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Access Accepted第464回:変革期を迎えた「E3 2015」を総括
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印刷2015/06/29 12:00

業界動向

Access Accepted第464回:変革期を迎えた「E3 2015」を総括

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 2015年のE3が終わった。どんなゲームがこれから登場するのか,年末にはどのタイトルを買うべきなのか,そして,自分の好きなプラットフォームのメーカーがどんな戦略を用意し,どういった方向に進もうとしているのか,そうした貴重な情報が得られる,欧米ゲーム業界にとって最重要の1週間が幕を閉じたのだ。最近の傾向に従い,2015年も出展された新作タイトルは少なめだったが,その分,それぞれが非常に高レベルで興味深い作品ばかり。同時に今年のE3は,本格的な変化の過程に入りつつあることを強く感じさせたイベントでもあった。


数は少ないながらも大物揃いのラインナップ


 2015年6月16日〜18日,ロサンゼルスのダウンタウンにあるLos Angeles Convention Centerで,恒例のゲームイベント,「E3 2015」が開催された。今年で21回めとなるE3だが,イベントを主催する北米のゲーム業界団体,Entertainment Software Associationの発表によれば,今年の来場者数は約5万2200人に達したという。昨年に比べて3300人増となる,待望の5万人台だが,筆者の感触としては,それほどの人がいたような感じではなかった。人が多すぎて会場内の移動に支障をきたしたとか,大音量のBGMと人の話し声でデモの音声がよく聞き取れないとか,かつての異常なほどの喧噪は今年もなかったと思う。

2015年もつつがなく終了したE3。筆者の個人的な期待作は「Fallout 4」と「Star Wars: バトルフロント」だが,会場で見た「No Man's Sky」や「XCOM 2」,そして「For Honor」には,かなりそそるものがあった
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 タイトルのラインナップとそれらの対応機種を見る限り,北米ゲーム市場へのPlayStation 4とXbox Oneの浸透には,さらに加速がかかりそうだ。また,「Rift」「Project Morpheus」「SteamVR」といったVR(Virtual Reality,仮想現実)対応ヘッドマウントディスプレイや,AR(Augmented Virtuality,拡張現実)デバイスの「HoloLens」が登場し,ゲームハードもかつてないほどの盛況ぶり。さらに,「Unreal Engine」「Unity」といったミドルウェアの価格・サービス競争によって,非常に質の良いインディーズゲームが次々とE3 2015でアナウンスされた。

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 いつものことだが,今回もイベントの開催前から各メディアの情報戦はヒートアップした。プラットフォームホルダーのほか,Bethesda Softworks,Electronic Arts,Ubisoft Entertainment,そしてSquare Enixなどがカンファレンスを実施し,「Fallout 4」「Star War: バトルフロント」「Kingdom Hearts III」,そして「Halo 5:Guardians」といったタイトルが多数の欧米メディアに取り上げられた。
 任天堂はカンファレンスを行わなかったが,「Splatoon(スプラトゥーン)」の好評を背景に,「スターフォックス ゼロ」などの新作で世間の話題を獲得した。

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 また,「ファーストパーティのタイトルは少ない」としていたSony Computer Entertainmentだったが,フタを開けてみれば今年のラインナップも非常に濃く,「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」「Horizon Zero Dawn」,そして「No Man’s Sky」といった海外の期待作だけでなく,「シェンムー III」「人喰いの大鷲トリコ」,そしてリメイク版「FINAL FANTASY VII」という日本生まれの作品群が,欧米の多くのゲーマーを熱狂させることになった。総じて,E3 2015のタイトルラインナップは,これまでになく骨太だったといっていいだろう。

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ライブストリーミングとイベントとしての重要性


 1年のうち1週間,パブリッシャやデベロッパが準備を重ね,リリースを予定している新作タイトルを流通関係者やメディアを通じて消費者にアピールする場所,それがE3だ。このイベントはそうした企画のもとで始まり,長い期間にわたって,そういう意図のもとに毎年開催されてきた。

