームを楽しめるというのがウリだ。デュアルCortex-A9ベースのAMlogic製SoC「8726-MX」を搭載し,79ドルという価格で販売される予定になっている。
誰でもゲーム開発ができるオープンプラットフォームを謳っており,すでに250ものメーカーが参加を表明しているとのこと。ゲームアプリはワイヤレスで本体のフラッシュメモリにダウンロードされるが,microSDカードの利用も可能だ。先のGreen Throttle Gamesとの協力も発表されているので,共同でAndroidのゲーム市場に乗り出そうという戦略のようだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。