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印刷2016/03/28 12:00

業界動向

Access Accepted第493回:VR時代の覇者となるハードは?

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 30年という節目の年を迎えた世界最大規模のゲーム開発者会議,Game Developers Conference 2016が3月18日,幕を閉じた。今年は欧米メディアが「VR元年」(The Year of VR)と呼ぶだけあり,GDC 2016は右も左もVR関連の話題で持ち切り。GDC開催に合わせてSony Computer Entertainmentが「PlayStation VR」の価格と発売時期をアナウンスしたため,さらに大きな盛り上がりを見せた。今回は,そんな「VR元年」に備えて,筆者がGDC 2016で見たVR対応ヘッドマウントディスプレイの現状を紹介したい。


右も左もVRだらけだったGDC 2016


 サンフランシスコのMoscone Convention Centerで開催された,世界最大規模のゲーム開発者会議,Game Developers Conference (GDC)2016が今年も無事に幕を下ろした。ゲーム開発やビジネスのノウハウを共有することを目的に1988年に第1回が開催されたGDCも,今回で30年めという節目の年を迎えた。今回は,過去最高となる2万7000人あまりのゲーム業界関係者が会場に集まったと発表されている

GDC 2016では,このイベントの発起人でもあるクリス・クロフォード氏を始め,業界著名人を集めた特別セッションも行われた
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4Gamer「GDC 2016」記事一覧ページ


 そんなGDCには,Free-to-Playやマネタイズ,教育,インディーズゲームなど,同じカンファレンスルームを丸1日使い,1つのテーマをさまざまな業界人が語っていくという形式の,「サミット」と呼ばれる特別セッションがある。その年のトレンドを反映するこのサミットだが,今年新たに設けられたのが,VR(バーチャルリアリティ/仮想現実)対応デバイスと,そのゲームソフトの開発に焦点を当てた,「Virtual Reality Developers Conference」(以下,VRDC)だ。

 欧米メディアの多くが2016年を「VR元年」(The Year of VR)と呼ぶだけあって,GDC 2016は右も左もVR関連の話題で持ち切りだった。VRDCはもちろんのこと,会場の1つであるWest Hallの3階ロビーには「GDC VR Lounge」と呼ばれる特設会場が設置され,「Paranormal Activity」や「Raw Data」「Gary the Gull」といったゲームやムービーのデモが行われていた。
 その中でも最大のトピックは,やはり,Sony Computer Entertainment(4月1日にSony Interactive Entertainmentに名称変更予定)のVR対応ヘッドマウントディスプレイ「PlayStation VR」が,北米で399ドル,日本では4万4980円(いずれも税抜き)で2016年10月にリリースされることが発表されたことだろう(関連記事)。同社のワールドワイドスタジオのプレジデントである吉田修平氏「消費者の皆さんに受け入れてもらえるだろうという基準の1つになったのが,コンシューマゲーム機の導入価格のラインでした」4Gamerのインタビューで語ったように,Oculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」と比較しても,消費者に優しい価格帯であり,VRゲーム市場の形勢に大きな影響を与えることは間違いない。

 GDC 2016では,Sony Computer Entertainment,Oculus VR,そしてHTC/Valveの3陣営が,足並みを揃えてゲーム開発者にアピールを行っていた。一方のゲーム開発者側にも,MMORPGやブラウザゲーム,そしてモバイルゲームが登場したときのように,VR市場というまったく新しいフィールドにうまく乗り出したいという意向が感じられ,ゲーム業界からの大きな期待を受けているのは間違いない。金銭的な理由にせよ,新しモノ好きのエンジニア的な視点にせよ,何かが始まるときのワクワクとした熱気をゲーム開発者達から感じることができたGDCでもあった。

 というわけで,以下では3つのVRデバイスについて簡単な比較をしてみたい。VRを先取りして親戚や友人に自慢したいという人に,1つの意見として読んでもらえれば幸いだ。


3つのVRヘッドマウントディスプレイを比べてみる



・スペック


 Oculus VRの「Rift」と,HTCの「Vive」は,ともに2枚構成の有機ELパネルを採用しており,解像度が2160×1200ドット。リフレッシュレートは90Hzで視野角度は110°程度になっており,要求するPC環境までよく似たものになっている。
 それに対してSony Computer Entertainmentの「PlayStation VR」は,解像度は1920×1080ドットで視野角度は100°ほどとなる一方,リフレッシュレートは120Hzまでサポートしており,画面のちらつきも少なく,その点では一歩進んでいる。もっとも,対応ソフトのリフレッシュレートはソフト開発メーカーが任意で選べるので,すべてのタイトルが120Hzで表示されるということではないようだ。

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・使い心地


 以下はあくまでも筆者の印象となるが,「Rift」は布のようなアウターシェルやインナーファブリックを多用することで軽量化に成功しており,首への重量負担という点では最も使いやすい。それに比べて「Vive」は前に突き出た形状がバランス的に少し気になるし,ベルトもかなり太いため,違和感を感じる人もいるかも知れない。

 水中メガネやスノーゴーグルのような「Rift」や「Vive」とは異なり,「PlayStation VR」はサンバイザーのような独創的なデザインになっており,重量感はあまりない。また,顔に密着することもないため,スノーゴーグルのように,10分もすれば目の回りにクッキリと跡がついていたりしないのも良い点だ。「Rift」や「Vive」の場合,動きの激しいゲームをプレイすると,汗でディスプレイが曇ってしまうこともあるようだが,「PlayStation VR」は熱のこもりにもうまく対応したデザインになっている。

