業界動向
Access Accepted第587回:ついに日本パビリオンが進出したgamescom 2018点描
現地時間の2018年8月21日〜25日,ヨーロッパ最大規模のゲームイベント「gamescom 2018」がドイツ・ケルンで開催された。今年で10回めを迎えるgamescomは,前年に引き続き1000社を超える出展を記録。ビジネスエリアには,25か国のパビリオンが出展されていたが,今年は「パートナー国家」のスペインのほか,ジェトロを窓口とした日本パビリオンも初進出していた。
来場者数から感じられる
ゲーム文化のメインストリーム化
現地時間の8月21日〜25日,ドイツ西部の都市ケルンのイベント施設ケルンメッセで,ヨーロッパ最大規模のゲームイベント「gamescom 2018」が開催された。10回めを迎える恒例のイベントだが,4Gamerでは今年も取材チームを現地に派遣し,メジャータイトルからgamescomでしか見られないような東欧の新作,そして,会場でふと見かけたインディーズタイトルなどを紹介している。時間のあるときにでも,ぜひ目をとおしてもらえれば幸いだ。
4Gamer「gamescom 2018」特設ページ
ケルンメッセの運営を行うKoelnmesseによれば,2018年は関係者3万1200人を含めて,114か国から37万人が参加したというから,昨年よりも1万5000人ほど増えている。
gamescomには第1回から参加している筆者だが,その報告を行った本連載の第230回「TGSとE3を足したより巨大なGamescom」で参加者数を24万5000人と書いているので,この10年では実に12万5000人も増えたことになる。
確かに,展示ホールだけでなく,通路や最寄りの駅さえとんでもない人込みで,例年にも増して「できることなら,快適なビジネスエリアだけで取材していたい!」と思わずにはいられなかった。
Blizzard Entertainmentの「Diablo III」が初めてプレイアブル出展されたのも第1回gamescomだったが,今年は「Diablo III」のNintendo Switch版が初公開された。ハードは変われど,ゲームのメジャーシリーズは非常に長く続いていることが分かる。
Koelnmesse は現在,「Koelnmesse 3.0」なる拡張プランを進めており,駅の南側,昨年は更地だったところに5階建てぐらいのビルが建築中で,周辺の雰囲気はずいぶん変わっていた。
gamescomは昨年から,11あるケルンメッセのホールのうち,古くて今は使われていないホール1を除くすべてのホールを使用しており,その広さは20万1000平方mにもおよぶ。さらに,コンサートなどが行われる屋外のスペース約10万平方mのうち,ブースや展示物を置けそうな場所もほぼすべて使い切っている。
「Koelnmesse 3.0」の完成は2030年を目標としているそうだが,その頃には来場者数として50万人が予想されている。
現在のgamescomを見るだけでも,ゲームがいかに娯楽のメインストリームになったかが感じられるが,2030年,さらに広くなった会場を歩き回り,さらに増えた来場者をかき分けて取材することを想像すると,本来は人込みが嫌いな筆者としては,身の毛がよだつ思いだ。
ついに見えた「JAPAN」の文字
ご存じのようにgamescom 2018の開催期間と,日本で行われたゲーム開発者会議「CEDEC 2018」が重なったため,今年のドイツ取材チームは人数削減を余儀なくされた。しかも,開催前日の夜にケルン入りというスケジュールだったため,東回りでドイツに飛んだ筆者は時差ボケを解消する時間がなく,体力的には初日から最悪。取材のアポイントも,広大なケルンメッセを小走りに移動しなければならないほどに詰まっており,いつもなら楽しみにしているインディーズブースや,各国のパビリオンをじっくり見て回れなかったのが心残りだ。
さて今年,イベントの「パートナー国家」として選ばれたのはスペインだったが,昨年のカナダと比べてそれほど規模は大きくない。スペインに存在するゲーム関連企業は,販売,ソフト開発,流通,ミドルウェア関連などを含めても200社ほどで,雇用総数も6337人だというから,これは仕方がないだろう。総人口約4600万人に対して,ゲーム産業はまだ未成熟だ。
ちなみにカナダのほうは人口約3700万人で,関連産業の雇用者総数は約3万6000人。GDPの0.5%をゲーム産業が生み出すゲーム大国だ。
海外事情を長らくウォッチしている筆者だが,スペインのゲーム会社と聞いても,ずいぶん昔に「Commandos」シリーズを作ったPyro Studiosや,「Deadlight」「RiME」などのTequila Works,「Dragon City」のSocial Point,そして最近日本でもリリースされた「NOAHMUND」のEstudio Abregoぐらいしか思い浮かばない。