 最近のトレンドとしてE3に登場する新作タイトルは減少傾向にあり,その分,各メーカーが選りすぐった大作ばかりになっていることは,昨年のE3の感想となる本連載の第426回「E3 2014で発表されなかったゲーム」にも書いたとおりだ。しかし,今年はとくに,メインイベントの前座であったはずの各社のプレスカンファレンスにおける盛り上がりと,割と静かでゆとりのあったフロアの雰囲気とのギャップが大きく,これには違和感を感じずにはいられなかった。

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 プレイアブルデモの数は多かったと思う。Ubisoftは「Tom Clancy's Ghost Recon: Wildlands」以外のほとんど新作をフロアでプレイアブル展示していたし,Electronic Artsも「Star Wars: バトルフロント」のマルチプレイを実施。「Halo 5: Guardians」や「Battleborn」「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」なども,じっくり楽しむことができるブース作りになっていた。「Call of Duty: Black Ops III」がシリーズで初めてプレイアブル出展されていたのも特筆すべきだろう。

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 それでも,E3 2015の盛り上がりについて言うなら,すべてのプレスカンファレンスが終わり,フロアにどんな作品が出ているのかが判明した初日16日の時点で,「ほぼ終わっていた」というのが筆者の偽らざる実感だ。
 もちろん,ブースを回って出展されているタイトルをプレイしたり,開発者にインタビューしたりといった取材は非常に価値があると思っているが,E3 2015のプレビューイベントとしての機能は,ゲーマーへの直接的なアピールが可能な「ライブストリーミング」を行うプレスカンファレンスに移行してきていることに疑いはない。それが,「プレスカンファレンスの熱狂」「エキスポフロアの静けさ」として実際に現れているのだ。

「Fallout 4」を発表したBethesda Softworksのトッド・ハワード(Todd Howard)氏。「今年は個々のメディアとのアポイントメントで声を枯らすことはしない」とし,プレスカンファレンス以外では同社ブースのステージでゲームの解説を行っただけだった
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 この傾向を加速するのが,YouTubeのE3への参加だろう(関連記事)。YouTubeは,E3 2015の開催にあわせて6月15日,新サービスである「YouTube Gaming」を発表し,会場では,著名ゲームジャーナリストのジョフ・キーリー(Geoff Keighley)氏をメインにしたライブ放送を実施した。配信開始から12時間で約800万ビューを集めるというという人気の高さで,ゲーマーご用達の「Twitch」を猛追した。GameSpotやIGNといった大手ゲームメディアもライブストリーミングへ主力を移しつつあり,「E3のニュースは読むものではなく,リアルタイムで見るもの」がメインストリーム化しつつある。

「Twitch」に対抗すべく,Googleがゲーマーコミュニティへ本格的に乗り出したのが「YouTube Gaming」だ。E3 2015会場の特設ブースでも,開発者を招いてのデモやインタビューを放送局並みの設備で行っていた
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 要するにE3というイベントは,少数の来場者ではなく,数百万単位の人々にまとめてアピールできるブロードキャスト型のプレビューイベントにシフトしつつあるのだ。これがさらに進めば,いつの日か現在の形のE3は消滅し,大手パブリッシャから小さなインディーズデベロッパまで,こぞってプレスカンファレンスを配信するバーチャルイベントに変貌することになるかもしれない。
 これまで何度も「E3の変化」が語られてきたが,このライブストリーミング化の流れは,これまでのようにパブリッシャや主催者の都合ではなく,ユーザーの需要によるものだけに,避けられまい。人々の需要があれば,必ずそれに沿った形での変化は生じるだろう。体1つでE3の取材を長年続けてきた筆者にとっては寂しい話だが,静かなフロアを歩きながら,そんなことを感じた今年のE3だった。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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