 唯一の問題と言えるのは,密着型でないために下部の空間が大きく,目を下に向けたときに余計なものが目に入るかもしれないことだ。
 また「Rift」も,鼻の高い欧米人向けになっており,筆者のようにアジア系の平たい顔の場合,鼻先に空間ができ,それが気になる人も出てくるだろう。「Vive」は,目の周囲を厚みのあるクッションでカバーしているため,密着性が保たれるという印象だ。
 もっとも,立ってプレイするようなゲームの場合,安全のために足元が見えていたほうががいいという人も少なくないはずで,密着していることが必ずしも良いとはいえない。

 ちなみに,どのデバイスでもメガネを掛けたままの状態で装着が可能だ。左右の視力が0.6程度の筆者はメガネなしでも大丈夫だったが,試しにやや横長のメガネを掛けて装着したところ,もっとも楽だったのが「PlayStation VR」で,「Rift」ではややキツく感じた。また「Rift」と「Vive」はメガネのフレームが顔に押しつけられるため,長時間使うと不快感を覚える可能性がある。

インディーズブースで見かけた手作りVRデバイス。糊で貼り付けた跡がくっきり残る自作感がたまらないが,詳細は不明だ
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・ゲームソフト


 どんなハードウェアでも,面白いゲームがなければ魅力はない。その点,Sony Computer Entertainmentはゲーム産業に長い経験を持つだけに,吉田修平氏をして「少し多過ぎるかも知れない」と言わせるほどのローンチタイトルを発表しており,「PlayStation VR」向けのゲームを開発中のメーカーということなら,230以上になる。さすがに“ゲームビジネスのやり方”を心得ているという印象だ。PlayStation 4で作動することが前提になるだけに,「PlayStation VR」にはエクスクルーシブタイトルが多い。

 Oculus VRの「Rift」は,GDC 2016に合わせて開催されたイベントで,30作のローンチタイトルを発表し,年内にはさらに相当数のタイトルが予定されている。「Vive」のHTC/Valveからは現時点で明確なローンチタイトルは発表されていないが,Steamにラインナップされた7500以上に及ぶタイトルすべてを,擬似巨大スクリーンで楽しめる「SteamVR Desktop Theater」モードをアナウンスしている

 ローンチ時にバンドルされるタイトルは,「Rift」がフライトコンバットシムの「EVE: Valkyrie」と3Dプラットフォームアクション「Lucky’s Tale」という一般的なゲームであるのに比べ,「Vive」は「Job Simulator」「Fantastic Contraption」という物理ベースのタイトルを用意しているところが面白い。ValveがSteam VRで提唱する「ルームスケールVR」(部屋いっぱいのVR体験)というコンセプトを最大限に活かすため,このような立ってプレイするタイプのゲームを選んだのだろう。
 3m×4mのフリーエリアがある部屋を用意するのは,アメリカでも難しいと思うが,「Vive」のレーザーセンサとワンド型の専用コントローラは感度も良く,VR体験という意味では頭1つ抜き出ている印象を受けた。また,本体前面に設置されたカメラは,安全性の確保だけでなく,将来的にはAR(代替現実/Augmented Reality)にも利用されるのではないかと見られている。

VR Loungeではさまざまなデモが行われており,ヒットしたホラー映画「Paranormal Activity」のVR版はとりわけ人気だった
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 「PlayStation VR」は,PlayStation 4のあるリビングルームでプレイすることを前提にしており,ソファや回転椅子などに座った状態でプレイするタイトルが多かったという印象だ。今のところ,本体にバンドルされるソフトはアナウンスされていないものの,北米向けに発表した「PlayStation VR Launch Bundle」関連記事)には,銀行強盗になりきれる「The London Heist」や,海中探索が楽しめる「Into the Deep」(仮称)など5つのゲームや体験アプリが同梱されており,他地域でも似た内容のバンドルパックになるのではないかと思われる。


・価格


 米ドルに統一すれば,価格は「Rift」が599ドル,「Vive」が799ドルであるのに対し,「PlayStation VR」は399ドルと発表されている。「PlayStation VR」には,プレイするのに必要な「PlayStation Camera」と「PlayStation Move」が必要になるが,上記の「PlayStation VR Launch Bundle」はそれらを含めて499ドルという価格になっている。
 「PlayStation VR」にとって有利なのは,必要なシステムがPlayStation 4であるという点だろう。「Rift」や「Vive」を楽しむには,北米なら1000〜1500ドルほどの高価なPCが必要になり,持っていなければ新たに買うか,アップグレードをしなければならない。もっとも,PCは非常に速いペースで性能が向上するので,2〜3年もすれば「Rift」や「Vive」に対応するPCの値段もかなり下がっているはずだ。


・まとめ


 3つのVR対応ヘッドマウントディスプレイには,デザインや設計思想の面での違いはあれど,それほど大きな差はないようにも思える。強いて言うなら,「Vive」は高価だがいわゆる「VR体験」を最大限に楽しめることを目指しており,一方の「PlayStation VR」は大人から子供まで広く使えるエンターテイメントデバイス,そして「Rift」はゲームデバイスとしての存在感のほか,広い分野で活用できる汎用性の高さを追求しているといった感じを受ける。
 いずれにせよ,VRという新たな概念は,話を聞くだけでなく,実際に試してみなければなかなか理解できず,メディアとしてもなかなかもどかしいものがある。ゲームや映像コンテンツだけでなく,今後,さらに面白い使われ方が提案されるかもしれず,可能性は未知数だ。もし興味があるのなら,ぜひ試して,未来の可能性に触れてほしいと思う。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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