しかし,ビジネスエリアのスペインパビリオンには,それほど大きくないスペースに22社が集結し,小さなスペースでカンファレンスを行うなど,かなり活発な様子だった。明らかに若いインディーズ開発者達が多く,今後の成長には期待が持てる。
パビリオン関連のトピックスで,ぜひここで報告しておきたいのは,「JAPAN」の文字を掲げたパビリオンが存在していたことだ。本連載の第548回,「gamescom 2017で,各国政府のゲーム産業への取り組み方を見る」で筆者は,「日本のプレゼンスはない」と書いた。メルケル首相がオープニングセレモニーに出席するようなイベントであり,カナダ,スウェーデン,ポーランドといったゲーム先進国だけでなく,南アフリカやチェコなど,ゲーム産業に未来を懸ける国々がこぞって参加しているにもかかわらず,ソフト生産で世界第2位の地位を占める日本は,政府の支援が非常に希薄な印象だと書いたのは,わずか1年前のことだ。
ところが今年のgamescomには,独立行政法人ジェトロ(日本貿易振興機構)主導で,ついに日の丸を背負ったパビリオンが登場していたのだ。筆者の指摘が功を奏したわけではないと思うが,これは嬉しいことだ。
日本パビリオンに参加していたのは13社で,Silicon Studio,CRI Middleware,Kemco,Compile Heartなど,ほかの海外イベントでも見かけることの多い,海外を意識したメーカーが中心だった。
パビリオンの受付でジェトロの職員に話を聞いたところ,ニュースレターなどで告知や参加募集を行った結果だという。来年,どうなるのかは分からないもの,世界に打って出たいという日本の開発者がいれば,参加を考えてみるのも良さそうだ。思いもよらないような出会いが待っていることは間違いない。
スウェーデンとカナダのパビリオンを探る
日本パビリオンを後にビジネスエリアを歩いていると,スウェーデンパビリオンの近くで「ゲームを見ていかないか」と声をかけられた。そこには「Arctic Game Lab」とあり,「北極圏のゲーム会社って何だ?」と気になった筆者は,どんなゲームを作っているのか話を聞いてみることにした。
シロクマのゲームを期待していた人には申し訳ないが,Arctic Game Labというのは実はスウェーデンの法人団体で,南部に比べて人口が少なくゲーム企業があまり進出していないスウェーデン北部でゲーム産業を支援,育成するため,地元自治体やEUの出資によって2017年1月に組織されたものだという。現在,30社ほどのインディー系スタジオが参加しており,ワークショップやミーティングを通して,お互いの開発力やモチベーションを高め合っているとのこと。
ゲーム大国スウェーデンだが,現在もこうした地道な取り組みが行われていることに,筆者は感銘を受けた。
カナダやドイツのような国々の取り組みについては,上記の記事で紹介したとおりだが,今年はカナダパビリオンで,Aperiumというスタートアップの創始者であるアントワン・リヴァルド(Antoine Rivard)氏に話を聞くことができた。詳しく書くことでもない気がするが,これは,時間を間違えてカナダパビリオンに行ったところインタビュー相手が昼食中で,仕方なく待っていたら,筆者の所在ない様子を見かねたのか,ピエール・モリソン(Pierre Morrison)氏という人が,「じゃあ,待ってる間に,誰かと話していてよ」と紹介してくれたのがリヴァルド氏だったという流れだ。
リヴァルド氏のAperiumは,VR向けのハードウェアを作っており,試作したVR機器の売り込みのためにgamescomに参加したとのこと。同社の「Aperium Pod」は,4方向に移動可能なランニングマシン風の装置で,一般販売よりは企業向けに売り込んでいきたという。ご多分に漏れず,開発にはカナダのさまざまな政府系スポンサーが資金を提供しており,手厚いサポート体制が敷かれている。
上記のモリソン氏もその1人で,彼が代表を務めるCEIM(Centre d’entreprises et d’innovation de Montréal)は,カナダ政府やケベック州,さらに投資会社や法律団体の出資によりインディーズ系企業の支援を行う法人だ。リヴァルド氏の渡航費は,CIEMが支払ったという。
なんともうらやましい話だが,体制の異なる日本でカナダのような産業育成システムを簡単に構築することは難しいだろう。とはいえ,日本のゲーム産業の基盤を育て,欧米なみの競争力を持つ産業にしていきたいなら,カナダやスウェーデンのような,地域の自治体を主体にした振興策は1つのモデルになってくれるかもしれない。……などと,暑さと人の多さにまいったドイツで,将来の日本ゲーム産業の青写真を勝手に描いていた筆者であった。
4Gamer「gamescom 2018」特設ページ
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- この記事のURL: